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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
176/256

153 対立―1

「ミミゴン様、お目覚めになりましたか」

「ラヴ……ファースト? ここは、エンタープライズか?」

「水分を補給して、しばらく安静にしていてください」

「あ、ああ」



 ラヴファーストは部屋から退出していった。

 ベッドに置かれた俺は『ものまね』で、人の姿になる。

 エンタープライズの兵士として活躍している赤毛の人間。

 彼になることが、もはや日課となっている。

 エルドラには申し訳ないが、機械の……それも宝箱のドローンでは色々とやりづらい。

 もちろん機械の体があっての自分なので感謝している。

 アイソトープが運んできたキャスター付きワゴンに、波一つたたない水が置かれていた。

 早速、コップに口をつける。



「……エンタープライズは、大丈夫か?」



 少しの沈思黙考を挟んで、返答。



「勢いが衰えています。傭兵派遣会社との戦いで、軍やメイドは疲弊しています」



 アイソトープの報告は続く。



「開幕、転生者による強力な攻撃を受けました」

「三人で、やっと打ち消せた光線か」

「その衝撃波で半数が重傷者となり、現在も意識が戻らない者もいます。モークシャ、ダイナミック・ステートによる攻撃で、生死の境を彷徨っている者も」

「そう……か。アイソトープも、ご苦労だった。疲れが顔に出ているな。休息してくれよ」



 アイソトープは無表情を貫いているが、彼女から漂う覇気が弱い。

 顔も幾分か暗く見える。

 首を振った彼女は顔を俯けた。



「そうですか、顔に出ていますか」

「無理はしないでくれ。過労死するほど働かせたら、エルドラに怒られてしまう。それに俺も皆も悲しむんだ。休んで、元気な顔を見せてくれ」

「……はい、ありがとうございます。ですが、まだやるべきことがございます。ミミゴン様、外に出てもらってよろしいでしょうか」







 城の外では、兵士やメイドが草原に脚を伸ばして座っていた。

 俺に気付くと皆が「王様!」と叫んで、引きつった笑顔で手を振っている。

 ここにいる者は休憩に訪れたのだろうか、いつもより数が少ない。

 皆、不安を抱えて無理して笑っているのだ。

 本来なら隣で友人が笑っているはずなのに。

 今日は治療でいない。

 俺は精一杯の笑みを浮かべて、手を振り返した。



「彼らは傷を負う覚悟をして、兵を志願したんだ」



 そう言いながら、ラヴファーストが隣に並んで歩いている。



「そんな彼らに同情の目を向けることは、恥でしかないのだ。兵士の覚悟を知ってほしい」

「軽率だったな、俺は。ちゃんと国民と向き合わなくてはな」

「だが、王様の姿を見ることで士気は上がったはずだ。さっきまで黙りこくっていた者も、ミミゴン様の姿を見て、喜んで立ち上がった。それほどに、王様としての魅力があるということだ」

