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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
151/256

140 作戦会議―3

 ダイナミック・ステートが装着している赤いスーツ。

 あの赤が”魔物の血液”で、移植による拒絶反応を抑えているというわけか。



「さっき、”時間”が弱点といったのは血液が要因なんだ。移植させた魔物の力を利用するには、大量の血液が必要になる。だから、スーツの中に満たされた”魔物の血液”を全て消費させれば」

「勝ち目がある……ということですね!」



 クラヴィスが笑顔で答え、博士は頷く。

 博士の助言は、実力の計り知れない傭兵共に打ち勝つ確率を飛躍的に向上させている。

 さて、一旦まとめに入るか。



「映像でも確認できたように、ダイナミック・ステートは手強い。だが、耐え忍ぶことができれば、勝手に倒れることが分かった。国防軍で優秀な者が盾役として、奴らを引き付けてほしい。どいつに任せるかは、シアグリース……お前に任せる」



 シアグリースに指を差し、全員の視線を注目させる。

 見開いて驚いたものの、少しすれば明答して、胸に手を当てた。



「では、軍事指揮官として『エンタープライズ』を勝利へと導いてみせましょう!」

「頼んだ。ラヴファースト、期待していいんだな?」



 聞くまでもないと言わんばかりに「ああ」と声を漏らす。







 俺の剣は最強だが、もしかしたら負けることがあるかもしれない。

 会議の直前に、ラヴファーストがそう呟いたことを思い出す。

 続けて、こう言った。



「今いる国防軍の連中に、俺の全てを教えているつもりだ。特に、シアグリースとトウハの教育には力を入れている」

「えらく、弱気だな。体調でも悪いのか」

「……この戦いが終わって、一息つけた時に話そう。俺たちのことを」



 あの時のラヴファーストの目に、光が灯っていないように見えた。

 オルフォードといい、何か様子が変だ。

 アイソトープもそうだ。

 彼女は何も言っていないが、雰囲気が最初の頃と変化している。

 誰も近づけないオーラを発していたはずなのに、今ではすっかり皆とも馴染んだ色になっている。

 良いことのように思えるが、端々から焦りを感じるのだ。

 唐突に、エルドラの声が脳内で反響する。



(ミミゴンよ、大丈夫だ。あいつらを信じていればよい)



 エルドラ、何か知っているんだな。

 言葉に詰まって「うっ」と図星を突かれた声を出す。



(今は知らない方がよいぞ。ラヴファーストの言う通り、落ち着いた時に話そう)



 言い切られてしまった。

 鋭く迫った語気に、これ以上問い詰めることができなくなる。

 まるで、友達を失ってもいいという覚悟を秘めた声色だった。

 いずれ聞けるなら、今は仕事に取り組むしかない。

 おそらく、楽しい話ではないな。







 回想を頭から追い出し、作戦を練ることに脳を使う。



「モークシャは『VWA』に従い、『VWA』は情報を収集し、指揮が強化されていく。だから、早めに『VWA』とモークシャを潰す必要がある。それに対し、ダイナミック・ステートは時間をかけて、血液を消費させる……か」



 ぶつぶつと博士から聞き出した情報を呟く。

 ここで、博士が追い打ちを掛けるようにして、付け加えてきた。



「三社長も残っているよ、フジワラという人間も。それに……ラオメイディアがいる」



 オークのアスファルス、魔女のナルシス、秀才ドワーフのオベディエンス。

 加えて、転生者と思われる藤原良太。

 そして、全ての元凶ラオメイディア。

 まさかと思って、博士に質問する。



「その全員、魔物の力を宿しているのか」

「フジワラと、ラオメイディアを除いて、三社長は移植に成功したらしいよ。移植の成功率は二桁もないはずなのに、やっぱり恐ろしいよ三社長は」



 この前、出会ったオベディエンスを思い起こす。

 確か、奴の眼球……人のとは異なっているように見えたが。



〈あれはロクシアースという魔物の眼球でしたねー。普通は獲得できない『未来予知』が使えたのも、移植手術によるものでしょうねー〉



 ロクシアースの血液を、自身の血管内を巡らせているのだろう。

 俺は三社長の能力を聞いてみた。



「オベディエンスは『未来予知』だったな。じゃあ、アスファルスとナルシスはどうなっている?」



 意外な反応が目に映る。

 「分からないんだ」と首を横に振った。

 実戦で知るしかないのか。



「皆、俺に目を向けてくれ。だいたいの作戦は決まった」







 作戦は粗方、計画された。

 俺の案に、クラヴィスとオルフォードを中心にして、攻略法が確立していく。

 武備は徹底されている。

 会議が終わり、解散して夜風に当たろうと外に出た。

 そういえば、季節の変化はないみたいだな。

 いくら時が経とうと、エンタープライズ周辺は春頃を維持している。



〈雪が降る地域は、デザイア帝国周辺ですねー〉



 デザイア帝国は雪国なのか?



