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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
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167 夢を飛ばせ!―2

「ペンティス! これでいいのか?」

「よし、ばっちりハマってる! これで部品も交換し終えた。さっそく、飛ばすか!」



 着水の影響で破損した部分を修理や交換で補い、操縦席に溜まっていた水も抜いた。

 すっかり外は真っ暗闇で、民家の明かりが煌々と灯っている。

 二人の心を一つにして、ようやく探索用戦闘機ことトラオムフリューゲルを完成させた。

 ペンティスの指示に従って、部品をはめ込んだり、調整したり。

 『千里眼』で覗くエルドラは、感嘆の息を呑んでいた。

 本来、こういった作業はドワーフが得意とするものである。

 それにこの船体は、明らかにドワーフの手で造られたものだ。

 ドワーフの誰かが、竜人のペンティスに託したのだろうか。

 彼の言う夢に関係がある気がする。



 ペンティスは、トラオムに乗り込んだ。

 俺は地上から見守ることにする。

 エンジン音の激しさだけはどうにもならないが、失敗した時の落下は『サイコキネシス』で防げる。

 操縦席に座ったペンティスが、手で合図を送る。

 そして、トラオムは駆動し始めた。



「おお! 改めて、間近で見るとけっこう迫力があるものだな」



 格納庫が軋み、揺れ始める。

 吹き荒れる風も今では慣れたものだ。

 トラオムが宙に浮きあがる。

 浮遊すると、間もなくして地面と平行するように移動する。

 そのまま格納庫から飛び出て、以前湖に落下した地点まできた。

 あとは両翼を可動させて、発進するだけだ。



「いい調子だ、いい調子……いい、調子?」



 船体の先が、ゆっくりと下を向き始めた。

 エンジン音も薄れていく。

 これは失敗だ。

 そう判断してすぐに『サイコキネシス』を発動させて、手を自分の顔に引き寄せる。

 視えない力で戦闘機全体を掴み、格納庫まで移す。

 トラオムの影が陸地に現れた時、船体の中央部分が小さく爆発した。

 『サイコキネシス』で強く掴みすぎたか。

 すぐに力を弱めたが、ポンッと爆発し、船体から煙が出ていた。

 船体の足を格納庫の床につけると、逃げるようにしてペンティスが飛び出してきた。



「ミミゴン! 火傷しちまったー! 治してくれー!」

「え、ああ。『ヒーリング』……」

「ありがとう、ミミゴン! 手下から、配下に昇格だ!」



 昇格してねぇよ、名前変わっただけで同じじゃねぇか。

 いつになったら、ペンティスの支配下から抜け出せるんだよ。

 ペンティスから話を聴くと、どうやらいきなり操縦桿から火花が出たらしい。

 そこから一転して、船体に影響が出始めた。

 悔しそうに唇を噛み締めて、嘆いている。



「くっ、このままじゃ、婆さんは浮かばれねぇ。なんでだよ……ドワーフじゃなきゃ、トラオムは完成しねぇのかよ!」

「婆さん?」



 質問をすると、胸ポケットから一枚の写真を取り出した。

 写真にはペンティスと、もう一人……ベッドに座った小人(ドワーフ)の老女がいる。

 年老いているように見えても、ペンティスのように明るく笑っていた。

 二人はカメラに向かって、ピースサインを向けている。



「隣の人は?」

「ギムレットっていう元設計士のドワーフだ。このトラオムフリューゲルを造り上げた」

「トラオムの開発者ってことか」

「三年前、この場所にトラオムが不時着陸した。中から出てきたのは、脚を骨折させたドワーフだった」







「あんたは、誰だい?」



 小屋のベッドに、ドワーフを寝かせている。

 竜人のペンティスと背を比べても、圧倒的に小さい種族だ。

 二人が並んで立っても、ペンティスの腰くらいの背丈しかない小人。

 だから手狭な小屋に、ドワーフ一人を入れたところでそれほど変わらない。

 老婦のドワーフは、水を運んできたペンティスに名前を尋ねた。



「ローセル・ペンティスだ。おまえは?」

「ギムレット、だよ。そうか、アタシはデザイア帝国の方に逃げていたのね」



 竜人を見て、納得する老婦が不思議に思えたが、ペンティスはとくに気にすることはなかった。

 彼女は水を口に含むと、窓から見える航空機を寂しそうに見つめた。



「もう、壊れたわ。これ以上、どこかには行けない」

「なあ、婆さん。あれは何なんだ?」



 純粋な質問に、ギムレットは呆然とした後、笑って答えた。



「あれね、探索用戦闘機。トラオムフリューゲルっていうの。アタシが設計したのよ」

「……すげぇ、あれが空を駆け抜けるんだろ!」

「ええ、敵地偵察に使われる戦闘機なの。最速の航空機と言っても過言ではない出来よ」



 ペンティスの心が高鳴り、ベッドに両手をついて体を前に出す。

 視線の先は、不時着陸したトラオム。

 目はキラキラと輝き、ギムレットはその輝きに惹きつけられた。

 吸い込まれるように、ペンティスを見つめる。



「あなた、あれに乗りたいの?」

