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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
169/256

146 VSラオメイディア―8

 ラオメイディアが『龍化』してから、動きに無駄が無くなった。

 それに躊躇もない。

 『魔法剣:雷』で生み出す速さに追い付かれることがある。

 だが、レイランの方に分があるように思えた。

 バルゼアーによる指導、自分自身が体験してきた戦闘がレイランを強くしている。

 ラオメイディアも剣を振るうが、それ以上に上手なのがレイランだ。

 あらゆる感覚を研ぎ澄まし、まるで未来を見ているかのような剣捌きで奴の肉体を斬っていた。

 俺は聖剣を『ものまね』し、レイランの武器となっている。

 まさか、こうなるとは思っていなかったが。

 ラオメイディアの魔剣には、敵の武器を腐蝕させる能力があるらしいが卑怯だ。

 刃と刃がぶつかり合う時、魔力を消費して腐蝕に対抗している。

 おかげで、魔力は尽きようとしていた。

 早期に決着させなければ、俺らは負けてしまう。

 エンタープライズの勝利は、レイランに託されているのだ。



 助手、近くに敵はいないか。

 この戦いを邪魔されたくないんだ。



〈三人が、こちらに向かってきていますねー。エレベーターに乗っていましたがー、途中で停止してー、階段を上って来ていますー〉



 ここまで来るのに、かなりの時間が必要だな。

 ラオメイディアの部下が三人。

 今は気にする必要はないな。

 で、魔剣の腐蝕に抵抗し続けられるか?



〈もちろんですー。心配はありませんよー。それに、この聖剣D・ワーフは使用者の意志の力が、そのまま強さとなりますー。レイランが抱える意志は、何者にも負けない固さがありますー。勝利を信ずるに値する意志を感じますー〉



