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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
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171 夢を飛ばせ!―6

 妖刀『エッジワース』を片手に、グラセドラゴンの懐を切り込む。

 スキル『虚構最上大業物』で、刀身は折れない強靭さと全てを断ち切る切れ味を発揮させた。

 グラセドラゴンは反撃に、ブレスを思い切り吐き出す。

 あらゆる生命を凍てつかせる氷の息吹は猛吹雪を圧縮したような攻撃で、当たれば無事で済まされない。

 龍の口はメリディスを追うように動き、ブレスは強烈な範囲攻撃となった。

 凍り付いた床を走り、背に迫ってくる息吹から逃げる。

 その先の壁に飛び上がって、息吹を躱した後、太刀の刃先を地面につけて攻めに転じた。



 駆けてくるメリディスに、もう一度ブレスをお見舞いしようと首を伸ばした。



「させませんよ! 『フレイム』!」



 アルティアの放った火の玉が頭部にヒットし、首が曲がる。

 それから、アルティアも剣を構えて走り出した。

 二人の剣が、胴体に十字傷を負わせる。



「ぐおおう……」

「……! 危ないぞ!」



 ペンティスの警告に、アルティアとメリディスが見上げた。

 集まっている二人を目指して、頭突きが降ってくる。

 飛び退くようにして頭突きを避けたが、陸地を崩壊させるような衝撃が風圧を生み出した。

 突風で煽られた体は隙をつくる。

 グラセドラゴンは回転して、遠心力のついた尻尾を振り回した。

 メリディスは太刀を逆手に持ち直して、刀身を盾にしたが、勢いを殺しきることができず、壁際まで吹き飛ばされた。



「メリディス!」



 心配したアルティアが、メリディスに駆け寄ろうとする。

 阻止するように、長い首を伸ばして噛みついてきた。

 直前で身を引いて、目と鼻の先で大口が閉じられる。

 グラセドラゴンは連続で噛みつき、アルティアを追い詰めていく。

 バックステップで躱すことを繰り返した。

 このままでは防戦一方になる。

 浮遊魔石を背にした俺は、片腕を前に出す。



「『インフェルノ』!」



 第二炎魔法『フレイム』よりも大きな火球を解き放ち、グラセドラゴンを強引に浮き上がらせる。

 完全に意表を突いたことで、憤怒を咆哮する。

 洞窟を揺らす咆哮は、鉱石から削れた欠片を粉々にした。

 首を上げて吼えるグラセドラゴンの背に、ペンティスはジャンプする。

 槍を弄ぶように振るってから、穂先を背中に突き刺した。

 痛みを追い出すように吼え、背中の異物を払うために暴れ始める。



「おっと!」



 滑り落ちる前に、ペンティスは飛び降りた。

 難を逃れたかに見えたが。

 飛び降りた先には、振り回す首があった。

 身を守る前に、鞭のようにしなる首をまともに食らい、地面を転がされる。



「ペンティスさん!」



 飛ばされた槍は氷の床を滑って、壁で止まった。

 ペンティスの肉体は氷筍に受け止められ、胸を押さえてうずくまっている。

 逆に尖らせた氷柱のそばで倒れるペンティスに、口が向けられた。

 邪魔するために『インフェルノ』を唱えて、火の玉をぶつけたが。

 くそ、耐え抜きやがった。

 四本足を地面に食い込ませていたため、脇腹で爆発してもちょっと浮かしただけだった。

 そして、凍結させる息吹を浴びせる。

 まずい!

