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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
150/256

139 作戦会議―2

「これから、ダイナミック・ステートのことも話していこう」



 休憩を挟んで、一息ついた後、再び作戦会議が始まった。

 コペンハーゲンの声によって、会議室にいる者の気が引き締まる音を感じた。

 ダイナミック・ステートは、レイランが第一武器庫を襲った際に現れた二体の異形。



「奴らは、モークシャと対をなす存在として生み出されたんだ。モークシャの場合、死人となったことで真の力を得た。だけども、肉体自体は脆い。簡単なことしかできないんだよ。殴ったり蹴ったりが強いだけで、武器を持つことはできないし、複雑な命令は不可能なんだ。そこで、生きながらでも最強になる方法はあるのか、というテーマで研究されたのが”ダイナミック・ステート”なんだ。奴らの脳は死んではいない」

「脳が死んでいないのに強い。特殊部隊や解決屋の連中を無双するほどだぞ。俺の中では、モークシャの上位互換だと考えているが」

「ここで、小話を挟んでいいかい? ダイナミック・ステートを解説するのに必要なんだ」



 コペンハーゲンは人差し指を立てて、急に話を区切ったかと思うと再度、話を始めた。



「マルミナ・クラシック教授を知ってるかい。リライズ大学で、スキルシステム学を専攻していた人物さ」



 クラシック教授が小話に登場するとは。

 不意に、マトカリアの方を向いた。

 彼女はマルミナ・クラシックの娘だ。

 予想通り、父の名前が唐突に出てきたことで驚いていた。

 つい先ほどまで眠たそうに目を擦っていた彼女の姿勢が、立ち上がって前のめりになっている。

 このまま、父親の事を聞くのかと思っていたが、声が出る前に口を慌てて閉じた。

 彼女の動作に戸惑った博士が「どうかしたのかい?」と尋ねる。

 狼狽えながらも、マトカリアは質問した。



「あの! ……スキルシステム学ってなんですか」



 クラシック教授のことは聞かないのか。

 空気を読んで、この場に合った質問に変えたのだろう。

 コペンハーゲンは一度、頷いて答えを述べた。



「簡単に説明すれば、スキルそのものの研究だよ。スキルの効果を調べたり、より効果的にスキルを活用するには、などといった主に解決屋ハンターを手助けする学問だね。とはいっても、この学問は魔物に対抗するために始まったものなんだ。マルミナ・クラシック教授も、そのために全力を尽くしていた。子供でも魔物を倒せる方法があるのではないかと毎日、研究していたよ」



 立ち上がっていたマトカリアが冷静さを取り戻し、着席する。



「魂ある者が発動できる超能力……それがスキル。魂によって、スキルが使えるようになるんだ。つまり、モークシャがスキルを発動することは不可能」



 モークシャのメリットは、身体能力が限界突破している、『V-WA』による無駄のない指揮、ナノマシンを注入して適合者となる確率が高い(手軽に超人になれるということだ)、半永久的に活動できる、それからコストが安価で済む。

 デメリットとして、簡単な命令しかできない、スキルの発動が不可能。



「これでは強敵と渡り合えない。それに臨機応変に対応することができないから、かえってこちらが不利な状況になる可能性もある。だから、生きながら最強になる方法、がテーマになったんだ。そこで考えたのが、魔物の特長を生きている人間に取り込むことだった。ダイナミック・ステートとは”魔物と人間の好いとこ取り”と言い換えることができるね」

「訳が分からん。魔物の要素なんているか? レベルの高い人間を用意した方が早いんじゃねぇか?」

「ミミゴン様、その通りかもしれない。だけど、レベルを上げることは簡単じゃないよね。魔物を倒すのにも一苦労なんだ。それに時間もかかる。皆は異常だから感覚が麻痺してきて分からなくなってきたと思うけど、解決屋のAランクハンターの平均レベルは約60だ」



 エンタープライズ国防軍の平均レベルは70だ。

 一番低い者で50だ。

 解決屋の連中を優に超えた軍ということだ。

 コペンハーゲンが異常だ、と言ってしまうのも無理はない。



「ラオメイディアは、僕に言ってきた。『レベルという概念を排除して、最強の戦士を創ってほしい』ってね。つまり、”一瞬で強くなる方法”を求めてきたんだよ。最初は不可能に思えたよ。だけど、クラシック教授が魔物の研究をしていたことを思い出したんだ。皆、魔物には”部位にスキルが宿っている”ことを知っているかな」

「魂に、スキルが宿っているのではないのですか?」



 クラヴィスが、疑問を口にする。

 質問が飛んでくることを予想していたコペンハーゲンが、タブレット端末を操作し、スクリーンに魔物のシルエットを表示させた。

 巨人を横から見ている図だ。



「これは、グラ・アトラスという魔物だ。特徴的なのは、両腕から発生させる『空間圧縮』だろう。スキル『空間圧縮』はレベルを上げれば人も使えるが、グラ・アトラスは生成されたときから使えるそうだよ。このように魔物の場合、生成されたときからスキルを使うことができるんだ。クラシック教授は、このことに焦点を当てて、研究した。その結果、魔物の部位にスキルが宿っていることが判明したんだ。国防軍の方達に質問していいかな? 例えば、アラーニエという蜘蛛型の魔物がいるよね。スキル『粘着糸』を使用して、粘液が付着した糸を発射する厄介な魔物だけど、どうやって倒している?」



