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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
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ヒストリー ラオメイディア―4

 昨日、先生に指導されたことを思い出しながら、敵を囲む二人に声をかける。



「自分の役割を考えながら、戦うぞ!」

「俺様が敵を引きつける!」

「あたしとラオが後ろから攻める!」



 簡単に倒せるモリウルフではなく、ビッグウルフである。

 モリウルフと同じ深緑色の体毛で覆われているのだが、体格は別だ。

 俺とウルヴが肩車して、ようやく身長を同じにできるほど。

 おまけに腕が太い。

 鋭利な爪で引き裂かれば、無事では済まない。

 ウルヴは大剣にのしかかる腕と戦っており、その隙に俺とメデイアが槍で後ろ脚を攻撃する。

 武器も昨日とは違い、剣から槍に持ち替えた。

 振り回し方は異なり、剣より慎重に行動すべき点もあるが、ウルヴが注目を集めてくれているため、こちらは動きやすかった。



 それから一分ほどで、ビッグウルフは脚を引きずりながら逃げていくため、一気に畳みかけた。

 特に大きな怪我は、誰も負っていない。

 これはひとえに、先生の教えがあるからである。







 昨日、先生が言っていたゲームというのは三人協力プレイが必須のRPGだった。

 ゲームについては、先生が簡単に説明してくれた。



「これは作戦を考えるための遊びです。君たちは、動き方が分からないとのことでしたね。では、ラオ君をリーダーに、二人は彼に付いていってください。ラオ君は草原を歩いて、敵と接触してもらえますか」

「こ、こうですか」



 事前に操作方法を教わり、思い出しながら、コントローラーを握った。

 コントローラーの左スティックを倒して、ゲームキャラを走らせる。

 目の前に見えてきたのは、モリウルフだった。

 俺のキャラは剣を構える。

 後ろの二人も武器を取り出したのだが、ウルヴは速攻して、俺を追い越していった。



「ウルヴ!?」

「おお、勝手に攻撃してるぜ!」

「はい、敵に近づくとオートアタックが発動して、自動的に武器を振り回してくれます。さ、ラオ君もメデイア君も戦ってください」



 特に苦戦することはなく、モリウルフは倒れ、光の粒子となって消えた。

 俺は疑問を呈さずにはいられなかった。



「これで何が分かるんだ。ウルヴが突っ込んでいくところか?」

「それもあります。では次に、あそこにいるビッグウルフを倒してください」

「俺様が一番に向かうぜ!」



 俺がリーダーのはずなのに、我先に突進していく。

 これでは、ウルヴに付いていくだけの班員と同じだ。

 ここはリーダーらしく、ウルヴに指示を出す。



「ウルヴ、とりあえず止まれ! うわ、もう戦ってやがる!」

「ラオの指示に従ってよ!」

「や、やべー! 助けてくれー!」



 ウルヴはHPの横に表示されている数字が見る見るうちに減っていき、やがて0となって、倒されていた。

 これは、ビッグウルフの攻撃だけによるものではない。

 ビッグウルフは、周りのモリウルフに指示を出して、ウルヴを一斉攻撃したのだ。

 下手すると、ビッグウルフの方が俺よりリーダーに向いている。

 残された俺たちは、なすすべもなく全滅。

 コントローラーを床に置いた。

 ウルヴが悔しそうに叫んだ。



「うう! もう一回だ!」

「それで、どうすればいいんですか……先生」

「反省会をしましょう。重視するべき点は、キャラクターの特徴を知ること。それから、敵を観察すること。何が原因で敗北したのか、じっくりと考えてください。僕は、お茶でも持ってきましょう」



 先生は部屋から退出していった。

 表情は、やけに楽しそうだ。

 遊びだから良かったものの、現実だったらと考えると頭が痛くなる。

 メデイアが、ウルヴを指さして。



「あなたが一人で突っ込むから、悪いの! ラオに従っていれば、勝てたのよ!」

「いーや、貴様たちがいても負けていたな。周りのモリウルフが邪魔なんだ!」

「モリウルフが邪魔……なら、どうにかして奴から引き離すことができれば、勝ち目はある」

「けどよ、ビッグウルフの一撃も酷かったぜ。メデイアは一撃でやられてたしな」

「あたしの回復スキルで、あなたを回復できたのに」



 回復スキル?

