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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
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170 夢を飛ばせ!―5

 ルシフェルゼ山に再び足を踏み入れ、雪道を突き進む。

 勾配も少し急になってくる。

 俺の隣で疑問を浮かべているのは、背中に槍を背負ったペンティス。

 背後に、アルティアとメリディスが随伴している。

 ペンティスが後ろの二人に聞こえないように、俺に耳元で囁いてきた。



「な、なんで、アルティア様が付いてきてるんだ!? ミミゴン、え、ええ!?」

「あら、ペンティスさん、どうかされましたか」



 ペンティスは聞こえないように小声で話したのに、思わず大声になっている。

 アルティアには丸聞こえだったようで、ひどく心配していた。

 すぐに首を振って、再び俺に囁いた。



「ビックリしたぜ、俺。アルティア様まで付いてくるって言ったんだから。ミミゴン、お前……何者なんだよ。アルティア様が、ミミゴン様って呼んでるし」

「どうでもいいじゃねぇか。細かいことは気にしないで、ほら進むぞ」

「もしかして、俺……とんでもなく偉い人と行動してるのか?」



 天候は、以前よりも晴れ渡っていた。

 まさに快晴である。

 アルティアに言わせれば、かなり珍しいことだそうだ。

 天も味方してくれるとは、絶好調だな。







 オルフォードに示された洞窟へ到着した。

 白い絶壁に、人が通れる洞穴がある。

 ヒンメル村からは、そんなに離れてはいないので全員、まだまだ元気が有り余っている。

 道中、魔物は現れたが、俺が魔法スキルで倒した。

 そんなわけで、みんな無傷だ。



「さあ、ここからが勝負所だ。洞窟の奥深くに、目的の浮遊魔石がある」

「よし、いくか!」



 ペンティスは気合十分に両手を合わせる。

 アルティアも、メリディスも肩に力を入れて、洞窟を見つめた。

 果たして、浮遊魔石が見つかるのか。

 正直なところ、運の問題だ。

 どれだけ探しても、なかったなんてこともあり得る。

 努力が無駄骨折りで終わる、って結末にはならないことを祈った。



 洞穴の壁は冷たく、空気も冷えている。

 だが、外と比べるとほんの少し暖かい。

 ペンティスがヘッドライトを全員分用意してくれたので、視界は十分明るい。

 通ってきた細い空洞が、いきなり広くなった。

 奥から、魔物の唸り声が聞こえてくる。

 少し姿勢を落として、辺りを警戒した。



「うわぁ、すげぇ」

「これは綺麗ですね」



 穴を抜けたここは、洞窟内を見渡せる高台のようだ。

 ここからの景色は、壮大な眺めである。

 ロールプレイングゲームの中盤にある氷の洞窟を想像させる。

 天井から日が差し込み、キラキラと反射していた。

 氷柱(つらら)が天井に発生しているが、逆さになった氷柱もあり、地面にできあがっている。

 氷筍(ひょうじゅん)と呼ばれるもので、字の通り氷の(たけのこ)だ。

 上からの水滴が凍ったものが積み重なり、氷筍となる。

 見るからに滑りそうな床には、魔物も当然のように棲んでいた。

 奥では、魔物同士で戦いあっている。

 戦いは熾烈さを増し、塔のような氷柱が根元から崩れ、魔物が下敷きとなった。



「とりあえず、奥へ進むか」



 俺が先頭に立って、坂を下りる。

 下り切った途端、一体の魔物が襲い掛かってきた。

 よく見もせずに、炎魔法『インフェルノ』で焼き尽くす。



「『インフェルノ』!」



 手を伸ばして、掌にボーリングボールぐらいの火の塊をつくって、魔物に解き放った。

 見事に直撃し、体の半分以上が消し炭となっていた。

 だが、喜ぶのは早かった。



「アルティア様、囲まれています」



 メリディスが太刀を抜いて、顔をあちらこちらに向ける。

 壁の裏や、氷筍の陰にさっきの魔物がいた。

 後ろから足音がしたかと思えば、アルティア目掛けて突進する魔物が数体現れた。

 『異次元収納』から取り出した白銀の剣を握り、メリディスの繰り出す斬撃に合わせて、飛び込み斬りを当てる。

 魔物を叩き切って、横から攻めてくる魔物に『サンダーボルト』を放つ。

 雷魔法に吹き飛ばされ、壁と激突した。



〈この魔物は、アイスインプと呼ばれていますー。蝙蝠のような翼と、獰猛的な攻撃が特徴ですー。高レベルの相手でも、集団で襲い掛かることが有名ですねー〉

「集団って言っても、数体だ。すぐに片付ける。ペンティス、大丈夫か!」

「なんとか、な! 『一閃突き』!」



 槍を振り回し、アイスインプを遠ざけた後、一体を串刺しにする。

 すぐに引き抜いて、もう一撃を加えて倒した。

 息つく間もなく、槍を構えなおす。

