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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
182/256

159 テル・レイラン―3

 玉座の間には俺以外、誰もいない。

 深く腰を落として、玉座に座り込んだ。

 安心感のある背もたれに頭を預け、肘掛けに腕を置く。

 ひんやりとした感触が脳に伝わる。

 一つひとつの動作を意識しながら、脳内を整理することにした。

 それから、ボイスレコーダーを取り出す。

 再生ボタンの上に指を置いた。

 これから聴くのは、レイランの肉声が収められたデータだ。

 死ぬ間際、何を思って何を感じたのか。

 そして、ボタンを押し込んだ。



『はぁはぁ、今、録音されているのか? 聴こえているか、俺の声が』



 ああ、聴こえているよ。

 シアグリースから手渡された血塗れのボイスレコーダー。

 トウハやシアグリースは既に聴いたようで「これは、ミミゴン様へのメッセージです」と言われた。



『体が熱い……それに中身が喪失していく感覚だ。意識が抜け落ちていく。だから、俺が俺である今のうちに、ミミゴンに伝えておきたいんだ』







 まず、勝手で悪いけど……お願いがあるんだ。

 俺の死体は、なにしてくれてもいい。

 困ったら、トウハとかに殴らせとけ。

 これは冗談ではない、大真面目だ。

 トウハやシアグリースたちは俺に対する怒りで、頭がいっぱいだろう。

 だって、迷惑かけ続けてきたしな。

 それから、ミミゴンも俺に思いっきり攻撃してくれ。

 鬱憤を晴らすためなら、喜んで受けてやる。

 死んでも恨みはしないしさ。

 俺の復讐の為に、国を動かしてくれてありがとう。



 あと、法則解放党について。

 ラオメイディアを殺した今、次にやるべきことは法則解放党とかいう連中を叩き潰すことだ。

 ミミゴンは忙しいだろ。

 俺は、この手で殴り込みに行きたい。

 まあ、声を聴いて分かるように……死にかけている。

 だから、代わりにミミゴンが殴ってくれねぇか。

 俺の想いだけじゃなくて、ミウやエイデン、マギア村の皆の分。

 それから……ラオメイディアの分も含めて。

 一撃に想いを込めて、ぶつけてほしい。

 スカッとする一撃を見せてほしいんだ。



 もう、俺の右腕が言うことを聞かなくなってきた。

 必死に落とした魔剣を拾おうと、手を伸ばしやがる。

 俺の手なのに、俺は何もできない。

 ああ、懐かしくなってきた。

 煙草を吸っていた頃が懐かしい。

 煙草の味を覚えた時期だったな、ミミゴンと出会ったのは。

 思えば、俺から話しかけようと思ったのは初めてだった。

 なんていうか、あの時のミミゴン……純真な瞳をしていたんだ。

 復讐なんて難しいことはしていない、一つの目標をひたすら走っているような目。

 ……俺もさ、なりたかったんだよ、あの目を持った自分に。

 あんたといれば、俺は変われる。



 そして、今。

 自分では気づきにくいけどさ、変われたのかな俺。

 なってるかな、あの目に。

 ……ありがとな、ミミゴン。

 楽しかったぜ、エンタープライズ。

 あいつらにも感謝してる。

 そうか……これから死ぬんだよな、おれ。

 はなっから覚悟してたんだよ。

 俺は、いつか死ぬんだとな。

 いまさら恐れていないさ。

 いつの間にか、腹の前に切先が来てやがった。

 ……じゃあな。







 やっぱり……死にたくない!

 誰かー、助けてくれ!

 俺は、まだやりたいことがあるんだ!

 誰でもいい……俺を、止めてくれー!

