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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
202/256

176 威風都市エーレグランツ―4

(ミミゴン! 目を覚ましてくれ!)

〈ミミゴーン! 起きてくださーい!〉



 宝箱に八つの回転翼が付いている。

 これは、オクトコプターと呼ばれるヘリコプターの一種である。

 『ものまね』が解け、ありのままの自分になっていた。

 現在、体の半分が水に漬かっている。

 回転翼を回して、少し浮揚した。

 暗闇なので『暗視』のスキルが発動する。

 光で照らされているように見え、視界が確保された。

 周りを見渡して、地下道にいるのだと分かった。

 上から、水が降ってきている。

 地中に埋まっていた水道管から、水が漏れていた。

 それなりに広いトンネル内で、俺は寝ていたようだ。



〈ここは、ザームカイト地下道ー。エルドラード帝国の下に広がる地下鉄道だったようですねー〉

「エルドラード帝国? エルドラが王として支配していた国だな」

(うむ。千年前、エルドラード帝国があった場所は、エーレグランツのところらしいな)



 足元を見ると、レールが敷かれていた。

 線路は四つの複線で敷かれ、欠けているところも目に留まった。



(城塞に物資を運ぶための輸送路として、つくったのだ。この辺りの地形は、山ばかりで大変だからな。もう使われなくなっているみたいで、魔物もうじゃうじゃのようだな)

〈魔力あるところ、魔物ありー、ですからねー。早く、ここから抜けた方がいいですよー〉

「だな。エーレグランツをイメージして……『テレポート』! ……あれ?」



 音声合成で、『テレポート』を叫んだ。

 人の声に限りなく近い音が、坑道内に響いていく。

 ただ、それだけで瞬間移動することはできなかった。



「『テレポート』! 『テレポート』ー! ん、発動しないぞ?」

〈ミリミリ・メートルのスキル『エレメントスティールロッド』の効果でー、最大魔力量が吸収されてしまったんですよー。ですからー、『テレポート』どころか『ものまね』すら発動できない魔力しかありませーん〉

「も、ものまねもできないのかよ。『ものまね』! ダメだ、消費レベルの低い人間にすらなれない」



 って、ことは俺……最弱じゃねぇか。

 エルドラとの『念話』と『助手』と『暗視』ぐらいしか、使えないのではないだろうか。

 防御力に変化はないことが不幸中の幸いだな。



「自然に最大魔力量は回復しないのか?」

〈奪われたのでー、自然回復はしませんねー〉

「魔力量が奪われたんだったら、取り戻すことはできないのか?」

〈実はー、『助手』のスキルをフル活用してー、ミリミリ・メートルから取り戻そうとしているのですー〉

「さすがは助手。転生者を助けるスキルなだけはある」



 助手は勝ち誇ったような声を出して、嬉しそうに息を漏らした。



〈ふふーん。もっと褒めてくれてもいいんですよー〉

「それで取り戻すまで、どのくらいの時間が必要なんだ?」

〈この調子だと、三日ですねー〉

「……三日もかかるのか」

〈三日も、って失礼ですねー。これでも最大限、努力しているのですからー〉



 ふんふん、と鼻を鳴らして怒った。

 俺の魔力量は自慢できるほど多いらしい。

 それが仇となって、時間が必要になるのだろう。

 戦うことすら、ままならない状況に陥るとは。







 トンネルの奥から、魔物の呻き声が聞こえてくる。

 同時に、刀で硬い何かを弾く金属音も響いてきた。

 音の出どころに、目を凝らす。

 すると、足元に魔物の死体が飛んできた。

 思わず、驚いて後ろに退く。



 大樽ほどあるカエル型の魔物が、斬られて倒れている。

 飛んできたところには魔物が一体と、人影が見えた。

 人影の頭から、白い光が出ている。

 ヘッドライトだろうか。



「これで終わりだ」



 太刀が振り下ろされる。

 カエルの魔物は小さく呻いて、頭が垂れた。

 あの太刀は間違いなく、エッジワースだ。

 それの持ち主は。



「メリディス! 無事だったか!」



 声を張り上げると、こちらに向いて、冷たい目で見つめてくる。

 それから、太刀を背中に戻すことなく、切先を俺に突き付けた。

 距離を詰められ、鋭く尖った切先が迫ってくる。



「貴様、ミミゴンだな。ここで私に斬られろ」

「いきなり、何てこと言うんだよ」

「アルティア様が連れていかれたのだぞ。あの魔女に勝てる実力を持っていたんじゃないのか! それなのに、なんというざまだ」



 言い返すことができない。

 相手が強すぎた、とか言い訳はいくらでも思いつくが、言う気にはならなかった。

 反省する態度を見せる。



「すまない、メリディス」

「貴様らの争いで、私も巻き込まれて、こんなところに落とされた。このままでは、アルティア様が連れ去られてしまう。貴様を叩き斬りたい気分だが、時間がもったいない。すぐに『テレポート』で、エーレグランツに移動しろ」

