表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
186/256

アルファルド皇帝

 竜人が住まうデザイア帝国の首都、帝都デザイア。

 帝都の中心には、縦に伸びた菱形の皇帝宮があり、周辺には皇帝宮より小さな建築物が並んでいる。

 元老院議事堂も、その一つ。

 赤を基調とした高層ビルが立ち並ぶ巨大都市は、まさにグレアリング王国を見下ろすかのような強大さを物語っている。

 皇帝が御座す皇帝宮の最上階は、少し空気が張り詰めていた。

 実際、扉を閉じる衛兵は汗が止まらなくなっていた。

 何が原因で、そのような体調不良を起こしたのか。

 帝位継承権第1位、デザイアリング戦争ではデザイア帝国軍最高指揮官を務める女性ドラコーニブス・アルフェッカの威圧に耐えきれなかったからだ。

 衛兵は扉を閉じたと同時に、深く息を吸った。



「ようやく、我の手紙に呼ばれたか」

「はて? 手元には、私を招聘する一枚しか来ていませんが。これは部下の不注意ですね。以後、気を付けます陛下」



 壁は帝都を一目で見渡せるガラス窓で覆われ、外の景色を見ながら皇帝はため息をついた。

 自分の娘が、誰でも分かるような嘘を吐いたことに呆れているのだ。

 デザイア帝国第19代皇帝ドラコーニブス・アルファルド。

 彼は景色を見ているのではなく、ガラスに映った自分と側に立つ六星騎士長スイセイを見ていた。

 そして、背後に立つアルフェッカが映ったガラスにも目を向ける。

 少し派手な軍服を身にまとった彼女は口角を上げたまま、じっと下を見ていた。



「今日、呼んだ理由は知っているな」

「はい。戦争を止めるため、ですよね」

「アルフェッカよ。もう戦争は……」

「続けますよ……勝つまで。アルファルド皇帝陛下、ご心配には及びません。必ずや、グレアリング王国を手中に収めます」



 皇帝は振り返る。



「アルフェッカ……」

「陛下、まさか……ここまできて、引き分けはないですよね。圧倒的な力で、奪いつくす。それが帝国のやり方だ。そう、陛下に教わって育ったのですが」

「時代は変わったのだ。傭兵派遣会社もいない。人類で、争いあっている場合ではないのだ」

「あの時、私を鍛え上げていた皇帝陛下はどこにいったのでしょうか。今の陛下はもう……見る影もありません」



 アルフェッカは顔を上げて、悲しそうに笑う。

 アルファルド皇帝は静かに目を瞑るしかなかった。



「明日、グレアリング王国と休戦協定を結ぶ。リライズのいざこざもあり、すぐに締結への準備は整わなかったが、明日だ。アルフェッカ、お前の邪魔はさせない。お願いだ」

「……何を言い出すかと思えば」

「休戦協定を締結させ、全般的な休戦を世界に公表する。グレアリング王国との平和条約を結び、終戦後には国交の回復だ。もう戦は終わりなのだ、アルフェッカよ」

「ところで、一つ面白い提案があります」



 アルフェッカは唐突に左腕を伸ばす。

 そして、不敵な笑みを浮かべながら指を鳴らした。

 その瞬間、皇帝宮を大きく揺るがす爆発が轟いた。

 アルファルドは見開きながら、すぐに爆発音がした方向に顔を向ける。



「なんという、ことを」

「執権を握っていた元老院は不要。我々にとって、足かせにしかなりません。世界を支配する我々にとって」

「スイセイ! アルフェッカを捕えろ!」



 アルファルドは、スイセイに勢いよく指示を下した。

 水色の甲冑を纏ったスイセイは腰に差した刀の柄に手を伸ばし、一気にアルフェッカを目指して飛んだ。



「六星騎士長として、拘禁させていただく!」



 空中で右手を使って刀を引き抜き、左手は白色の槍を創り出して構えた。



「『緑生・雪月一番槍』」

「ふっ」



 鼻で笑ったアルフェッカは、おもむろに片手を飛んでくるスイセイに向けた。

 直後、金属音が室内に響き渡る。

 交差するスイセイの業物と槍を受け止めたのは、たった一本の剣だった。

 鍛え上げられた重い一撃を、華奢な片腕で止めたというのだ。



「バカな! この力は、いったい!?」

「スイセイに教わった剣捌きだが、何をそんなに驚いているのだ。それと……」



 剣に止められ、空中に浮いたスイセイに顔を近づける。



「元老院がなくなった今、私は臨時執権官となった。意味は、分かるな。私に剣を向けたその瞬間、六星騎士の掟に背いたのだ」



