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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
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161 神の都ユニヴェルス

 雪が積もったなだらかな坂に、いくつもの足跡ができあがっていく。

 ルシフェルゼ山は、常に雪が辺り一面を覆いつくす不毛の地。

 空も白く濁った色をしている。



「神都ユニヴェルスまでは、あとどのぐらいかな?」



 背中に大きな袋を背負ったドワーフが、はっと目を引く少女に問いかける。

 少女と言っても、竜人なのでドワーフよりも背は大きい。

 前を歩く少女が、振り向いて笑顔で答えた。



「あと、十分くらいですよ。最後まで、気を引き締めましょう!」

「ふふ、そうじゃな。わしらも竜人さんに負けない気力を見せつけてやるのじゃ!」

「「「おおー!」」」



 ドワーフ達が声を張り上げる。

 それを見た少女は、呼吸を整えて周りに気を配った。

 少女の隣には、ドワーフ達に目もくれない妖艶な美人が黙々と歩いていた。

 ドワーフも、彼女には話しかけようとはしなかった。

 しかし、少女は違った。



「ねぇ、メリディス。ちょっとくらい、笑ってもいいんじゃないでしょうか」

「アルティア様、気を引き締めましょうと発言した。気を引き締めているだけです」

「時と場合によるものですよ。もう、無愛想だなぁ」



 二人の女性に共通しているのは、頭部に生えている二本の角だ。

 形は小さく、頭に巻きつくようになっている。

 竜人が持つ特徴の一つだ。

 今、二人は商人のドワーフ達を目的地まで護衛しているのだ。

 アルティアは白い特別な軍服を着用し、肌の露出は一切ない。

 メリディスもまた、紫を中心とした色の軍服を身につけているが、少し肌が露出している。



 あとは長い一本道を進めば、目的地というところで魔物が現れる。

 左右の崖から、白色の狼が飛び降りてきたのだ。

 ホワイトウルフと呼ばれ、人の集団を群れで襲う魔物だ。

 十体ほどの群れが道を塞ぐ。

 アルティアは後ろに顔を向けて魔物がいないことを認識すると、ドワーフ達に指示を飛ばした。



「皆さん、下がってください!」

「わ、わかった。頼むよ」

「任せてください! さ、はやく!」

「アルティア様!」



 アルティアに噛みつこうと、一体の狼が口を開けて突っ込んできた。

 背中に背負った太刀を引き抜くと、メリディスは素早い身のこなしで、狼を真っ二つにする。

 間髪いれず、別の狼がメリディスを襲った。

 アルティアは白銀の剣を空中に出現させ、右手でしっかりと握る。

 そして、思いっきり足を踏み込んで、刃を振るった。

 ものの見事に、胴体へ当たると崖に吹っ飛ばした。

 二人は背中を合わせて、残りの狼に剣先を向ける。



「いきましょう、メリディス」

「はい、アルティア様」



 メリディスが太刀を一閃させ正面の狼を倒すと、前方から二体の狼が襲う。

 すると、メリディスは太刀を左腰に引き寄せ、体を低くした。

 居合の構えである。

 狼は迷わず、メリディスに飛びかかる。

 同時に『サンダーボルト』がメリディスの上を通って、空中の狼二体に飛来した。

 アルティアの雷魔法は、魔物を丸焦げに仕上げた。

 残った狼は怖気づいたのか、足をじりじりと引き始める。

 鋭い眼光で、魔物を射抜いたメリディスが呟く。



「逃がしはしない」



 そこからは、あっという間だった。

 文字通り、瞬殺である。

 メリディスは走り出すと、一瞬で魔物を追い越した。

 その通り過ぎた一瞬で太刀を抜き放ち、魔物の群れを討ったのだった。

 低くしていた姿勢を戻すメリディスの後ろで、一体の狼が瀕死ながらも立ち上がろうとしている。

 最後の悪あがき。

 前足を縦にしたところで、白銀の剣で突き刺されたのだった。



「終わったよ、商人さん!」

「いやぁ、見事な連携攻撃でしたな。ホワイトウルフをほんの数分で倒すとは。さすがは神都の用心棒さんだ」



 狼の死骸に、天から降る雪が積もっていく。

 メリディスは背中に剣を納めると、白い息を吐き出した。

