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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
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ヒストリー オベディエンス

「なぜです! なぜ、私の研究を認めてくださらない!」

「君は、リスクという言葉を知っているのか? それに、この判断は大統領がなされた。よって君を、リライズ兵器開発部門から除名する」



 リライズ大学最上階にて、二人は言い争っていた。

 互いにメリット、デメリットを伝えあう。

 学長は、18歳のオベディエンスに期待していたが、その気持ちはとうに消え去っていた。



「ジントニック学長、”神”を目覚めさせることが、この国の発展につながるのです。先ほど行った研究発表でも、その効果は目を見張るものでしたでしょう!」

「オベディエンス君、君はあらゆる分野に精通した学者だ。だが、君には兵器開発の才がなかった。ただ、それだけのことだ。大丈夫、教授にすぐになれるよう、私の方から推薦しておくから。後日、国から通知が届くはずだ。楽しみして待っていてくれ」

「しかし!」

「それと、兵器開発部門での事は誰にも話してはならない。国家機密なのでな。さ、出口は、あっちだ」



 学長は淡々と扉を指さした。







 大学を飛び出して、帰路に就く。



「あの分からず屋め。国も、まるで話にならない。あんなので大統領と名乗れるものだな。私が”神”を目覚めさせれば」

「――世界を制すことができる。そうだよね、オベディエンス君」

「ああその通りだ……って誰だ?」



 目の前に、背の高い細目の龍人が立っていた。

 男は笑って、オベディエンスの前に立ち、ドワーフを見下ろした。



「……武器屋なら商業区だ。ここは、リライズ大学。あなたには関係のない場所だ」

「そうとは限らないよ」

「なに?」



 男は片膝をついて、オベディエンスの目線に合わせた。



「僕の名前は、ラオメイディア。世界をより良い方向に導く主導者さ」

「主導者だというなら、部下は何人いるんだ?」

「エルフの子……だけかな。あとで、グレアリング王国から誰か連れてこようと思っているけど」

「で、”神”を使って何をするつもりなんだ?」

「決まっているでしょ。世界征服だよ。僕はね、間違いだらけの世界を解体し、一から作り直そうと考えているんだ」



 熱意が宿った力強い言葉に、オベディエンスは苦笑する。

 この男は何を言っているのだろうと。

 けど、協力してみたいという気持ちも現れる。

 実際、オベディエンスも同じことを考えたことがあった。

 彼は第0番街の生まれで、新都リライズまで必死に上り詰めた。

 ひたすら学問に励んだ日々を思い出す。

 私は新都リライズを崩壊させるために、勉強してきたんだ。

 なら、この男に利用されてやろう。

 国に操られるより、この男に操られる方が何倍もマシだ。



「俺なしじゃ、神は操れないし、復活させることもできない」

「分かっているよ。だから、君に声をかけたんだ」

「なら、約束してくれ。俺に自由を与えてくれるとな」

「ああ、オベディエンス君に束縛は似合わない。僕が真の自由を与えよう」



 ラオメイディアは、リライズ大学へと歩いていく。

 オベディエンスも男の行動に理解し、共に歩いた。

 彼なら、不可能を可能にしてくれるかもしれない。

 いや、ラオメイディアだけが実現できる。

 こんな想像でしか存在しない世界にするという幻想を、この男はバカ真面目に叶えようとしているのだ。

 目の前の人物に、確かな尊敬と従順であることを誓った。

 オベディエンスは正直な質問をした。



「”神”は地下で厳重に管理されている。失敗したら終わりだぞ」



 ラオメイディアは、笑いながらも自信満々に答えた。



「成功しても失敗しても、最後に笑うのは僕なんだ。安心して、僕を信じなよ」

「変なことを言うかもしれないけど、あなたといると心が落ち着く。成功が約束されているように思えるんだ。あなたは私を受け入れてくれた。それが、とても嬉しかった」

「天才だからこその苦悩だね。君が人々に合わせる必要はない。君に合う人々をつくるべきなんだ」

「そうか、私は無理に理解者を増やそうとしていた。だから、納得してもらえなかった。まったく、私は愚かだ。はやく、あなたみたいな人を見つけるべきだったな」

