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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
172/256

149 新都リライズ―10

「魔石崩壊反応を起こすだと? なぜ起こるのか、解明されていないのにか?」

「既に解明されていた、とすれば? そして秘匿されたから、とすれば?」



 セプテンバーの右手は、青い輝きを放つ魔石を掴んでいる。

 カジーノの動揺に、セプテンバーは冷静に言い放つ。



「そりゃ、誰でも再現できたら困るだろ。旧都テクニークが、いくつもできあがってしまうからなぁ」



 エリシヴァが答える。



「セプテンバーの言う通り、魔石崩壊反応については解明されているわ。だけど、その方法は私でも知らないのよ。先代が残した伝説として、記憶しているだけ。あくまで、魔石崩壊反応は解明されている……ただ、それだけよ。なぜ、あなたが知っているの」

「アタクシ、ブラフの予感がするんだけど」

「あんた、警察のトップだろ。俺の顔を見ても、本気か分からねぇのか。分からないようじゃ、支配人の器ではないな」



 スタンレーとカジーノは、セプテンバーの威圧で尻込みしていた。

 エリシヴァとイフリート、伊藤真澄は無表情を貫き通す。

 心に余裕がある者の顔だ。



「魔石崩壊反応を起こす方法は簡単だ。俺が握っている魔石に、ちょいと魔力を与えてやったらいいだけさ。な、簡単だろ。加えて、いつでもできる」

「そ、そんな簡単に。なら、どうして今まで表に出ることがなかったんだ?」

「カジーノ、馬鹿な質問だな。方法は簡単だが、材料が難しいんだよ」

「ただの魔石だろ」

「ちっ、これで大臣を名乗ってんのか。国民投票も不必要だな。お前を信じて、投票した奴が憐れで仕方ないぜ。いいか、エンタープライズが持ってきた魔石は最高ランク10を超えている。魔石崩壊反応を起こすには、最高ランク10以上の魔石でないとダメなんだ。旧都テクニークでの爆発事故に使われた魔石は、ランク10。ランク10だからこそ、国が滅ぼす魔石となったんだよ」