 そう思った瞬間、アルティアが大声を出した。



「メリディス!」



 メリディスがスライディングして、ペンティスを脇で挟み、その場を脱する。

 ブレスは氷筍一帯を破壊したが、ペンティスは無事だ。

 立ち上がって、握り締めた妖刀を胸の前で構える。

 グラセドラゴンは攻撃に備えようと、体を捻った。

 捻る隙に、アルティアが『サンダーボルト』を浴びせる。



「『サンダーボルト』! メリディス、大丈夫ですか?」

「なんともありません、アルティア様」



 『サンダーボルト』を食らったグラセドラゴンは、針で刺されたように小さく呻いて、尻尾を振り上げた。

 アルティアを叩き伏せようとしているのだ。

 横転して回避し、さっきまでいた場所に強烈な打撃音が発生した。

 グラセドラゴンが取る次の行動は、俺に目掛けてブレスを吹き出したことだ。



「『バリアウォール』! ぐっ」



 両手を突き出して、黄色の魔力壁を出現させ、ブレス攻撃を防いだ。

 予想以上に重いブレスが、バリアを突き破ろうとしてくる。



〈どうやら、魔力が込められているようですねー。ただのブレスではないということですー〉



 なんとか『バリアウォール』で、ブレスを打ち消した。

 今は『ものまね』で竜人に化けているが、防御力はオクトコプター状態と比べてかなり弱い。

 直接食らってしまったら、『ものまね』を剥がされるな。

 後ろの浮遊魔石は無傷だ。

 すぐに採掘して帰りたいのだが、どうもちょっとしたコツがいるらしい。

 静かに採掘作業をするためにも、グラセドラゴンは倒さねばならない。

 ペンティスは意識が朧げな状態なのか、なかなか起き上がれていない。

 それに配慮して、アルティアとメリディスが離れた位置で戦っていた。



 彼女たちはお互い肩を寄せて、武器を構えている。



「メリディス、いつもの作戦でいきましょう」

「はい、アルティア様」



 両者の武器を交えた後、メリディスは駆け出した。

 アルティアは牽制役として、魔法スキルを詠唱する。

 グラセドラゴンを自由に移動させないようにし、注意を自分に引き付ける。

 その間に、メリディスは横と後ろから太刀を振るった。

 果敢に攻撃を仕掛け、確実にダメージを与えていく。

 対して、グラセドラゴンも負けじと猛威を振るった。

 頭突き、尻尾、ブレス、突進。

 巨体から繰り出す一撃をメリディス、アルティアは回避して攻撃に移る。

 時々、狙いが逸れて飛んでくるブレスを『バリアウォール』で打ち消した。



「『フレイム』! メリディス!」



 アルティアが叫び、メリディスが突っ込む。

 怯んでいた魔物だが、首だけを器用に動かして頭を突き出した。

 視覚で捉えきれない速さの頭突きを太刀でずらし、切先を首の付け根に突き刺す。



「アルティア様!」



 引き抜いた太刀を構えなおし、アルティアと息を合わせた連続攻撃を食らわせた。



「これで終わりです! 『一斬り剣舞』!」

「『鎧袖一触』!」



 アルティアは剣の一閃で、幾多の斬撃を浴びせて、敵の行動を抑制させる。

 太刀の刀身を伸ばし、メリディスが勢い良く振り抜いた。

 胴体を一刀両断されたグラセドラゴンは最期に天井へ短く咆哮した後、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。



「ようやく、絶命したか」



 メリディスは太刀を背中に納めながら、魔物の頭部を軽く蹴った。

 やっぱり、こういうボスモンスターってのは一筋縄ではいかないものだな。

 そう、胴体で切り離されたとはいえ、一筋縄ではいかなかった。

 彼女たちが、こちらへ向いた瞬間、グラセドラゴンが顔を上げた。

 静かに、ブレスを吐こうとしている。



「後ろ! まだ倒れてないぞ!」



 二人が、死んだと思っていたグラセドラゴンに注目する。

 窮余の一策が、死を装って騙すなんて。

 すぐに武器を構えようとしたが、間に合いそうにない。

 焦って、前に飛び出した時には遅すぎた。

 口を大きく開けて、喉に溜まった息吹が垣間見えた刹那。

 誰かが雄叫びを上げて、首を槍で刺し貫いた。



「うおおおお!」



 ペンティスの刺した槍で、頭部がのけ反る。

 見当違いの方向に、ブレスを飛ばして、それきり沈黙した。

 槍を引き抜いて、背中に戻すと眩暈を起こしてよろめく。

 すぐに走り寄って、その体を支えた。



「ペンティス、しっかりしろ! 『フェムトヒーリング』!」



 癒しの粒子が、ペンティスの傷を塞ぐ。



「ミミゴン、浮遊魔石は」

「安心しろ。傷一つない。自然のままだ」



 へへっ、と笑って、ペンティスは自立した。

 それから、ウエストポーチから採掘用の道具を取り出して、浮遊魔石のある壁まで歩く。



「みんな……俺のために、付き合ってくれてありがとう!」



 振り向いた目は涙が溢れ、潤んでいた。

 俺は照れ臭くなって、軽く頬をかく。



「浮遊魔石、ちゃんと取り出せよ」

「……もちろんだ! 任せておけ!」



 ペンティスは元々、鉱石の採掘で稼ぎを得ていたらしい。

 技術は、帝都デザイアで働く父親に教えてもらったようだ。

 数分して、ペンティスは浮遊魔石を手のひらにのせた。



「これで、トラオムフリューゲルが……飛ばせる!」

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