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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
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137 大変動―融合と運命

明けましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします! 2019年を良い年にしましょう!

1月1日 神島しとう

「剣の形はそのままに、バールの特性を組み込みます!」



 伊藤真澄が叫ぶと輝く剣にバールが接近していき、やがて剣がバールを吸収した。

 攻撃した相手のスキル効果を無効化するバールの効果を、レイランの剣に託したのだ。

 『融合』が終わり、空中に浮いた剣はゆっくりと真澄の手のひらに落下していく。

 一体となったレイランの剣は、俺に手渡された。



「このように俺の『融合』は、地味なように見えて活用できれば最強になりえるスキルです。……上手く活用できた場面はありませんでしたが」

「それにしても、見た目がレイランの剣でよかったよ。バールになってたら、お前の美的センスを疑うところだった」

「いやぁ、喜んでもらえてよかった!」

「なんだか前に、会ったときよりも機嫌が良いな」



 誰から見ても表情が生き生きとしている。



「実は超絶、美人な女性が『ヴィシュヌについて教えてください、愛してます!』って俺に会いに来てくれて」

「怪しいな」

「もう、俺の口は止まらなかったっすよ。オタク特有の早口で、ヴィシュヌのあれやそれを丁寧に説明して。挙句の果てには……案内しちゃいましたよ、秘密の場所へ」

「秘密の場所?」

「実は、ヴィシュヌをそろそろ大型アップデートさせようかなと思いまして。昨日、国民に内緒ですごい機能を追加したんですよ」



 その内容は、ヴィシュヌの持ち主を制御するといった機能らしい。

 急に早口で説明し始めて、何を言ってるのか理解できなくなってきたが、助手の活躍により要約するとこういうことらしい。

 ヴィシュヌはもともと、他人の脳を操るという目的で創られたナノマシンだそうだ。

 体内に摂取されたヴィシュヌは二種類に分解され、血管内を泳ぐ「健康機械物質」と大脳に寄生する「寄生機械物質」である。

 これまで健康機械物質が「個人情報の管理」「健康調査」を担当していたため、寄生機械物質が働くことはなかった。

 脳は未知の器官として有名であり、現在も研究が盛んなのである。

 リライズ大学では前年、大脳にはわば”運命”が存在しているのではないかという研究結果が発表された。

 それは、非科学的なスピリチュアルを科学的に証明できる可能性を見出した大発見である。

 もし、証明することができれば、未来予知を行う占い師は大脳に刻まれた運命を読み取っているということになる。

 生まれるときから既に運命は定まっているという考え方が基本となるが、伊藤真澄によれば定まった運命を変えることができるのだという。

 にわかには信じがたい内容だが、真澄は一部の運命を操ることに成功したという。

 簡単に説明すると、人の意思と意志を制御できたのである。

 いや、証明しちゃったよ、大脳に運命が刻まれていること。



「ミミゴンさん、完全には解明されていませんよ。あくまで「運命脳」と、それに司る機能の一部を発見しただけです」

「お前、天才か?」

「孤独で研究することが好きですから。それに今はまだ、個人を操るに至っていません。第1番街から第7番街のそれぞれに子機が設置してあります。そして、秘密の場所に置いてある親機で命令という感じです。命令の例として、第1番街に住む者は”声が出るほど笑え”、第2番街の者は”一斉にアニメを視聴せよ”……みたいな簡単な命令が発信できます。ですが”一斉に空中に浮け”といった非現実なことや、”ステータスをMAXにしろ”、”スキルを取得しろ”といったゲーム改造ツールのようなことはできません」

「恐ろしいな、やっぱり」

「まあ、その効果時間は一時的なものです。現在は約一時間が限界です」



 ヴィシュヌを入れなくてよかったと心の底から安心している。

 だが。



「もし……親機で”自殺しろ”と命令すれば」

「……街の全住民が自殺しますね。身近に刃物があれば首を切り飛ばしたり、たまたま屋上にいれば飛び降りるでしょう」

「自分で語ってて、何とも思わないのか」

「もちろん、簡単に命令できないようにしています。この研究は人間の可能性を探るためのもの。ミミゴンさんはネガティブに考えていますが、その逆も可能なんです。個人を操れるまでになれば、自殺の防止に繋がる。スポーツができる人間にも、勉強ができる人間にもなれるのです!」



 真澄は拳を握って、泣いていた。



「転生前の俺みたいに苦しまなくていいんです! 皆、辛い思いをする必要はない! 俺は! 人類の平和のために研究しているんです! いじめのない世界……見たいんですよ、俺は!」

「真澄……すまない、言い過ぎたよ。お前の気持ち、分かってなかったな」



 頭を下げて謝る俺を見て、真澄はハッと気づく。

 すぐに駆け寄ってきて。



「俺の方こそ、すみません。ちょっと感情的になってしまいました。……ミミゴンさん。こんな俺ですけど、そっと応援してもらえませんか。ちゃんと倫理を守って、研究しますよ。もちろん、異世界から出る方法も研究します」

「なんていうかさ、お前の印象が変わったよ。変人で自己中心的な考えをしてるのかと思ったら、他人のこともちゃんと考えてるんだなって。それから、そっと応援したってお前は気が付かないだろ。俺は大きく応援してやるよ、驚くほど大きくな。それに……異世界も悪くないなって思ったよ、一瞬」

「一瞬って……でも、思ってくれたことが嬉しいです。これからはポジティブ思考でいきましょう! 明るいところに人は集まるので!」



 照れくさそうに笑った真澄を見て、俺もつられて笑ってしまった。

 久しぶりの感覚を思い出す。

 頼れる仲間を見つけた感覚だ。

 俺も外見は機械だが、中身は立派な心をもった人間だ。

 王様という立場から接するのではなく、同じ人として接しているのだ、伊藤真澄とは。

 信頼するとはこういうことか。







 エリシヴァ女王、イフリート、伊藤真澄とネーブルは新都リライズへと帰っていった。

 その日の夜、会議室にしていよいよ作戦会議が始まったのである。

 傭兵派遣会社ヴァイオレンス壊滅の作戦を。

大脳にある「運命」のくだりは、もちろんフィクションです。

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