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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
170/256

147 VSラオメイディア―9

「ラオメイディア様、しっかりしてください!」



 アスファルスが、ラオメイディアの頭を持ち上げ、泣き叫んだ。

 ナルシスもオベディエンスも、傷だらけの体にすがって嗚咽する。



「ラオメイディア様、死なないで! あの時、私を救ってくれた時みたいに笑ってよ!」

「まったく……情けないよ、君たちは。それでも、僕の見込んだ部下かな」

「まだ夢が叶っていないんですよ! ようやく研究が終わったというのに」

「大丈夫さ。ネモフィーラが準備してくれている。もう、僕の出番は終わったんだよ。だから、もう……泣かないでくれ。お願いだから、さ」



 ラオメイディアは三人の顔を見て、涙を流していた。

 「頼むよ」と弱々しく発するが、三人は首を振るばかり。

 三人は無力感に苛まれ、なりふり構わず泣き叫ぶ。

 俺は目を閉じて、彼らの声を聞き続けた。

 死にゆく者を止める者はいない。

 愛した人が、目の前で死んでいくことに苦痛を感じない心なんてあるのか。

 俺だって、彼らと同じ運命なら精神が耐えられない。

 彼の為に戦ってきたのに、彼を守れなかった。

 それが、どれほど自分を責めるだろう。



「アスファルス、ナルシス、オベディエンス……楽しかったよ、君たちと一緒にここまで来れて。いやぁ、君たちがいなかったら、って考えるとさぁ……」



 ラオメイディアの手を、アスファルスは両手で包む。



「ラオメイディア様、あとは任せてください」

「アスファルス、皆も頼んだよ。ミミゴン、もういいんだ……ありがとう」

「……ラオメイディア。いいか、死んで許されたと思うなよ。お前が残した爪痕は、ずっと消えないんだ。それだけのことをした、ということを」



 途端に、声の覇気が消えた。

 敵だったこと、そんなことは分かっているはずなんだ。

 だけど、俺はラオメイディアから学んだことがたくさんある。

 ずるいよな、こいつは。

 最初に出会った時は、レイランと俺を助けて。

 奴の過去を知ってしまった。

 小さく、誰にも聞こえない音量で発した。



「……忘れるなよ」



 ラオメイディアはゆっくりと目を閉じて、微笑んだ。



「……もちろん」

「聞こえたのかよ」

「生まれつき、聴覚が優れているんだ。離れ離れになっても、君たちの声は聞き逃さないよ……」



 ラオメイディアの呼吸が聞こえなくなった。

 三人は体に触れているがゆえに気付いてしまう。

 そして、冷たくなった胴体に顔を当てた。

 ナルシスは空を見上げ、心に突き刺さる声で叫んだ。



「ラオメイディア様ー!」







 死なせるわけにはいかねぇ。

 人が人を殺すなど言語道断。

 死んで許せるか。

 生きて、償え!



 俺はラオメイディアに駆け寄り、胸に手を当てた。

 助手、なんとかできないか!



〈まだ脈が動いていますー。ミミゴン、いいですねー?〉



 ああ、頼む。

 レイラン、お前がエンタープライズの国民なら分かっているはずだ。

 たとえ、復讐のためだとしても人を殺してはならないと。

 そいつは下種げすがやることだ。

 俺たちが、その下種野郎に染まったら駄目なんだ。

 俺は振り向いて、三人に約束を求めた。



「今から、ラオメイディアを生き返らせ、三人を解放する」

「ほ、ほんとうですか!」

「ただし、条件がある! 傭兵派遣会社を設立しないこと。設立しようとする奴を力尽くでも阻止すること。人前に顔を晒さないこと。もう二度と、俺たちの前に姿を現すな。それが約束できるなら……」

