16 国名
騒ぎなく謎なく完全犯罪で終わらすための、今考え付いた全然面白くない策を枷の外れた吸血鬼に話す。
「俺が『ものまね』でお前に化け、今得た『分身』で身代わりを作って終わらせる」
「アルテックは『見抜く』を使用します。化けても、ばれるのでは」
「大丈夫だ。これも今得た『偽装表示』をいじって、何とか誤魔化す」
「ですが、牢が開き、枷もまた取り付けなくては」
「問題ない。宝箱に取り付けられた秘密道具、神龍777ツ能力で何とかできる」
吸血鬼は心配が拭いきれないようで、オロオロとした表情が続いている。
グレアリング王国を騒がせた吸血鬼とは思えないな。
「ですが、何か証拠が出るかも」
「俺(と助手)が考えた策だ、安心しろ」
「でも、謎の勘で見破るかも」
「うるせーな! 心配しすぎだ! 大丈夫だから俺に触れて、家に連れて行くぞ」
『テレポート』でオルフォードのところへ連れて行き、預けておく。
毛だらけの爺さんでも、吸血鬼より強いから何かあっても安心だ。
吸血鬼を『ものまね』し、また『テレポート』で帰って、今度は『分身』を発動する。
扉はキッチリ閉め、分身体の足に枷をはめなおし、学生の頃を思い出す三角座りで待つ。
衛兵やアルテックが起き、俺を一瞥する。
ダメだ、滑稽すぎて笑ってしまう。
こんな即興寸劇がうまくいきそうで。
思わず顔を俯かせ、膝で挟む。
笑い声を出さないよう、堪えてじっと待つ。
それでも肩の震えは止まらなかった。
分身体を操るのも、助手に任せてある。
分身体にはひたすらじっとさせ、俺はラヴファーストやアイソトープと本を探していた。
まだ見つかんないのかよ。
「ラヴファースト、アイソトープ。宝箱の俺に、まだ読んでいない本を入れていってくれ!」
吸血鬼から元の宝箱に戻り、蓋をあけ本を入れさせていく。
一気に大量の本がなだれ込んで中が窮屈になっていくが、超人二人の力で、ほとんどの本棚は一瞬にして空になり、宝箱には本で満たされている。
ここでやるべきことは、オルフォードの時も使った『引き寄せ』がついた機械の手を使うことだ。
この箱の中なら、望む物を引き出すことができる。
背面から出た金属の手を突っ込み、エルドラを助ける方法を記した本を掴みだす。
何かを握ることに成功し、箱から手を抜いた。
手には一冊の大きな本が握られている。
アイソトープに読ませると全てのページに、その内容が記されているらしい。
ガセネタが混じっているかもしれないので、内容の真偽をオルフォードに調べさせる。
ラヴファーストやアイソトープを連れて、俺たちの城に帰還し、オルフォードに例の本を渡して説明する。
「この本に記載されとる情報の真偽を見極めれば良いのじゃな?」
「ああ、世界を知る知識人の出番だ」
「任せておけ、ワシがエルドラを助けてやろう」
二つ返事で引き受けてくれた。
外の景色を見ると、日が昇り始めている。
エルドラの「処刑が始まった」の情報で分身体の首が斬り落とされたのを感じる。
吸血鬼に、このことを教える。
「吸血鬼! 全部、終わったぞ」
「これで、あなた様の部下に」
「そうだ。お前が犯した罪を忘れず、ここから世界のため働くんだぞ」
「かしこまりました! 俺に何なりとご命令を」
命令の前に聞くことがある。
「吸血鬼。名前は?」
「名前……ですか。吸血鬼、が名前でしょうか」
「そら名前じゃねーよ。本名で活躍してたら、アホだよ」
名前、名前なあ。
適当に付けるのは嫌だしなあ。
我が子を愛するように、大切で意味のある偽名を付けてやらねーとな。
「お前の偽名は……『努』だ!」
「『ツトム』ですか? 何か意味があるのですか?」
「俺の辞書にはだな。力を尽くして皆のために働く、という意味が込められている」
「ツトムですか。分かりました、今から俺は『ツトム』です。その意味の通り全力を尽くし、あなた様のお役に立てるよう努力いたします!」
「期待してるぞ、ツトム! 早速だが、命令したいことがある」
「なんでしょう!」
「服を着ろ」
闘いで衣服は無くなり、下半身のみ小さく残されている。
上半身は、鍛えられた腹筋や胸筋を見せつけていた。
強そうに見えるけど、服は着てもらおう。
メイド・イン・アイソトープで、俺デザインのオリジナル衣装、世界に一着しかないレア物だ。
