17 国民がいない国
エルドラは、国を建てるという夢がある。
作りたいのかと問われたら、やってみたいと言う。
それに、助けてもらっているエルドラのためにも、俺だって役に立ちたい。
だから、協力する。
だから、一緒に夢を叶える。
俺が元いた世界での、国成立って基本的には確か「主権」「領土」「国民」がいるはずだったな。
けど、誰かの許可が必要という、仕組みではなかったはずだ。
作ろうと思えば誰でも作れるが、進んで作ろうぜという奴は見なかった。
規模があまりにも大きいからな。
いよいよ住む側ではなく、作る側になってしまったか。
エンタープライズは、しっかりと世に貢献する独立国家として存在したい。
それには、他国からの承認がいると思う。
他の主権国家からの承認があれば、この国を認め、交流も盛んになり、様々な種族とのふれあいも可能となるはずだ。
それに、こちらが「俺らの国だ、国だ」と勝手に騒ぎだてても、ふ~んそうと軽く流されてしまう恐れもある。
これでは独立ではなく、孤立となってしまう。
あと、承認してもらう国家も考えねばなるまい。
まわりの国を圧倒する国からの承認であれば、より噂が広まり後ろ盾としても有効であるはず。
というわけで助手、君の意見が訊きたい。
間違っているところとか、追加することとか。
〈最初に言っておくとー、それほど思っている以上に厳しくはありませんよー。現在、最も大きな勢力がある国として、人間をまとめるグレアリング王国、強き竜人が支配するデザイア帝国、中立の立場を貫く小人を主とする新都リライズ、魔人を組織し世界を相手にするテルブル魔城でしょうかー〉
俺の心を読み取る助手の答えである。
どれもクセが強そうだが、後ろ盾としてはとても強力だ。
ただ、どこに身を置くかと考えると頭が……。
〈ですが、これらの大国に承認をもらった国なんて、ほとんどないですよー。国自体、数は少ないですし、独立する国家の多くは大国へ抵抗、対抗するための集団ですー。世界は4つの強国に力が集まっていますからー〉
そうか、別にどこかに承認をもらうことが必要ではないんだ。
超大国である国々に互角か、それ以上の力をもつ国となればいい。
力をつけて、対抗できる国力を身に着けるべきか。
〈そのまえに、ここ見捨てられた土地は一応グレアリングが、所有権を持っているので争いが起こるかもしれませんよー〉
え、見捨てられてるのに、土地の所有権あんの!?
しかもあの、グレアリング!?
あいつら、抜け目ないな。
頭下げて譲ってくださいお願いします、って王様に言わないといけないのか。
でも見捨ててんだろ。
俺らはリサイクルして繁栄しますで、あっちは別にいらないしいいよ、で両者WINWINじゃないのか。
〈そうは問屋は卸さぬー、ですー。自分たちの土地だからこそ、好き勝手できるのですよー。例えば開発された新兵器の実験に使用されていたりー、得られる金となる物や、食べ物など自然が生み出す産物を所有することができますしねー。クレーターだった場所だけじゃなくて、その周りの、トルフィドの村周辺も入ってますよー。ですから、収穫物もグレアリングへ流れているのですー〉
グレアリングに、土地を譲ってもらう承認が必要か。
承認してもらうにも、相手にメリットがなくてはならない。
例えば俺らを承認することで敵対勢力を全滅できますよ――それはしたくないが――とか。
ああ、もう難しい。
この件は、オルフォードに丸投げするか。
……ダメだろ、仕事を増やして反乱でも起こされたら困る。
やっぱり力を目指して、進めるべきだな。
そのためには国民だ。
エンタープライズが、存在する意味を尊重し、理解する味方が欲しいところ。
数は力となり、強調の意味もある。
よし、助手。
困っている民族や、味方となってくれる人はいないか。
〈その答えはー、エルドラに聞かれたほうがいいのではー?〉
世界の知識等しか答えないし、助手は専門外か。
エルドラなら、プランをすでに考えているはずだ。
早速、『念話』で話しかけた。
エルドラ、国民が欲しいんだけど当てがある?
(頼みの対象か。我らに同意しそうな者たちなら、探しておった)
本当か!
(鬼人が住む村がある。そこなら、話を分かってくれるかもしれんぞ)
そんな村があるのか。
それに鬼人だと。
〈少数しかいませんが、鬼人や鳥人などもいますよー〉
数が少ないのか。
悲しい理由とかあるんだろうな。
助手が説明を始めようとしたが、ストップだ。
今テンションが高いのに、悲しい口調で始まろうとしていたので止めさせた。
知らないほうがいいかもしれない。
〈ミミゴン、種族の数には理由があるんですよー。あなたが聞かないでどうするんですかー〉
知らないほうがいいなんて思ったけど、撤回するから。
そうだよな、知るべきだよな。
彼らを信じるなら、彼らの歴史を知ることが必要だ。
分かった、その村に行く道中で教えてくれ。
今から仲良くなりにいくんだ、ここエンタープライズを気に入ってもらうんだ。
相手の文化、歴史を知っていた方が交渉しやすいはず。
助手のため息が脳に響き、じゃあ聞いてもらいますからねー、と言われた。
よし、エルドラは道案内よろしく。
任せておけ、の声で龍のナビゲーションが始まり、助手の歴史授業が始まった。




