表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
191/256

165 雪山の道中

 細かい雪の道は踏むとキシキシと鳴って、足跡が掘られる。

 灰のような粉雪が、曇り空から降ってきていた。

 目の前を歩くアルティアが、白い息を吐きながら声を出した。



「しばらく、天気は安定しているようです。ここから半日かけて、ヒンメル村を目指します」



 頷いて、理解したことを伝える。

 早朝、神都ユニヴェルスを出発し、今はルシフェルゼ山を進んでいる。

 雪道の両側は、高い崖がそそり立っていた。

 これを乗り越えていこうなんて考えられない。

 しばらく歩いていると、今度は古びた石橋が迫ってきた。

 山と山の間が窪んだ大きな谷だ。

 下からは、激しい水の流れが聞こえてくる。

 橋を渡っている最中、見下ろしてみた。

 ああ、これは落ちたら助からないな。

 柵がない石橋でやってはいけないのは、気になって下を見ることだ。

 怖さで足取りがフラフラとなる。

 一歩一歩足を下ろすたびに、ぽろぽろと小石が削れていった。

 その音が、やたらと恐怖心を煽る。



「アルティア様、シルフアンズーが現れました!」



 メリディスが叫び、アルティアは走って橋を渡り終えた。

 濁流の音に紛れ、カラスのような甲高い鳴き声が頭上から響き渡ってくる。

 俺と重なるように一瞬、影が通っていった。

 その影は大きく、通り過ぎた後の風も凄まじい。

 近くを電車が走った時に巻き起こる風だ。

 空を見上げると、シルフアンズーと呼ばれる魔物が羽ばたいていた。

 翼は黒く、頭から尻尾にかけての白い線が目立つ。

 メリディスも渡り終え、残りは俺だけだ。



「ミミゴン様、早く! こちらへ!」



 アルティアが手で招いている。

 メリディスは太刀を抜いて、臨戦態勢がとられていた。

 俺も走って、細長い橋を駆け抜ける。

 竜人だから、人間よりもスピードは速かった。

 シルフアンズーの咆哮が聞こえ、同時に風エネルギーを込めた塊を飛ばしてきた。

 狙いは、俺だ。



 飛び込むようにして、橋からアルティアのいる平地へと身を投げていた。

 これで、間に合ったはず。

 アルティアたちを眼前にした瞬間、いつの間にか空中に放り投げられていた。

 って、あれ!?