「約束しよう!」



 オベディエンスが頷いた。

 続いて、アスファルスとナルシスが頭を下げる。



「全員、俺に触れろ。『テレポート』で、人気のない場所に解放する。そこからは、お前たち次第だ」



 三人は、力強い手で触れてくる。

 そして『テレポート』を唱えた。

 砂一面の砂漠に移動する。

 遠くには、先ほどまで居た本社が見える。

 ラオメイディアの全身にあった傷は、すっかり完治されている。

 腹にあけられた穴も塞がっている。

 俺は魔力を使い果たし、顔中が汗で濡れていた。

 よくやった、助手。

 意識が不安定で、三人がラオメイディアに縋っている様子も朧げに見える。



「さっきの約束、忘れるんじゃないぞ」

「もちろんです。ありがとうございます!」



 アスファルスが土下座で礼を伝える。

 俺は目を背けて、絞り上げた魔力を使って『テレポート』で社長室に戻った。

 これで、終わりだな。

 シアグリースに『念話』で、取り逃がした傭兵集団をレイランが追っていることを伝えた。

 その瞬間、これまでの疲労が奥底から噴出し、死んだようにぐったりと横たわった。

 意識が深淵に吸い込まれていく。

 まだまだ、やることがあるのにな。

 そのまま睡魔に身を捧げ、目を閉じた。







 ミミゴンが傭兵集団を捕まえると言っていたので、俺は協力を申し出た。

 俺もエンタープライズの住人なんだ。

 何か役に立ちたい。

 ボロボロの体でも、回復薬を使えば、傷口が塞がっていく。

 もう回復薬はないから、慎重に行動しないとな。

 身体的には問題ないが、問題は精神が衰弱していることだった。

 思えば、あれほど長時間戦い続けたのは、ラオメイディアとの戦いだけだ。

 俺も、よく頑張ったな。



「ん? あれが取り逃がした傭兵共か」



 俺は、テル・レイランという名前に誇りを持っていた。

 自分で言うのもなんだが、解決屋では名が通っている方だと思う。

 悪い意味で、一匹狼と呼ばれていた。

 今となっては懐かしいな。

 少し身を屈めて、四人組を注視する。

 武器は持っていないみたいだな。

 もしかしたら、銃を隠し持っているかもしれないが。

 だとしても、隙だらけだ。

 ボロボロの俺でも『魔法剣』を使えば、簡単だ。

 右手で、ラオメイディアの魔剣を握る。



「おい、今すぐ跪け傭兵共! お前らの主は既に死んでいるぞ」

「な、なんだ貴様! 解決屋のハンターか!」



 傭兵の一人が、懐中電灯をこちらに向けて照らす。

 砂漠に立つ一人の戦士。

 防具に傷や穴があって、少々不気味に見えるかもしれない。

 その方が恐れてくれるかと期待したが。



「こ、こいつ!? ラオメイディア様を殺そうとしたハンターだ!」

「たしか、名前はテル・レイラン! 貴様が、ラオメイディア様を!」



 予想とは裏腹に、逆上させてしまった。



「やめておけよ、傭兵。素手で戦う気か、お前ら」



 魔剣に炎を纏わせる。

 暗い視界に仄かな赤色が現れる。

 別に殺すつもりはない。

 ちょっと攻撃を当てて、気絶させるだけだ。

 無駄に戦う必要はない。

 ないが、今の俺では難易度が高いな。

 気を抜くと、うっかり殺めてしまいそうだ。

 両手を胸の前で構えた男が叫ぶ。



「いくぞ、お前ら! 殺して、ラオメイディア様のところへ行こう!」



 先頭に立った男がいきり立つと、他の傭兵も殴りかかってくる。

 剣を両手で握り締めて、横に振るった。

 攻めてきていた傭兵は驚いて、足を止めた。

 互いに間合いを見計らい、機会を窺っている。

 そろそろ決めるか。

 そう思って、剣を振りかざした瞬間。

 唐突に、頭痛が襲ってきた。



「う、うぅ……ぐっ」

「な、なんだ。急に苦しみだしたぞ。と、とにかく今だ! 袋叩きだ!」

「「「うおー!」」」



 頭痛が激しくなり、片手で頭を押さえた。

 傭兵が音を立てて走ってくる。

 殺気が肌をチクチクと刺していた。

 そして、一発が右頬に入り、身体が傾く。

 更に、一発。

 重い一撃で全身を殴ってくる。

 踏ん張って耐えていたが、頭痛が増して、次の一撃で地面に這いつくばってしまった。

 腹や胸を何度も蹴られ、苦痛でのけ反った顔に爪先蹴りがヒットする。

 砂が鼻血で真っ赤になっていくのを冷静に見ていた。

 激痛と衝撃で呼吸ができない。

 骨が何本も折れているだろう。

 何度も蹴られても、魔剣だけは手放さなかった。

 燃え盛る剣を持ち上げ、出せる限りの雄叫びを上げた。



「く、くそ野郎がー!」



 突然叫んだことに怯み、攻撃が止まったところを俺が斬っていった。

 殺すことしか考えていなかったため、とにかく武器を振り回した。

 残りの敵は一体。

 朦朧としながらも、傭兵を睨み続けた。

 酷く怯えている。

 泣き出しそうな表情で、助けを乞うていた。

 口を動かして、何かを言っているのだが聞き取れない。

 ここでハッとなって、冷静さを取り戻した。



「俺は何をやっているんだ」



 傭兵の死体を見て、自分が恐ろしいことをやった自覚をする。

 俺は周りを見渡して、本社の方へ戻った。

 生きて帰ることが先決だ。

 部下を送ってくれると言っていたから、早く合流しないと。

 早く、はやく。







 ぱん、と破裂する音が聞こえた。

 この音は戦場でよく聞いた。

 何だか懐かしい気持ちになる。

 後ろを振り返ると、泣き崩れていた傭兵が銃口を俺に向けていた。

 銃口から煙が上がっている。

 傭兵は小さく悲鳴をあげて、引き金を引いた。

 誰かに肩を突かれたような衝撃を感じる。

 目を下に向けると、小さい虚ろから鮮血が噴出していた。

 自分が死にかけていることに今更、気付いたのだ。

 振り絞って出た力で炎の剣を振って、炎を飛ばす。

 炎の槍は傭兵に命中し、絶叫しながら焼かれていく。

 すぐに足の先を反対側に向けて、歩を進めた。

 血が溢れる空洞に、汚れた手を当てながら帰ることにした。



「はは、あっけないな。俺も、お前も。これが、俺の……最期かよ。俺、おれ……まだミミゴンに、伝えたいことがあるんだよ。もう少しだけ、俺を……生かしてくれ」



 ポケットからボイスレコーダーを取り出して、録音を開始した。

 同時に魔剣を逆手に握り、堪えていた涙が頬を伝っていった。

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