〈いえいえー、デザイア帝国は秋ぐらいの位置にありますー。帝国より東側で、雪山が目立ちますー〉



 傭兵派遣会社壊滅後に、グレアリングとデザイアの停戦。

 そう簡単にいかないだろうな。

 大魔法使いの退治を依頼されているし。

 ……今は今のことだけ考えよう。



「コペンハーゲンさん!」



 この声は、マトカリアか。

 声がした方向に顔を向けると、博士と背後にはマトカリアが立っている。

 博士は振り返ると、彼女の方を見て少しどもっていた。

 どうやら、名前が思い出せないらしい。



「あの、マトカリアです」

「あー、そうだ。マトカリアさん、さっきは良い質問をしてくれたね。実を言うと、嬉しかったんだ。僕の研究を理解しようとしてくれて、それにクラシック教授のことも話せたし」

「そ、そのクラシック教授について、もっと教えてくれませんか!」

「どうしてだい?」



 マトカリアは言い出しづらそうにしている。



「マトカリアの父親だからだ。な?」

「ゼゼヒヒちゃん!」

「この子が、教授の娘さん……だって?」



 ゼゼヒヒがすっと会話に参加する。

 いささか、驚きすぎとも思ってしまうリアクションをして、博士の目は彼女をしっかりと捉えた。



「まさか、教授に娘がいたなんて。……分かった、クラシック教授のことを話そうか」



 丸眼鏡を持ち上げ、鼻背にのせて話を始めた。



「あの人ほど優れた研究者はいない。頭も人格も優れている。だから、僕がこうしてこの地に立っていられるんだ。命の恩人だよ、あの人は」

「私の事は知らなかったのですか?」

「14年ほど前に、教授のもとから離れているしね。それまで、教授に奥さんがいたことも知らなかったよ」

「なんで、離れたんですか」



 マトカリアが知りたいのは父親だけでなく、殺害されたこともだろう。



「僕が離れたんじゃないよ。教授の方から離れたんだ。ある日を境に、連絡が全く取れなくなってね。最初は研究に没頭し始めたのかと思ったけど、どうもそうじゃなかった」

「……あなたが殺したんでしょ」

「ば、バカか! いきなり!」



 ゼゼヒヒが叫ぶ。

 対して、博士はゼゼヒヒに手を挙げて制した。



「疑われるのも無理はない。僕も教授が亡くなった一報が届いた後、複数のメールがパソコンを侵蝕したんだ。件名は『お前が殺したんじゃないのか』って。当時から、オベディエンスに軟禁されていたから新都リライズにも足を踏み入れていない。それに、ウェアラブルさんにも疑われたよ」

「お母さんも? けど、博士が真実を言っているんだったら、お父さんに手をかけることは……」

「それ以上、喋れるな。マトカリア!」

「ご、ごめんなさい。あ、それから……」



 そう言ったマトカリアは腰ポケットから、手帳を取り出す。

 父親が記した調合リスト。

 博士は受けとって、中身を一瞥する。



「これ、僕があげた手帳だ。なるほど、教授の遺志を継いで、君も書き始めたわけか」

「無念で仕方がないって、この手帳が訴えているみたいで。それに私も楽しくなり始めたのです。このエンタープライズでは様々な素材が毎日、集まってくるから止められなくなりました!」



 楽しさの塊みたいな笑顔を見せられては、博士も堪えることができなかった。



「ハハハッ!」

「何か、おかしかったですか?」

「いやいや、君に教授の血が流れているんだなって。やっぱり親子だ。教授は無口が過ぎた人だけど、研究している内容について質問したら、そりゃ大変だったよ。さすが、リライズ大学最強の教授と呼ばれるだけある」

「そうなんですか!」



 博士は腕時計を見つめ「おっといけない」と声を出して慌てた。



「もうこんな時間だ。睡眠は脳の栄養なんでね。それに、僕はロングスリーパーなんだ。話があったら、また明日」

「お休みなさい」



 博士は自分の寝床へ走っていった。

 マトカリアも、ゼゼヒヒを連れて城内へと歩いていった。

 手帳を愛おしそうに撫でながら。

 何事もなくて、俺は安堵する。

 それに、エンタープライズが発展してきたと感じることができた。

 こうして、エンタープライズによって人同士を繋ぐことができるのなら、エルドラも嬉しいはずだ。



(ふふ、意外な関係性も分かるかもな。まあ、我は大満足だ。ミミゴンに任せて、正解だったというわけだ)



 買いかぶりすぎだ。



〈エルドラは、その心の広さだけで国をつくったものですからねー。一時期……というよりも何度も危ない目に遭っていませんでしたかー〉

(国の事は、部下に任せっきりにしていたのがいけなかったのだ。我を反面教師に、これからも頼むぞ!)



 正直、俺には荷が重すぎる。



(失敗しても構わないぞ。笑われて、強くなるものだ。出来ることを着実にこなしていけば、いつの間にか肩の荷も下りている。今のやり方で、正解なのだ)

〈なんだか、安心感がありますー〉

(ガーハッハッ! これが国を治める者の意地なのだ!)

〈あなたの国、潰されてますけどねー〉



 いよいよ、傭兵派遣会社『バイオレンス』との決戦。

 奴が全力を出したら、無傷で終わるはずがない。

 師匠、あなたならどうしていますか。



「舞台に立ったからには、お客さんを安心させないとな。平和だからこそ、お笑い芸人に仕事があるってもんだ」



 師匠が言いそうなセリフだ。

 俺は王として、民を安心させないとな。

 ラオメイディア、楽しみにしておけ。

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