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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
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ヒストリー ラオメイディア―3

 どこかから小鳥の鳴き声が響いてきて、瞼をこじ開けた。

 瞬きを何度もして、意識を安定させて、宿舎の外に出る。

 そういえば、あのオンボロ小屋ではないんだと思い出した。

 辺りを見渡していると宿舎の前で、木の踏み台を用意しているメデイアがいた。



「何をしているんだ」

「何って……」



 呆れた口調で言葉を返された。



「あなたが人前で歌えって言ったんでしょ! 練習は朝って言ったし」

「いや、まだ皆が寝ている朝にやるとは思っていなかった。朝食を食べ終わった後に、と考えていたんだが」

「……もう用意しちゃったし、歌うわ!」

「恥ずかしがり屋の印象だったのに、意外と勇ましいんだな」







 メデイアが立つ踏み台の前で聴いていたら、いつの間にか皆が集まっていた。

 歌い終わったメデイアが今になって気付く。



「昨日の夢、本当だったんだな!」



 ウルヴが歯を見せて笑っている。



「何よ、文句あんの?」

「柄じゃねぇなって」

「殴るわよ」

「よし、受けて立つ!」

「二人とも、静かにしろ」



 俺が二人の間に割って入る。

 ウルヴは笑いっぱなしで、メデイアは拳を構えて唸っていた。

 腹を押さえて笑う彼に、怒りを表して声にした。



「笑うなよ、ウルヴ」

「馬鹿にしてるわけじゃねぇよ。ただ、小娘にも可愛いところがあるんだと思って、つい笑ってしまったんだよ」

「あたしの料理は可愛くないってことかしら。全く作れないあなたの代わりに、どれだけ頑張ってると思ってんの」

「わりぃわりぃ。いっつも感謝してるって」

「ほんとかな。眺めてるだけで料理ができると思ってない?」



「さっき、歌っていたのはメデイア君かい?」

「先生!」



 言い争っている二人の背後から、先生が現れた。

 全員の視線が先生に集まる。

 メデイアが挨拶する。



「先生、おはようございます」

「おはよう、メデイア君。さっきの歌、とても良かった。寝起きが快適だったよ」

「あたしの歌は、目覚まし時計じゃないですけど」

「そうだ! これからも早朝に歌ってよ。君の歌声で目覚める一日は、最高の一日になりそうだ」

「だから、あたしは」

「僕にしては名案だ。彼女の夢を叶えられるし、朝が辛い僕のためにもなる。こんなに頭が冴えているのも、君のおかげだ。な、頼むよ」



 戸惑いを見せながらも、断り切れず。



「わかりました! 歌いますよ、歌います! しょうがないですね……」

「だらしないな、メデイアは」

「それもこれも全部、ラオのせいだからね! はぁ、早く朝食を食べましょ」



 怒ったような物言いでも、振り返る彼女の顔はにやけていた。

 やはり、彼女は歌が上手い。







 朝食を食べ終わっても、憶えた舌でまた味わっていた。

 すぐに喉を通ってしまうため、この美味を忘れたくないのだ。

 片付けが終わり、先生が手を叩いて注目を集める。



「さて、狩りの時間ですね。今日の食料の確保、よろしくお願いします。じゃあ、チームで行動してください!」



 狩りの時間?

 チーム?

