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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
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174 威風都市エーレグランツ―2

 住宅街の道を、三人は走り抜ける。

 北東の旧居住区へ近づくたびに、人の気配が薄くなっている。



「先ほどは、勝手なことを申してしまいました。すみません、ミミゴン様」

「俺も、血を流す戦いは嫌いだ。アルティア様は良いことを言った。ってことで、頼んだぜ」

「はい、頼ってください」

「アルティア様! 前方に!」



 メリディスが叫び、前方を意識する。

 戦闘用ヘルメットに胸当てを装備した帝国兵が立ちはだかった。

 その帝国兵がこちらに気が付くと、腕を上げて仲間を呼んだ。



「こっちだ! いたぞ!」



 後ろからも、西洋甲冑特有のカシャカシャ音が聞こえてくる。

 メリディスはアルティアの腕を引いて、左の道を進んだ。

 人の気配は少なくなっても、追いかける兵士の気配は濃くなる一方だ。

 最高指揮官アルフェッカの指示で、アルティアを捕らえようとしているのだろう。

 俺とメリディスが捕まったら、どうなる。

 邪魔者として排除、つまり殺されるだろうな。

 とにかく、こんなところで捕まってはならない。

 俺たち三人と魔女、アルフェッカが揃った状態にしなければ。

 そのためにも、旧居住区の奥を目指す。



「捕まえる!」



 横の路地から、帝国兵が飛び出してきた。

 アルティアは驚いて、足を止める。

 飛び込んできた帝国兵を、メリディスが蹴り飛ばした。

 俺は後ろの兵士を殴り、気絶させる。

 前からは、兵士が二体迫ってきていた。

 倒した兵士を飛び越えて、横の路地へ逃げ込む。

 逃げ込んだ先にも、四人の兵士が待ち構えていた。



「『眼力』!」



 固まっていた兵士が見えない風圧で吹き飛ばされ、建物を突き破って消えた。

 ちょっとやりすぎたかもしれない。

 首を振って、兵士が死んでいないことを祈り、街路を駆ける。

 その後、メリディスと共に兵士を撃退しながら、奥へ奥へと進む。

 住居の外壁が煤け、石壁に亀裂が入っているのも見える。

 壁を背にして、息を潜め、兵士がどこかへ行ったのを確認して、先を目指した。

 やがて、たどり着いたのは中央に噴水がある広場だった。



「いたぞ!」

「今度こそ捕らえるんだ!」

「囲めー!」



 兵士が、あちこちから湧いて出てきた。

 右も左も、前も後ろも帝国兵。

 手持ちの武器を、こちらに向ける。

 銃と剣のどちらか。

 どちらも、先端は人を脅すのに十分な形をしている。

 三人は、じりじりと噴水の方へ追い詰められていった。

 こうなったら『テレポート』で態勢を立て直すか。

 そう思った矢先、空に黒い物体が見えた。

 青空を黒で塗り潰したのは、飛行戦艦アークライト。

 表面が黒色の鯨が、宙に浮いているのかと錯覚させられた。



「あんなのがあったら、グレアリング王国なんて一撃だろ」



 冗談っぽく呟いたつもりでも、真実味があった。

 百聞は一見に如かず、というやつで見たら、戦う気が失せて絶望させられるだろう。

 だが、俺たちに絶望している暇はない。



「おお、可愛い可愛い我が妹、アルティア」

「……!? お姉様!」



 高らかに石畳を鳴らしながら歩いてきたのは、最高指揮官ドラコーニブス・アルフェッカ。

 黒い軍服は、アルティアとは違って、脇の下に魔石がキーホルダーのように付いていた。

 アルフェッカが一歩迫ってくるたびに、魔石が揺れる。

 妹よりも大人な女性の顔立ちで、長い黒髪は艶がある。

 アルフェッカの後ろには、甲冑を着た騎士らしき人物が四人並んでいた。

 助手が、生真面目に声を発する。



〈あれが、六星騎士長と呼ばれるドラコーニブス家の武装親衛隊ですねー〉



 水色の甲冑を身に着けているのは、スイセイと呼ばれる人物だ。

 アルファルド皇帝から最も信頼されている騎士長と、この前本人に聞かされた。

 困ったことがあれば、彼は味方に立ってくれるらしいが。

 左から灰色の甲冑、水色の甲冑、黄色の甲冑、赤色の甲冑。

 灰色の甲冑を身に着けている騎士長は、兜で顔が見えない。



「お姉様! ……戦争を終わらせてくれませんか!」



 そんな馬鹿正直に言って、相手が要求を受け入れるとは……。



「大事なアルティアの頼みだ。聞き入れよう」



 うん? いけたのか?