 それを聞いて、安心した。

 助手はハッキリと言い切ったのだ。

 俺の中で秘めていた不安が一つ解消される。







 両者は立っているのがおかしいほど血を流し、武器を握っていた。

 『龍化』の効果はなくなり、元の状態に戻っても戦うことは諦めない。

 けれども、身体は限界を迎えていた。

 糸の切れた操り人形のように、腕は垂れている。

 意志は強くても、動かす気力が尽きてきたのだ。

 そんな状態なのに、二人は剣を持ち上げた。

 ほぼ同時に、剣を振るう。



 先に斬られたのは、ラオメイディアだった。

 鏡のように磨き上げられた聖剣が胸を一直線に薙いだ。

 ラオメイディアは刃に押され、魔剣を落とす。

 間を空けずに、次は肩から腰まで聖剣を振り下ろした。

 胸には交差する十字の傷口ができあがった。

 彼が着ていたスーツは跡形もなく消え去り、激戦を裏付ける傷痕ばかりが目立つ上半身が晒された。

 後ろに倒れそうになる衝撃を両足で踏ん張って、体勢を整えるラオメイディア。

 レイランも、涸れた喉を叱咤して声を張り上げた。

 聖剣の先を、ラオメイディアの腹に向ける。

 そして、走りだした。

 銃から発射された弾丸のように、残された力を振り絞って駆けていく。

 ラオメイディアは、ただ呆然と立ち尽くす。

 諦めた表情ではない、受け入れる表情だ。



「うぅ……はは、ははは……」



 切先は、ラオメイディアの背中に突出していた。

 剣身は血に塗れ、燃え盛る炎に照らされている。

 ラオメイディアの腹に沈んだ聖剣を、両手で持ち直す。

 レイランは覚悟を決め、力強く言葉を発した。



「見せてやる! お前を倒すために身につけた必殺技を!」



 魔力が手を伝って、聖剣に集中する。

 『魔法剣:炎』を発動させ、刃が炎に包まれた。

 更に炎の勢いが増していく。

 レイランが魔力を注ぎ込むたびに、炎は勢力を拡大していった。



「魔法剣を極めた最終奥義! 『属性解放聖剣:炎』!」



 レイランの魔力を取り込んだ聖剣は、炎を解き放つ。

 魔力は爆発力となって、何もかもを吹き飛ばした。

 社長室の壁は耐えきれず、爆発に巻き込まれて飛んでいった。

 重々しい轟音が響き渡り、視界が光に覆われる。







 ラオメイディアは抉れた腹部を見せて、倒れている。

 壁を失ったため、風が焼き焦げた紙片を外にばら撒いていた。

 雲が移動し、月明かりが差し込む。

 爆発は炎すらも飲み込み、社長室は静寂に包まれている。

 風の音、コンクリートが崩れる音。

 外からは、勝利の歓声が聞こえてくる。

 火の粉が舞う中、レイランは足を踏み出した。

 とても重い一歩を繰り返して、ラオメイディアの傍らに佇む。

 一呼吸して、ラオメイディアの口が開く。



「復讐をして……何か得られた?」

「……俺は、お前を倒して自殺するつもりだった。だけど、この戦いを経て、俺は……”生きる目的”を見つけた。それに、お前を殺しても復讐は終わらないことに気付いた。マギア村が襲われた本当の理由、俺はそれが知りたい。だから俺は、戦い続けることを決めた」

「そういうものなのかな、復讐の先にあるものって」



 レイランは聖剣を後ろに持っていく。



「ミミゴン。元の姿に戻ってくれ」

「……いいのか?」

「もう、俺には必要ない。致命傷で、死に瀕している。……助からない」



 俺は聖剣から人の姿に変身する。

 改めて周囲を見渡すと、酷い惨状が理解できる光景だ。

 ここはもう本社として、利用することは不可能なほど破壊されている。

 そうか、勝ったんだな俺たち。

 ラオメイディアが小さく目を開けて、レイランを見つめる。



「……優しいね」

「勘違いするな。今は、情報を聞き出す時間だ」

「厳しいな、君は。僕の糧として存在していた君に、倒されるなんて。強くなったね……レイラン。こうなるんだったら、君を殺しておくべきだったよ」

「後悔は目を閉じてからだ。マギア村の子供たちを奪うよう依頼した依頼主は誰だ?」



 さっきまで猛威を振るっていた人物とは思えないほど、弱々しい声が聞こえる。



「依頼主は複数の人物を通じて依頼していた。大本を辿って調べた結果、ある人物が浮上したんだ。法則解放党、最高責任者……乃異喪子だと推測した。依頼主はおそらく、乃異喪子だよ」

「乃異……喪子。奴は、どこにいるんだ!」

「所在不明さ。僕はあらゆる情報屋を駆使したけど、足取りはつかめなかった。ただ、奴が以前、居た場所なら分かっている」

「聞かせてくれ。手掛かりなら、あるかもしれない」

「……絶海に漂う戦艦。しかし、廃船だ。誰もいない、まるで幽霊船みたいな状態だよ」

「……海? どこの海だ?」



 ラオメイディアは鼻孔を広げて、空気を嗅いでいた。



「世界地図を見て、左の海だ。グレアリング王国周辺に、ロス村という村落がある。ロス村より西を目指した先の海が近いはずだよ。今頃、その辺を漂っているさ」



 それを聞くと、レイランは月を見上げた。

 俺は『念話』で、ある人物と繋ぐ。

 傭兵派遣会社を壊滅させたことを伝えるために。



(……終わったのね。エリシヴァ女王に伝えても大丈夫?)

「ああ、構わない。エンタープライズが……傭兵派遣会社を壊滅させたとな」



 「エンタープライズが」を強調して、俺は心から喜んだ。

 たった一週間ほどだったけど、長き戦いが幕を閉じるのだ。

 勝てないと思っていた相手に勝った。

 それは、エンタープライズの結束力が増したという証明。

 すぐにでも、勝利の祝賀会を開きたいところだ。

 『念話』の相手イフリートは声を低くして尋ねてきた。



(傭兵派遣会社壊滅……この報告がされた途端、世界は大きく動き出す。ミミゴン王に休む時間はないわ)

「もちろん、分かっている。今度は戦争終結に向けて、動かなければいけないな」



 先行きが不安とまではいかないが、俺個人ができることには限界がある。

 それでも、足掻いていかなければならない。

 エルドラの夢を叶えるために、俺は進み続ける。



(それと、ミミゴン王。一つ、いいかしら)

「ん、なんだ?」

(とある解決屋ハンターが、傭兵集団を取り逃がしたみたいでね。どうやら、本社の方に向かっているらしいの。あなたたちで捕らえてくれない?)