 と、よそ見をしていると、牙を剥き出した一体が魔法を唱えた。

 狙いは、ペンティスのようだ。

 そうはさせまいと、助手が既にスキルを発動していた。



〈『眼力』ー!〉



 かっと開いた目が、アイスインプを押し飛ばす圧力を放つ。

 為す術なく、魔物は氷壁に埋められた。

 残りの一体は、アルティアの剣で倒されることとなった。



「『一斬り剣舞』!」



 敵の飛びかかりを前転して避け、無防備な背中を斬る。

 一度しか斬っていないのに、魔物は何度も斬られたような傷を受けた。

 踊るように斬られた魔物は力尽きて、氷の地面に寝かされた。

 アイスインプの集団は、これで終わったようだ。

 白銀の剣を『異次元収納』で消して、アルティアは全員の無事を確かめた。



「お怪我はありませんか?」

「ああ、俺は平気だぜ!」



 槍を肩に担いで、ペンティスは拳を掲げた。

 俺も、メリディスも頷いて、平気だと伝える。

 安堵のこもった吐息を漏らして、アルティアは奥へと進む道を見つめた。



「では、この先も油断せず進みましょう」







 高所から見渡せていた景色は、洞窟の一部に過ぎなかった。

 迷路のように複雑な横穴を抜け、どんどん下へと歩いていく。

 冷気も、ますます冷えていく。

 魔物自体のレベルも上がっている。

 できるだけ三人を疲労させたくないため、俺が片付けた。

 さすがに、エルドラに『ものまね』してまで戦わないといけないレベルの魔物はいない。

 瞬殺できる洞窟で助かった。



 洞窟の壁に、光る鉱石が飛び出ている。

 ヘッドライトだけに頼る必要はないみたいだ。

 穴を抜けたみたいで、いかにもな広場に出てきた。

 光源となる鉱石が、顔を出す地べた。

 どうやら、ここが最深部のようだ。



「ミミゴン! あれだ!」



 ペンティスが指さした奥の壁に、緑色の石が見える。

 水晶が淡い緑の光を放っている。



「あれが、浮遊魔石か」



 全員が足並み揃えて、浮遊魔石の集合体に近寄る。

 結構、簡単に見つかったものだと気を抜いた瞬間、メリディスが叫んだ。



「上! 魔物です!」



 影が落ちてくる。

 浮遊魔石への道を阻むように落下してきた。

 地面に降り立った衝撃波が凄まじい。

 アルティアやメリディスはともかく、ペンティスは飛ばされそうになっていた。

 豪快な着地をしたのは、この洞窟のボス。



〈グラセドラゴンですー。宝を守る番人は、氷の龍とは相応しいではありませんかー〉



 俺たちを品定めするように、目を光らせる。

 吐息は、お手本のような白い息。

 体じゅうに清涼な水が流れているような鱗。

 西洋のドラゴンのように、四本足で地を踏みしめている。

 蒼い尻尾が、浮遊魔石の鉱脈近くに叩きつけられた。

 足場を揺らす地響きと共に、壁の一部に亀裂ができた。



「やめろよ、そういうことすんの。浮遊魔石が壊されたと思って、肝を冷やしたじゃねぇか」



 そんなことをぼやいたところで、相手は魔物。

 人の言葉を解する耳なんて持ってはいない。

 アルティアが、俺の右隣に立つ。

 神妙な面持ちで、白銀の剣を取り出した。



「ミミゴン様。浮遊魔石に攻撃が当たらないよう、守ることに集中してもらえませんか」

「ああ、わかった」



 軍服の袖を持ち上げ、グラセドラゴンに手を見せる。

 そして、『サンダーボルト』を放った。

 手から伸びた電撃が、突き刺さった部分を黒く焦げ付かせる。

 そこで、魔物は俺たちを敵だと認識した。

 四本足の爪先を、アルティアに向けて突進を繰り出した。

 首を前にして、口先を突っ込ませる。

 巨体では考えられない速さで迫ってくるのは、人を縛りつける威圧感があった。

 アルティアは剣を握りしめたまま、動かなくなった。

 威圧されたわけではない。

 そこから頑なに移動しないのは、威圧感を超える信頼を目の当たりにするためだ。



「『虚構最上大業物』」



 人の背の三倍はあるグラセドラゴンを、たった一本の刀剣で受け止めた。

 メリディスは長い刀身で胴体を止め、目が首を捉える。

 肩を刀身に寄せ、空いている左肘を首に打ちつけた。

 衝撃は頭を浮かせ、遮るものがない胴体を横一文字に斬り飛ばす。

 宝の番人をしているだけあって、皮膚の硬さは伊達じゃない。

 少し後退させただけで、致命傷に至るようなダメージは与えられなかった。



 今のうちに浮遊魔石まで走り込み、鉱脈を背にして見守ることにした。

 『ものまね』で、最強クラスの人物になって瞬殺する考えもあったが、やりすぎて出口を塞いでしまうかもしれない。

 おまけに、浮遊魔石が粉々になれば愚か者である。

 アルティアの提案通り、宝に指一本触れさせない守護者を務めよう。

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