表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
162/256

ヒストリー ラオメイディア―8

「あいつ、遅くねぇか。もう、一時間だぞ」

「やっぱ俺らも付いていけば良かったっすね」

「ふ、ガキの用事に兵士三人か? 冗談よせよ。ガキが俺らに敵うかっての」



「試してみようじゃねぇか」



 背後から、縄で兵士の首を絞める。

 足掻くことを諦め、全身が脱力したのを感じて、縄を外し、子供たちを誘導する。

 ウルヴも兵士を倒し、銃を手に入れる。

 俺も兵士の銃を持ち上げて、メデイアに渡す。

 ついでに、銃弾もプレゼントした。

 これで兵士相手に真正面からでも対抗できるはずだ。

 ただし、敵が一体に限る。

 狭い詰め所に10人の子供が入って、物色していた。

 しばらく探し回って得たのが、兵士から奪ったライフル銃二挺か。

 あとは菓子類が多く、今は使えないもので満ちた部屋だった。



「武器はできるだけ多く手に入れたかったが、仕方ない。階段を目指そう!」







 この時ほど、運の良さを体感したことはなかった。

 正面でばったりと会うことはなく、兵士をやり過ごしてきたので、弾は一発も消費していない。

 10人で動きながら、一度も戦いになることがないのは、意外と優れたチームだという証明かもしれない。

 運にも感謝しつつ、ようやく出口までたどり着いた。

 金属の扉を押し開けると、久しぶりの外の空気が鼻に入ってきた。

 だが、この匂いは。

 慌てて、周りを見渡し、その光景に思わず声が出た。



「これは……海?」



 驚愕のあまり、口が開きっぱなしだった。

 そして、天気にも気付く。

 空から降っていたのは、地を穿つほどの雨粒だった。

 声を掻き消すほどの豪雨が、俺たちを阻んだ。

 どうやら、俺たちの孤児院があるのは、巨大な船の中だったらしい。

 見上げると、いくつもの砲台が見える。

 大小異なる砲台が、あっちこっちを向いている。

 もし俺たちの立っている場所が船なら、甲板にいることになる。

 船体が揺れている。

 激しいわけではないが、安心して歩けるほどではない振動だ。

 黒雲が太陽の光を遮り、光はほとんどなかった。

 甲板を巡回する兵士は、片手に懐中電灯を持っている。

 さて、この暗闇は味方になるかどうかだが。



「なあ、ラオ。どうすればいいんだよ……俺様の代わりに考えてくれよ」



 ウルヴも驚いたのだろう。

 まさか、陸ではなく海だったとは。

 いや、ウルヴだけでなく、メデイアや他の子も同じはずだ。

 予想外という言葉が、これほど似合うだろうか。

 とにかく、海の上であろうと脱出路は考えなくてはならない。

 陸であれば門を越えるなどすればいいが、海となると話が違う。

 そうこう思考していると、ドワーフのラフトが腕を思いっきり伸ばして指で示した。



「あれ、使えませんか?」

「……輸送機か」



 現在、輸送機で運ばれてきた物資を降ろしている真最中だった。

 これなら、10人まとめて陸まで行ける。

 名案だと思ったのだが、ウルヴに痛いところを突かれた。



「けどよ、誰が操縦できるんだ? 先生から教わった奴、いるか?」

「いや、先生でも操縦できないでしょ。あたしたちで、あれを操縦しようものなら、墜落必至ね」

「なら、操縦士が必要だ。敵だろうが、利用しないとな」



 甲板には、大量のコンテナが置かれている。

 隠れながら進めば、見つかることもない。

 ただ、上で照らしているサーチライトには注意を払わないと。

 俺が先行して、コンテナからコンテナの陰へと移動する。

 安全を確保して、子供たちを手招きした。



