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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
167/256

144 転生者:藤原良太

(ミミゴン! 奴は手強い! 強力な魔力が込められた光弾には気を付けるのだ!)

〈あのですね、エルドラー。ミミゴンを操作するのは私なんですー。私を応援してくださーい〉



 俺の体は、宇宙を目指すロケットのように急上昇している。

 下から、藤原良太が操る機械龍イマジンが迫ってきていた。

 蛇足と戦った時と同じように、できるだけ地上に影響がでないよう、高高度で戦うのだ。



〈さてとー、ここらへんでやりますかー〉



 体は宙に固定され、顔を下に向ける。

 モークシャと国防軍との戦いがギリギリ見える位置だ。

 苦戦している様子ではなさそうだが、数の多さに少し押されている。

 ゼゼヒヒに憑依されたマトカリアは回復薬を『調合』し、メイドがそれを持って戦場に走っていく。

 ラヴファーストやアイソトープも戦いに加わっているが、無双しているわけではない。

 おそらく、藤原の光線を防いだことで魔力を使い果たしたのだろう。

 それにしても、いつもの覇気がないように思えた。



〈さ、よそ見していないでー、私達はこいつを相手にしましょー〉

「ああ、分かっている」



 早速、機械龍の口から光弾が発射された。

 同時に、翼や胴体からミサイルや銃弾が飛び出してくる。

 俺は体を器用に動かして回避し、避けられない攻撃は『究極障壁』で防ぐ。

 ここで、コペンハーゲン博士が『念話』で会話を求めてきた。

 すぐに接続して、内容を聞く。



(ミミゴン様、実はVWAはイマジンにも内蔵されているんだ)

「じゃあ、トウハがVWAを破壊しても、こいつが破壊されていなければ、モークシャは動き続けるということか」



 この前のセルタス要塞の出来事で、疑問点が一つあった。

 VWAは本社に設置されているはずなのに、遠く離れた地でもモークシャが動いていた。

 コペンハーゲンの説明によると、範囲は意外と狭いらしい。

 だから、なぜセルタス要塞でも、モークシャが活動できたのか不思議だったのだ。

 あの時、藤原良太はモークシャが発動したのを確認してから、飛び去った。



(おそらく指示だけを与えて、帰ったんだ。彼の言う実験というのは、イマジンに内蔵されたVWAでも機能するかの確認、それと戦闘データの収集。オベディエンスが命じた実験だ、どこまでも完璧を求めるだろうね)



 本社を守るVWAと、派遣先で使えるVWA。

 モークシャの中で蠢くプラーナが視界の情報を送り、VWAは学習する。

 順調に進めば、各地にモークシャとイマジンを送り込んで、戦闘データを回収していただろうな。



(まだ稼働して日は浅い。データ量は少ないから、最初から攻める方がいいね)



 一気に攻めたいが、近くでダイナミック・ステートが暴れている。

 どうやら攻めあぐねているみたいだ。

 さすがは傭兵派遣会社といったところか。

 それから、博士にイマジンが強い理由を聞いてみた。

 さっきの光線、俺とラヴファースト、アイソトープの三人掛かりでようやく打ち消すことができた。

 いったいどうなっているんだ?



(操縦している藤原良太という男は、とても魔力が多いと聞いたよ。機械龍は、もともとディアドラゴンという魔物を改造して、AI搭載人造魔生物イマジンへとなったんだ。ディアドラゴンは、魔力を蓄えるスキルを持っているんだ)



 藤原良太が持つ豊富な魔力を溜め続けたということか。

 それなら、俺やラヴファーストたちの力が必要となった理由が分かる。

 それに光弾を放ち、空飛ぶ武器庫は今だ健在。

 当分、尽きることはなさそうだ。

 持久戦に持ち込まず、一気に攻めるしかない。

 助手、いけるか?



〈スキルで、ステータスは出来る限り上げていますー! それでも不安な部分はありますがー。ですが、頑張ってみますよー〉



 頼んだ、助手。

 防戦一方だった状況から、攻めにかかる。

 エルドラの『ものまね』は、既に二回使用している。

 それにエルドラ一回分の魔力も消費した。

 エルドラの『ものまね』は一日三回が限界だ。

 つまり、今のエルドラで最後なのだ。

 敵の攻撃でエルドラが解除されてしまったら、どうしようもない。

 『究極障壁』で身を守りつつ、究極魔法を機械龍に当てていく戦い方で攻めていった。

 途中、機械龍のレーザー光線が放たれ、回避したものの、運悪くレイランとラオメイディアが戦う離着陸場を襲うことになった。

 レイランの邪魔はさせないと約束したのにな。







 30分ほどして、オルフォードが『念話』である情報を伝えてくれた。



(藤原良太に関する情報。お主が知りたがっていたな)



 ああ、俺と同じ転生者だ。

 いったい、どういう経緯でラオメイディアの下に身を置いたのかが気になってな。



(いつ、この世界に来たのかは不明じゃが、ラオメイディアの仲間となったのは今から57年前のようだな)



 57年前に?

