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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
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178 飛行戦艦アークライト―0

 飛行戦艦アークライトの艦橋内部。

 船の中枢部には、名立たる面々が集結していた。

 ドラコーニブス家の武装親衛隊、六星騎士長と呼ばれる者たち。

 水色の甲冑、スイセイ。

 黄色の甲冑、ヴェニューサ。

 灰色の甲冑、ジオーブ。

 赤色の甲冑、ウラヌス。

 彼らは六星の祠と言われるダンジョンを単独で制覇し、強力なスキルとステータスを得ている。

 六星騎士長をまとめる地位にいるのが、最高指揮官兼臨時執権官アルフェッカ。

 アルフェッカは広い艦橋の中心に佇み、隣のアルティアに寄り添っている。

 不安そうにしているアルティアに、そっと背中を撫でた。



 帝国兵が中に入り、アルフェッカに報告する。



「閣下、メリディスを確保しました。監房にて監禁しております」

「そうか、ご苦労」



 兵は頭を下げ、その場を忙しく立ち去った。

 強者が支配する緊張は、並みの人物には耐えられない。



「ふむ、ミミゴンはまだ、か」

「お姉様、メリディスを解放してください!」

「解放はできない。だが、大切な妹の頼みだ。本来ならば、反逆者として処刑されるところだが、監禁のみにとどめよう」



 壁際で機器を操作している兵が、声をあげる。



「飛行戦艦アークライト、発進!」



 アルフェッカは正面の巨大な窓を眺め、エーレグランツから離れていく様子を眺めた。

 アルティアは姉のアルフェッカに尋ねる。



「これから、どこに向かうのですか」

「帝都デザイアの背中に、大きな山があっただろう。その山を越えた先に、素晴らしい兵器が眠っている」

「お姉様、終戦のため、グレアリング王との和解を提案します。兵器に頼る必要はないはずです」

「終戦への早道には、必要な手段だ。和解などしても、反乱分子が戦を勃発させる。グレアリング王国は徹底的に潰さねばならない。世を平定するためにも、戦争は最善の策」

「それでは、世界がお姉様を憎みます」

「人々に憎まれても構わない。私には敵わない、と思い知らせることで蜂起させない。結果的に、流れる血は最小だ。戦うことでしか、デザイアリング戦争を終わらせることはできない状況だ。ベリタス要塞を崩壊させ、奴らを焚きつけたことで、次の戦争で決着をつけようとするだろう。そこを一気に叩きのめす」



 握り締めた拳を、もう片方の掌に叩きつけた。

 黒の革手袋が、パンと鳴る。



「勝てる可能性を高めるためにも、古代兵器を目覚めさせる。ミミゴンの強大な魔力を吸い取ったミリミリがいれば、古代兵器は活動させられる」

「お母様は、そんな終戦を望んでいない。お姉様は……歪んでいます」

「ふふ、初めて正面から否定してくれたな。それでこそ、我が妹に相応しい」

「茶化さないでください」



 アルフェッカは、アルティアを観察して厳しく言い放つ。



「理想を口にするのならば、それを実現する力を示してみせろ」

「…………」



 アルティアは静かに目を落とした。

 やるせない気持ちになり、俯いてしまう。

 そんな妹に現実を突き付けてしまったことを後悔したアルフェッカが、肩に手を置いた。



「アルティアは、そのままでいい。何も変わる必要はない。私の……たった一人の妹として、いてくれればいい」

「お姉様……」

「少し痛むかもしれないが、我慢してほしい」

「え?」



 一人兜を被っている六星騎士長ジオーブが近づいてくる。

 ジオーブは注射器を取り出すと、それをアルフェッカに手渡す。

 アルフェッカは、アルティアの腕を掴んだ。

 袖をまくり上げてから、露出した肌に注射器の針を刺す。

 血管に注射針を固定して、必要量の採血をした。

 筒に、赤黒い血が溜まっていく。

 針を抜いて、刺入部位に『ヒール』を唱えた。

 すぐに止血され、穴が塞がれる。

 アルティアの血液が入った注射器を、ジオーブに渡した。



「お姉様、これは……?」

「ドラコーニブス家の家訓には、子供を二人産めという教えがある。つまり、ドラコーニブス家は兄弟姉妹で栄えてきた家系だ。お父様にも、今は亡き姉がいた。なぜ、こんな家訓があるのか。不思議に思ったことはないか、アルティア」



 アルティアは教育係から、しっかりと教わっていたので家訓については知っていた。

 だが、明確に疑問を抱いたことはない。

 ドラコーニブス家の血を絶やさないためと、普通は考える。



「一人子は禁制であり、二人は産む必要がある。その理由は、ある仕掛けを解くためにある。古代兵器へと至る道は、ドラコーニブス家に生まれた兄弟姉妹の血でしか開くことができないのだ」