 いや、そんな簡単に受け入れるはずが。

 アルティアだけに向けていた顔を、この場にいる一人一人に向けている。

 腕を広げ、堂々と声を張り上げた。



「皆は私を恐れているだろう。ドラコーニブス・アルフェッカは皇帝の命令を退け、戦争を推し進める冷酷無比の最高指揮官だと。全て本当のことだ、私は否定しない。だが、私は皇帝の意思を継いでいる。皇帝は、いつも平和の実現を願っておられた。私も同じ思いだ。残念ながら……平和の実現のためだと考えていた行為が間違っていたようだ。若くして、上位の役職に就いたのは、自分には実力があると自惚うぬぼれていたからだ。軽薄な考えに至ったのも、私が幼かったせいだ。全て私に非があり、責任がある」



 演説する政治家のような振る舞いで、全員に声を飛ばしていた。

 兵士の何人かは俯いている。

 独裁的な指揮官のアルフェッカを恐れていた兵士だろう。



「私は目を覚ました。アルファルド皇帝陛下、アルティア皇女、そして皆の願いでもある終戦。私も尽力する所存だ。ただ、しばらくは最高指揮官として私を認めてはくれないだろうか。必ずや、戦争を終わらせ、世界に平和を取り戻すことを約束する! 罪が消えるわけではないが、これが私なりの償いだ」



 頭を下げ、しばらくしてから顔を上げる。

 その顔は、演説からずっと真剣な表情だった。

 熱く語ってやった、とか、口車に乗せられやがって、というような悪い思惑は一切感じられない。

 仮に、今話したことが嘘だったら、相当な演技力だ。

 目にすら、裏の狙いは出していない。



「アルティア、我が妹よ。ドラコーニブス家の竜人は、強き願いを実現させる。嘘偽りを口にしない。そんなことは、よく知っているだろう」

「お姉様、じゃあ……」

「愛おしいアルティア……私のもとへ。久々に、見目麗しいその顔を、よく見せてくれないか」



 アルティアは引っ張られるような足取りで、アルフェッカに歩いていく。

 だ、大丈夫なのか、これ。

 メリディスは嫉妬しているような様子で、下唇を噛んでいた。



「ず、ずるい。私も、アルティア様の家族になりたい。頬擦りしたい……」

「しっかりしろよ、あんた……」



 アルフェッカの胸に、アルティアが顔を埋める。

 腕を回し、しっかりと抱きしめられた。



「おね、え、さ、ま……」



 アルティアの腕が、だらんと垂れた。

 顔を上げたアルフェッカは、俺たちをきつく睨みつけた。

 まずいぞ。

 そう告げようと、メリディスに向いた瞬間、そこから消えていた。



「貴様! アルティア様に何をした!」



 アルフェッカは余裕ありげに、手を天に伸ばして、指を鳴らした。

 メリディスが太刀を抜き放ち、一足飛びでアルフェッカを目指す。



「ウラヌス!」

「はい、閣下」



 メリディスがアルフェッカの頭部へ振り下ろした太刀は、別の刀で止められていた。

 柄から切先まで金色の日本刀だ。

 赤色の甲冑を着たウラヌスが、ニヤケながら太刀を押し返した。



「お前、強いな。女だから、弱そうなんて考えはもっていない。何が言いたいかって言うと、オレは手加減しないってことだ。男も女も、強い奴は強い。さ、オレと剣、交えようか!」

「貴様、斬られたいようだな。殺してやる」



 メリディスが太刀を構え直すと、ウラヌスも刀を構え直した。

 アルフェッカは、アルティアをお姫様抱っこで持ち上げ、アークライトを目指して歩いて行った。

 ウラヌスを除いた他の六星騎士長も、その背中を追いかけていく。

 兵士も、俺たちを見捨てるように消えていく。



「おい、待て! アルフェッカ、終戦するって言ったよな! アルティアをどうするつもりだ!」



 アルフェッカが立ち止まって、俺を横目で確かめる。



「貴殿が、ミミゴンか。噂には聞いている。デザイア帝国には関わるな」

「そいつは、できない相談だ。ミリミリ・メートルはどうした? 俺は、あいつに会いに来た」

「……ミリミリ」



 アルフェッカの頭上が歪んでいる。

 空間を捻じ曲げて、登場したのは黒いローブに包まれた幼女だった。

 あれが、ミリミリ・メートル。



「どうしたの、アルフェッカ」

「君に客人だ。話し相手になってあげなさい」

「いいよ~」



 ふわふわと漂うように浮遊してきた。

 エルドラが固唾を飲んで、脳内に声をかける。



(ミミゴン、間違いないぞ。最強の魔法使いミリミリ・メートルだ)

「あなたが、ミミゴン? ミリミリとお話ししましょ」

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