「傭兵集団を取り逃がした? 余力のある兵士に向かわせるとして、数は?」

(四人ね。新都リライズ第4番街の近くよ。頼んだわ)

「ああ、分かった。そっちも頼んだぞ」



 『念話』を終えると、話を聞いていたレイランが近づいてきた。



「その傭兵、俺が捕まえてこようか?」

「疲れただろ? 無理する必要はないんだ」

「無理しているつもりはない。落ち着いた今なら、回復薬が飲める。それに雑魚だろ、俺だけで十分だ」

「はぁ、分かった。けど、武器はどうするんだ」



 無理矢理に笑ったラオメイディアが指を伸ばす。



「そこに落ちている僕の武器……魔剣を持っていくといいよ」



 少々苦悩した後、レイランは拾いあげる。

 そして魔剣を片手に携えて、扉を目指した。



「じゃあ、行ってくる」

「無茶するなよ。後で、部下を向かわせるからな。それから、祝賀会も用意しておく!」



 扉の閉まる音が聞こえて、ラオメイディアは息を吐き出す。

 これから死ぬというのに、安らかな笑顔を浮かべている。

 だから、話しておきたかった。



「正直、ラオメイディアには嫉妬した。だってさ、傭兵派遣会社はあらゆる種族を束ねているよな。こっちは種族間の差別をなくすのに必死なのに、お前はいとも容易く仲間にしやがる」

「嬉しい言葉だね。だけど、この技術は……先生の真似をし続けて得たものさ。それに先生の方が、もっと優れている。どこまでいっても勝てないよ、あの人には」

「真似し続けるだけでも大変だろ。継続する力というか、執念というか。そういえば、その先生も俺と同じ転生者らしいが」

「ミミゴンも地球という異世界から来たの?」

「ああ、魔力も魔物もいない。だからといって、平和ではなかった」

「まさか、先生の言っていたことは本当だったんだ。先生はね……」



 ラオメイディアは、先生について語り始めた。

 天国進あまくにすすむという日本人。

 乃異喪子に回収された子供たちの面倒を見る先生。

 孤児院では、とても愛されており、ラオメイディアの教育を施したのも彼だ。

 ラオメイディアの話を聞いている限り、聖人といっても過言ではなさそうだ。

 しかし、天国は殺された。

 乃異喪子の実験に付き合わされ、孤児院の子供を残して死んでしまった。

 彼の夢は、戦争を無くすために世界を変えること。

 死者は、もう夢を叶えることはできない。

 死ぬと夢を失うから。

 だけど、彼の夢を継いだものがいた。

 ラオメイディアは彼の夢を背負い、意志を受け継いだ。

 だから、俺らと戦う運命が定まった。



 そして、夢は夢のまま、消えていく。

 叶えることが叶わぬまま、夢は散りゆく。



「ラオメイディア……その夢、俺の夢にしていいか?」



 口角を上げて、微笑む。



「僕に聞かれても困るよ。自分で見つけた夢は、自分に聞くんだよ」

「正論だな」

「けど、どうしても迷ってしまったなら……」



 ラオメイディアは『異次元収納』で、黒い手帳を取り出した。

 震える腕を突き出して、手帳を渡す。



「それを見てほしいな。夢に立ち向かい続けた者達の日記さ。多少は楽になるはずさ。はぁ……もう時間みたいだ。最期に、君に会えて……よかったよ」

「ラオメイディア……」



 後ろの扉が勢いよく開かれる。

 三人の足音が一斉に、ラオメイディアのもとに向かう。



「君たち……」

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