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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
185/256

デザイアリング戦争

 セルタス要塞より更に東。

 晴れ渡る空の下での出来事だ。

 ベリタス要塞と呼ばれるこの地で、戦争が始まっていた。

 現在、ベリタス要塞を防衛するグレアリング軍は、攻めてくる帝国軍を返り討ちにしてやろうと士気を高めている。

 要塞内は慌ただしく人と兵器が入り乱れていた。

 砦の上から、二人の戦士が戦場を俯瞰している。



「くそ! 懲りない奴らだな。二度も追い返してやったんだぞ! 今回も結果が見えているだろうに」

「いや、ガルド。竜人の様子がどこかおかしい。前線にいるのは重装備兵ばかりだ。軽装は後方で散兵している。嫌な予感がする」

「はぁ、よく見てるな……アリオス。だが、いつもこうだったろ」

「これほど顕著に表れているのは、今までになかった。とにかく、武器を持て。ガルド、兵の指揮は任せる」



 露骨に嫌そうな顔をして、ガルドは舌打ちする。

 アリオスは盾と剣を構えて、さっさと下に飛び降りた。

 地を揺らす重々しい足音が響いてくる中、ガルドは部下に命令する。



「さあ、奴らを叩きのめせ! いいか、何が何でも死守するんだ! 攻め落とされるなよ! 各員、配置につけ!」



 あちこちから兵の咆哮が聞こえてくる。

 士気を高め、結束力を確かめたところで、ガルドも飛び降りた。

 両足、片手で着地し、利き手で背中の刀を抜き放つ。

 それから脚に力を入れて駆け出した。

 並走するように、アリオスが近づいてくる。



「さすが、風雲の志士様。いい声だったよ」

「お前が言った方が、兵の纏まりが良くなるんだがな」

「どうかな。先頭に立つのは強い者じゃないとね」







 アリオスが竜人の一撃を受け止め、ガルドが後ろから一撃を加える。

 竜人一人に対し、人間二人で挑むことが戦法として安定している。

 ガルドの鋭い斬撃を食らい、鎧兵は前のめりに倒れた。

 間もなく、次の相手がやってくる。

 敵の連続攻撃を盾と身のこなしで凌ぎ、アリオスが飛び退きつつ魔法を放った。



「『インフェルノ』!」



 燃え盛る球体を飛ばし、見事に直撃する。

 が、直撃したのは頑丈な金属の盾だった。

 ガルドも盛んに攻めるが、全て盾で受け止められてしまう。

 竜人の馬鹿力で、ガルドは刀ごと押し返された。

 敵は身を覆うように、盾を前に出している。



「おい、いつもより卑怯な感じがしないか」

「同感です。防御を意識しているようですね」



 重装備と盾、片手に短剣。

 これほど防御に偏った装備は初めて見る。

 以前と比べるアリオスは、より警戒していた。

 横目で、味方の戦いを観察する。

 自分たちと同じように、攻めあぐねている状態だった。

 アリオスの思考は、正面の敵より帝国軍全体に注目していた。

 これまでの戦いと違った点も見えてくる。

 より強固な武装をしている点。

 それよりも目立ったのは……攻めに転じない点だった。

 反撃程度にとどまっている。

 重装備であるため、動きにくいのか。

 それとも、反撃によっぽどの自信があるのか。

 ただ、確実に感じ取ったのが……何か企みがあってのことだということ。

 次の手を模索することに集中していると、突然帝国軍の動きが相次いで変わった。



「……了解。すぐに退避する」



 その言葉の意味を飲み込めない内に、竜人は何か地面に叩きつけた。

 すると、柔らかい音と共にたちまち煙幕が立ち込め、視界が白色に染まっていった。

 ガルドの「どうなってる!?」と焦る声が聞こえてくる。

 他の兵も、しどろもどろな状態になっているみたいだ。

 盾を身に引き寄せたアリオスが、兵士に命令を出した。



「退却だ! 早く!」



 アリオスは、つま先を要塞に向けて走る。

 全速力で逃げることを考えた。

 命令が伝わり、王国軍が退却していることを耳で聴き取る。

 しばらくして、左から黒い影が隣に迫ってくる。



「アリオス、退却とはどういうことだ! ただ、煙幕を張られただけだ」

「あの状況で戦うのは、まずい気がする。妙なのは、帝国軍に限ったことではない。自軍に対してもだ」

「どういうことだ」



 やがて、視野が開けると遠くのベリタス要塞を確認した。

 煙から抜けて、すぐに減速して後方に目を配る。

 ガルドもアリオスを不審に思いながらも、真似をするように刀を構えた。

 正面は未だに煙が持続している。

 要塞方面から、大砲の砲撃音が響いてくる。

 リライズ兵器で竜人を一掃するために、鉄の塊を飛ばしていた。

 着弾して爆発しているのだが、虚しく地面を穿っているだけのようだった。

 誰かが攻めてくる気配もない。

 アリオスの中で、先ほど竜人が返事した言葉が引っかかていた。

 「すぐに退避する」

 ”退避”の意味を追及するべきだと、脳が警告している。

 退避ということは、何かを危険視しているということだ。

 敵が恐れるもの。



「ガルド、こちらは秘密兵器でも用意したのか?」

「は? そんな話、聞いてねぇよ。だいたい最近、リライズからの供給が遅れている。秘密兵器を頼んでいたとしても」

「いや、現時点でだ。今、僕たちは秘密兵器を持っているのか? 敵が恐れるに値する兵器を」

「そんなのがあったら、とっくに使ってるだろうよ。急にどうしたんだ」



 じゃあ、奴らが退避する理由はなんだ。

 まさか!

