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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
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166 夢を飛ばせ!―1

 『ものまね』で竜人に化けてから、村に進入する。

 村に入ると、誰かがこちらに気付いた。



「あら、アルティア様?」

「お久しぶりです、村長さん」



 ヒンメル村の村長というおばあさんに、アルティアが挨拶している。

 面識があるみたいで、他の村民も徐々に集まり始めた。

 村民の反応を見るに、アルティアはかなり好かれているようだ。

 農作業をしていた若者の竜人も、一堂に会していた。



「アルティア様、こんな辺鄙(へんぴ)の村にいったいどのような用で?」

「私たちは、エーレグランツに行きたいんです。ですが……」



 視線を、行き先の山に向ける。

 天候はかなり荒れているみたいで、銀世界を映し出していた。

 村長は唸るように声を発する。



「易者の占いによれば、ここ三日は暴風雪が続くだろうと」



 天気予報は占い師の仕事か。

 悩んでいたアルティアだったが、村長にお願いをした。



「三日間で構いません。私たちを、この村に泊めてはもらえませんか」

「もちろん、構いませんよ。アルティア様には、お世話になっております。ワタクシも、そう提案しようと考えていたところです」



 村長は手を叩いて、宿屋の村民を呼んでいる。

 呼ばれた村民が前に出て、俺たちを宿屋まで案内してくれた。

 旅の疲れは癒せそうで安心した。

 案内された宿屋はシンプルながらも、薪を燃やした暖炉が設置されており、アルティアは顔を綻ばせた。

 炉内の火に体を寄せているアルティアに、俺は自由行動をしてもいいか尋ねる。

 「もちろん」と快く承諾してくれた。







 村と隣接するように、広い湖がある。

 神秘的な蒼さで、見る者を圧倒させる湖水だ。

 村民に挨拶をしながら、村中を散歩していると、先ほどから視界に映る格納庫が気になってきた。

 誰もあそこに近づこうとする者はおらず、放置された施設だろうかと思ってしまう。

 だが、人の話を聴く限り、格納庫に住人はいるようだ。

 ただ、そこの住人は一風変わっているらしい。

 村民に迷惑をかけているわけではないが、心配をかけさせるような奴らしい。

 うーん、気にかかるな。

 ということで、小高い土地の上に建てられた木製の格納施設に向かう。



「おーい、だれかいるの」



 大きく開いた格納庫に声を飛ばした途端、中から風が吹きすさび、手で頭を守る。

 しっかりと地面に立っていなければ、簡単に飛ばされるだろう。

 体勢を丸めて、中を覗き見た。



「な、なんだ!? あれって……航空機か!?」



 RPGでよくあるあちこちを飛び回れる船らしきものが宙に浮いていた。

 宙に浮いた航空機が、強風をばら撒いていた。

 格納庫全体もガタガタと音を立てて、振動している。

 船体は赤と黒の二色が塗られ、先端に細長い円筒が二門付いていた。

 筒は大砲だろうか。

 全体を通して見ると、どことなく翅を閉じたクワガタムシに似ている。

 前の操縦席に目をやると、誰かが乗っていた。

 ガラス越しだが、人影が確かにある。



 格納庫みたいだと思っていたら、本当に格納庫だった。

 少し、その場を離れて様子を観察する。

 クワガタムシのような船体が高さを保ったまま、ついに格納庫をゆっくりと飛び出した。

 そのまま、どこかへ一気に飛び立つ様子はない。

 慎重さを感じる遅さで、船体の影が湖に差し掛かった。

 航空機から吹き下ろされる風が、水面を激しく揺らす。

 そして、船体後方の翅が開かれ、エンジン音がより強く鳴り始めた。

 いよいよ、飛び上がるのか!



