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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第一章 環境順応編
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15 吸血鬼:失敗

アルテック視点

「ウッ……まさか、この俺が眠らされるとは」

「大丈夫ですか、アルテック様」

「大丈夫だ。それより奴は?」

「まだ、いますよ。ここに」



 寝ぼけた頭を振りながら、意識を取り戻し牢の中の死刑囚を確認する。

 三角座りで頭を膝で挟み、じっとしている。

 時折、肩を震わせているが泣いているのか?

 こいつが本物か、『見抜く』で見させてもらう。



 本物だな。

 さっきと変わらないスキルの表示、詳細。

 足は壁に取り付けてある枷が繋がれ、スキルの使用を不可にする効果も付いている。

 牢屋を開ける鍵と枷の鍵は、厳重に護衛された王が持っているので、手出しはできん。



 それにしても、先ほどの睡眠スキルは一体誰が。

 ここに来る前の奇妙な衛兵。

 あいつの仕業か。

 『テレポート』を使う、おかしな奴だ。

 衛兵に変装した者だったが、吸血鬼を取り戻しに来た魔人に違いない。

 眠らされて、何も起きていないはずがない。



 ……といっても異常は見られなかった。

 そうこう考えているうちに、処刑の時を告げる衛兵がきた。

 吸血鬼に言い放つ。



「終わりだ、我が国の敵。お前の死をもって、平和が訪れる」



 ただ顔を上げ、絶望を表現した真っ黒い目で俺を睨む。

 死にたくないと?

 ダメだ、お前は皆の前で死に、再び安心の日々を暮らせることを教える役割を演じろ。



 こいつは俺らに何をした。

 こいつのスキル『吸血』は、死んだ者の血を得ることで肉体は回復し、レベルアップする。

 特殊なスキルであり『吸血』を持つ者は、死者の血を啜ることでしか、レベルが上がらないという。

 それに他の種族、例えば竜人の血はレベルが上がりやすい。

 だが、味は不味く、竜人は強いため、ハイリスクなのである。

 魔物や他種族も同じように、それぞれ特徴があるという。

 その中で人間は非力で尚且つ、レベルが上がりやすい美味な血だそうだ。

 それで、この人間が集まるグレアリングに潜み、毎夜襲っていた。



 くそか!

 人生を謳歌し始めた若者がこいつにやられ、国の人口を着実に減らし、国の評判を落として、一年間でかなりの被害を受けた。

 隣街や村の者が払う金の量も減り、防衛や町の発展に資金を回せなくなった。

 おかげで魔物の被害も増え、村がいくつか消えたり、地震の影響で崩れた家や建造物への修理費も払えず、そのままになった所も多い。

 魔人一人で、これほどの影響を与えられることに驚いてしまう。

 被害を受けている間、俺は王を喜ばせようと世界中を歩き回っていた。

 俺がいれば、ここまで酷くはならなかった。

 何のために、鍛え研ぎ澄まされた剣術を持っているんだ。

 こうしたことを防ぐためだろう。



「吸血鬼。変な気は起こすな。死に場所が変わるだけだ」

「…………」



 黙って歩き出し、皆に晒された処刑台へ向かう。

 城の前には、血でところどころ穢れた木の板で組まれた高台が観客の求める劇場があった。

 高台への階段を上り、白日の下に晒す吸血鬼は跪き、死を受け入れる姿勢に入る。

 俺が持っている白い大剣に『スキル使用不可』の効果をもつ希少な水を垂らし濡らした。

 この剣は生を死に変え、平穏を訪れさせる。

 首を斬り飛ばすため、剣をしっかりと構え、持ち上げる。



「次、生まれ変わっても、忘れないよう……魂に罪を刻んでおけ。善人となって生まれ変わるんだ」



 間をおいて、ようやく振り下ろした。

 吸血鬼の首は切断され、ボトッと落ちる。

 血を出さないよう、アルテックだからこそ出せる、絶技で最も静かに斬首した。

 おー! やったぞー! という観客の喜びの声を聴きながら、その場を離れる。

 あとは兵が処理してくれる。

 これにて騒乱がようやく幕を閉じ、ハッピーエンドとなったのだ。

 ただ、処刑も済んだというのに、自身の心は不安で満たされていくばかりだった。

 不動の城を眺めて、平和を願った。

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