日本で芸人活動している時に、服のデザインを何度か担当したことがあった。
その時を思い出しながら、デザインした衣装。
ラヴファーストが、ビジネススーツっぽい装備だから、俺の仲間はスーツっぽいので統一しようかなと思っている。
日本でもよく見るサラリーマンが着るような、スーツを着用してもらおう。
シャツは真っ白でネクタイは赤、背広は黒。
おまけに黒のベストも。
あと、ごちゃごちゃ何か分からん物も付けておくか。
スラックスは灰色で、吸血鬼が着けてそうなマントも装着。
感想としては、宝塚歌劇団の方ですか、と言いたくなる。
若干戸惑っているみたいだが、問題点など何もない。
戦闘でも大活躍のはず。
動きやすいし、防御力もそのへんのハンターが装備する防具より遥かに高い。
血で汚れようが、泥まみれになろうが『自動洗濯』のスキルが付与されている。
丸洗いOKのスーツはもう古い、時代は汚れ無効バトルスーツの時代だ。
理解しやすいよう、スーツの機能を説明した。
「今の説明で、凄さが分かっただろう」
「はい……」
「満足してもらったところで、ここからが本題だ」
そう仕事だ。
実はアイソトープから一つ気になる事を聞いていて、この立派な城近くの地面に空洞があるらしい。
それも、ものすごく大きい洞窟になっていて、中には強力な魔物が生息している。
入口は塞がっているので、もちろん誰も入っていない、そのままのダンジョンだ。
アイソトープが丁寧に入口となる穴をあけ、石の階段も作製してくれた。
俺らは移動し、目的地のダンジョンに到着。
「ここを、ツトムに攻略してもらいたい! いずれ俺らの国の土地となり、発展していく重要な場所となる。突然、魔物が現れたら大変だろ? そうなる前に中の魔物を全滅させ、新たに面白いことへ再利用しよう、と思っているからよろしく!」
「ツトム、頑張りましょう!」
ツトムは階段を下りていき、姿が闇に溶け込んでいった。
何かあったら『念話』で、と伝えておいたし大丈夫だ。
俺は、どうしよっかな。
あっ、名前で思い出した。
「エルドラ。国名をどうする? 決まっているのか?」
(そ、そうだな! 我が国にも名前は必要だな! 国のことよりも、ミミゴンの製作に気を取られていたから、すっかり頭から抜けていたわ)
「じゃあ、お前の国なんだし【エルドラ】でどうだ?」
(いやいや、我だけの国ではない。言っただろう、差別を越えた世界一平和な国だと。だから【ミミゴン】だ。お前は、全ての種族をまとめ上げる王でもあるのだ。ミミゴンの名が国名でよい)
それじゃ、ダメだろう。
自分の名が国なんて恥ずかしい。
名前を付ける行為はこれで3回目だ。
1回目は、自分の子供に名前を付ける時。
キラキラネームとか流行っていたが、正直恥ずかしい思いをさせたくないし、名前は生きていた証にもなる。
大切に育てると誓い、普通に読める名を子に命名した。
えっと、名前は……思い出せない?
おいおい、俺だけじゃなくて、息子の名前も思い出せないのか!
父さん母さん泣いて喜んでいたじゃないか、孫の〇〇が見れてよかったって。
そう思えば、妻の名前も思い出せないし、友達の名前も思い出せん。
夫婦の会話を思い出そうとしても、名前だけがすっぽりと抜けて、会話していた。
まだ慣れてないだけで、そのうち思い出すかもしれないな。
2回目は、さっきの吸血鬼。
3回目は、今だ。
ちょっと目を閉じてじっくり考えるか。
今から考える国名が世界に広まり、目印となるのだから。
1時間経過したところで目を覚ます。
あれ、寝てたのか。
(起きたか、ミミゴン。ここんところ、働きっぱなしだったしな)
「すまんすまん。名前は考え付いたから」
(なんだと!?)
なんかこうウトウトしているときに、ポワ~ンと出てきた名前。
「【解放の国 エンタープライズ】だ」
(ほうほう、意味は?)
「意味は冒険的な感じだが……何でもいいんじゃないか。全てが解放される国だ」
(我も気に入ったぞ。エンタープライズか!)
気に入ってくれて何よりだ。
俺も深く考えたくないから、これでいこうと思っている。
そして国名も決まったんだから、やることは決定された。
他の国に国家承認してもらい、ちゃんとした国として世界に紹介してもらおう。
これで国づくりの第一歩だな。