 奴らが傭兵派遣会社を立ち上げた頃か。



(ラオメイディアの部下に、オベディエンスというドワーフの男がいたじゃろ。当時、藤原良太は”神”と呼ばれ、リライズ大学の地下に封印されておった。どうやら、遥か過去に別の転生者によって、魂を半分奪われたみたいじゃ。封印された理由としては、ディービ帝国という今は無き国を滅ぼしたからみたいじゃな。まだ新都リライズが欠片もなかった時代、地面に空間をつくって封印。その位置が、ちょうどリライズ大学の真下にあり、見つけた研究者たちが研究を始めた。研究者の中に、オベディエンスが含まれており、彼がこの研究の責任者らしいな)



 ラオメイディアは、オベディエンスを仲間にすると同時に”神”を手に入れたわけか。

 もともと、ラオメイディアは”神”を手にするために、オベディエンスに近づいたのかもな。

 ”神”の正体は、転生者だ。

 最強の人間を味方にすれば、誰が相手でも対等に戦えると考えたのだろう。

 それともう一つ、聞きたいことがある。

 あいつは確か、名無しの家を襲った召喚獣アンビバレンスも操れるよな。

 なぜ使わないんだ。



(この前、ラヴファーストが倒しおったじゃろ。再詠唱時間を要求されておるのじゃ。おそらく、一年ほどかのう)



 つまり、この戦いで使用される恐れはないということだな。



(ああ、問題はない。じゃが、転生者の魔力量にも気を付けるのじゃ。それと魔物を呼ぶスキルも持っておる。発動させてはならんぞ)



 ありがとう、オルフォード。

 名無しの家に押し寄せた魔物の大群は、藤原良太の仕業か。

 助手、短期決戦だ。



〈指示だけは立派ですねー。『雷を司る神の我儘アルティメット・トール』ー!〉



 究極雷魔法を発動させると、宇宙から雷が落ちてくる。

 一筋の雷光は、機械龍に直撃した。

 しかし、相手にしているのは同じ転生者。

 思うようにいかず、『究極障壁』で無効化されてしまった。

 だが、障壁は一瞬、視界を閉じることになる。

 その隙を突いて、エルドラの強烈な一撃を叩きこむ。

 障壁が消えた直後に襲ったため、見事にダメージを与えることができた。

 ただの拳であれば、被害は少ない。

 放った拳は、エルドラの力に加えて、スキルで強化されており、限界まで高めた最強の一撃である。

 巨大な胴体に打ちつけた衝撃は、機械龍を大きく吹き飛ばす。



「くそミミゴン! 俺の方がステータスは上なんだよ!」

「力は上でも、力を扱う知性がなければ役立たずだな。しかし……堅いな。今のでも、気絶しないのか」

〈機械龍本体に薄い障壁が張られていますー。それでも、ヒビが入りましたから、あと六回ほどで破壊できますねー〉

「面倒くさい敵だな」

(だが、倒さねばならん相手だ。大丈夫だ、我と助手とミミゴンがいる。数では、こちらが有利なのだ!)

「いや、数じゃなく質が必要なんだよ」

〈エルドラがもう少し、強ければねー〉

(もう”最強”名乗るの止めよう……)

「別に最強を自称する必要はないんだ。俺は変わらず、エルドラを頼りにしているからさ。一緒に来たし、一緒に戦うんだ。もちろん、助手も頼りにしてる。心強い仲間だ」

(ミミゴン! 最後まで我は応援し続けるからな!)

