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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
181/256

158 テル・レイラン―2

「ここが、レイランの生まれ故郷。マギア村だったところか」



 レイランを抱き上げながら、ようやく辿り着いた村。

 村の入口と思われる高所から、廃墟を眺める。

 時の流れで朽ちた民家が特色づけていた。

 辺りに焼き焦げた地面もある。

 15年前、傭兵派遣会社の勢いが増し続けていた時代。

 ルーツが魔人と人間の混血であるマギア村の人間は、人里離れたキセノン山地で生活を送っていた。

 なぜ人里離れているのかというと、外の世界を恐れていたからである。

 混血に対して忌み嫌うよう、教育する世界である。

 そんな場所に足を踏み入れれば。

 そう考えた先祖は村全体に結界を張り、子供たちには徹底して外に興味を持たないように洗脳した。

 そんな村でも、幸せはあったようだ。

 歩いて村を散策していると、あちこちに子供用のおもちゃが落ちていたり、読み古された本も発見した。



「これは……写真?」



 写真立てが、屋根のない家の中で一際目立っていた。

 半壊した扉を開けて訪問させていただき、近くのソファにレイランを寝かせる。

 テーブルの上に飾ってある写真立てを手に取って、目の前に持ってくる。

 ほこりの積もった写真に息を吹きかけて、よく見えるようにした。



〈家族写真ですねー。楽しそうに笑っていますねー〉

「写真があるってことは、カメラをどこかで手に入れたってことだよな。落ちていた木刀や本なんかは、商人から買っていたのか」

〈おそらくー、マギア村の人は村を出て、商人と出会っていたと思いますー〉



 自分を偽って、定期的に物を購入していたということか。

 ハンターか何かに成りすまして、調達していたわけだ。

 金貨は見当たらないから、物々交換といったところか。

 本当は、商人すら必要のない完全な自活を目指していたのかもしれない。

 武器を自分たちで揃えることができないから、どうしても頼るしかない。

 人の援助に頼らず、マギア村だけで生活することができれば、傭兵派遣会社に襲われることはなかったかもしれない。

 商人の口から、村の存在が漏れたのだとしたら。

 いや、その先を考えるのはよそう。

 悪い方向に考えてしまう癖が出てきてしまった。

 妄想は一流だな、俺は。







 レイランを両腕で抱えて、村の中央広場に出た。

 その景色に、脳を揺さぶるほどの衝撃を受ける。

 中央広場には、剣が地面に刺さっていた。

 それも一本どころではなく、何本も。

 これが表しているのは、村に住んでいた大人の数ではないだろうか。

 レイランを除いて、子供たち全員が連れ去られたと言っていた。

 そして、剣の下には死体があるはずだ。

 整然と並び立つ武器の存在感で、何だかいたたまれなくなった。

 でも、この中にレイランを迎えてほしい。

 先例に倣って、俺もレイランの墓標をつくることにした。



 墓標として、魔剣を地面に突き刺した。

 レイランがここに眠っている目印として、魔剣を墓標にする。



「ごめんな、レイラン。ちゃんとした墓じゃなくて。それに埋葬の印が、ラオメイディアからもらった魔剣なんてな。皮肉すぎて、笑えない冗談だ、まったく」



 『異次元収納』から、深緑色で赤い斑点が特徴の石を取り出した。

 ヘリオトロープと呼ばれる希少な宝石で、別名ブラッドストーンと称されている。

 実はこの魔剣、ツトムの解説によると真の力を発揮していないのだという。

 本来、魔剣に備わる特性として”武器腐蝕”と”吸血強化”がある。

 武器腐蝕は刃に込められ、吸血強化は石に込められているという。

 ブラッドストーンを切先と真反対の柄頭にある四角い窪みに、はめ込んだ。

 たまたま、オルフォードが石を持っていたので、ついでだ。

 改めて広場を見ると、とても荘厳な墓ができあがったなと思う。