「乗りたいに決まってるだろ! あれに乗って、空中幻園を探すんだ!」

「あはは、空中幻園ですって? あるわけがないわ。作り話よ、つくりばなし」

「作り話だったとしてもかまわねぇ。あるかないか、ハッキリするだけでもオレは満足だ!」



 馬鹿にするために笑ったギムレットだったが、青年の言葉に呆気をとられて口を閉じた。

 自分の愚かさに気付かされたからだ。

 しばらくして、彼女は重々しく声を出した。



「ペンティス、あなた……トラオムを修理してみる? アタシ、骨折しているみたいなの。代わりに、あなたが直してくれない? 手順は教えるわ」

「やるぜ、オレ! トラオムを直して、何としてでも飛ばさなきゃならねぇ! 婆さんもそう思うだろ!」

「……ええ、そうね」



 ペンティスの情熱に照らされて、ギムレットも幾ばくか気力が溢れた。

 まずは、格納施設の建設を始めた。

 小屋の隣に、木の板を大量に揃える。

 ペンティスが山の木を伐採して、集めてきたものだ。

 ギムレットは外に椅子を置いて、指示を叫びながら座っていた。

 どうせ、この青年は格納庫を作って満足して終わりだろう。

 いや、最後まで作る根気なんてないかもしれない。

 口だけの小僧だ。

 そう考えていたギムレットだったが、毎日作業を続けたペンティスを見て、前言を撤回した。

 当初抱いていた甘い夢は、いつしかペンティスと同じくらい燃え上がる夢になっていた。



「できたぜ! 格納庫だ! どうだ、婆さん! 立派なもんだろ!」

「あなたのこと、見くびっていたわ。上出来よ」

「よっしゃ!」



 ガッツポーズを決めて、ペンティスは舞い上がった。

 木板を何枚も組み合わせた格納施設は、トラオムフリューゲルを入れても余裕がある大きさだ。

 ここまで、たったの二か月。

 風に吹かれようが、雪が積もろうが壊れない頑丈さを誇る。



「ペンティス、当然こんなところで満足してないわよね」

「あったりまえだろ! ここからが本番だ!」



 ギムレットは、カラカラと笑った。

 ペンティスも同じように、大きく笑う。

 嫌な気持ちをすべて吹っ飛ばすかのように、派手に笑い続けた。







 格納庫完成から一か月。

 ギムレットはすっかり村に馴染んだが、ペンティスは逆に馬鹿にされていた。

 大人は、よく言う。

 ドワーフじゃないのに、航空機なんか飛ばせない。

 竜人が修理なんてできるはずがない。

 お前はドワーフと違って、手先は不器用だしゴツイ。

 言われ始めたときは、さすがのペンティスもしょぼくれた。

 それでも、トラオムを修理し続けた。

 確かに、手が大きいから部品交換に手間取ることはある。

 だが、力で強引に解決した。



「あなた、部品は入れたけど、周りがひん曲がってるじゃない」

「まずは飛ばすのが先だ。後で直す!」

「だけど、それが飛ばない原因になるかもしれないのよ。トラオムは繊細な子なの。……やっぱり、ドワーフにしか修理できないのかしら」



 何気なく呟いた最後の一言が、ペンティスの手を止める。

 外側の電気機器を直していたペンティスは振り返って、船に乗るための階段に座っていたギムレットに声を投げた。



「そんなことない! ドワーフの手と比べて、ちょっと大きいだけだ。ちょっと不器用なだけで、できないわけじゃない! 俺が証明してやる」



 目を鋭くさせて、ギムレットに強く訴えた。

 ドワーフじゃなくても、竜人はできると。

 無茶苦茶な言葉だが、ギムレットには深く響き、黙りこくってしまった。

 手は一回りも二回りも大きいが、ペンティスは部品を摘まむ。

 その手を慎重に、狭い空間へと突っ込んでいった。

 配線や電気機器が邪魔をしても、集中して奥へと目指す。



「種族は違っても、同じ夢を見ることができる。俺も、婆さんも、トラオムを飛ばしたいって夢がある。なら、迷ってないで突き進むだけだ」



 上手く部品がはまらず、手間取っていた。

 頬を伝って、汗が流れていく。

 ギムレットは階段を下りて、杖を突きながら小屋へと足を動かした。



「それが終わったら、今日は終わりだよ」

「え、なんでだよ。まだ、日は沈んでないぜ」

「いや、沈むさ」







 ギムレットの言葉通り、ペンティスが小屋に帰れたのは夜になった頃だった。

 部品を奥に入れるだけで、数十分も経過した。

 老婦は背中を向けて、テーブルで何やら手作業をしている。



「婆さん、それは?」

「工作の道具だよ。あんたでも使えるように改造していたのさ。ほれ」



 部品交換に便利な工具が、ペンティスに投げられる。

 慌てて、手を伸ばして工具を掴んだ。

 手にした工具を眺めて、ギムレットに感謝した。



「ありがとう、婆さん!」

「明日、使い方を教えてやろう。使いこなせば、きっと……証明できるはずさ」

「ばあさん……」



 ドワーフにしか修理できない、という言葉を使ってしまった彼女は後悔していた。

 穏やかな表情で、ギムレットは工具箱を差し出す。

 ペンティスは工具箱を受け取ると、口角を上げて頷いた。

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