表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
154/256

143 VSラオメイディア―6

「『魔法剣:炎』!」

「なるほど、あの時とは違うんだね」



 互いの剣が互いを斬ろうと、刃を打ちつけ合う。

 両者とも強さは互角。

 レイランが攻めると、ラオメイディアは的確に防御する。

 隙を見つけ、ラオメイディアは反撃に転じるが、レイランも負けじと剣を動かす。

 金属音が響き、戦いが始まって一分を経過しても、離着陸場に血が付着することはなかった。

 ここで、レイランが仕掛けた。



「『魔法剣:雷』! 『肉体強化』!」



 後ろに飛びながら、スキルを発動させ、ステータスの強化と属性を変更する。

 雷を全身に纏ったレイランは、足に力を込めて、一気に攻めた。

 両者の間にある距離を、雷の如く目にも止まらぬ速さで駆け抜ける。

 防御を捨てて、体力のある内から突撃する魂胆である。

 レイランの変化に戸惑いを隠せないラオメイディアは反応が遅れ、攻撃を許してしまった。

 結果、胴体を斬られた。

 もう一度、斬り込もうと腕を捻って、刃の向きを変える。

 ただ、ラオメイディアも手練れである。

 戦場で培った勘によって、考えるよりも先に飛び退けた。

 振るった刃に何も当たらない。



「確かに、その剣は変わっているね。『超再生性質』なのに、傷が塞がらない。それに君の動き、どこかで見たことがあるんだ」



 二人は動きを止めた。

 ラオメイディアは左手に火の玉を発生させ、顔に近づける。

 整った鼻で、炎を嗅いでいる。



「思い出した、バルゼアーだ。そうか、バルゼアーの側にいた青年は君だったか」

「何をぼそぼそ呟いている」

「……懐かしんでいるだけだよ。これが答えか」



 深呼吸をして、左手をレイランに突きつけた。

 火の玉は一直線に進み、剣に真っ二つに叩き割られた。

 剣を振り下ろして、すぐさまレイランは走りだす。

 ラオメイディアと激突し、雷を纏った剣を振り回した。

 いくつかダメージを与えるも致命傷はなく、ラオメイディアの回し蹴りを避けるため、一度距離を置いた。

 スーツ自体の防御力が高く、渾身の力で刺さないと貫通しないだろう。

 ラオメイディアも黙って、食らっているわけではない。

 『異次元収納』から、薬液の入った注射器を取り出し、前腕に打ち込んだ。

 中身の無くなった注射器を抜いて、思いっきり捨てて、目を大きく開ける。

 苦しそうに呻き声を漏らしながら、右の拳を固めた。

 『インパクトブレイク』を唱え、明らかに間隔があるにも関わらず、全身で構えている。

 レイランの脳が嫌な予感を感じたときには遅く、ラオメイディアは『ワープ』を唱えた。



「まずい!」

「食らえ、『インパクトブレイク』!」



 レイランの肉体は一瞬で、ラオメイディアの正面に吸い寄せられ、同時に風を巻き付けた鉄拳で殴りつけられた。

 胸を貫く衝撃が、勢い良く吐血させ、固いコンクリートの床にヒビを入れながら転がっていく。

 途中で意識を取り戻して、手足に力を入れる。

 それによって、足場から落下する寸前で耐えることができた。

 下では、エンタープライズ国防軍がモークシャと戦闘している。

 そこに自分の死体が落ちていたらと想像すると、身の毛がよだった。



「筋肉増強剤で強化した『インパクトブレイク』を放ったのに、生きているなんてね。死んではいなくても、転げ落ちていくと考えたのに」

「『魔法剣:氷』……これが守ってくれた」



 衝撃が加わる刹那、『魔法剣:氷』を詠唱し、胸を魔法の氷で覆ったのだ。

 威力を完全には消せないが、氷の鎧によって生存率を高めた。

 レイランが磨いてきた直感と、バルゼアーによる指導の賜物だろう。

 剣に氷を付与させながら立ち上がり、ラオメイディアを睨みつける。

 先ほどよりも肉体が巨大化し、スーツがはち切れそうになっていた。

