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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
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162 アヴィリオス教皇

 顔に白い布をかけた教皇に紹介され、前に出る。

 傍らには、竜人の女性が二人。

 背の高い美人が、行く手を阻むように立ちはだかった。



「解放の国、エンタープライズ? 聞いたことがない」

「ちょっと、メリディス」



 メリディスと呼ばれた女性は、背中の太刀に触れている。

 いつでも引き抜ける状態だ。

 人間が、そこの皇帝陛下の娘に会いに来るなんて怪しすぎる。

 ましてや、耳にしたことがない国で王様。

 信頼できる教皇にそう言われても、なかなか信じるのは難しい話だ。



「聞いたことがないのは、当然だ。最近、できたばかりだからだ」

「…………」



 鋭い眼差しが緩むことはない。



「俺はミミゴン。アルティア様のお父様、アルファルド皇帝に頼まれて、ここに来たんだ。信じてくれよ」



 依然、睨みっこの状態が続く。

 剣の柄を握る手が強くなる。

 教皇に助けを求める視線を向けたが、ニヤニヤと楽しんでいた。

 このまま時が過ぎていくのかと思っていたが、アルティアが間に割り込み、メリディスの手を握った。



「アルティア様? この人を信じるというのですか」



 驚いたメリディスに頷いて、俺を眺めた。

 竜人の中では比較的、背が低いアルティアだったが、その面構えは立派なものだった。

 凛々しい顔立ちで、その瞳は誰よりも力強く輝いていた。

 俺も負けを認めるしかないほど、王に相応しい目だ。



「嘘を吐いているようには思えません。それに、あなたはただの人間ではないのでしょう」

「ああ、宝箱の機械だ」



 『ものまね』を解除して、ドローンの姿に戻る。

 宝箱に擬態したドローンだ。

 この中でただ一人、メリディスだけが動揺している。

 アルティアと教皇は狼狽えることなく、じっと見据えていた。



「『ものまね』!」



 今度は、竜人の兵士に化ける。

 竜人といえば、頭部に生えた二本の角。

 頭に巻きつくような小さな角が特徴的だ。

 あとは、人間の二倍の寿命を持っているのが特徴だ。



「アルティア、メリディス。話を続けましょうか」



 教皇が横に立って、俺に手を広げる。



「ミミゴンは一国の王様だが途轍もなく強い。さっきの『ものまね』というスキルがあれば、あの魔女も打倒せる」

「魔女も打倒せるって」



 メリディスは真剣な表情で、こちらを睨んだ。

 驚愕というよりも、希望を求める表情だ。



「戦争を終わらせるには、魔女を倒すしかない。アルフェッカが戦争を仕掛けられるのも、側に魔女がいるからだ。あの魔女には誰にも勝てない。そういう認識を、ミミゴンが打ち壊す。だから、アルティアには彼の案内役となってほしい。そして、ミミゴン。アルティアを守りつつ、魔女ミリミリ・メートルを倒すのだ」

「アヴィリオス教皇、私やります!」

「アルティア様がそう言うなら、私は従うだけだ」



 教皇は同意を求めるように、視線を送ってきた。

 とりあえず、縦に首を振っておいた。

 それを見て、教皇は満足する。



「時間がない。早速だが、明日に出発してもらう。情報によると、オルガネラ平原の都市エーレグランツで、アルフェッカが目撃されている」

「ルシフェルゼ山を越えて、ヒンメル村を通って、エーレグランツですね」



 アルティアの提案に、教皇はその通りだと頷く。

 横目で、メリディスを見たが納得している雰囲気だった。

 俺は、ちょっと置いていかれている気分だ。



〈アルティアの経路に、問題はありませんよー。ここから、北の方角に真っ直ぐですー〉



 相棒の助手が言うんだから、大丈夫だろう。

 えっへん、と褒められて喜んでいる声が脳内に響いた。

 案内人の役割を担っているアルティアに任せることができそうだ。



「君たちがエーレグランツに到着したら、アルフェッカを探す。そうすれば、彼女の側に魔女がいるはずだ。ミミゴン、何としてでも魔女を押さえるんだ。最悪、街を吹き飛ばしても構わない」

「吹き飛ばしても構わないって」

「アレクサンド都市長には、既に話を通してある。人的被害は最小限に抑えられるよう、準備はしてくれている。思う存分、暴れてくれて構わないさ」

「ほんとかよ」



 俺が暴れたら、何もかもが吹き飛ぶというのに簡単に許可された。

 さすがに街を破壊するのは忍びない。

 かといって、魔女……ミリミリは容赦せず襲ってくるだろう。

 あのエルドラの側に仕えた『七生報国』の一人。

 転生者をも上回る実力の持ち主だ。

 ここは、教皇の言葉に甘えるとしようか。

 教皇は側近の教徒に耳打ちして、この場を去っていった。



「アルティア、メリディスは旅の準備だ。さほど距離はないものの、装備は整えてくれ。ヒンメル村を抜けた後、リボゾーム山に突っ込むことになるわけだが、吹雪に見舞われる確率が高い。ノードリヒト教長老が、アイテムや道具を用意してくれているはずだ。宿も手配させてある。まずは、彼に会ってくれ」

