14 吸血鬼:脱獄
「あのね、あいつがどんなことしたか分かっているの?」
「ああ、理解してる。だけどな、だからといって処刑は無しだ。だったら、俺の国で有効活用だ!」
ハウトレットが険しい顔をして、俺の提案を否定する。
死刑反対だ、グレアリング王国!
殺すことで許すのか、この国の連中は。
吸血鬼って珍しい魔人なんだろ。
働かせて世のために貢献させた方がいいはずだ。
「アンタが、あの殺人鬼を操れるの?」
「ああ、あいつは『あなた様についていきます』と言ったぞ」
「殺されたくないからじゃないの? 助かった後で裏切られるのがオチよ」
「そうとは限らないだろ」
「可能性は高いですけど。まあ、それより処刑のことね。国としては早く殺したいはずよ。国民の前で殺せば、平穏が訪れたと安心するの。アンタは、殺人鬼が出没するようなところに人が行くと思う? 人間とはそういうものよ」
近くで通り魔事件が発生しました、犯人は今も逃走中です、って言われて、じゃあ遊びに行こうかとは難しいしな。
言いたいことは分かるが。
「当日、どういった処刑方法なんだ?」
「さあ? 首チョンパされて火あぶりかもしれないし、新たに開発された毒薬の実験に付きあわされるかもね」
「俺としちゃ、丸々解決できる方法が良いんだけど」
「ま、頑張りなさいな。私はこの件に一切関わらないし、じゃあね」
「せめて、情報を! 王城の内部とか、見張りの数とか」
「知らなーい。ワタシ、シロニイッタコトガナイカラ」
「嘘つくなよ!」
「処刑されるの、明日だと思うから」
「ハァ!?」
ハウトレットは、さっさと出て行ってしまった。
俺一人で何とかしろと。
今夜で策を立てろと。
国に気付かれないように処刑を回避し、吸血鬼を連れ去る方法。
無理に等しいのでは。
(何悩んでいる、我が親友よ。我がいるではないか)
エルドラ! 手伝ってくれるのか!
(もちろんだ。助け合うのが親友なのだ)
心強いぜ、エルドラ!
もたもたしてる場合じゃない、すぐに出発だ。
しばらくしたら考え付くだろ。
「アイソトープ、ラヴファースト! 俺の呼びかけに、いつでも対応できるよう王城前に待機だ」
「かしこまりました」
「本は、いいのか?」
「そんなもん、いつでも探せる! 俺に触れろ」
未だ吸血鬼の俺に二人は触れ『テレポート』を発動する。
(まあ、何も思いつかんがな)
瞬間移動で、王城前。
浮かれているのか、上機嫌の衛兵が城の前を行ったり来たりしている。
邪魔だなー、蹴散らして進めればどれだけいいだろう。
いざという時の二人は目立たない位置に配置させ、俺だけで攻略する。
『ものまね』とか駆使すりゃ何とかなるはず。
その辺の衛兵に化けて、お邪魔する。
よし、すんなり通れた。
開きっぱなしの扉を潜り、赤色の美しい絨毯の上を歩き、見張りしているような足取りで、地下牢まで進む。
目当ての牢は地下二階に存在していると、エルドラから連絡が入った。
ついでに見張りの数や位置も教えてくれる。
あれ、楽勝じゃないか。
案内された通りに、地下一階へと続く階段を下りていく。
階段を下りた先の長い通路を突き進んでいった。
倉庫とかの物置部屋が多い。
あれは、地下二階への階段か。
慎重に下りていくとするか。
「おい、止まれ。そこの衛兵」
「は、はい!」
うん、誰だ?
恐る恐る振り向くと腰に剣を帯び、強そうなオーラを醸し出している男がいた。
少々老けており、50手前といった感じか。
動きやすそうな防具を装着した人物が俺を呼び止めた。
ばれる可能性あるかな。
自然に振舞おう、そうしよう。
「ななななな、なんでしょうか」
全然、自然じゃない。
不自然の極みだ、これでは!