 筋肉増強剤による効果が現れているのだ。



「本当は、こんな薬に頼りたくないんだけどね。予想以上に手強い相手だ」

「褒め言葉として受け取る。だが、俺はまだまだこんなもんじゃない!」



 剣の切先を越えて、氷が伸びていき、やがて長剣へと姿を変えた。

 レイランの剣だけでなく、肉体全てにも氷を展開させ、氷のバトルスーツを装着する。

 魔法剣の属性ごとに戦い方を変えて、ラオメイディアに考える隙を与えない。

 ラヴファーストに鍛えられた無意識によって、レイランは戦場を制すのだ。

 狙いを定めて、レイランは駆け出した。







 剣戟が続く。

 斬られたら斬り返す。

 攻撃に転じたら、防御に移転する。

 互いに血を撒きながら、互いを斬っていく。

 魔法による牽制もあった。

 優勢も劣勢もない。

 このまま拮抗し続ける雰囲気だったが、遂に機会が訪れた。

 上空の機械龍が発射したミサイルが、ミミゴンを通り越して、離着陸場を爆撃した。

 足場が振動し、両者がバランスを保とうとした直後、一筋の光線が離着陸場と社長室を切り離すように襲ったのだ。

 足場は地上を目指すようにして、徐々に傾いていく。

 社長室の方面からガラスの破片が落ちてくる中、先に動いたのがレイランだった。



「ラオメイディアー!」



 雄叫びと共に、氷の剣を振り上げ、腕を斬り落とそうとする。

 微妙に位置がずれ、手の甲を裂くことになったが、衝撃が剣を吹っ飛ばして、ラオメイディアは手を押さえて唸った。

 空を舞う逸品の剣は、傾く足場を跳ねて、モークシャが蠢く戦乱の地へ落下していった。

 レイランはここぞとばかりに、武器を失ったラオメイディアを追撃するが『回避術』で剣を躱し、そのまま建物の中層を目指して跳躍した。

 ラオメイディアはガラスの窓を突き破って疾走し、事務机の裏に姿を隠した。

 上からスピーカー越しの怒鳴り声が飛んでくる。



「ミミゴンを殺すんだ、俺は! てめぇを生きて帰さねぇ!」



 レイランは危険を感じ、垂直になりつつある離着陸場を器用に走って、ラオメイディアが侵入した部屋へ前進した。

 勢いを味方にして全力で飛んだタイミングで、機械龍が発砲したミサイルが足場を爆裂させ、レイランの背中を衝撃波が襲った。

 空中で体勢を崩し、ラオメイディアが飛び込んだ窓に着地したものの、無様に回転して家具に体を打ちつけながら、ようやく勢いを殺しきる。

 起き上がる気力が湧かず、何度も荒い息を繰り返して、今にも失いそうな意識を回復させた。

 額に左手を当てて、もう片方の手で剣の握りを確かめる。

 ふらつく意識のまま、剣があることに感謝して持ち上げた。

 今さらになって、剣が重いことに気付く。

 これが命を奪う重さか。

 まずは身を隠さねばと思考し、這いずりながらソファの後ろにもたれかかった。

 朦朧としながらも空中に手を伸ばし、『異次元収納』を発動させ、回復薬を握って自分に浴びせる。

 マトカリアが調合した回復薬は、まだ質が低いものの傷を癒すには問題はなかった。

 倦怠感の彷徨う全身が、爽快感で満たされた。

 髪は薬液がしたたり、少し焦げ臭い。



「僕はここだよ。君も隠れていないで、出てきなよ」



 ラオメイディアの声が意識をハッキリさせた。

 その声は、笑顔で発していない。

 奴も余裕がなくなってきたのだ。

 疑うこともなく、ソファから身を乗り出し、声がした方向へ顔を晒した。

 ラオメイディアの右手は血で塗れている。

 不気味な笑顔ではなく無表情。

 長い髪がだらしなく垂れているばかり。

 対峙して、二者は相手の出方を窺っている。



 不意に横から轟音と爆風が流れ込んできた。

 腕で顔を庇いながら、ラオメイディアを強く見据える。

 ミサイルが辺りを爆破したあと、火が家具に燃え移り、大量の資料が燃えていく。

 炎が四角い部屋を囲んでいった。