 アルティアも『異次元収納』で武器を消すと、ドワーフ達の無事を確認する。



「皆さん、怪我はありませんか」

「ええ、あなた方のおかげです」

「よかった。それじゃあ、行きましょう! あとは、この坂を上るだけです」







 帝都デザイアの南東に位置するマーテラル教の総本山。

 神都ユニヴェルス。

 守護神マーテラルは、この世界を創造したとされている。

 マーテラルはこの地を離れる際、ある人物に願いを託した。

 その人物は、ここの教皇を務めている。



 二人は、ドワーフ達を無事ユニヴェルスまで護衛することができた。

 ドワーフは何度も礼を述べる。



「ありがとうございます」

「いえいえ。では、私達はこれで」



 手を振って、ドワーフ達から離れる。

 ユニヴェルスにも少し雪が降っているが、道中と比べてかなり気温が高い。

 髪をかき上げ、頭を振った。

 アルティアの黒い髪に付いた雪を振り落とす。

 メリディスも髪を軽くはたいて雪を落としていた。



「アルティア様! お帰りになられていましたか」

「ノードリヒト教長老!」



 神殿へ続く道で、奥からたっぷりと髭を貯えた老人が走ってきた。

 立派なローブに包まれた老人は、二人を一瞥すると安心した様子で用件を伝える。



「教皇様が、アルティア様をお呼びです」

「分かりました。すぐに向かいます」



 アルティアが歩き出すと、メリディスは後ろを付いていく。

 神殿は更に高地で、ひときわ高く直立している。

 ユニヴェルスは、マーテラル教の総本山として有名だが、もう一つ有名な理由がある。

 それは戦火で祖国を失った者達が、救いを求めて避難してくることだ。

 神の都は各国と独立を保障する協定を結んでいるため、他国が手を出してくることはない。

 マーテラル教徒は、神の加護を求めて来た避難民に温かい食事を用意している。

 アルティアやメリディスは周辺地域から食材を集めたり、難民を誘導したりと日々大忙しである。

 だから難民は皆、感謝していた。

 難民とすれ違うたびに、アルティアは感謝の言葉を受け取っている。



「アルティア様、食材の調達ありがとうございます。お陰様で、充実した日々を送れています」

「アルティア様! この前、魔物に襲われているところを助けてくれてありがとう! いつか、お礼させてくれ!」

「アルティア様、うちの子の面倒を見てくださり、ありがとうございます。今では、アルティア様にすごく懐いていますよ」



 そんな優しい声を耳にして、アルティアはより一層、気合を入れているのだった。

 彼女は、優しい世界の実現を夢見ているのだ。

 デザイア帝国とグレアリング王国の戦争。

 その戦争を早く終わらせたい。

 いつもそう想い続け、行動している。







 教徒が白い扉を開けて、中に入るよう促す。

 アルティアとメリディスは、赤い絨毯の上を堂々と歩いていく。

 建物内はとても広く、とても静かだ。

 奥方には、巨大な石像が存在している。

 守護神マーテラルの像だ。

 その像の前に、腕を広げて佇んでいる人物がいた。

 顔を布で隠し、肌は一切晒していない。

 不気味な雰囲気を発する人物の周りには、教徒がじっと見守っている。



「アルティア、戻ったか」

「はい、アヴィリオス教皇」



 アルティアは、アヴィリオスの前に立つと一礼した。

 上げていた腕を下ろし、アヴィリオスは若々しい声を発する。



「アルティアよ。戦争を終わらせるぞ。好機が到来したのだ」

「本当ですか!」

「これから、ある人物に会ってもらう。話は、それからだ」

「ある人物ですか?」



 扉の開く音が響き渡る。

 後ろから、うるさく感じる足音でやってきたのは。



「あなたが、アヴィリオス教皇か。皇帝に言われた通り、来たぞ」

「よくぞ、来てくれた。彼こそが、戦争を終わらせるために必要な人物……」



 アルティアは振り返ると、そこには赤髪の人間が立っていた。

 メリディスは警戒して、剣の柄を握っている。

 その人物もまた、怪しげな雰囲気を発しているからだ。

 アヴィリオスは謎の男の名前を告げる。



「解放の国エンタープライズ国王……ミミゴンだ」

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