 ゲームでも、スキルが使えるのか。



「なあ、メデイア。自分の持っているスキルって、どこで見れたんだ?」

「え、プラスボタンを押して、ステータスを押したら見れるけど」



 言葉通りに従うと、ステータスが画面に表示された。

 全滅した後、コントローラーを操作していたメデイアは、ステータスを見ていたのか。

 ステータスには、いくつかの文字と数字が書かれていた。

 HP、MP、攻撃力、防御力、素早さ、命中率、魔力、運……。

 ひょっとして。

 ……俺の予想通り、全員のステータス値がバラバラだった。

 全員、同じじゃない。

 俺は攻撃力と命中率、運が高く、メデイアはMPと素早さ、魔力が高い。

 ウルヴはHP、防御力が抜群に異なっていた。

 先生は、重視するべき点はキャラクターの特徴を知ること、と言っていた。

 これのことではないだろうか。

 スキルの欄も見てみる。



 ラオ 戦闘用スキル:『怒涛』『渾身斬り』

    常用スキル:『心眼』


 メデイア 戦闘用スキル:『ヒール』『マジックスティール』『ファイア』

      常用スキル:『回復効果+20%』『慈愛』


 ウルヴ 戦闘用スキル:『ガードシフト』『挑発』『プロテクト』

     常用スキル:『挑発効果アップ』『ヘイト集中』



 キャラクターの特徴を知る、とはこういうことだ。

 俺は二人に顔を向けて、役割を説明する。



「俺たちに必要な要素は、役割だ。このステータスを見て分かるように、それぞれに得手不得手がある。俺は、攻撃に特化している。メデイアは回復に特化。ウルヴは防御に特化だ。俺が考えた戦い方はこうだ。ウルヴは敵を引きつけながら、攻撃を耐え忍ぶ。敵がウルヴに集中している隙に、俺が攻める。メデイアも攻めるが、ウルヴの体力に気を付けて。ウルヴを死なせないよう適宜、回復スキルを使うんだ」

「分かった!」

「よく分からんが、俺様は突っ込んで、ヤバくなったらメデイアの回復を待てばいいんだな」

「それから、『ガードシフト』で身を守ってくれ。それと、俺たちが攻撃されないよう『挑発』を頼む」

「貴様らを守るのが俺様の役割だ!」



 それともう一つ、考えることがあった。

 そのためにゲームで、ビッグウルフを観察する。

 どうやら、ある瞬間だけ一匹になることがあった。

 近くに、モリウルフはいない。

 先に、モリウルフを倒してから、ビッグウルフに挑むことを決め、再びコントローラーを握った。



 現在、握っているのは槍だ。

 目の前には、ビッグウルフの死体が横たわっていた。

 空を見上げて、呼吸を何度もする。

 しばらくすると、ウルヴが大声を上げながら歓喜した。



「よっしゃー!」







 狩りの喜び、槍で刺突した感覚を忘れることができないまま、ベッドに寝転がった。

 夕食の料理が腹で消化されているのを感じながら、手を伸ばす。

 手を開いたり閉じたりを繰り返して、天井を見上げていると、メデイアが顔を覗き込んできた。

 慌てて、起き上がる。



「び、びっくりした」

「ふふ、あなたがそんな顔するなんて」

「それは、メデイアが気配を消して……」

「違うわよ。驚いた顔よりも、嬉しそうな笑顔よ」

「俺が笑顔……」



 鏡があれば、心に住み着いた靄を消してくれるだろう。

 オンボロ小屋で寝ていた自分が、今の自分とかけ離れている。

 俺は、このままでいいのだろうか。



「まるで先生の笑顔みたい。なんていうか、純粋って感じかな。ただただ、ひたすら楽しい……そんな顔」

「そうか。メデイアが歌っている時と同じ、表情なのかな」

「うそ!? あたしも、笑ってるの?」



 頷いて、彼女の顔を見つめた。

 こんな生活になるとは、思わなかった。

 今日は俺たちのチームが料理を担当したのだが、今思うとウルヴは酷かった。

 俺はウルヴにも手伝わせようと声をかけたのだが、メデイアが必死になって止める。

 頑なに手伝わせようとしないメデイアを落ち着かせて、ウルヴに食器を運んでもらった。

 メデイアの料理を手伝っていると、彼が帰ってこないことに気付いて、宿舎の外に出ると、誰かと乱闘していた。

 道中、料理の盛られた皿がひっくり返っている。

 先生に止めてもらうまで、喧嘩は収まらなかった。

 喧嘩といっても殴り合いではなく、ここに来た初日に仕掛けられた勝負に似ている。

 どちらが、モリウルフを多く倒したかで揉め、拳で語り合おうとしたのだ。

 まったく、血の気が多い奴だ。

 メデイアが必死に止めた理由が分かる。

 彼女がしみじみとした口調で話をしてきた。



「今日はいろいろあったね」

「ああ。だけど、楽しかった。実はさ、この後……先生から呼び出されているんだ。他の人とは違った授業をしたいんだと」

「なんだろう。あたしも受けてみたいけど、めちゃくちゃ眠たい」



 この日常が、永遠に続けばいいのにと思った。

 何度も何度も考えた。

 俺の日常をガラリと変えてくれた、あの人には感謝している。



「皆さん、集まって! お薬の時間ですよ」

「院長先生だ。ラオ、行こう!」



 そう、院長先生には本当に感謝しているんだ。

 怪しげな注射器と兵士を連れて来なければな。

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