「分かりました、教皇。行きましょう、メリディス」

「はい」



 やる気に満ちた二人は、あっという間に神殿から出ていった。

 ずっとこの日を待ち望んでいたみたいだ。

 アルティアは戦争を止めたがっている、とアルファルド皇帝から聞いていた。

 姉のアルフェッカを尊敬してはいるものの、平和を望んでいる。



「ミミゴン、二人でお話ししたいことがあります」

「俺もだ。俺を、魔女にぶつけるって戦略……教皇様がお考えになったって聞かされた。よくもまあ、見ず知らずの国王に頼ろうとしたものだ」

「見ず知らずではないですよ。ボクはね、あなたに会うため、ずぅっと待ち続けたんですよ。千年もの時をね」



 布で顔を覆っているため、表情は窺えない。

 だが、笑っていることだけは想像できる。

 その笑いは冗談によるものではなく、真剣な自虐ネタで笑っている。

 つまり、アヴィリオス教皇というのは、そこらの人ではないということだ。



「本気で言っているんだよな」

「エルダードラゴンに名付けられた記憶のない転生者……それが、ミミゴン」

「なっ!?」



 後ろにいたはずの教徒は、いつの間にか消えていた。

 既に、二人っきりの空間へと変わっている。

 教皇の雰囲気に飲みこまれ、思わずたじろいでしまった。



「さあ、こちらへ」



 踵を返して、神殿の奥へと歩いていく。

 ここまでされたら、従うしかないだろう。

 俺がデザイアリング戦争に巻き込まれたきっかけは、エンタープライズにやってきた竜人から始まる。

 『テレポート』が使える竜人は、俺との面会を望んだ。

 会って、すぐにこう言われた。

 アルファルド皇帝が、ミミゴンを連れてきてほしいと。

 傭兵派遣会社との決戦が終わって、デザイア帝国は終戦に向けて動き始めた。

 部下には一言伝えて、『テレポート』でデザイア帝国に飛ばされる。

 到着した瞬間、目の前の元老院議事堂が大爆発ときた。



「元老院を壊すことで、彼女は臨時執権官の地位を得たのです。そうすれば、六星騎士長をも自由に操る権利を有する。要するに、アルフェッカは戦争を推し進める権力を得たということですよ」



 アヴィリオス教皇は、こちらの話に説明を加えた。

 俺は愚痴のつもりで呟いていたつもりだったが、教皇は真剣な会話だと捉えているみたいだ。

 神殿の中は高貴な雰囲気で満たされ、無理矢理に姿勢を正される。

 通路は青い絨毯が敷かれ、白い壁が延々と続いていた。



「皇帝の命令も意味がないってわけだな。結局、力で強引に止めさせるしかないわけだ」

「そう、力です。魔女ミリミリを止められる人物は、君以外にいない」

「こっちは傭兵派遣会社との一件が落着して、ようやく休めると思っていたんだぞ。国は疲弊しまくって、部下はくたくただ。確かに、俺はそれほど疲れてはいないし、まだまだ戦える状態だ。だが、やる気はない! 今度は魔女を止めて、戦争を終わらせてくれだと? さすがに、俺一人で無理だろ」

「だから、アルティアを君に預ける。アルファルドから聞いたはずです。アルティアは、姉アルフェッカを変えられる存在。ミミゴンは魔女に集中し、アルティアはアルフェッカに集中」

「なんか、上手く話が飲み込めないんだが」



 歩いていた教皇が突然、足を止めて振り返った。



「君のやる気を満たすことができれば、ボクの説明も真剣に受け止められますよね」



 優しい声色ながらも、厳しい言葉だった。

 先生に怒られる生徒の気分だ。

 反論できないのが悔しい。

 せめてもの仕返しに、挑発的な態度をとった。



「やる気を引き出すってのは難しいものだぞ」

「そうですね。ただ、ボクはやる気を引き出す天才です」

「へぇー、やってみろ」



 俺は、布越しの目に睨みつけた。

 真っ白いカーテンで顔を隠していても、本気は伝わるものだ。

 相手は退くことなく、挑戦を受けて立った。

 少し間が空いて、教皇は口を開いた。



「成功すれば、異世界から脱出する方法をお教えします」

「……は?」



 今の俺は、とんでもない間抜け面になっていることだろう。

 教皇は口角を歪ませて、扉を押し開けた。

 両開きになったところで、中に入るよう手で促す。



「どうです、やる気……出たでしょう」



 くっ、ムカつくやつだ。

 はっきりと、奴は笑っている。

 負けを認めるしかないな。

 エルドラも驚いて、噂話をするように『念話』を繋げた。



(アヴィリオスとかいう教皇、我についても知っておった。千年も生きているというのは嘘じゃないだろう。どうする、ミミゴン)

「決まってるだろ。引き受けるしかない。本当に何者なんだよ、こいつは」

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