「それから、ドワーフの君にも戦ってもらうよ。そろそろ、ドワーフは戦闘に向いていないという認識を崩してもらいたいんだ」

「ああ、世界を相手にするんだ。それぐらい可能さ。大国が相手でも倒す研究、最高に面白そうだ」







「私は、この日の為に研究を続けてきた。私の計算に間違いがないことを証明させてくれ、トウハ!」

「うるせぇ……絶対、勝つ!」



 オベディエンスは一回り大きい機械を身に纏い、ひたすらトウハを殴り続けていた。

 鉄の拳に魔力を組み合わせて、トウハの全身を傷だらけにしている。

 さらに、トウハの攻撃は必中しない。

 どんなに素早く動こうとも、大斧が振り下ろされた時には消えている。

 広い本社の玄関は、血と砕けた壁の破片が散らばっていた。



「くそ、『未来予知』がうぜぇ!」

「想像できなかっただろう? 雑魚のドワーフに殺される自分を。私はな、真剣なんだよ!」



 言葉に続いて、大岩ほどある拳を打ちつけた。

 トウハの胸を砕く勢いで放たれ、虚しく宙を舞う。

 血の混じった唾を吐いて、起き上がるも次に試す攻撃が思い浮かばなかった。

 トウハは、兄のクラヴィスが羨ましいと感じていた。

 国防軍の中では最強のトウハでも、戦闘技術で兄に勝てたことは一度もない。

 だから兄を尊敬して、自分を情けなく思った。

 兄なら、どうやって攻略するのだろうか。

 クラヴィスに縋る思いで、脳を回転させたが。



「馬鹿の一つ覚えか。ただ振り回して、当たるわけないだろうが」



 横一文字に振るった刃は空を切るだけで、かすりもしなかった。

 未来を知ったオベディエンスは、がら空きの背中を襲う。

 血を吐き出しながら床を転がり、全身を震わせて倒れた。

 強力な衝撃をまともに食らっても、トウハは武器を離さない。

 戦う力はあっても、勝利する手段が見つからない。

 これまで、ラヴファーストから様々な魔物の討伐を依頼され、全てを達成してきた。

 それが己の力となり、ミミゴンやエンタープライズ、そして友を助ける力を身につけたと確信していた。



「馬鹿な自分は、力だけを信じた。それ以外の事は、頭に入らねぇからよ。仲間を守る力、ただそれだけを得ることしか考えられねぇんだよ。なのに、こんな様だ。なんだったんだよ、俺が信じて磨き続けてきた力は!」

「魔物を倒せば、強くなる。実に、単純明快な真理だ。つまり、君は私よりも弱い。その一言に尽きる。挑むには早すぎたということだ」



 力を振り絞って、トウハは立ち上がる。

 無駄だと知っていようと、足掻き続けることだけは決意していた。

 鬼人を助けてくれたミミゴンに忠誠を誓った。

 だから、諦めようとは考えない。

 何より、レイランが命懸けで戦っている。

 それなのに、ここで諦めたら、あとでレイランが馬鹿にしてくる。

 それだけは避けたい。

 満身創痍でも、戦い続けなければならないんだ。

 自分を奮い立たせて、武器を構えた。



「見苦しいぞ、トウハ」

「心配してくれてありがとな」

「いや、心配したつもりじゃないんだが」

「よし、勇気が出てきたぞ! おお!」

「はぁ、見ていられない。気が狂ったな」

「どうだ、余裕あるように見えてきただろう?」

「無理しているようにしか見えないぞ。顔を歪ませて、何が余裕だ。いい加減、逃げることも視野に入れるんだ」



 トウハは全身に響く激痛を我慢して、余裕であることを演じた。

 ただ荒い呼吸は、誤魔化しきれない。

 軽く笑っても、切羽詰まった状況であることに変わりはないのだ。

 だが、こうして時間を稼いだことが、トウハを助けることになった。

 脳内に、グレーの声が響く。



(トウハ、そのドワーフは『未来予知』を使うのだね)

「村長!」



 トウハが突然、声を出したことにより、オベディエンスは驚いた。

 哀れな目で、トウハを睨みつける。



「幻覚でも見えたのか」

「それで、どうすればいいんだ、村長?」

(ロクシアースという魔物が『未来予知』を使える。調べた結果、奴が予知できるのは一体だけだ。つまり『分身』を使えば、勝機はある)

「よし、それでいくぜ」

(ま、待ちなさい!)



 グレーは走りだそうとするトウハを止めて、言葉を続けた。



(説教は省きますから、聞きなさい。『分身』による攻撃が通じるのは、一回だけだと思ってください)

「なんでだよ」

(そのドワーフは賢いのでしょう。おそらく、一度攻撃したら対策されてしまいます。ですから、トウハ……一気に攻めなさい。単純明快な作戦でしょう)

「村長……分かったぜ。ありがとな!」

(ここまで、よく持ち堪えてくれました。さあ、反撃の時ですよ!)