 期待に胸躍らせ、若返った童心に火が灯り始めた瞬間、船体が不安定に傾いた。

 エンジン音も気付いた時には消えていた。

 嫌な予感が的中する。

 航空機はひっくり返るように落下し、湖水が爆発するように膨れ上がった。

 人が海に飛び込む比ではない。

 静かだった波が、嵐でもきたかのように騒いでいる。



「お、おいおい!? やべぇだろ!」



 『自由飛行』を唱え、落下地点まで浮遊する。

 深い水底に沈んでいくパイロットと、航空機を『サイコキネシス』で引き上げる。

 両手の先で掴むイメージを意識した。

 パイロットは脱出していたみたいで、意識もある。

 ジタバタともがくパイロットと航空機を、上空に引き抜き上げた。

 パイロットは陸地まで放り投げ、航空機は格納庫まで運ぶ。

 元の位置まで航空機を戻したところで、背後からパイロットの声をぶつけられた。



「す、すげぇなぁ、おまえ! 引き上げ作業に一日はかかるってのに、すぐ終わっちまったぜ」



 振り返ると、全身を濡らした竜人がいた。

 二つの角が側頭部を覆うようにある。

 肩にかかる金髪を振って、水気を飛ばしている。

 見るからに活発そうな顔で、歯を見せて笑っていた。

 格納庫内の壁際に、作業台がいくつも並べられており、彼はその内の一つに寄っていって、タオルを掴んだ。

 一通り拭き終わった後、首にかけて、作業着のポケットに手を突っ込む。



「助けてくれてありがとうな! 俺は、ローセル・ペンティス! ペンティスって呼んでくれ」

「ペンティスか、わかった。ミミゴンだ、よろしく」



 握手を求めると、強く握り返された。

 湖に落ちたというのに、嬉しそうな顔だ。

 ペンティスは水がしたたる航空機を見上げて、船体に片手で触れる。



「こいつの名前は、トラオム・フリューゲル。探索用戦闘機として活躍するんだ」

「はぁ」

「なあ、ミミゴン……夢ってあるだろ」



 勇ましい顔を向けて、そう問いかけてきた。

 夢はある、と首を縦に振る。

 ペンティスは目をキラキラと輝かせて、再び船体を見つめた。



「俺の夢はな、トラオムを完成させて、空中幻園に行くことだ!」

「空中、げんえん……?」

「知らないなら、懇切丁寧に教えてやるぜ。大昔、伝説の怪盗が大秘宝を隠したとされる場所だ。そいつは天空を漂っているらしいんだが、滅多に見つけられないらしい」

「トラオムフリューゲルで空を飛びまわって、空中幻園とやらを探してやろう、ってことだな」

「おお、理解してくれるのか! 今から、このペンティスの子分だ!」



 あ、なんか子分になった。

 だいたい、伝説なんだろ。

 こういう言い伝えって、なんか胡散臭いんだよな。



〈空中幻園は実在しますよー〉



 助手のけろっとした声が、脳内に響く。

 まるで、存在するのが当たり前かのような言い草だ。

 助手が言い切るってことは本当にあるのか。



〈各地の伝承に、空中幻園の存在をほのめかす内容が見当たりますー。空中幻園という名ですが、昔は一つの島としてあったようですねー〉



 今はその名の通り、空中にあるってことか。

 ペンティスは拳を握り締め、決意を声に出した。



「今度こそ、トラオムを完成させてやるぜぇ!」

「熱い声、出すじゃねぇか。その想いがあれば、完成するだろうな」



 ペンティスは元気よく、親指を立てた。

 そういえば、村人の話を思い出すと何回も湖に落ちているらしいとは聞いた。

 戦闘機とは思わなかったが。

 子どもたちも最初は楽しそうにはしゃいでいたようだが、今は慣れてしまって興味を持っていないらしい。



「ところで、ペンティス。今まで、どのくらい挑戦してきたんだ」

「百回以上はやってるぜ。飛べた試しは一度もないけどな」

「百回以上!?」



 称えてくれと言わんばかりに、誇らしげに胸を反っていた。

 失敗は成功のもと、七転び八起きなんて言葉があるが、さすがに百回も湖に落ちたら、心は折れるはずだ。

 なのに、こいつは失敗を数えることを諦め、完成を目指した。

 無自覚にも、拍手して称えてしまった。



「よく挫けないな」

「完成させることは夢っていうより、託された使命みたいなもんだからな。やりきるまで、俺は死ねないんだ」



 情熱の擬人化ともいうべき竜人だと思っていたが、夢を叶えるための必死さを感じる。

 感情を高めているのではなく、叶わなかったら死ぬという覚悟だ。

 使命と言っていたように、軽々しい夢とは本質が異なるように思う。

 死に物狂いのペンティスに、俺は手を貸してやりたくなった。

 どうせ、ここ三日間は村から身動きできないんだ。



「なあ、ペンティス。俺にも手伝わせてくれないか」

「ミミゴン、手伝ってくれるのか!? おまえ、本当にいいやつだな! 子分から手下に昇格だ!」



 あ、なんか昇格した。

 字面的には、マイナスのように感じるが。

 ペンティスは喜びを隠しきれず、俺の手を引っ張って、格納庫内を走り回った。

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