 止め、て、く……れうっ。







 再生が終了する。

 音声が流れなくなったボイスレコーダーを胸で抱きしめた。

 果たしてレイランの想いを聞いたから、スッキリしただろうか。

 いや逆だ、何もかもが。

 こうして、復讐は連鎖するんだな。

 法則解放党を徹底的に叩き潰す。

 法則解放党をぶっ潰すまでは、異世界から帰らない。

 この夢を絶対に離しはしない。







 翌日、エルドラに呼び出された。



(ミミゴン……ラヴファースト、アイソトープ、オルフォード、ゼゼヒヒを連れてきてくれるか)



 口調がかなり大人しい。

 あの元気いっぱい馬鹿丸出しのエルドラが、ここまで悲しそうな声を発したのは初めてだ。

 無視するわけにはいかない。

 すぐに赴く準備を進めた。







 英雄の迷宮、ここは遥か大昔に建造された。

 場所はエンタープライズから少し離れ、迷いの森の奥地に存在している。

 迷宮の門は、これまで開かれたことはない。

 なぜなら、迷宮はエルドラの牢獄だからだ。

 俺は中に『テレポート』し、エルドラ直近の部下も連れてきた。

 かつて『七生報国』と呼ばれた最強の武装親衛隊だ。



「エルドラ様!」



 ラヴファーストは主の姿を認めると、名前を叫んだ。

 手足がある巨大な龍の姿。

 エルドラは軽く手を振りながら『念話』で話を始めた。



(久しぶりだな。こうして直接会っていたのは、もう1000年も前のことか)



 アイソトープやオルフォードも前に出て、頭を下げる。



「お久しぶりです、エルドラ様」

「あんまり変わっとらんの、エルドラ」

(……見た目はな。中身は、すっかり朽ち果てた。お前たちには大変、苦労をかけたな)



 アイソトープは首を振って、否定する。



「いえ、微塵も思っておりません。こうして、エルドラ様のお側で、お役に立てることができれば幸いなのです」

(あまり自虐をしたくはないのだがな。愛想を尽かしたなら、いつでも離れて構わないのだぞ)



 おいおい、エルドラ。

 自虐させないため、俺が口を挟む。



「それ以上、言わないでくれ。ほら、困っているだろ」

(あ、すまない! 悪気はないのだ! よし、自虐はしない! 部下を困らせる自虐など、笑えないからな!)

「それで、急にどうしたんだ?」



 俺は尋ねると、エルドラは力強く頷いた。

 ゼゼヒヒは香箱座りをして、皆を眺めている。

 エルドラは右手の人差し指を立てて、大きく丸を描き、最後に指を鳴らした。

 すると薄暗かった広間に、光が勢いよく拡散した。

 空間全体が光源となったみたいだ。



(さて、今日ここに来てもらったのは……我々のことだ)

「エルドラたちのこと?」

(七生報国の皆は分かっているであろう。自身の生命の変化に)



 生命の変化?

 エルドラの言葉を聞いて、皆が顔を下に向けていた。

 誰も笑っていない。

 ドッキリだとか、そんな茶番が展開する雰囲気ではない。

 唇を真一文字に結んで、耐えるような表情をしている。



「何か起きているのか? 生命の変化、といったよな。どういうことだ?」

(我らがなぜ、こんなにも長命か考えたことはあるか、ミミゴンよ)

「世界の理から外れた者、とオルフォードは言っていたよな。何らかの……例えば、スキルの影響で寿命がなくなったのかと考えている」

(ふむふむ、不正解だな)



 いや、不正解とか言わないでくれ。

 さらっと流してほしいのだが。



(今の我らにも寿命はあるのだ。ただ、その寿命は創られた物だ)

「スキルか。無理矢理、延命したということだな」

(したくてしたわけではない……と言っては、あいつに怒られるな)

「あいつ?」

(とにかく、これまで隠してきた七生報国の秘密。今、打ち明けよう)



 青色の目を鋭くして、真剣な口調で告白した。



(七生報国の寿命は尽きかけてきている。加えて、弱体化してきているのだ)

「……嘘だろ」



 そう発した口が無様に開いたままだ。

 驚きと疑いと信じる想いが混成する目で、エルドラを直視する。

 俺は石化したように固まるしかなかった。

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