「私と、お姉様の血……」



 そこで、アルティアに自責の念が渦巻いた。

 もしかして、私が抵抗しなかったせいで兵器が目覚めてしまうのでは。

 不可解な行動でも、お姉様を信じていたから疑うことはなかった。



「アルティア、疲れが溜まっているようだ。スイセイ、アルティアを部屋へと連れていけ」

「はい、閣下」







 スイセイとアルティアがいなくなった後、女性の六星騎士長ヴェニューサがアルフェッカに苦言を呈した。



「アルフェッカ閣下。スイセイに、アルティア様のお目付けは相応しくありません。以前、閣下に剣を向けました」



 ヴェニューサは艶めかしい声で、そう告げた。



「私を監視するために、皇帝が送り込んできた犬だ。不審な動きを制限するために元老院を消し、臨時執権官として六星騎士長を支配下に置いた。アルティアを脱出させようと手を回していても、気にはしない。どうせ、用事は済んだのだ」

「いつか、刃を向けてくるかもしれません」

「スイセイごとき、私の足元にも及ばない。そうなったとしても、お前たちで処分できるだろう? ヴェニューサ、ジオーブ、ウラヌス」



 三人は胸に手を当て、返事をした。

 それに満足したアルフェッカは再び、窓の外を眺めた。







 ウラヌスだけがアルフェッカの傍に控え、他の六星騎士長は巡回していた。

 ヴェニューサは後ろにくくった金の髪を揺らしながら、艦内を歩いている。

 畳まれた大きな弓を背負っており、目に入った兵士は少し身構える。

 途中、機関室に近づくと声がした。

 エンジン音に紛れ、くぐもった声が耳に入る。

 兵士が、さぼっているのだろうか。

 そう考えて、通常ならば誰もいないはずの機関室に足を踏み入れる。

 壁に背を預け、中の様子をうかがう。

 そこで声の正体に感づき、呟く。



「ジオーブ……か。誰と話しているのだ」



 壁から顔を半分はみ出させ、ジオーブを発見する。

 全身を灰色の武具で覆った男。

 六星騎士長で唯一、兜を身に着けている。

 両側の大腿にあるホルスター、拳銃が一丁ずつ納められていた。

 人の気配は、ジオーブのみだ。

 つまり、『念話』によって誰かと会話している。

 ぶつぶつと独り言を吐くような性格ではない。

 耳を傾けて、盗聴しようとしたが、上手く聞こえない。

 意を決して、ジオーブと対峙した。



「ジオーブ、誰と話しているんだ」

「邪魔が入った、切る。……ヴェニューサ、何の用だ」

「誰と話していた、と訊いている。質問に答えろ」

「お前は、デザイア帝国への愛国心が強いんだよな。70年以上、帝国に仕えてきた身だからか」

「質問に答えろ、ジオーブ」

「おお、怖いなぁ。歴が長い六星騎士長とあって迫力がある。僕も見習いたいものだ」

「質問に答えろと言っている、ジオーブ」



 灰色の鉄面の向こうは、どんな表情だろうか。

 淡々とした口調で、怖がっている様子はない。

 ヴェニューサは、帝国に仇なす者を許すことはない。

 裏切り者には鉄槌を下してきた。

 相手が貴族であろうが、元老院議員であろうが反逆者を裁いている。

 彼女は老いてもなお、帝国中に目を光らせていた。



「ヴェニューサは、神経質すぎる。今、話していた相手は昔の友人。たわいもない極めて普通の会話だ」

「なら、どうしてこんな場所でこそこそと『念話』していた」

「しつこいなぁ。疑うなら、何も聞かず僕を裁いてみてはどうだ。ヴェニューサは長弓の達人だが、実際に戦っているところを拝んだことがないんだよねぇ。ぜひ、見せてくださいよ」



 口調は常に乱れることなく一定だった。

 ぜひ見せてくださいよ、と彼が言っていても、興味ないという声音だ。

 呆れたヴェニューサは、ジオーブに忠告する。



「今度からは怪しまれないようにすることだ」

「学びましたよ」

「いつか、その兜の中身、見てみたいものだ」

「見せないよ。見たら、撃ち抜きます。あなたが長弓の達人なら、僕は拳銃の達人です。確実に、脳天を狙います、撃ちます、殺します」



 手を指鉄砲の形にして、ヴェニューサを撃ち抜く仕草をして笑う。

 不気味な笑い声が兜から漏れ、それは機関室から出ていくまで続いていた。

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