 アルフェッカはいともたやすく、スイセイを床に押し飛ばし、窓の方まで跳ねていった。

 厚いガラスに背中を打ち付けると、呻き声を出しながら床に落ちる。

 ガラスは今にも割れそうなほど、ヒビが入っていた。

 アルファルドは固唾を呑み、アルフェッカを睨んだ。



「アルフェッカ、その力はなんだ。どこから、その勝気が湧いてくるのだ」

「戦に勝つには、完璧な準備が必要です。帝国軍は準備が整っている、ただそれだけのことです。戦争に勝つ絶対の自信、私が私らしくいられる方法です」



 アルフェッカは抜いた剣を元の鞘に収める。



「それと……友人の紹介をお許しください。戦には欠かせない親友なのです。ミリミリ!」



 マッチで火を起こしたように、アルフェッカの背中から幼女がいきなり出現した。

 いかにも魔法使いというようなローブを身につけた少女。



「彼女の名はミリミリ・メートル。傭兵派遣会社が壊滅した現在、デザイア帝国が優位に立てているのは間違いなく彼女のおかげです。陛下の耳にも入っているはずです。ベリタス要塞を一撃で崩壊させた大魔法使い」

「アルフェッカ! 意地でも戦争を続けるつもりか! ステラは望んでいない、乱世を」

「母上は関係ないでしょう。私に跡を継がせようと、陛下は母上から私を切り離した。おかげで、こうして陛下の意志を引き継いでいる。私をこうしたのは、陛下ですよ」

「目を覚ませ、アルフェッカ!」

「話を戻しましょう。面白い提案とは、グレアリング王国最後の砦セルタス要塞に宣戦布告をすることです。そして、正面から叩き潰す。じっくり、わざと時間をかけて」



 アルフェッカは姿勢を正す一方、ミリミリはというと宙をつまらなさそうに浮遊している。

 提案に思わず顔を歪めたアルファルドは焦っていた。



「何が狙いだ」

「降伏しても無駄だと思い知らせるためです。グレアリング王国は、この戦いに全力を尽くすでしょう。そうして帝国に反意を抱く者を一度に引きずり出し、この戦いで捻り潰せば、結果的に流れる血の量が減る。それが私の平和構築大作戦なのです」

「アルフェッカ、いくら我が娘だとしても容赦はしない。全力で阻止する」

「どうやって? 私は、もう止められない。平和を願った母上の望みを叶えるためです。それでは失礼いたします、陛下」

「待て、話はまだ終わっていないぞ」



 足先を出口に向けて、歩き始めた。

 ミリミリも、アルフェッカを追いかけるように付いていく。

 しばらくして、思い出したような声を出して、二人は同時に振り返った。



「アルファルド皇帝陛下……グレアリング王と接触させないよう、私の部下を見張りにつけます。それから、六星騎士長スイセイ。今回の件、公の場ではないため、水に流してあげましょう。臨時執権官の部下として、これからよろしくお願いしますね」



 そう言って、アルフェッカ達は退出した。

 よろける足で皇帝に近づくスイセイは、息を荒くしながら呟いた。



「アルフェッカ殿は、人の域を超えた力を有していた。それに、あの大魔法使い……」

「このアルファルドも老いたものだ。スイセイ、お前が頼みだ」

「お任せください。ドラコーニブス家への忠誠は、ずっと誓っております」

「アルフェッカは一人前の後継者だ。だが、アルティアは違う。姉に懐いておるし、まだ幼い。アルフェッカのようにはなれない。ステラが愛した娘アルティア、あれを支えてやってほしい」

「汚れ役なら、いくらでも引き受けます」

「いや、汚れ役というよりは、立派な騎士としての役を務めてほしいのだ」

「御意」



 スイセイは迷いなく返事をする。



「スイセイよ、我のことはもうよい。アルフェッカを監視するのだ。裏工作を仕掛け、戦争回避に専念しろ。軍の侵攻を遅らせるのだ」



 皇帝の命を受けたスイセイは深く頭を下げてから、部屋から退出していった。

 アルファルドは黒い煙を上げる元老院議事堂が見える位置に移動し、どうしたものかと思案する。







 しばらくして、扉が開いた。

 入ってきたのは、衛兵の竜人だった。

 竜人は開口一番、皇帝と対等な口を利いた。



「あれは酷いな。強力な魔力で、何もかもが吹き飛ばされていた」

「そなたの目から見て、大魔法使いは止められそうか……ミミゴン王よ」



 竜人は息を吐きだして、間を置くと。



「止めてみせる。何としてでも、絶対に止めなければならない存在だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