 これに、トウハが答えた。



「普通に、真正面からだぜ!」

「トウハ。それでは話が終わってしまうでしょう。僕が代わりに答えます。『粘着糸』の使用を防ぐため、腹部を破壊します。それから討伐という流れですね」



 要領を得ないトウハの代わりに、クラヴィスが答えた。

 なるほど、蜘蛛は腹部にある糸線という器官に溜めこんだ液体によって糸が完成する。

 『粘着糸』というスキルも、蜘蛛の魔物は腹部があるから発動できるのか。

 生まれつき、スキルを習得しているのも理解できる。



「腹部を破壊すれば、『粘着糸』は発射できない。つまり、スキルが失われたということだ。この現象を利用すると、さっきのグラ・アトラスが『空間圧縮』を扱えるのは腕によるものだと説明が付く。そして、僕はこう考えた。グラ・アトラスの腕を人間に移植すれば『空間圧縮』が使えるんじゃないか、と」



 画面に映し出されていた魔物のシルエットは消え、次は動画が大きく映し出されている。

 シークバーの真ん中あたりをクリックし、再生ボタンが押された。

 雑音の混じった音声がスピーカーから流れてくる。



『がっ! いてぇ……なんだ? 何もない……あれ、浮いてないか俺。……ッ! だれがっ! だずげで! ちゅ、ぢゅぶれでゅ! ぐぎゃ!』



 動画は、武器兵器庫で初めてダイナミック・ステートが登場したシーンを再生していた。

 ドローンの撮影によるもので、上空から撮られているので状況を把握しやすい。

 ダイナミック・ステートが手を伸ばし、ハンターを”圧縮”し、破裂させたのだ。

 『空間圧縮』を発動させたのは、ダイナミック・ステートの腕――グラ・アトラスの腕――によるものだったことが認識できた。

 しかし、よくもまあ簡単に発明できるもんだ。



「グラ・アトラスの腕を加工して、人間の両腕に移植させたから『空間圧縮』が発動できるんだ。それから……」



 ダイナミック・ステートが突然出現する場面まで巻き戻して、説明を続けた。



「ここでは『不可視』が発動しているんだけど、これはオクトパステルスの色素胞を人の体に埋め込んで発動させているんだ。『電光石火』による高速移動は、イナズマ・ゴブリンの足を移植させて発動している」



 シークバーの白い点を右に移動させ、目的の位置で再生する。

 シトロン・ジェネヴァの特殊部隊や解決屋が、必死にダイナミック・ステートを相手にしている。

 あらゆる攻撃を試すが、ダイナミック・ステートの肉体は衝撃の瞬間、硬化させて、ダメージを無効化している。

 自身の体表を岩石のように変化させ、硬化させているのが厄介だ。



「『超硬化』は、アダマンドレイクの鱗を細かく加工して、肌に移植させたことで発動できるんだ」

「博士、回りくどいことは分からん。こいつの弱点を教えてくれ。どう戦えばいい?」



 いちいち詳細は聞いていられない。

 俺はさっさと聞きたいことを博士の口から言わせる。

 自分が喋りすぎていたことを、ようやく自覚し、解説に入った。



「ハッキリと言うと、弱点は存在しない。強いて言うなら”時間”だろうか」

「時間だと? 素早く倒せ、と?」

「逆だよ。奴らは、時間が経過するたびに弱くなっていく。だから、時間が長引けば長引くほど、こちらが有利になってくる」



 博士は、タブレット端末を指で軽く叩く。

 同時に、ダイナミック・ステートが大きく映し出されている場面に移動した。。



「彼らが装備している赤色のスーツを注目してほしいんだ。スーツの赤色は、闘争心を駆り立てる心理効果も狙っているけど、これは……”血”の色なんだ」



 ニコシアが思わず、呟いてしまう。



「……人間の、血?」



 首を横に振って、博士は握り拳を固めた。



「いや、人間ではないよ。これは、魔物の血液だ。皆は”異種間臓器移植”という治療法を知っているかな。世界では臓器提供者が少ないために、毎年数え切れないほどの人が死んでいるんだ。そこで目を付けたのが、魔物の臓器を人に移植することだ。この技術が確実となれば、誰もが移植手術を受けられる世界になる。だから、リライズ大学の研究者たちは探究を始めた。けれども、巨大な壁にぶつかってしまうんだ。魔物の臓器を移植した人間が拒絶反応を示し、死亡する者も現れた。先ほど話した通り、僕らも拒絶反応という壁にぶつかってしまった。リライズ大学では、遺伝子組み換え技術を応用した実験が行われたが、長く生きることはできなかった。そこで、臓器拒絶反応を解消するために、僕らが考えたのが……魔物の血液と人間の血液を入れ替えることだった。これによって、拒絶反応を示すことはなくなったんだ」



 ダイナミック・ステートは魔物の力を取り込んだ人間。

 あのスーツには、グラ・アトラスやオクトパステルスなどの血液が混ざっているということか。

 博士の講義は、まだ続く。

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