 特にレイランの墓は、世界最強の墓ではないだろうか。

 なにせ、魔剣が墓標だからな。

 墓に贅沢さは不要だが、この圧倒的な存在感は何者も近寄らせない頼もしさを意識させる。



 レイラン、これからのエンタープライズを見守っていてくれないか。



 そう伝えるように合掌して、祈りを捧げた。







 エンタープライズには帰らず、しばらく村を散策することにした。

 歩いて、脳を活性化させたかったのだ。

 ある考え事に、脳を使用する。

 いくつかの民家を巡っている時、エルドラが疑問を呈してきた。



(……レイランは、なぜ自殺したのだ。最後、生きる目的を見つけたと言っていただろう。道中に何か心変わりするような出来事でもあったのか?)

「いや、あいつは自殺せざるを得ない状況に陥ったんだ。抗うことすらできなかったんだよ」

(どういうことなのだ?)

「ラオメイディアを倒した後、俺は逃げた傭兵を捕まえてほしいと頼んだ。レイランが向かった先は……第4番街近くだ」

(まさか、巻き込まれたというのか!)



 真澄が言っていたことを思い出していた。

 法則解放党にヴィシュヌを利用され、人は暴走する。

 番街ごとに異なる命令が下され、第4番街は自殺への衝動を駆り立てた。

 近くにいたレイランにも影響し、強制的に従わされたのだ。

 ここで、腑に落ちない様子の助手が。



〈でも、おかしくありませんかー?〉



 と、引っ掛かりに気付いて疑ってくる。



〈それだと、レイランにヴィシュヌが入っているということですよねー〉

(確かに、おかしいな。奴は、名無しの家で武器の手入れをしておったよな。新都リライズではなく、名無しの家に頼んでいたということは……ヴィシュヌを入れていないからだ! がはは、まだまだ詰めが甘いな、ミミゴン!)

「最初に会った頃は、ヴィシュヌを入れていなかったかもしれない。だけど、最近になって入れたはずだ。これを見てほしい」

〈それはー、ボイスレコーダーですかー〉



 手のひらに、ボイスレコーダーをのせる。

 レイランの死体と一緒に回収されたのは、魔剣だけでなく録音機もあった。

 ボイスレコーダーを手渡された時、周りに「誰が渡した物か」と尋ねたが皆、首を振るばかりだった。

 それから、ボイスレコーダーを見て思い出したトウハから報告を受けていた。

 俺がコペンハーゲン博士の救出に向かった夜、レイラン一人で新都リライズに向かったと。

 買い物に行くんだ、とも言っていたらしい。



「新都リライズでボイスレコーダーを買うために、ヴィシュヌを入れたに違いない。ヴィシュヌがないと、物が購入できないからな」

(……エンタープライズで作っていれば、助かったかもしれないのにな)



 あの時、皆バタバタして忙しかったからな。

 レイランの性格は、何でも一人で抱え込もうとする。

 結局、エンタープライズという味方がいても、あいつは心の底から信用していなかっただろう。

 復讐も自分一人でやろうとしていた。

 味方を頼る気にはならなかった。

 俺たちは利用されたのだ。

 言い方が悪いな。

 だけど、エンタープライズを大切に思ってくれていたことも事実だ。

 生きているなら、聞きたかったな。

 エンタープライズの国民になってくれるか、って。

 本心が聞きたかったな、本心が……。

 本心?



 自分の手のひらを眺めた。

 長方形で小型のボイスレコーダーが血で汚れている。

 ボタンを押して、録音データを確かめた。

 二件、表示されている。

 なぜ、お前はボイスレコーダーを買ったんだ。

 バルゼアーの影響はあると思うが。

 だとしたら、日記のように使うつもりだったのか。

 これを聞けば、分かるか。

 最後に、マギア村を眺めた。

 もう訪れることはないだろう。

 それと、このような光景を二度と見ないよう誓った。

 そして、未練を捨てきった俺は別れを告げる。



「さよならだ、元気でいろよ……」

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