 激しい風の爆発を受け、思いっきり吹き飛ばされているようだ。



「ミミゴン様ー!」

〈なに、まともに食らってるんですかー〉



 呆れた助手の声を聞きながら、落下していく。

 山の上のアルティアも衝撃波で吹き飛ばされ、視界から消えた。

 強風が暴れ狂い、大量の雪が舞い上がっている。

 不格好に、落ちているのは見苦しい。

 胸の前に握り拳を構えて、後ろに広げた。



「『ものまね』!」



 そう叫ぶと、頭の中で思い描いたアイツの姿に変化していく。

 エンタープライズの精鋭の中でも比較的、『ものまね』による魔力消費量が少ないトウハに化ける。

 崖に片手と片足をかけ、体勢を整える。

 足裏に力を込めて、一気に蹴り放ち、空を飛ぶ。

 橋の中央で旋回していた巨大鳥の魔物を、アルティアのいる山の断崖に殴り飛ばす。

 崖に積もっていた雪と共に、巨体が崩れ落ちていった。

 橋に着地して、アルティアのもとに駆け付ける。



「大丈夫か、アルティア様」

「よく帰ってこれましたね、あそこから」



 唖然としていたアルティアだったが、地が揺れたことで真剣な表情に切り替えた。

 メリディスは背中の太刀を抜き放ち、切先を崖に向ける。

 崖の辺りでは暴風が吹き荒れ、降り積もった雪が空目掛けて渦巻いていた。

 雪の渦巻きに、巨大な鳥型の影が見える。

 次の瞬間、シルフアンズーは翼を一斉に広げた。

 舞い上がる雪のつぶてが、体全体に攻撃してくる。

 顔を腕で覆ってやり過ごすと、シルフアンズーはメリディスに狙いを定めて、強烈な風を固めた球体を飛ばす。

 幸い、ここの平地は広く、避け回るのに最適だ。

 メリディスは素早い移動で塊の風を避け、シルフアンズーへ駆け出した。

 敵は羽ばたき、風の刃を生み出して、メリディスを襲う。

 刃は見えず、速い。

 だが、メリディスは見切っているようで、上体を傾けて躱していた。

 そして、太刀の切先を後方にして構えた。



「『貫通断裂』」



 唱えたスキルによって、武器は光り、硬い部位に当たっても構わず断ち切れるようになった。

 しかし、あの距離からでは刃が届くわけが。

 そう思った直後、太刀の刀身が異様に長くなり、とてつもない長さの刀となった。

 なんだ、あの太刀!?

 メリディスはホームランを打つバッターのように、極めて長い太刀を横に振るった。

 シルフアンズーの動きは止まり、やがて風に吹かれて、頭が落ちた。

 断頭された体は横に倒れ、雪の埃が舞う。

 太刀は元の長さに戻っていき、メリディスの背中に収められた。

 助手、あれは。



〈あの太刀は、転生者の刀匠によって鍛えられた妖刀ー……『エッジワース・カイパーベルト』ですー。刀身の長さを自由自在に変化させられるのですー。転生者スキルのお試しで製作されたオモチャ刀が、こんなところにあったとはー〉



 転生者が初めてスキルを試した時に、出来上がった刀ってことか。

 最強クラスの転生者だったんだろ。

 そりゃ、強いに決まっている。

 持ち主のメリディスは、アルティアに駆け寄って無事を確かめていた。

 アルティアが笑いながら接しているのを見るに、妖刀だと知っている。

 メリディスを褒めて、会話をしようと試みる。



「すごいな、その太刀」

「あげませんよ、これは」

「欲しいわけじゃねぇよ。どこで手に入れたんだ、それ」



 太刀を取り出し、彼女は想いを馳せるように見つめる。



「師匠がくれた刀だ。自分に、勇気を与えてくれる。これで未来を切り開け。この言葉と共に、師匠は去っていった」

「師匠?」

「育ての親でもあり、剣の師匠だ。これ以上、自分に関わるな」



 俺を射止める鋭い眼光は、ただ人を遠ざけるためだけではない。

 思い出したくない記憶を遠ざけるためでもあるように思えた。

 目は口ほどに物を言う。

 その言葉通り、形容しがたい彼女の複雑な気持ちを感じてしまった。



「メリディス……」



 アルティアは呟き、メリディスの肩にそっと手をのせた。







「前方に、魔物! ミミゴン様、ここは私とメリディスに任せてくれますか!」

「ああ、わかった」



 シルフアンズーとの戦闘があった場所から、数分後。

 アルティアとメリディスは武器を構えて、魔物に立ち向かった。

 ジャックフロストという熊のような魔物が相手だ。

 白銀の剣を握るアルティアは炎魔法『フレイム』で牽制し、メリディスが剣を振るう。

 二人の連携は計算しつくされたように華麗で、魔物はあっけなく倒された。

 一応、魔物側をフォローするとすれば、ジャックフロストはまあまあな強さを誇る。

 解決屋のAランクハンターで仕留められるぐらいだ。

 要するに、彼女たちはAランクハンターに匹敵すると言える。

 メリディスはともかく、数々の魔法スキルを操れるアルティアの実力に驚かされた。



 そうこうしているうちに、ヒンメル村が見える丘に辿り着いた。

 山を登ってから下って、ここに来た。

 遠方も山で囲まれており、しかも天候が荒れているようにも見える。

 不安そうに、アルティアが口を開いた。



「猛吹雪でしょうか」

「進むのは危険だな。そこの村で、天候が回復するまで泊めてもらおう」



 アルティアとメリディスの二人は納得し、坂を下っていった。

 村は木でできた家がそれなりに建てられており、活気ある人の声も聞こえてくる。

 村のすぐそばは、大きな湖が広がっている。

 遠くには、巨大だが粗末な建物が見えた。

 それは、航空機を待機させる格納庫を思わせる施設だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