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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
177/256

154 対立―2

 トウハが、ラヴファーストと向き合う。



「さすがに殺すのは無しだろ! やりすぎじゃないか!」

「甘いな、鬼の戦士。取り返しのつかないことになるぞ」



 ラヴファーストの前に、トウハとシアグリースが立ちはだかる。

 シアグリースは上司の目を直視することはなかったが、意見はぶつけた。



「僕たちは、手を取り合う未来をつくる側です! なのに、殺せと申すのですか。それも……ミミゴン様に。あまりにも酷じゃありませんか」

「手を取り合う未来は、いともたやすく壊される。強大な力を持つ者にな。シアグリース、近くで時限爆弾が作動しているのに、仲良く友達とお遊びか?」

「――!? この方を爆弾扱いですか!」



 だんまりしていたオルフォードも見かねて、助け船を出した。

 発言の内容から、藤原を受け入れることに賛成みたいだ。



「こやつは確かに協調性を欠いた心を持っておる。ならば、ここで教育するのじゃ。物の考え、善と悪。それらを教えてやれば良いことじゃ」

「教育だと? それは、いつまでかかるんだ? 強制させる教育など、暴走する原因になりかねない。おまけに時間も必要。オルフォード、失望したぞ。理想をいくら語っても、実現しなければ意味がない」

「理想ではない、計画じゃ! 道理に外れた行為をして、何が平和の国じゃ! 短時間で何でもできると思っておるのか!」

「現実が見えていないのか、爺さん? こいつを一度でも激怒させてみろ。国は崩壊する。無くなるんだぞ、何もかもが! これまで積み上げてきた歴史が、一瞬で無に帰すんだ! おまけに俺たちが死んでみろ。エルドラ様は何のために、ミミゴン様に夢を託したのか……そう思うと胸が張り裂ける気分だ」

(静まれ、ラヴファーストよ!)

「……エルドラ様!?」



 どうやら、俺やラヴファースト、アイソトープとオルフォードに『念話』しているようだ。

 エルドラは一言発した後、苦悩するように荒い息をして。



(ミミゴンが困っているではないか)

「国のためです。王が正しいとは限りません」

(そ、そうだな。出しゃばってしまったな)



 ラヴファーストの発言を諭すことはできなかったみたいだ。

 だが頼りなくても、心強さはある。

 エルドラは、わざとらしく咳き込んでから話をした。



(ラヴファーストよ。我と共に建国したなら分かっておるだろう。国への思いを。何より、お前は平和な国にしたいと誓っておったではないか。人間同士が争わないで済む世界を望んでいただろう)

「もちろん忘れたわけではありません。だからこそ、この者を殺すことを提案しているのです」



 オルフォードは、ラヴファーストに問う。



「小僧を人間だと思っていないのか」

「ああ、そうだ。俺は、こいつを人間とは見ていない。化け物だ、エンタープライズを破滅へと導く魔物だ!」

「ラヴファースト、お主は……そのような物の見方では、エンタープライズをまともに見ることができないぞ!」

「ダメだ。この男は受け入れられない」

「待て、考え直してほしい、ラヴファースト」



 俺は二人の間に入って、ラヴファーストの両肩を掴んだ。

 これでは、俺が無理矢理主張を通そうとしているように見えてしまう。

 だけど、考え直してほしいんだ。

 鬱陶しいと感じたラヴファーストは俺の手を払いのけて、皆に聞こえる声量で意見した。



「ミミゴン様、こいつは敵だ!」



 アイソトープも俺の瞳を見て訴える。



「国の命運がかかっているのです。逡巡している場合ではありません。今、決断しなければ、我々に未来がないのです。オルフォードは理解しているはずよ。この者は脳に障害があると」