『危機感知』が反応し続け、落ち着けない。
いらないよ『危機感知』なんて。
オフにできないのこれ。
〈できますよー〉
できるんかい。
さっさと、オフにしてくれ。
「質問! どうして、こんなところにいる?」
「は! きゅ、きゅうてつちを……」
肉を貫く鈍い音が、耳に入ってくる。
腹に剣が刺さっていた。
て、なんで剣刺さってんだよ。
緊張で舌、噛んだだけだろ。
許してくれよ、それぐらい。
「怪しいな、見張りなら足りているが」
「足りてないですよ! だって、さっき見張りをよこせって」
「だったら俺に届いているはずだよな、その連絡」
怪しいからって、いきなり刺すかよ。
いつ刺したんだよ、見えなかったぞ。
こうなったら、強引に突破するしかない。
「お前、誰なんだよ」
「ほう、白状したか。俺はアルテック。グレアリング最強の剣士と呼ばれている」
「自己紹介どうもありがとう。じゃ俺、忙しいしまたな」
「質問! 行かせると思うか?」
何が質問だ。
答えは沈黙だ、答えられないんだよ。
じゃあ……な!
階段目がけてダッシュしたが、足を斬られて前のめりに倒れてしまった。
迷いなく両足真っ二つにしやがって。
断裂面から血が出てきて、痛みを教える。
アルテックは腹に刺した剣と別の剣を手に持って、油断なく構えている。
「質問! 足を失った感想は」
「痛いし、死にそうが答えだ。満足しただろ、オッサン。テレポ……」
「オラァ!」
『念話』で、エルドラに助けを求める。
緊急事態!
こちら、ミミゴン!
今、ザックリとトマトを切るように、鎧を貫通し背中を斬られました!
(こちら、エルドラ。直ちに『テレポート』を行え)
茶番は続けなくていいんだよ。
それより、『ものまね』の効果が切れる前に早くしないと。
了解、『テレポート』!
追加の斬撃を食らう前に脱出を果たす。
スキルの効果が切れ、機械の体に戻る。
城を離れ、オルフォードがいた洞窟に移動した。
それにしても容赦なさすぎだ、アルテック。
動けない俺に斬撃の雨でも浴びせよう、と言わんばかりに突いてくるし。
あいつに見つかって今頃、城の警備はより強固になっただろうな。
いっそのこと殺すべきか。
いや、より騒ぎになるな。
地下二階までの道は一回見たし、そこまでは余裕だが。
エルドラ、あいつはどこにいる?
(ターゲットの真ん前だ。これでは脱獄など不可能だ)
オッケー、ありがとう。
さて、助手。
〈はーい『見抜く』を使用しましたー。睡眠耐性は半減ですねー〉
半減でも効くんだったら、俺の『邪悪』は発動するな。
〈その通りですー。対象を眠らせるスキル『グッスリープ』でいい夢、見させましょーう〉
目が覚めたら悪夢だけどな。
さてと、第二ラウンドの始まりだ。
『テレポート』で地下二階へと忍び込む。
『潜伏』で姿を見えにくくし『消音行動』で音を立てず、目的地までササッと目指す。
あちこちにいる衛兵も、俺の存在には気付かず、吸血鬼のいる牢へ瞬時に辿り着いた。
当然、アルテックが衛兵と共に前に立っている。
と、ここで『グッスリープ』を発動する。
それによって、ホワーと白い煙がアルテック達を包み眠らせた。
グレアリング最強の剣士でも疲れているはずだ、眠ってくれ。
眠っていることを確認した後、牢屋の奥に足枷をはめられた吸血鬼の様子がうかがえる。
牢を指でコンコンと叩き、俺がいることを知らせる。
暗い表情の顔を上げ、状況を確認する。
「あなたは……」
「お前を出しに来た。ちょっと待ってろ」
素の俺である宝箱の背面から一本の手が出てくる。
エルドラが造った『ロックピッキング』のスキルが付与された小さな手を鍵穴に差し込み、すぐにガチャンと扉が開く。
「よし、よく聞いておけよ」
「は、はい……」
一通り作戦を話終わり、一件落着のために二人は動きだした。




