2 『元』ものまね芸人
名前が思い出せない。
さっき『ミミゴン』と、変な名前を付けてもらったのは思い出せるが。
俺がロボットじゃなくて、人間だった頃の名前が思い出せないのだ。
エルドラに訊いてみるか。
「なあ、エルドラ」
(ミミゴンの為なら何でも聞いてやろう! どうした?)
相変わらず、脳に声が響く感じだ。
「俺が、ものまね芸人やってるの知ってるか?」
(ものまね芸人? 何だ、それは?)
うん?
知らないのか?
俺は、かなり有名な方だと思うが。
だって、街で俺を見かけた子供が「ものまねやって!」と言われるほどだ。
更に、今年大ブレイクしている「人気ものまね芸人」って紹介されるほどだぞ。
自分で言うのもなんだが、日本で知らない人はいないんじゃないかと思う。
だけど、こいつの反応は、ものまね芸人を知らないみたいだ。
もしかして、日本じゃない?
「ものまね芸人を知ってるか?」
(いや、知らないな。だが芸人は分かるぞ。人を集めて、何か芸をする人だな?)
「そうだ、人を楽しませる職業だ」
(人間の街を観察している時になぁ、奇妙なことをする人間を見てな。手からハトが出たり、コインがいつの間にか消えていたりな。魔力を感じないのが不思議なのだ。スキルを使用すれば、魔力を感知するはずなのにな。他にも色々な芸を見たが、”ものまね”というのは知らんな)
「ものまね、と言うのはだな。相手の真似をするんだ、例えば」
エルドラの声に似せて喋ってみる。
「他にも色々な芸を見たが、”ものまね”というのは知らんな」
(似てないぞ、全然)
「そらそうだろ。お前と姿が違うし、機械っぽい声だし」
(ものまねってのは面白くなさそうだな)
ほう、言うじゃないか。
ものまねをバカにしてはならない。
ものまね芸人としてのプライドがロボットになっても、あるんだ。
こうなったら、頑張って真似してやろう。
「俺、怒ったわ。いいか、これが本気の『ものまね』だ!」
(す、すまん。怒らせるつもりは、なかったのだ! 許してくれ!)
声そのものは無理でも、声の感じは似せれるはずだ。
あと、雰囲気……これが”ものまね”で重要な要素。
エルドラと同じような雰囲気を出して、声を発しよう。
よーし、見せてやろう……。
なんか、エルドラが驚いている。
まだ声真似してないぞ。
……顔、近くないか?
しかも、俺に手と足が生えたような感覚もある。
背も伸びたのだろうか。
うん? 俺、エルドラになってないか。
壁に立てかけてある鏡(ていうか縦に長いな、おい)を見て映っていた姿は、エルドラそっくりだ。
翼生えたし、角も髭も生えちゃった。
(これが、ものまね芸人というやつか!?)
「いや、これ……ものまねの域、超えてるだろ!」
(すごい、我にそっくりだ。それに、ステータスまで我と一緒だ! ま、負けたぞー!)
「す、すごいだろ! これがものまね芸人だ!」
何を言ってるんだ、自分は。
エルドラが驚いたからって、調子に乗るんじゃない。
ロボットがドラゴンになるわけがありません。
けど、見栄を張ってみたいな。
驚いた顔、見るの楽しいし。
あと、芸人は適応力がないとな、仕事にならないし。
持ち前の適応力で、状況に慣れるか。
(……ミミゴン、スキル『ものまね』っていつ取ったのだ?)
「スキル『ものまね』? さっき、それを獲得したって聞こえたが」
(聞いたことがないスキルだ。それにスキルを獲得する? どういうことだ?)
「こっちのセリフだよ。どうなってんの、俺」
(『ものまね』の効果みたいだ。ミミゴン……『見破る』というスキルを自分に使ってみろ)
「どうやって使うんだ?」
(『見破る』と言えばいい)
「『見破る』!」
すると、目の前にエルドラの情報が表示された。
網膜に直接、張り付いているような表示だ。
名前:エルダードラゴン
レベル:不明
種族:神龍人
称号:不明
耐性:不明
取得スキル:不明
「ほとんど不明なんだが」
(我じゃなくて自分を見破るのだ!)
「『見破る』!」
今度は、自分を意識して叫んでみた。
名前:エルダードラゴン(ミミゴン)
レベル:不明
種族:神龍人
称号:不明
耐性:『全属性魔法無効』『全障害ステータス無効』……
取得スキル:『ものまね』『不死身』『ミエナイチカラ』『天眼』……
取得スキルが、ずらっと並んでいるが読む気にならない。
RPGゲームをやってる人間からしたら、バケモノと言われそうなくらいの量があるのは分かる。
(な! スキルを取得しているだろ)
「何か、おかしいのか?」
(ロボットがスキルを取得するなど、ありえない。それにお前が動いていること自体、謎なのだ)
「動いちゃいけないのかよ」
(バッテリーは充電していないし、そもそもスキルは生者にしか獲得できない。ということは、ミミゴンが生きているということだ。
……まさか、我の”素晴らしい”ロボットに見知らぬ誰かの魂が乗り移ったというわけか! それなら、ミミゴンの意味不明な言動の意味が理解できる!)
「えーと、俺の魂がひょいと抜けてこの変な……に、睨むなよ。……この”素晴らしい”ロボットに乗り移ったと?」
(そうだ! そうだ! 我の”素晴らしい”ロボットに転生したということだ! よくぞきた!
本当にありがとう! このまま寂しく死ぬのだ――『不死身』だけど――と思っていたのだ!)
「俺、もしかして死んだのか。プロのものまね芸人として一生、仕事しようと思った矢先に!」
(死んでくれて、助かったぞ! さあ、我と共にこの迷宮から脱出するぞ!)
”助かる”の意味、知ってる?
「死んでくれて助かる」って、どういう誉め言葉だよ。
つまり、俺は……転生した、というのか。
……どうなってんの、これ。