「え、ああ、そうしたいのはやまやまなんだが……」

「なにをもたもたしている。さっさとやれ。どうした、できないのか?」



 切先がドローンの機体に触れるか触れないかで止まる。



「……すみません。できません」

「は? 役立たずめ、切り殺してやろう」

「待ってくれ! 話を聞いてくれ!」



 言葉を選びつつ、慎重に事情を説明する。

 顔色を伺いながら話して、なんとか斬られずに済んだ。

 太刀を背中に納めて、先の見えない坑道に爪先を向けた。



「言い争う暇はない。こうしている間にも、アルティア様が離れていくのを感じる」

「距離を感じ取れるとはすごいな。スキルかなにかで繋がっているのか?」

「いや、アルティア様を想う愛だ」

「…………」

「アルティア様の呼ぶ声が聞こえた気がする。すぐに参ります! ミミゴン、一時休戦だ。とにかく、ここから出る」

「一時休戦って。常に味方だったはずだろ。って、もう行ってしまった」



 お化け屋敷のような雰囲気の地下道だというのに、構うものかと走っていった。

 アルティア様を想う愛とやらが、凄まじい勇気を与えているのは確かだ。

 彼女を追いかけると、魔物の死体があちこちにあった。

 共通して、太刀に斬られた傷がある。

 魔物にとって過ごしやすかった環境が、メリディスによって荒らされたのは悲しいものだな。







 ザームカイト地下道を適当に進んでいるが、本当に出られるのだろうか。

 脱出路がなかった場合、俺が落ちた穴に戻って、メリディスを無理矢理引っ張り上げようか。

 結構、穴が深くて、地上に出られるかが心配だが。



(ザームカイト地下道は、現在のデザイア領全体に広がっている)



 そんなに広いのかと驚いてしまった。

 山が多いから、地下道が重宝するとはいえ、よく掘ったものだな。



(地上へ出る道、もしくは梯子がどこかにあるはずだ。探してみるとよい)

〈エルドラが探したら、どうなんですかー。詳しそうじゃないですかー〉

(いや、我は地下道を使ったことはない。ということで、役には立てないのだ。すまない、ミミゴン)

〈役には立てないのだ、ってー。無責任な奴ですねー〉



 オクトコプターの回転翼を全力で回して、ようやくメリディスと並走できた。

 メリディスはただ前だけを見て、坑道を駆け抜けている。



「メリディス、闇雲に走っても地上には出れないぞ」

「なら、どうする、ミミゴン? 貴様は道を知っているとでも言うのか?」

「いや、道は知らないが」

「そうなると走るしかない。走って……道を知っている人に尋ねる!」

「こんなところに、人がいるわけないだろ」



「ここにいるぜ! エーレグランツに出られる道を知っている奴がな」

「え!?」



 思わず、叫んでしまった。

 まさか、暗闇から答えが返ってくるとは思わなかったからだ。

 『暗視』の目で、声のした場所を凝視する。

 誰かいる。

 一人、腰に刀を差している竜人が。

 近づいてくる影のシルエットが、徐々に正体を浮かび上がらせる。

 赤色の甲冑に、金色の日本刀。



「お前、六星騎士長のウラヌスだな」

「そうだぜ、オレがウラヌス」



 鞘の刀をゆっくりと抜き、片手でクルクルと回し始めた。

 右手首を器用に回して満足した後、切先をこちらに向ける。



「地上に出たいんだって? なら、オレを倒してみなよ。来い、女剣士」



 メリディスは射貫く瞳で、ウラヌスを捉えたまま、背中の太刀を引き抜く。



「いい、すごくいい武器だ。ちょっと、ここ……暗いよな。『炎斬り』」



 日本刀を天井に一閃させると、両側の壁に炎が走った。

 一閃の衝撃波が、メリディスの髪を揺らす。

 メラメラと燃える火がトンネルを彩り、一気に明るくなった。

 『暗視』を切って、メリディスを見守る。

 この男を倒さなければ、先へ進めそうにない。

 ここは、ウラヌスの提案に乗っておいた方がよさそうだ。



「メリディス……倒せるか?」

「アルティア様のために、刀を振るうと誓った。貴様を斬り伏せ、他の六星騎士長もアルフェッカも斬り伏せるつもりだ」

「最高のシチュエーションだ。さあ……始めようか」



 両者共に、刀を構え直す。

 そして、剣士と剣士の激闘が始まったのだった。

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