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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
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152 新都リライズ―13

 建物から出て、月を見上げる。

 子機を破壊することに成功し、一分後にはイフリートから『念話』で繋がった。



(部下が子機を壊してくれたわ。これで、全ての街の子機は破壊されたわね)

「ありがとう、イフリートさん」



 周りを見渡すと、あちこちに人が倒れていた。

 いつもの新都リライズとは思えないほど物音一つない。

 街の中心で、これほど静かな環境は誰にも想像できないはずだ。

 そう、想像できないはずなのに、実現していた。

 想像を絶する光景だ。

 それが罪悪感となって、心を殺していた。

 だが、グズグズと涙を零して謝っても、元の光景を取り戻すことはできない。

 俺たちは、ここから新たな一歩を踏み出さなくてはならないのだ。

 それに、俺はヴィシュヌの開発者。

 この現実を直視し、立ち向かっていかなければならない責任がある。

 俺はまだまだ子供であると自覚しているが、それでも自分は大人という立場にあることを覚悟しなければならない。

 開発者としての責を果たし、せめてもの罪滅ぼしをする。

 逃げてばかりだった人生を、新都リライズのために尽くそう。



「静かな夜ね。こんな夜に相応しいのは、誘惑……かしら。そうでしょ、ラバート」

「勧誘だ。勘違いするな、マナディ」



 声がする方に顔を向けると、二人組の人影が俺を見つめていた。

 明らかに、良い人ではない。

 仄かに漂う爆薬の臭いが、男の方からする。

 リライズ大学前に倒れてきたビルを思い出した。

 あの崩壊と爆発、人為的なものを感じたのだ。



「まさか、私を勧誘しに来たのか? ただの情けなくて先も読めない研究者だが」

「なら、違うな。俺たちに用があるのは……心が死滅した哀れな転生者だ。お前は、どことなく前向きだな。その瞳が気に入らない」

「だったらさ、ラバート。私達の力で屈服させるのは、どうかしら。手っ取り早いと思わない?」



 ラバートと呼ばれた龍人の男は背中の長剣を抜いて、切先を俺に向ける。

 マナディは両腕を突きつけて、スキルを詠唱した。



「『超重圧場』よ!」



 俺の足が、コンクリートの地面を突き破り埋まってしまった。

 ありえないほどの重力が、全身を襲っているようだ。

 動かない俺を見て、ラバートは長剣で円を描く。

 すると、背後に光り輝く剣が無数に出現し、長剣が振り下ろされると、光の剣が一斉に斬りかかってきた。



「『百太刀光速剣』……!」



 光の剣は加速して俺のあちこちを斬り、体内に吸い込まれていく。

 瞬きする間に、数え切れないほどの斬撃を浴びせられた。

 白衣やズボンが切り裂かれ、近づきがたい服装になっている。



「ねぇ、ラバート……私の重力を物ともせず、立っているわ」

「俺のスキルも効いていないみたいだな。さすがは転生者、というわけか」



 瞳を奴らに向け、腕を振る。

 『超重圧場』を力づくで剥がし、地面に埋まった足を引っこ抜いた。



「お前たちが、一連の事件に関係しているみたいだな。私を連れて、神様に会わせようってか」

「何か勘違いしているな。確かに、お前を捕まえることも仕事に含まれているが、それは今ではない。俺たちは警告しにきたんだ」



 マナディは慌てて、ラバートに意見した。



「今、捕らえないと帝国が!」

「マナディ、帝国には奴がいる。急いては事を仕損じるものだ。また会おう、伊藤真澄」

「このまま逃がすと思っているのか!」



 俺が駆け出した時には遅かった。

 握っていた転移石を発動させ、マナディと消えていく。

 手を伸ばして掴んでも、何も触れることができない。

 虚しく、手のひらを見つめる。

 セプテンバーと同じじゃないか。

 後ろから足音がして、誰かの舌打ちが聞こえてきた。



「逃げられてしまったわね。アタクシが直々に拷問してやろうと思ったのに」

「今の奴らを知っているんですか?」



 隣で佇んだ魔人イフリートは、跡形もなくなった街並みを眺める。







「彼らは、法則解放党と名乗る組織の一員よ。一か月ほど前、グレアリング王国が襲われた事件があったでしょ」

「ああ、吸血鬼を捕らえた英雄の祝賀会が台無しになった事件ですよね。確か、レジスタンス集団の仕業だと、ニュースで報じられていましたが」

「実際は、王の息子が仲間を引き連れて、王を奪おうとしたの。その時の仲間というのが、さっきの奴ら。法則解放党を名乗っていたと、ハウトレットから聞いたわ」

簒奪さんだつ……が目的でしょうか。セプテンバーの言う神が、法則解放党のことだとしたら」



 イフリートは仮面で隠された顔を撫でている。



「王の息子を使って、グレアリング王国を乗っ取り。今度はセプテンバーを使って、リライズを乗っ取る。国を支配すれば、彼らの目的も達成しやすいということね。まだ何とも言えないけど、少なくとも危険視する必要があるわ」



 証拠は少なく、セプテンバーは法則解放党に取り込まれたというのは妄想に近い。

 ただ、その妄想が間違っている気がする。

 自分で言っておいてなんだが、セプテンバーは法則解放党に通じているのだろうか。

 本当に、今回の事件は法則解放党が引き起こしたのだろうか。

 神だと名乗るほどの力を持っているなら、直接来ればいい。

 様々な妄想が重なって、真実から遠ざかっていく気分だ。



 傭兵派遣会社も当事者だが、被害者のように思えてくる。

 何かただならぬ組織が裏で暗躍している、というと響きが良いが。

 傭兵派遣会社、法則解放党など目に見えた集団ではなく、俺達が聞いたことも目にしたこともない組織が黒幕に位置しているとしたら。

 そう考えると、この異世界は俺が思っている以上に簡単ではないということだ。

 ここは俺が待ち望んだ異世界なのか、それとも……閻魔大王が見せる幻影なのか。

 何もかもが信じられない、と脳が叫んでいるみたいだ。

 一種の錯乱状態に陥っているのかもしれないな。



 イフリートが俺に向き直って、質問する。



「さっき、奴らに何て言われたの?」

「私に勧誘してきました。それと、警告しにきたと」

「警告? あなたに?」

「分かりません。新都リライズ全体に、ということかもしれないです。法則解放党は力を示したかったのかもしれません」

「確かに、真澄ちゃんの技術を使いこなせるなら、手っ取り早く終わらせることもできたでしょうしね。わざわざ猶予を与えるような真似をしたのも、実力を見せるためなら納得よ。法則解放党には勝てない、というのが警告」



 自分の無力さを、しみじみと感じる。

 俺は警告に屈した。

 立ち向かう意志が、からきし湧いてこない。

 この惨状を目の当たりにして、歯向かう心など保っていられるだろうか。

 そのうえ、事件を引き起こす原因をつくったのは自分だ。

 申し訳ない気持ちよりも、自分を責める気持ちが強かった。

 だけど、いつまでも責めている場合ではない。

 まだ大人になりきれていないなら、ここから大人になるんだ。

 幸い、死ななければ老いることのない体。

 俺もミミゴンのように、挑み続けなければ。

 それが俺の……異世界で果たすべき贖罪だ。

 まずは、この国を立て直さなくては。

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