 アリオスは『魔力感知』を発動する。

 前線の重装備兵、もしかして時間稼ぎの意味があったんじゃないか。

 途端に、アリオスの脳に激痛が走る。

 頭頂部が魔力に強く反応しているのだ。

 すぐに空を見上げた。

 そして、見開くほどに驚愕した。



「ガルド、上だ!」

「……嘘だろ!?」



 澄み切った晴天だったはずが、気付かぬ内に黒雲で埋め尽くされていた。

 魔力が濃縮してできた雲だ。

 降らすのは雨ではないことなど明確である。

 もっと危殆するものだ。

 瞬きする間に、雲から異様な岩石が迫り出してきた。

 遠く離れているため、小さく見える。

 火の粉の散る岩石が、前面に露出するたびに形が濃くなっていく。

 まるで分娩のようだ。

 母胎である黒雲から、岩塊という胎児が外を目指す。

 もっとも胎児というには、あまりにも巨大ではあるが。



「とにかく、身を守るんだー!」



 アリオスは限界まで声を張り上げ、兵士と自分に命令を下す。

 わずかの間をおいて、星が落ちてきた。

 星は分散して降り注ぐ。

 アリオスとガルドは『バリアウォール』に全神経を集中させた。

 生き残ることに命を懸けたのだ。

 岩石が地面に到達すると、大爆発を起こし、足元が不安定になる。

 それでも歯を食いしばって耐え抜く。

 それからのことである、兵の絶叫が鳴り止まなくなったのは。



 アリオスは意識が確かな内に、この天災を起因させた人物を探した。

 ここで『魔力感知』が訴えるのは、雲だけではないことを認識する。

 別に強大な魔力を秘めるものを感知したのだ。

 そこに恐る恐る目を向ける。

 空中に佇む人物。

 そのシルエットは、幼女を思わせる輪郭だった。

 そんなはずはない、と首を振ってから再度、目を凝らす。

 が、次の瞬間……自我を吹き飛ばす爆発に襲われた。







 雲は消え失せ、ベリタス要塞は半壊。

 戦場には、いくつもの凹凸ができていた。

 加えて、グレアリング軍に属する兵士の多くが戦没した。

 その光景を悠々と眺めることができる場所がある。

 飛行戦艦アークライト。

 機体に搭載されている魔石より発生した浮力で、船体は飛行している。

 戦場からある程度離れた場所に留まる戦艦では、一人の女性が微笑んでいた。

 その微笑は、天災を見て生まれたものだ。



「素晴らしい……さすがは、前ノヴァテーラ時代に猛威を振るったという伝説の究極魔法。よくやった、ミリミリ」



 女性が振り返ると、何もなかった空間が歪み始め、やがて一人の少女を出現させた。

 小さき体の幼女は、平気な顔をして空中に浮遊する。



「いいの? 全滅させなくて。あれでも、少数は生き延びているのよ」

「これでいい。でなければ、君の存在が知れ渡ることはない。そうだろう?」

「ようやく、”帝国の嘘”として偽らなくいいのね」

「ふふ、そういうことだ」



 デザイア帝国が生み出した虚構。

 それは、グレアリング王国を牽制するために作られた噂。

 しかし、一般人が生み出す虚構と違ったのは、実際に存在することだった。

 しかもそれは、尾鰭おひれの付く噂を超えた最強の大魔法使いである。



「失礼します、アルフェッカ閣下」



 扉を開けて、入ってきた兵は彼女に書状を手渡すと、一礼して退出した。

 封を切り、中の紙を一読する。

 デザイア帝国第12代皇帝ドラコーニブス・アルファルドからによるものだった。

 内容は、アルフェッカを本国に呼び戻すことが記されていた。

 苦笑を漏らすも、本心を言葉にする。



「たまには、顔を見せないとな。親孝行な娘だと思ってもらえなくなる」

「あら、珍しい。いっつも破り捨てていたのに。何かあったの?」

「そうだな……時期が良い。先週、傭兵派遣会社が壊滅したそうだ。困ったこともあるが、おかげで歩を進める切っ掛けにもなった。転機が訪れたのだよ、いよいよ」



 それから、と呟いて話を続けた。



「君のことも紹介しなければね。私の友人として」



 ミリミリに向き直って、アルフェッカは見つめる。

 そして、静かに笑った。

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