 何事もなく、輸送機の近くまで来ることができた。

 操縦士も伸びをしたり、ストレッチをして隙だらけだ。

 ただ、気がかりなのは、あの操縦士は本当に操縦士なのか、ということ。

 恰好が巡回する兵士と違い、輸送機の近くで作業していることから、操縦士だと決めつけたのだが。

 それと、もう一つ。

 ここまで上手くいっているのも疑わしくなってきた。

 心配しすぎなのか、どうも奴らに嵌められている気がしてならない。

 杞憂に終わることを祈るしかないな。



 俺とメデイア、ウルヴの三人で、操縦士を捕らえ、要求を突きつける。

 もし操縦士じゃないのなら、操縦士が誰なのかを吐かせて、殺す。

 メデイアとウルヴには、輸送機の中を確認してもらう。

 俺が操縦士を脅す。

 タイミングを見計らって、子供たちを輸送機に入れる。

 この流れが成功すれば、すぐに飛んで逃げる。



「ラオ、そう思い詰めるなって。俺様もいるし、皆もいる。戦っているのは、ラオだけじゃないぜ」

「そうよ。怖い顔しないで、プラス思考でいこ!」

「怖い顔してたか? まあ、気分が楽になったよ」



 彼らの心強さを認識した。

 深呼吸をして、周囲を見渡した。



「よし……行くぞ!」







 雨の勢いが、心なしか弱まったように感じた。

 視界が()()()に染まっている。

 事態の急展開。

 全身に赤い点が分散して、当てられていた。

 銃のレーザーポインター。



「追い詰められたら、倒すか逃げるかに絞られるわよね。で、あなたたちは私に勝てない。そうなると、逃げるしかない。で、後先考えずに、ここまで来た」

「ノイモコ!」



 輸送機の陰から、傘を差した院長先生が現れた。

 大量の兵士が、俺たちを包囲する。



「ここまで、お疲れ様」

「だま……」

「俺様が倒す! 逃げろ!」



 俺の言葉に被せて、ウルヴが駆け出した。

 雄叫びを上げながら、ライフル銃を捨てて、木の大剣に持ち替え、空へと舞っていく。



「ぶっ潰れろ!」

「『究極障壁』……」



 ウルヴの大剣が当たったかに見えたが、緑の障壁が拒んでいた。

 ノイモコは右手を引いて、魔力を溜めていた。



「力の差を見せつけないと。『ハリケーンアロー』!」



 引いていた手を突き出すと、ウルヴが弾け飛んだ。

 木の防具も破片となって、ウルヴと一緒に落ちていく。

 ウルヴは背中をしたたかに打ちつけ、呻き声を漏らした。



「これでも死なない程度に弱めてあげたのよ。でも、彼はしばらく動けないわね」

「船から……飛び降りるんだ」

「ウルヴ!」

「『火龍の羽撃はばたき』!」



 火の玉が、俺らを目指して直進してくる。

 身を守るため身構えたが、途中で進路変更し、コンテナから出ていた子供たちに突進していく。

 やがて、火の玉は龍に姿を変え、口を大きく開いて、子供たちを巻き込んで爆発した。

 爆破の勢力は、目が開けないほどの風を発生させて静かになった。

 爆発音に奪われた聴力を取り戻していくと、子供たちが悲鳴を上げて、全身を炎に包まれている光景が見えてきた。

 体を焼かれた者は甲板の上を転がり回って、火を消そうとしていたが、抵抗虚しく終わりを告げた。

 濡れた黒い手を振って、沈んでいく。

 友を焼く火の臭気が、やたらと脳を刺激する。

 メデイアは膝から崩れ落ち、慟哭した。



「いやあああ!」



「戦うということは、こういうことよ。あなたがしてきた覚悟は、全てを失ってもいいと思う覚悟なのかしら。残酷な現実に直視し、大事なものを失ってでも前へ進む。これが、戦いというもの! 何が、プラス思考よ。現実から目を背けて、逃げているだけなのよ」