 トウハは早速『分身』を発動し、自身の体を二つに増やした。

 『分身』は単純に二人分の戦力となるが、分身体を動かすことは並みの者であれば苦戦する。

 常に分身体を意識しなければ、動かすことができないからだ。

 しかし、苦難を努力で乗り越えたのがトウハという男である。



「『分身』か! だが、動かすことは困難であるはず。狙うは、トウハ本体だ! 『未来予知』!」

「かかってこい!」



 オベディエンスは、トウハに目を向けて直視する。

 同時に、トウハは分身体と共に走りだす。

 『分身』は武器まで複製することはできない。

 武器を持っている方が本物であり、武器がなければ本領を発揮できない。

 そう考えたオベディエンスは、攻めてくる本体に光り輝く瞳を見せつける。

 黒い瞳が、青い光を放った。

 光はオベディエンスの眼球に、未来で行動するトウハの軌跡を映し出していた。



「トウハの行動は私が支配する! 見えたぞ!」



 オベディエンスは、トウハと分身体が同時に襲ってくる光景を目にした。

 なので、武器を持ち上げたトウハに突進する。

 巨体の金属を全体で受け止めたトウハは、歯を食いしばって地面に足を着け続けた。

 そして、武器を放り投げる。



「どうせ、数秒先の未来しか見えないんだろ。夢見過ぎたら、隙ができるからな」

「……してやられたか。流石だな、称賛に値するよ」



 分身体は跳躍して武器を受け取り、落下と同時に敵の左腕を叩き斬る。

 火花が散って、床に機械の腕が転がった。

 さらに攻撃を仕掛ける。

 着地して大斧を横に振って、両足を切断した。

 姿勢が崩れても、攻撃を止めない。

 続いて、右腕に刃を突き立てる。

 オベディエンスが操縦するロボットは四肢を切断され、無力化された。

 トウハは、仰向けに倒れたオベディエンスを引っ張り上げて、近くに放った。



「こうなっては、私の負けを認めるしかない。VWAは、この先の階段を下りた先だ」



 座り方を改め、目的の方向に指を突きつける。



「悔しくないのかよ」

「妙な事を聞くな、トウハ」

「お前が作った機械が、これから壊されるんだぜ。黙って見ていられるのか」



 トウハの疑問に、オベディエンスは顔を俯ける。

 やがて、ため息と共に小声で話した。



「いいのだ。潔く負けを認めなきゃいけない時というものがあるのだよ。それが今だ。自分の未熟さを思い知らされた。さあ、行ってこい。早くしないと、VWAは更に強く進化するぞ」

「おっと、そうだった。じゃあな! 今度、俺の武器を改造してくれよ!」



 トウハは武器を背負って、走り去っていった。

 地下に設置されている量子コンピュータ『VWA』を破壊すれば、外のモークシャは停止する。

 オベディエンスは無残に破壊された目の前の機械を見て、トウハを恐ろしく感じた。

 私の体とも言うべきロボットが、こうなってしまうんだ。

 VWAは跡形もなく、破壊し尽くすだろうな。

 それから目を瞑って、胡坐あぐらをかいた。



「お前への扱いは酷かったけど、二人で研究開発した時はとても楽しかった。純粋な研究者としての気持ちが表出していたんだ」

(オベディエンス……)



 どこからともなく声が聞こえてくる。

 『念話』によって、両者の声は接続された。



「コペンハーゲン、すまなかったな。この14年間、とても苦しんだだろう」

(今更、謝ったって、過ぎた時は返ってこないんだ)

「……返す言葉もない。だが、一つ伝えたいことがある」

(…………)

「私の頭脳に付いてこられたのは、君だけだった。私の研究に理解を示してくれたことが嬉しかったし、共に議論を交わすこともできた。研究者として、これ以上ない喜びを得た。君は良き理解者だ。私に合う人が見つかったことが、一生の宝物だ」

(それが、リライズ大学で最も優秀だった研究者の言葉か……)

「私のような研究者にならないよう、気を付けたまえ。孤独は毒だ。君の住むエンタープライズでは、協調性を大切にするのだ。理解してくれないのなら、分かりやすく説明してあげるのだ。それでも分からないなら、何度も。分かりやすく、丁寧に、優しく。そこまでしても理解できないようなら、君の負けだ。理解できない人間が悪いのではなく、理解させられない自分が悪いのだと肝に銘じておけ」

(オベディエンス……)

「これで心置きなく別れられる。ありがとう、友よ」



 オベディエンスは『念話』を切って、立ち上がった。

 割れたガラス窓の先から、こちらに向かって二人が歩いてくる。



「ラオメイディア様、こうなった今でもあなたを信じています。57年前、あなた様が言った言葉を今でも忘れていません」



 成功しても失敗しても、最後に笑うのは僕なんだ。

 安心して、僕を信じなよ。

 オベディエンスはエレベーター内に入って、二人を待った。

 二人が入ってきたのを確認して、エレベーターのボタンを押す。

 扉が閉まり、三人はラオメイディアのもとへと向かった。

 時を同じくして、死者に呼びかける声も静かになった。

 傭兵派遣会社とエンタープライズの戦いは、遂に最終局面を迎えたのだった。

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