 聞き慣れない単語に顔をしかめていると、先生が思い出したように「あっ」と漏らす。



「そういえば、ラオ君が加わったおかげで、ウルヴ君のチームが三人になりましたね」

「ということは! ついに俺様が活躍できるというわけか」

「ええ、その通りですね」



 他のチームは、宿舎横の倉庫から武器を取りに向かっている。

 現在ここにいるのは、ウルヴとメデイアと俺だけだった。

 ということは。



「ラオ君。ウルヴ君とメデイア君に協力して、共に魔物を倒しに行ってください」

「魔物を倒す? この森に魔物がいるのか」



 にっこりとした笑顔で。



「いますよ、何匹も。本物です。院長先生に協力してもらって、捕らえた魔物を森に放してもらっているのですよ」

「そんな、危なくないのか」

「危ないですよ。ですが、僕の注意を守って、君たちが協力し合えば怖さはありません。習うより慣れよ、です」



 この孤児院は、ほとんど先生任せにしている。

 院長のノイモコは、あまり関わっていない。

 つまり、ルールをつくっているのは先生なのである。

 俺は旧市街地の外に出たことがないため、魔物という存在を耳でしか聞いたことがなかった。

 目線を逸らして、別の子供に焦点を合わせる。

 どうやら、日常の一つとして溶け込んでおり、何事もなく自分たちの狩場へと歩を進めていった。

 狩りをする者は、木で作られた武器を持っている。



「先生、注意って何ですか?」

「君たちのレベルに合わせた狩場で狩りをしてください。これは絶対です」



 基本、森の奥深くへ進むごとに魔物のレベルが上がっていく。

 だから、レベルの低いうちは宿舎が見える範囲で狩りをしてほしい、とのことだ。

 先生の説明を聞いて頷くと、ウルヴが倉庫を指さしながら大声を出す。



「はやく行こうぜ、ラオ! そんな説明、俺様がしてやる! さあ、武器を取りに行くぞ!」

「はぁ……」



 メデイアは額に手を当てて、ため息をついた。

 その表情から察するに、ウルヴには相当苦労しているのだろう。

 料理ができないウルヴのために、一人で頑張っていると昨日、聞いたし。

 せめて、ウルヴの面倒は俺が見ないとな。



 倉庫に立てかけてあったのは、木製の武器である。

 種類も豊富だ。

 剣や大剣、弓、槍、斧など。

 悩んでいる俺をよそに、二人はさっさと自身の武器を手に取った。

 ウルヴは大剣を掴み、メデイアは槍を掴む。

 早くしろと急かしてくるウルヴに苛立ちながら、剣を攻める道具とした。

 この狩猟が毎日あるなら、自分に合った武器を探すのも悪くはない。

 初日は、剣にしよう。

 俺は文句を胸の内に秘めて、さっさと走るウルヴに付いていくことにした。







「メデイア! そっちのモリウルフを倒せ! 俺様はこいつだ!」



 メデイアは手にした槍で足払いして転倒させ、上から突き刺した。



「もう! 勝手に突っ走らないでよ!」



 モリウルフがメデイアの背中から突撃しようとしている。

 咄嗟に、彼女の後ろに立って、剣で薙ぎ払った。

 見事に命中し、回転した魔物は出血していた。



「ありがと、ラオ」

「なるほどな、メデイアが怒鳴るのも無理はない」

「でしょ! ほら、目を離した隙に、別のモリウルフも狙いにいったよ」

「こっちはこっちで、精一杯だってのに。あいつは、雑な命令しかできんのか」

「あいつに、リーダーは無理ね」

「まあ、分かってたもんだけどな。終わったら、反省会だ」



 それから、ウルヴが連れてきた魔物も一掃して、その場で身を投げた。

 草が首や頭をチクチクと刺してくる。

 モリウルフに噛まれた腕は、メデイアの『ヒール』で治してもらった。

 あんなにも血が出るのかと、噛まれた部分を眺める。

 初めての狩りだったが、初めてにしてはよく動けていた方だと思う。

 先生の宿題も思い出して、二人の行動も観察した。

 二人も狩りは初めてだと言うが、それにしては身のこなしが上手い。

 メデイアに何度、助けてもらったことか。



「ウルヴは想像通りだが、メデイアも強いな」

「女だからって油断しないの。こいつに鍛えられたのよ、悔しいことに」



 鋭い眼光を、ウルヴにぶつける。

 掠り傷だが、いくつもやられているウルヴは口角を上げて笑った。



「良かったじゃねぇか! 二人で訓練した甲斐があるな!」

「あんなめちゃくちゃな訓練で、強くなるなんて。戦闘においては、ウルヴが一番ね」



 そんなことを言ったら。

 すぐに彼女の耳に口を近づけて、注意した。



「褒めるなよ、ウルヴを。調子に乗って、リーダーを続けるぞ」



 しまったという顔をして、メデイアは口を閉じた。

 俺はウルヴを見ながら、彼女に手を向ける。



「確かに、ウルヴは強い。突っ走って、傷だらけになる点は認めないが。メデイアのように周りを見て、戦ってくれ」

「だけどよ、余裕じゃねぇか」

「モリウルフ相手、ならな。だが、突っ込んで勝てる魔物だらけじゃないはずだ。先生は協力し合って、と言っていた」

「協力していただろ」

「これは協力じゃない。俺たちが敵に囲まれているのに無視して、先先行くお前のせいで協力できてないんだ。このままじゃ痛い目に遭うぞ」



 ウルヴは不満げに聞いてくる。



「じゃあ、どうすればいいんだよ」

「リーダー変更だ」

「おいおい、俺様がリーダーだ!」

「俺たちに何かあったら、お前の責任だ。先生に怒られるのも、全部お前だ。それに貴重な命を、お前なんかに預けたくない」

「グ……。メデイア、俺様がリーダーでも」

「絶対やだ! こんな運任せな戦い方してたら、命がいくつあっても足りない! あたしは、ラオにリーダーをやってもらう」



 メデイアが言い切ったことで、あれほど笑みを浮かべていた顔が呆然としていた。

 よっぽど、ショックを受けたのだろう。

 口をだらしなく開けたままのウルヴに話を続けた。



「お前に、リーダーは適していないだけだ。戦闘能力は抜群のウルヴだ。お前には別の役割があるはず」

「別の役割ってなんだよ」

「……一度、宿舎に帰るか」



 ウルヴの質問に何の答えも浮かばず、宿舎に帰宅した。

 先生がいつもの微笑で、戦果を尋ねてくる。

 倒した相手と数を報告して、ウルヴの酷さも教えた。

 それから、どうすればいいか質問もした。

 返ってきた言葉は。



「一緒に、ゲームしませんか」



 三人は、ポカンとして先生を見つめた。

 ゲームというのは、リライズという国で流行している、おもちゃらしい。

 先生に案内されるがまま、付いていくと。

 液晶テレビと箱型のゲーム機だけが設置されている部屋に到着した。

 もちろん、箱がゲーム機というのも知らないし、そもそもゲームというのも、テレビというのも知らない。

 その時の俺にとって、未知の世界なのである。



「さ、コントローラーを持ってください。みっちりと教えてあげますよ、協力して戦う意味を」

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