「なぜ……ここまでする必要ないだろう!」



 目の端に涙を留めて、怒りをぶつけるように叫んだ。

 零れた涙は雨粒と区別がつかなくなり、頬を伝っていく。



「あなたたち実験体を外に出すわけには、いかないわ! それに、失敗作なら尚更。私は大切な実験体を失う覚悟で、ここに立っているの! 逃がすわけにはいかないのよ! ”法則解放党”、最高責任者として任されたの、私が! 何が何でも、阻止してやるわ」



 乃異喪子は、挙げた手を振り下ろす。

 兵士のライフル銃が火を噴いた。

 素早く立ち上がったメデイアが、スキルを発動させた。



「『マジックバリア』!」



 四方八方から発射された弾丸は、紫色の壁が守ってくれた。

 凄まじい量の破裂音が、脳を激しく揺らす。

 『マジックバリア』は障壁を張っている間、魔力を消費し続ける。

 それに、自分一人ではなく、二人を覆い被さるようにして障壁を発生させているため、魔力消費量は尋常ではない。

 加えて、全方位からの絶え間ない攻撃だ。

 俺はメデイアの手放した銃を拾って、声を大にした。



「メデイア! 俺が隙をつくる! 全員が俺に注目したら、あそこのコンテナの裏に隠れるんだ! 『潜伏』も発動させれば、確実だ!」



 メデイアは一度、目を伏せて小さく呟いた。



「……大好きだよ」

「……俺もだ!」



 メデイアは聴かれているとは思わなかったのだろう。

 顔を赤らめて、しんみりとした声を出す。



「もう……聴こえないでよ」

「聞き逃さない。守るべき人の言葉ならな」



 障壁から、疾風の如く飛び出した。

 ライフル銃を構えて、全速力で走る。

 狙いが定まる一瞬を逃さず、弾丸を打ち込んでいく。

 弾丸の嵐の中を駆け抜けて、次々と引き金を引いていった。

 自身を奮い立たせるため、腹の底から雄叫びを発して。

 兵士の銃口が全て、俺に向いた隙に障壁を解除して、メデイアが走りだす。

 ウルヴも生きている。

 幽かに呼吸しているのが分かる。

 前進してくる兵士を冷静に撃ち抜いて、数を減らした。

 甲板を穢す血は、雨で流されていく。

 少しでも敵を倒して、血路を開きたい。



「大人をからかうんじゃないの!」



 燃え盛る火炎が放たれた。

 兵士や俺が放ったスキルではない。

 こちらを狙ったものではなく、横のコンテナの方へ直進する。

 激戦の中でも、火炎が空を走る光景を冷静に眺めていた。

 火の玉が弾けると、遠くの影が倒れていく。

 あの影は。



「メデイアー!」



 油断が死を招く。

 雨でも勢いの衰えない炎が、メデイアを焼いている。

 武器を放り投げて、駆け出した途端、全身を銃弾で撃ち抜かれた。

 痛覚より先に、悔しさがこみ上げてきた。

 動けよ、俺の体!



「ごめんなさい、あなたたちの信念を許すわけにはいかないの。だから、ああするしかなかった」



 うつ伏せで倒れた自分は全身に穴をあけて、血が流れていくのを見なくてはならなかった。

 最期の力を振り絞って、メデイアに顔を向ける。

 手も伸ばす。

 何も触れることができないのに。

 先生、俺はどうしたらいいのですか。

 この状況で、先生ならどう行動していましたか。

 先生……ごめんなさい。







 夢は見つかりましたか?

 俺の夢は……先生と一緒に先生の夢を叶えること。

 けど、叶えることができませんでした。

 ……叶えることはできない、と言っても、夢は存在し続けます。

 諦めない限り、誰にも壊せないのが夢というものです。

 ラオ君は自分で見つけた夢を、自分で壊すんですか。

 せっかく……孤児院の皆と一緒に見つけた夢なのに。

 生きているなら、叶えてみましょうよ。

 成功しても、失敗しても笑っていればいいんです。

 だって、笑顔は生きている証拠ですから。



「俺は生きている! 俺は夢を叶えるんだ……先生と! 皆と!」

「やっぱり、あなただけ適合したのね。魔神獣の『超再生性質』が!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