「……じゃあ、ランク10を超える魔石だったら」

「見てみたいだろ? 想像以上の大爆発を引き起こすだろうなぁ。んじゃ、お喋りはここまでだな」

「な、何が欲しいんだ? 金か、安全か、地位か!」



 カジーノが前に躍り出て、交渉を始めた。

 命が惜しいからだ。

 必死に口と手を動かして、セプテンバーの気を引いていこうとしたが。



「欲しい物なんてあるわけないだろ。これから死ぬんだぞ、俺とお前たち全員。そんなに命が惜しいのか、ああ? ふっ、自殺願望者に命の大切さでも説いていればよかったな」

「く、くそ……」

「それじゃあ……始めるか!」

「伊藤博士!」



 エリシヴァが叫ぶと同時に、セプテンバーは腕を持ち上げ、魔石を固く握り締めた。

 そして魔石に魔力を注ぎ込み、大爆発を引き起こす。







 はずだったが。



「……なぜだ? なぜ、何も起こらない!?」

「エリシヴァ女王、終わりましたよ」

「まさか……あの一瞬で盗んだのか、俺の魔石を」



 伊藤は微笑みながら、魔石をもてあそんでいる。

 それを見たセプテンバーはため息をついて、床に座り込んだ。

 すかさず、イフリートがセプテンバーの腕を後ろに回して、手首に手錠をはめた。

 カジーノは壁に背を預けて、胸を撫で下ろす。

 しかし、まだ終わってはいなかった。

 ある疑問を頭に浮かべていたエリシヴァが、セプテンバーを威圧するように言い放った。



「さっきから、あなたの態度が気に食わないの」



 セプテンバーは肩をすくめ、冗談めかして言葉を発した。



「やけくそ、に見えるからじゃねぇか? 俺は至って普通だぜ」

「そうは思えないの。あなた、何か企んでいる表情よ。やけにあっさりと罪を認めて、魔石を奪われても反応は薄い。こうなることを望んでいたの? まだ終わっていないのね」

「さあ、どうだか」

「あなたには聞きたいことが山ほどあるの。答えてくれるかしら」

「質問によるな」

「新都リライズが得た利益、その後の流れを改めて見直したのよ。戦争ビジネスで得た金の流れね。カジーノの報告によると、使途不明金が発見されたの」



 エリシヴァはポケットから文字が敷き詰められた紙を取り出し、突きつける。

 顔を俯けたセプテンバーは、一言も声を発さない。



「支出先、支出額は判明している。この多額の金は、傭兵派遣会社に払い渡されていた。使途不明といっても、私達なら容易に想像できるわ」

「傭兵派遣会社が協力してくれているんだから、感謝する必要がある。まあ、公金の横領をしたわけだ、俺は。もちろん罪は認めるし、謝るよ」

「もう一つ、使い道の分からない金が流れているの。使途不明金というより、使途秘匿金といったところね。ここを見てちょうだい」



 エリシヴァが紙に書かれた一部分を、もう片方の指で叩く。

 強く叩かれたことにより鋭い音が響くが、セプテンバーは顔を俯けたままだ。



「支出先が全くの不明。傭兵派遣会社と違って、かなり複雑に資金洗浄がされているから、私達は降参するしかなかった。支出額についても、傭兵派遣会社より桁違いに多いのよ。支出した理由も不明。ただ、どこかに金が流れた……という漠然とした事実しかないのよ。あなたなら知っているんじゃない?」



 セプテンバーは息を吐き出すと、クスクス笑い始めた。

 何も知らない一般人が見たら、幸せなことがあったんだろうなと思わせる自然な笑いだ。



「突然さぁ……創世神に会いたくないか、と言われたらさ、どうする?」

「質問に答えてくれるかしら」

「俺、すぐに会いたいと言ったんだ。だってさぁ、神様だぜ神様。で、どうなったと思う? なんと、目の前で質問してきた人が神様だったんだよ」



 さっきまでと様子が違っていた。

 どこか狂っている、と狂気じみた笑顔を見せるセプテンバーで皆は思う。

 エリシヴァがセプテンバーを支配していたはずなのに、いつの間にか逆転されている雰囲気である。



「神様に付いていった先にはさ、驚くべきことに神様が複数いたんだよ。でさぁ、一人の神様が俺に使命を与えてくれたんだ。それに、俺の夢にも協力してくれるとも言ってくれたんだ。使命を果たせば、新都リライズは俺の物になると約束してくれた。加えて、世界の半分をやろう、とも言われたんだぜ。協力するしかないだろ」

「いや絶対”はい”って答えたら、バッドエンドになるやつだ。こいつ、嘘の誘いに乗りやがって」



 伊藤は冷静に突っ込むが、セプテンバーは止まらない。



「使命を与えられてから、傭兵派遣会社のことなんて、どうでもよくなったよ。オベディエンスと交わした約束も忘れちまった。まったく、傭兵派遣会社をあれほど支援してやったのに。ラオメイディアの、くだらない夢に付き合わされた俺を慰めてくれないか。あんな奴に、世界を支配できるものか」

「イフリート、黙らせなさい! 様子が変です!」

「急進派の教授一人を殺すためだけに、電車を襲ったんだぞ。しかも、大量の魔物を従える傭兵二人だ。絶対に成功するはずだよな! 後始末が面倒だったぜ」

「黙りなさい! 『サンダーボルト』!」



 手錠によって拘束されているセプテンバーに雷が飛来する。

 避けることは不可能に近い。

 にも関わらず、セプテンバーは笑って、魔法の雷を受け止めた。

 受け止めたのは彼の肉体ではなく。



「スキル!? 『プリバリア』を張っていたのだわ!」

「その手錠、スキルの発動を阻止するはずなのに」



 エリシヴァとイフリートの声は動揺を隠しきれていない。



「あの女王が驚いてやがる。……あれ、俺何かやっちゃいました?」

「馬鹿にしやがって! でも、動けないんじゃ意味ないな」



 伊藤が首根っこを掴んでやろうと飛びついた瞬間、セプテンバーが華麗に回避して、手錠を放り投げる。

 最初から手錠なんてされていなかった様子だ。

 イフリートが、エリシヴァを庇う。



「手錠を自力で外すなど、ありえない。何をしたの、奴は」

「傭兵派遣会社壊滅させて、終了だと思ったか? 神は、先を読まれる。さてと、次に俺がすべき行動は」

「させるものか!」



 伊藤は一気に距離を詰めるが、セプテンバーの消える方が速かった。

 魔石と異なる石を摘まんで、上機嫌な大声を出す。



「転移石! さよならだ!」

「待て、って言っても遅いか。くそ、逃げられた!」



 エリシヴァは伊藤に近づきながら、考えを述べた。



「逃げたのではなく、何かを仕掛けにいったのよ。おそらく、新都リライズのどこかにいるはず」

「新都リライズのどこかって……第0から第7のどこかってことですよね。範囲広すぎですよ」

「あなたの気色悪い機械人形で、何とかできないかしら」

「後で、ネーブルの素晴らしさを教えてやるから覚悟しろよ。とりあえず、外に出なくては」

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