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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
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184 エルレライ・メリディス―3

 メリディスの故郷でもあるルシフェルゼ山は、今まで見たことがないまでに天候が荒れていた。

 見渡す限り、真っ白の吹雪が狂い踊っている。

 ふん、これぐらい大丈夫だ、と高を括って、雪に足を埋める。

 神都ユニヴェルスから帰ってきて、いつも商人を襲っていた場所まで進んでいた。

 はずだった。



「なぜ、こんな場所に崖がある? 私の脳内地図に誤りがあったか?」



 雪道につけた足跡が豪雪により、すぐ埋まっていく。

 突然、魔物が目前にいることもあって、メリディスは次第に後悔し始める。

 いや、奴にすがりつく真似などしたくない。

 狼型の魔物を一刀両断しながら、想像のアルティアも両断する。

 脳内で何度も何度も斬った。

 それでも、アルティアのことが頭から離れなかった。

 どうせ、私を奴隷のように扱うだけだ。

 師匠が読み聞かせてくれた古い本で学んだ。

 そう思い込んで、一歩ずつ前に進む。



 だが、いくら歩いても目的地は見えてこなかった。

 おまけに、この猛吹雪はしばらく止みそうにないみたいだ。

 長年、この山で暮らしていたおかげで、そのような勘が働いた。

 だとすると、この状況はまずい。

 メリディスは、とりあえず洞穴を見つけようとしていたが、それもこの近くになかった。

 完全に遭難したようだった。

 現れる魔物はどうにかなっても、自然には敵いそうにない。

 商人のをはぎ取って得た服もボロボロになってきて、防寒機能が失われてきた。

 魔物の攻撃で破けた個所から、冷風が入り込んでくる。

 内臓が凍えてきた。

 もう目的地なんて、どうでもいい。

 この吹雪をしのげる洞穴に行くことができれば。

 火がほしい。

 ユニヴェルスで回復した体が、たったの数時間で瀕死になっていた。

 たとえ、アルティアに信じられなくてもいい。

 奴の奴隷でいた方が幸せだったかな。

 思考がそこで途切れ、体が倒れる。

 雪に全身が埋まり、その上から雪が積もっていく。

 メリディスは死を悟り、ゆっくりと目を閉じた。







 ガサガサと、雪を掘る音が聞こえる。



「メリディス、すぐに助けますから」



 おぼろげな意識の中、アルティアの声が聞こえた気がした。

 幻聴ではないかと思ったが、うっすらと開いた目にアルティアの姿が映っていた。

 アルティアは埋もれたメリディスを助けようと、雪を掻きだしている。

 それは幻覚などではなかった。

 しばらくして、メリディスはアルティアに助け起こされた。



「これを飲んでください。すぐに体が温かくなりますよ」



 差し出された水筒を掴んで、中身を一気に呷った。

 液体が胃に落ちた途端に、体が発火したように熱くなっていく。

 次第に体が言うことを聞くようになり、凍り付いた手も自由に動かせるようになった。



「アルティア……なぜ、私を助けた?」



 メリディスにとって、不思議で不思議でたまらなかった。

 なぜ、悪人の私を助けたのか。

 メリディスは答えを待った。

 アルティアが口を開く。



「助けを求めているあなたを、私は見捨てません。初めて、あなたとお会いした日も、助けてほしいという目をしていました。それに、私にはあなたの力が必要なんです。メリディス、あなたを捕らえるために神都が送り出した兵たちはみな、負けて帰ってきました。メリディスの実力、私は買っているのですよ」

「皇女ともあろう者が、側近に私を置くなどしたら、人々から何を言われるか想像できるだろう」

「ええ、素敵な騎士様をお連れですね、と言われるでしょうね」

「貴様、それ天然で言っているのか? そうじゃなくて、私を騎士になんてすれば、貴様の印象が悪くなるのだ」



 メリディスがそう言い放っても、アルティアの様子に変化はなかった。



「確かに、その格好で私の側にいたら、悪い印象を与えてしまうかもしれませんね」

「は?」

「メリディスの見た目のことでしょう? それなら、問題ありませんよ。まずは職人さんに頼んで、素敵な服を縫製してもらいましょう。メリディスはとても美人ですから、何を着ても似合うと思います! 神都に戻ったら、美容師さんにお願いして、その長い髪も美しく整えてもらいましょう。きっと、もっと可愛らしくなると思います」