「……本当なのか、オルフォード」



 振り返って、オルフォードに尋ねた。



「脳に障害と言うが、正確には魂が不安定な状態なんじゃ。魂の影響が、脳に及んでおる。日常生活に支障をきたすレベルのな。じゃが、安定させることもできる!」

「安定に近い不安定じゃなくて? 暴走する確率を減らすのではなく、無くすことをお考えください」



 アイソトープも本気なのだ。

 国に対する思いは誰よりも強い。

 ラヴファーストもアイソトープも、絶対的な安全を求めているのだ。

 反対に俺は国の繁栄を願っている。

 俺たちが、藤原に手を差し伸べることができれば、国民は安心するはずだ。

 どのような人であっても、エンタープライズは受け入れてくれると。

 だから、助けたいんだ。

 オルフォードは反論するも、語尾が弱くなっている。



「少なくとも協調性は回復する」

「個人の問題ではないのよ。国の問題に関わっているの。そんな運任せなことで、私達は納得できないわ」



 オルフォードの眉が、少し反応する。



「お主はメイドを育ててきて、分かっておらんのか。人の可能性を!」

「それは正常な人に限ります。精神を失った、もはや肉の塊に可能性など当てにできません」

「いくらドS発言だとしても、度が過ぎているぞ! エルドラから何を学んだんじゃ! エルドラに受け入れられた気持ちを、過去を……忘れたというのか!」







「何すんだ、お前!」

「そっちこそ、いきなり突いてきやがって!」



 複数の男たちが罵り合う声が聞こえてくる。

 険しい顔をする俺は数十人の人垣に突っ込んでいく。

 あとに続いて、オルフォードやラヴファーストも追いかけた。

 ここで暴力沙汰かよ。

 誰かを殴る音が、ひしひしと伝わってくる。

 人山をかき分けた先には、二人の男が血を流しながら組み合っていた。

 周りではやし立てる者もいれば、怯えて止めるよう説得する者もいる。

 一人が顔を殴られ、ふらふらと後退し、そこで終わるかと思いきや、頭を下げて突っ込んでいった。

 頭突きを腹で食らった男は、無防備の背中に肘鉄を食らわせる。



 お互いに距離を置いて、様子を窺っていた。

 争いがエスカレートし、興奮したのか互いに武器を持ち始めた。

 切先を敵に向ける。

 そして、場が凍り付いた。

 これまでの騒音が嘘のように消えてなくなっている。

 誰かが唾を飲み込んだ。

 短剣を持った兵は、首を振って後ずさりしている。

 俺が、彼の手首を握り締めたからだ。



「ミ、ミミゴン様……これは」

「今から何をしようとしていた。この剣の先を、どこに向けている。お前たちは国民であり同志だろ」



 後ろから正気を失った声が響いてくる。

 顔だけ振り返ると、もう片方の兵士が剣を手にして突撃してきた。

 その刃はラヴファーストに掴まれ、兵の首根っこを持って、地面に投げ倒した。

 武器が落ちる音だけが聞こえる。

 兵は頭に血が上っているようで、目の前の人物が何者なのか見分けがついていないようだ。

 草原に手をついて、起き上がる。

 相手がラヴファーストにも関わらず殴りかかり、鮮やかに反撃を決められ、一度も拳が掠らず気絶した。

 俺は周りの反応から察したことを叫んだ。



「まさか、お前たちも議論したのか。藤原をどうするかで」

「は、はい……。わ、私はもちろんミミゴン様に賛成ですよ!」



 こうなっても、俺に忠誠を示してくるか。



「だから、なんだ。賛成だから褒められると思ったのか。これだけ大人数で生活していて、対立しない日などないだろう。互いに意見がぶつかり合うときもあるだろう。だからといって、武器を取り出してまで相手に理解させるなど、あってはならない! 相手を脅してまで理解させようっていうのは、弱い人間がすることだ。強い人間なら、納得させる言葉で相手を説得させるんだ」

「は、はいぃ!」



 掴んでいた手首を放って、尻餅をつかせた。

 泣き声を発しながら、俺を涙目で見つめてくる。



「すみませんでした、ミミゴン様!」

「……謝るのは俺の方だ。王として不甲斐ないばかりに、お前たちを不安にさせた。本当にすまない」



 決断できないで、ぐずぐずしていたから、こんな事態を招いてしまった。

 傭兵派遣会社との戦いに巻き込まれた形で、こいつらは戦ってくれた。

 戦士に何か得があって、命を懸けてくれたわけではない。

 俺が動くと決めたから、こいつらは付いてきてくれた。

 中には、戦場に行きたくないと思った者もいるだろう。

 傭兵派遣会社を倒した今、何か報酬があったわけじゃない。

 それに、仲間が目を覚まさない。

 このような状況では、心は弱まるばかりだ。

 おまけに俺は、三日も目覚めなかった。

 申し訳ない気持ちでいっぱいだ。



 俺は周りを見渡してから、ゆっくりと誰もが聞き取れる声量で宣言した。



「藤原は……追放する」

「ミミゴン様」



 ラヴファーストは再び睨んできた。

 なぜ、殺さないのかと訴えている。



「殺しはしない。それが、エンタープライズに住む上での約束事だからだ。だが、ラヴファーストやアイソトープ、トウハが反対するように、俺もあいつの力が怖い。だから、この国から追い出すことにした。もう二度と、あいつに踏み入ることはない」

「追い出すって、どこに追い出すんだ? 奴を自由にさせると、今度は世界が危ない」



 ラヴファーストの反論にも、答えは用意した。



「奴が自由に出来ない場所。たとえ、暴走したとしても止めることができる場所。俺なら思いつく」

「どこだ、それは」

「それは言えない。場所を教えると、誰かが攻撃する恐れがあるからな。だけど、安心してほしい。絶対に、あいつを世に出さない。約束しよう」



 それまで俺に向けていた攻撃的な目が、少し落ち着いたように見えた。



「……そこまで言い切るからには、よっぽどの自信があるのだろう。理解しました、ミミゴン様」



 ラヴファーストの敵意を表す顔が変化し、いつもの無表情に戻る。

 無表情といっても、少し口角が上がっていた。

 納得したのと合わさって、王の判断があったからこその笑みだろう。

 俺の決断を信じてくれたラヴファーストに感謝だ。

 アイソトープも頭を下げてくれている。

 理解してもらえたようだ。

 それでも心のどこかでは、反対しているかもしれない。

 けれども、俺はこの判断が正しいと思っている。

 だから、これを貫かせてほしい。

 俺は横たわる藤原の前で膝をつき、手で触れる。

 そして、脳内に場所を浮かべて、スキルを詠唱した。



「『テレポート』!」



 俺は王様として、生きていけるのか。

 今日、俺は成長したのか。

 この問いに答えてもらいたいのは、ものまね芸人をしていた自分だ。

 当然、昔の自分が答えてくれるはずはない。

 なのに、どうしてだろう。

 自分の中でブレていた何かが、ピンと真っ直ぐになった感じを味わった。

 まるで、師匠に教えてもらった時のような感覚だ。

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