〈べそべそ泣かないでください、エルドラー〉

「さ、終わらせるぞ!」







 一時間ほど経過したか。

 奴を護っていた障壁を破ることに成功した。

 あと、一発。

 一発を打ち込めば、終わりだ。

 地上も、シアグリースを中心に健闘してくれている。

 指示に関して、VWAに引けを取らないほど戦場を支配している。

 言うなれば、シアグリースとVWAの戦いというべきか。

 VWAはモークシャを使って、学習している。

 だがな、シアグリースはそれ以上に学習しているぞ。

 地上戦だけではなく、空中戦もある。

 上空では、戦闘ヘリが散りばめられている。

 操縦者はおそらく、モークシャに適合しなかった者。

 空からの一方的な攻撃。

 かと思ったが、国防軍にも空中戦が得意な種族がいる。

 鳥人だ。

 鳥人の頭であるガルダを筆頭に、他の鳥人たちが戦闘ヘリを相手にしている。

 武装されたヘリコプターは銃弾による集中砲火を浴びせているが、鳥人は怯まず突撃し、中の操縦者を引っ張り出して睡眠魔法で眠らせている。

 墜落するヘリを別の鳥人が受け止め、捕らえた操縦者はメイド達のもとへと連れて行かれた。

 それらを繰り返し、空を完全に制圧した。



 機械龍から焦る声が響いてくる。



「魔力が無くなりそうだ。くそ、ちょこまかと」

「ヒット&アウェイでしか勝てそうにないんでな」



 さすがに転生者と言えども、長時間の戦いに疲弊してきたみたいだ。



「うぜぇんだよ。俺が出会ってきた転生者は全員うざい。なんで俺に自由を与えてくれねぇんだよ! 俺には力がある! あるんだよー!」



 藤原は正気を失ったのか、勢いよく加速して突進してきた。



「そういう我儘わがままが、自由を奪ったんじゃないのか。自業自得ってやつだよ!」

「うるせぇー! これで終いだー!」

「ああ、これで終わりだな」



 機械龍の首を真っ直ぐに伸ばし、先端から突っ込んでくる。

 敵の頭突きに対し、こちらは魔力を集中させた右腕を放った。

 頭と拳が衝突し、何もかもを揺らす衝撃波が発生した。

 どちらも強力な一撃であることを証明している。

 そして、圧倒したのは。



「また俺様が負けるのかよ! 俺様は、転生者なんだぞー! 創世の神に与えられし転生の力が、なぜ! なぜ、こんな弱っちい転生者に負けるんだよー!」

「お前は何も分かっちゃいない、所詮はガキなんだよ! 今まで、どんな気持ちで生きてきた! 誰にも叱られない人生、さぞ楽しかったことだろうな! だが、そんなもん長続きしねぇよ。俺が叱ってやる、大人として!」



 機械龍の外装が剥がれていく。



「偉そうに言うな! 何が大人だ! あんたに何が分かるんだよ! 藤原良太の!」

「俺には、お前ぐらいの息子がいる。生きていたら会えたんだ。愛を注ぐべき息子は、死んで会えなくなった。息子がやんちゃしたら、叱ってやる。親として、当然のことだ。俺がお前の親代わりになってやる。俺が存分に叱ってやるさ。お前を良い人間に育てるためにな!」

「やっぱり大人という存在が憎い。特に、てめえみたいな親気取りのやつがな!」



 機械龍は衝撃によって身が粉々になっていき、中で隠れていた藤原良太の姿が露わになった。

 口を大きく開けて吼えていたが、しばらくして意識を失い、機械龍ともども地に落ちていった。

 『念話』で、ラヴファーストに回収を命じた。

 これで転生者との戦いは終わりだ。

 はぁ、疲れたよ。



(ミミゴン、よく戦ったな。さすがだ!)



 いや、藤原が馬鹿で助かったよ。

 あいつに、ラオメイディア並みの知性があったら、俺が負けていたな。



〈ほんとですよー。精神年齢の低さに救われましたねー〉



 胸のあたりが痛む。

 それに、呼吸も乱れている。

 魔力の使いすぎか。

 そろそろ、エルドラが使用できなくなる時間だな。



〈時間切れですねー。なんだか、以前よりも使用時間が短くなってきましたねー〉



 今回は全力を出し尽くしたんだ。

 魔力の消耗が激しかったんだな、きっと。

 突如、龍の体が光に包まれていく。

 時間切れか。

 一瞬にして、元の機械の体に戻る。

 八つの回転翼が付いたドローン、オクトコプターに変化した。

 頼むから、あいつ以上に強い敵、出てこないでくれよ。

 そう祈って、燃え盛る建物の社長室に向かった。

 建物が黒煙を上げて破壊されている光景を見ると、自分の非力さを認めるしかない。

 結構、本社への攻撃を許してしまったな。

 社長室で二人が戦っているのが、遠くからでも分かる。

 決着が付いていないみたいだな。



 地上で蠢いていたモークシャも動きを止め、ダイナミック・ステートも倒されていた。

 クラヴィスとツトムとトウハが笑って、こちらを見ている。

 あとは任せろ。

 どこに付いているのか分からないドローンの目で、彼らに伝えた。

 残すは、ラオメイディアだけ。



〈もう、ミミゴンは戦えませんねー。魔力も気力も限界に近いですー〉



 レイランなら心配ないさ。

 きっと勝てる。

 この戦い、エンタープライズの勝ちだ。

 そう言葉にしたものの、どことなく不安だった。

 何か見落としていることがあるのではないか、と心が落ち着かない。

 エンタープライズと傭兵派遣会社が戦っているはずなのに、なぜか第三者の存在を疑ってしまう。

 油断できないな、最後まで。

 勝利を不審に思う心持ちのまま、戦いの最後を見届けるために足を運んだ。

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