 嫌な臭いが鼻の奥へと潜っていく。

 すぐにでも部屋から脱出したいのに、ラオメイディアは気にすることなく、むしろこの臭いが好きとでも言うかのように鼻を震わせていた。



「僕は記憶障害なんだ。一年前より過去を思い出すことができない。だから、一年前の出来事は覚えていないし、少年時代のことなんか欠片もない。けど、ある瞬間だけ全て思い出すことができるんだ。記憶喪失でありながら、忘れることができない記憶能力を持っている。今が、その瞬間なんだ。火の香りを嗅いでいるとき、一生の記憶を保持している。自分が一歳二か月で9時20分27秒をアナログ時計が示した時間、身が碌にない鮭を口に含んだ。炭の臭いが口内に蔓延して、味なんてなかった。その後、骨が喉に刺さって、泣いた。親は盗みに出かけていて、半日中ずっと泣いていた」

「ラオメイディア……?」

「レイラン、君は友人のために闘っているのだよね。アスファルスに眠らされたミウを僕が担ぎ、エイデンはアスファルスに連れ去られ、レイランはエイデンから託された剣を大事そうに抱えて逃げた。僕はあることが気になって、依頼人に引き渡した子供の行方を探ったんだよ。14年前のことだ。さて、エイデンやミウ、マギア村の子供たちは何をされたのか教えよう。……実験だよ、彼らは実験体として利用されたんだ」



 実験体。

 剣を持つ手が震えてきた。



「そして、彼らはもう……この世にはいない」

「――!」



 全身から汗が噴き出した。



「な、何を言ってるんだ」

「実験の内容は、子供を魔物に転化させることだ。子供たちは毎晩、激痛を伴う薬を注入され、腕が脚が変形していく。薬を摂取した子供は長い年月をかけて姿を変容させ、最期は魔物になる……そういう実験だ。もしかしたら、君が狩った魔物は……エイデンかもしれないな」

「ふざけるなー! お前の話すことを全く信じる気にはならない!」

「そうやって、また逃げるのか。真実から目を背けて、ミミゴンの甘い言葉だけは信じて。自分の復讐だというのに、ミミゴンに手を貸してもらって。ミミゴンがいないと、僕の前に立つことすら叶わなかったんだよ。どこまで甘える気なんだ。君も覚悟していたんだろ、友がもういないことに」



 その通りだ。

 心の隅では生きていることを願っていた。

 いや、生きていると信じて、俺も生きていた。

 だけど、それでは自我が崩壊していくだけだった。

 何日も旅して、解決屋で耳を澄ませて、友の名を聞くことに賢明だったけど。

 儚い希望は、日に日に復讐心で圧し潰されていった。



「友を死なせたことにしないと、復讐を維持できなくなったんだね。しかし、復讐する意味を失ったね。しょせん、君の復讐なんて、その程度なんだ。ありがとう、レイラン。君のおかげで、僕は強くなれたよ。そろそろ時間も無駄にできなくなってきた、エンタープライズは恐ろしいからね」

「待て、ラオメイディア。俺がいつ復讐する意味を失った? 今もあるぞ。お前を瀕死にして、あいつらがいる研究所を教えてもらう。それから、お前らに依頼した依頼人についてもだ。それにな、ミミゴンが言ってくれたんだ。ラオメイディアはお前が倒すんだよ、ってな! 俺はミミゴンに恩を返したい! 復讐だけが生きる理由じゃない! 俺は諦めないぞ!」



 レイランの脳裏に、ミミゴンの言葉が蘇る。

 「ばーか、あいつはお前が倒すんだよ」

 「けど、不思議なことに人っていうのは、成長できる生き物なんだ。復讐でも、しに行けばいいさ……レベルアップした後でな」

 「民を守るのが王だ。それにクラヴィスやトウハ、ツトムも進んで、お前に力を貸したんだ。あいつらの想い、無駄にしないようにな」

 エイデンやミウが死んだというなら、あいつらの分まで生きる。



「俺は俺の本心に従う! ミミゴンに忠を尽くす!」

「予想外のことばかりだ。これほど充実した日は久しぶりだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