「今じゃ、一国の王か。改めて、自分の置かれた立場を自覚したよ。ありがとう、ラヴファースト」

「ああ」



 その一言だけか。

 ただ、ラヴファーストの一言は、とても貴重だからな。

 内心、安堵しているはず。

 言葉で言い表すのが下手なラヴファーストだから、感情を察して確かめる。

 無口だなと思ったことはあっても、直してほしいと思ったことはない。

 これが、ラヴファーストなのだから。



 アイソトープが指を差した先には、何かが転がっていた。

 転がっている物から、オルフォードは遠ざかる。

 見えてきたのは人間。



「これは、藤原良太か。まだ、意識は戻っていないのか」

「うむ、脳の中が混雑しておる。ミミゴンにやられたショックが生み出した、精神の不安定じゃな」



 オルフォードは草原を突く杖で、藤原の横たわる体を軽く叩く。

 反応はない。

 胸を上下させ、静かな寝息が聞こえることから死んではいない。



「王よ。こやつをどうするか、判断を仰ぎたい」



 藤原を見下ろして、思案する。

 シアグリースやトウハ、クラヴィスも集まってくる。

 この場にいる全員の視線が、俺に注がれた。

 しばらくして、出した結論は。



「……藤原良太を、エンタープライズの国民にしよう。俺たちと共に生きるんだ」



 聴衆は、それを聞いて頷いた。

 皆が藤原良太を受け入れることを決意したのだろう。

 俺は俺の判断を信じた。

 こいつは転生者だ。

 傭兵派遣会社で一戦交えた時、俺はこいつの親代わりだ、なんて言ったからな。

 それに、エンタープライズは人種や思想によらない、何者であろうと受け入れる国にすると決めたんだ。

 たとえ、過去に大きな罪を犯していようと、その罪滅ぼしはエンタープライズですればいい。

 そう納得して、彼を国民として生活させるにはどうすればいいか考えた。



 その時、俺は気付いていなかった。

 ラヴファーストとアイソトープが唇を噛んでいたのを。



「ミミゴン様、彼と共に生活することを僕も考えていました」



 クラヴィスは賛同してくれている。

 周りが活気に溢れ、怪我人とは思えない元気も確認できる。

 ニコシアも頷いて、俺の代わりに彼をどうするかについて提案してくれた。



「すぐに彼の部屋をご用意しましょう。まずは、そこで寝かせるべきかと」

「そうだな、それがいい。ニコシア、皆と協力して藤原が落ち着ける部屋をつくってやってくれ」

「はい、かしこまりま」

「なあ、ミミゴン様。俺の意見を聴いてくれるか?」



 ニコシアの言葉は、後ろから聞こえた声で途切れた。

 振り返ると、トウハが俺を見ていた。

 見ていた、というよりも”睨んでいた”と言った方が正しい。

 それほどに、トウハの目が鋭くなっていたのだ。



「ああ、もちろんだ。王として国民の声に耳を傾けるべきと思っている。それで、どうしたんだ」



 トウハは手を固く握って、藤原を見下す。



「……そいつを受け入れると言ったな、国民にすると」

「そのつもりだ。彼を認めてこそ、エンタープライズはより結束するはずだ」

「俺は反対だ」

「……え」

「俺は、反対だ! こんな奴と一緒に過ごすことなど、俺は許せない!」

「トウハ、ミミゴン様に向かって何て口の利き方を……」



 俺は兄として誡めるクラヴィスを制して、トウハに尋ねた。



「トウハ、藤原をエンタープライズに入れることに不賛成なんだな」

「ああ、そうさ」

「なら、不賛成の理由を説明してほしい。それを聞いてからでないと判断できない」

「皆、思い知っているはずだ。こいつは強いということを。こいつのせいで、どれだけの被害が出たと思っている。今だに意識が戻らない奴もいるんだ。こっちはやられて、こいつはお咎めなしで生活しやがるのかよ! 冗談じゃねぇ!」

「トウハさん、一度冷静になってください!」

「シアグリース、お前も苦しんでいるはずだ。ヴィヴィが復活しないことで、不安がいっぱいだろ!」

「そ、それは……」



 シアグリースが止めに入ったが、トウハの想いに言葉が詰まる。

 仲間想いの友人の言葉に共感したのだ。

 トウハは友情を大切にする男だ。

 仲間の為なら、自分を犠牲にしてまで達成する性格。

 ラヴファーストがそう評価していたが、逆にマイナスな点もその性格だ。

 俺も軽々しく判断したことに反省し、トウハに意見する。

 どちらも納得できる意見を述べた。



「もちろん、藤原に関して皆と同様に暮らすわけにはいかないと思っている。これまでにも各地で、かなりの被害が出ている。全員が承諾できる贖罪はさせる」



 ツトムと同じような処置をしようと思う。

 あのダンジョンに放り込むべきではないと考えているから、これについては後ほど相談しようと思っているつもりだ。

 トウハは俺の意見を聞いても、表情は変わらず怒っていた。



「じゃあもし、こいつが暴れたらどうするんだ。国防軍では歯が立たないぞ」

「もし暴走したなら、俺たちが――」

「俺たち、と言ったか? ミミゴン様」

「……ラヴファースト?」



 ラヴファーストがトウハの横に並んでいる。

 同じように、アイソトープが隣に佇んだ。

 これでは、トウハを守るように戦っているみたいだ。

 続けて、ラヴファーストが口を動かす。



「その俺”たち”に、俺やアイソトープが含まれているのか? オルフォードも加わって、戦ってくれると?」

「そ、そういう考えだけど、強制ではない。そのときは、俺がやる!」

「ふっ、滑稽だな。真の強さを理解していないから言える威勢だ。名無しの家での出来事を思い出せ。こいつは召喚獣を召喚し、ミミゴン様は殺された。それに俺との闘いでは辛勝だ。いざ敵対すれば、余裕なんてないはずだ。鑑みずに、”俺”がやると言うとはな」



 ここで、アイソトープも発言した。



「ミミゴン様、進言させていただきます。彼は今、ここで……"殺す"べきだと思います」



 俺は言葉が出てこなかった。

 ラヴファーストとアイソトープがこれほどまでに反対し、更には殺せとまで意見する。

 エンタープライズでは、人殺しは御法度だと知っている上での意見だ。

 藤原を受け入れた先の理想が崩れていく。

 今では、こいつのことを素直に育てる勇気が失っていた。



「殺せ、というのか。俺が……皆の前で」

「はい、それが正しいかと。殺す、という判断をしなければ手遅れになります。それが私の意見です」

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