 メリディスの意図が全く伝わっていなかった。

 側近が元商人狩りだと知られてしまったら、アルティアの立場が危うくなると訴えたのにまるで響いていない。

 わざと話を逸らしているのかと思うほどだ。

 メリディスは忠告することを諦めた。

 深くため息をついた後、アルティアが腕を掴んでくる。



「さあ、ユニヴェルスに向かいましょう。道はちゃんと把握しているので、帰り道は大丈夫ですよ。私を信じてください」

「ちっ、よくわからねぇ奴だ」



 メリディスの中で、アルティアの人物像が上手く捉えられていなかった。

 皇女のくせに、なんでそんなに私に執着するんだ。

 アルティアを理解することはできなかったが、こういう奴だと納得した。

 アルティアが、近くに刺さっていた太刀を指さす。



「あの太刀が地面に刺さっていたおかげで、あなたを見つけることができました。目印があって、本当に良かった」



 雪に埋もれていたメリディスを見つけられたのは、妖刀エッジワースが刺さっていたおかげだった。

 刃は依然変わらず、鋭く光を反射していた。

 太刀は引っこ抜かれ、メリディスの背中に納まる。



「師匠……」

「どうかしましたか?」

「いや、なんでもない。行け」



 家からメリディスの師匠が消えた日、置かれていた妖刀の側に手紙も添えられていた。

 拙い字で綴られた内容は、メリディスへの感謝と去った理由についてだ。

 彼女のもとから去ったのは、人には明かせないとある事情によるものだと記してある。

 手紙の文末には『これで未来を切り開け』とあった。

 アルティア以上に不思議な人物だったが、いつかまた帰ってくると信じた。

 だが、1年も経っている今、師匠がもう帰ってくることはないとメリディスは思い始めていた。

 そろそろ、師匠のことは諦めようかと思った矢先、彼女たちの行く手に暴風が渦巻いた。



「な、これは!」

「はっ!? メリディス、離れて!」



 胸をアルティアに押された直後、メリディスの目の前が爆発した。

 巨体の魔物が地に降り立ったのだ。



「きゃー!」

「アルティア!」



 着地の衝撃により、アルティアが吹き飛ばされていた。

 吹雪の勢いは弱まりつつあったが、それでも視界は悪い。

 二本足で立つ巨体の魔物――アンブライエティが行く手を阻んだ。

 筋肉質の巨人を黒い毛で覆った姿が、吹雪の中から浮き出てくる。

 メリディスが太刀の柄に手をかける。

 目を細くして、相手をしっかりと認識した後、一瞬で太刀を振り下ろす。

 見えない速度で斬られたアンブライエティが三秒後、胴体の傷口から血を噴き出していた。

 斜めに斬られた傷口を手で押さえ、一歩退く。

 その隙を逃さず、横一文字に剣を一閃させる。



「『雷光一閃剣』」



 光の速度で斬られたアンブライエティが怯む。

 そして魔物は毛むくじゃらの腕を伸ばし、魔法で応戦した。

 手の先に水色の魔法陣が浮かび上がり、『ブリザード』を唱える。

 暴風雪を纏う氷塊が、メリディスを目がけて飛んでいく。

 メリディスへと向かう途中で、氷塊が何かと衝突して破裂した。

 アルティアが放った『フレイム』によって、阻害されたのだ。



「メリディス、今です!」



 魔法同士がぶつかって生じた煙の中から、メリディスが飛び出す。

 アンブライエティを真っ二つにできるほど、妖刀の刀身が伸びている。



「終わりだ。『鎧袖一触』!」



 目では追えない速度で妖刀を振り、アンブライエティを切断する。

 上半身と下半身に斬り分けられ、上半身がポトリと雪原に落ちた。

 魔物の死を見届けて、メリディスは納刀する。

 アルティアが衣服の汚れを落としながら、メリディスに声をかける。



「さすがですね、メリディス。私の護衛騎士として立派な働きですよ」

「まだ、貴様の護衛騎士になるとは言っていない」

「そ、そんなぁ。悲しいです」



 アルティアがガクッと肩を落とす。

 それを見て、自責の念にかられたメリディスは後ろに向いて声を出した。



「だが、貴様のことを信じてみようと思う」

「……え?」

「ここまでしてもらって、何もしないというのは師匠の教えに反する。しばらくの間だけ、貴様を慕う騎士になってやろう。どうだ……アルティア様。悪くないだろう」



 呆気にとられたアルティアは間をおいて、手に口を当てて笑った。



「そうですね。では、メリディス。これから、私の護衛騎士として側に仕えてくださいね。私に落ち度があれば、私のもとから離れてもらっても構いません」

「ふっ、いいだろう。もう、アルティア様には守られたくないからな。アルティア様にこれ以上、私の無様な姿を見せたくはない」

「メリディスが離れないよう、私も精進しなければなりませんね。それはそうとして、まずはメリディスの言葉遣いを丁寧にしなければなりません。教皇様に対しても、その口調では無礼が過ぎます。神都に帰って、まずは教育ですね」

「ちっ、やはり私には護衛騎士を務めるのが難しいらしい」

「こら、逃げてはダメですよ。あなたの言動から察するに、質の高い教育を受けているようですね。大丈夫、すぐに慣れますよ」



 面倒だと思っても、メリディスは仕方なく受け入れることにした。

 こうして、メリディスは特別護衛騎士としてアルティアに仕えることになった。







 そして、現在。

 メリディスはとうとう、火星の祠の最奥に到着した。

 四角い空間の奥に、石壇がある。

 あそこで神の加護を得ることができる。

 そう確信したメリディスが足を踏み出した直後、上から魔物が落ちてきた。

 骸骨姿の魔物が顔を上げ、髑髏の口が大きく開いた。

 人の形をした骸だが、メリディスの倍はある大きさである。

 何よりも注目すべきは、両手の大剣だろう。

 腰を赤い布で巻いており、自身が発する霊力によって揺らめていた。



「こいつを倒せば、祠の力を授けてくれるのだな」



 背中の太刀を抜刀する。

 妖刀エッジワースの切っ先を魔物に突き付ける。



「すぐに片づけてやる」

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