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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
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135 コペンハーゲン・ニールス

 駆動音が空間を揺らし、風が空間を吹き飛ばそうとしている。

 機械龍によるものだ。

 オベディエンスが起動させたようで、機械に青い目が現れる。



「オベディエンス! 僕の話は終わってないぞ! 逃げる気か!」

「コペンハーゲン、あんたは伏せていろ!」



 俺はコペンハーゲンを抱きかかえ、オベディエンスから離れる。



「ミミゴン王、私をここで倒してみるか? 私から直接、話を聞けばいいかもしれないぞ」

「名案だな」



 近くの遮蔽物に、暴れるコペンハーゲンを置いていく。



「あなたがミミゴンか。オベディエンスと闘うのはやめろ。僕は君のためを思って言っている。奴は、ドワーフを超えた生物になっているんだ!」

「分かっている。だが、ここで奴を倒しておけば、楽になるはずだ」

「何を馬鹿げたことを! 僕は忠告したんだよ!」



 ドワーフは全種族の中で、戦う力がない。

 小柄な体型であるが、それよりも戦闘用スキルの習得が難しい。

 彼らは職人なのだ。

 戦いが本職ではない。

 なのに、正面のオベディエンスからは戦闘に対する妙な自信を感じる。

 戦うことを好んでいるかのようだ。

 後ろでは、コペンハーゲンが必死に叫んでいる。

 戦うな、僕を助けてくれなどと。

 確かに博士と接触し、あとは『テレポート』で帰るだけだが。

 いや、ここで奴を仕留める。



「来るか、王様! 油断はしないぞ!」



 『ものまね』で人間の姿に変化させ、真正面から立ち向かって走る。

 オベディエンスは、目を見開く。

 見開いた目は、黒から輝く青へと変化した。

 何かスキルが発動したのか。



「王様の動きは、私が支配する! 『未来予知』だー!」



 その目に映っているのは数秒後の俺か。

 このままでは対策されてしまう。

 助し……。



〈そのまま突っ込んで、オッケーですよー〉



 助手の提案通り、そのままの勢いで飛び掛かった。

 右手で、驚愕するオベディエンスの顔面を殴る。

 血と歯を飛ばしながら、機械龍に激突し、体を震わせていた。



「なぜ、発動、しない!? 未来が見えない!」



 それ以上、喋らせるか。

 目を手で覆いかぶせて這いずるドワーフに追撃しようと脚を動かす。

 オベディエンスは機械龍に乗り込むための梯子に手をかけていた。



「逃がすか!」

「イマジン、追い払え!」



 機械龍が浮き上がり、血で塗れたドワーフを連れ去っていく。

 同時に、上空からミサイルと銃弾を浴びせてきた。

 『バリアウォール』で身を守る障壁を発動させ、防御に徹する。

 すぐに目の前が爆発し、耳を劈く音が発生した。

 浮遊できないほど、重い攻撃だ。

 一斉射撃が終わったころには、敵はとっくに消えていた。

 ただで逃がすつもりはない。

 EIHQのニトルに追跡してもらう。

 だが、逃げるといっても、ラオメイディアのいる傭兵派遣会社以外にあるだろうか。



「僕は、エンタープライズに貢献したい。僕は罪を償いたいんだ!」



 そう言って、コペンハーゲンは俺の顔を見つめてくる。







 コペンハーゲン・ニールスは貧民街で産声を上げた。

 貧民街は別名”第0番街”と呼ばれ、リライズ領の中で最も貧しい街だ。

 それゆえに”新都の失敗作”が最後に辿り着く場所として知られている。

 ここに生まれたことは不幸かもしれないが、それ以上に不幸な出来事が彼を襲った。

 1歳になった頃、突如として手足の先が黒ずみ始め、瞬く間に手首と手足は真っ黒になってしまった。

 更に、黒く変色した場所に力が入らず、日に日に全身が動かなくなっていく。

 見かねた医者が、彼の手足を切断した。

 だが、終わりは訪れなかったのだ。

 切断面から黒くなり、右目まで黒い染みが這い上がってくる。

 看病していた医者はとうとう彼を見捨てた。

 同時に彼の奇病の噂は第0番街では有名になり、彼に構う者はいなくなった。

 彼は生まれてすぐに”絶望”を心で感じ取ってしまったのだ。



 ある日、飢餓で苦しむコペンハーゲンを何者かが拾いあげ、すぐさまリライズ大学まで運んだ。

 目を覚ました彼の全身から”黒”が消え去り、切断された手足には義肢が装着されていた。

 そのうえ、食べ物まで運ばれてくる。

 コペンハーゲンを死の淵から救いあげたのは、スキルシステム学を専攻していたクラシック教授だった。

 教授は彼を良き研究者に仕上げる目的で教育を施し、やがて若き天才としてコペンハーゲンを生まれ変わらせた。

 10歳になったコペンハーゲンは、親代わりに育ててくれたクラシック教授に恩を返したいと心に決める。

 生まれつき心臓の悪かったクラシック教授を助けるため、当時あまり研究の進んでいなかった生体工学を専攻したのだ。

 これは自分のためでもあり、人類のためであると使命感を抱き、彼は才能を発揮する。

 『ヴィシュヌ』を活用した人工心臓は完成し、それはクラシック教授を大いに喜ばせた。

 それだけでなく、彼の活躍は生体工学に注目を集めさせ、研究も盛んとなった。

 「欠損の貧民」と言われた彼は生体工学の権威となり「10歳の天才研究者」と話題になる。



 ただ、コペンハーゲンの研究テーマは独創的で理解しがたいものだった。

 それゆえに理解者はおろか、協力者を名乗り出る者はいなかった。

 リライズ大学は彼の優秀さを評価している。

 だからこそ、彼の方向性を変えようとあらゆる手段を試みた。

 しかし、彼は変化しなかった。

 障害者のためのツールを開発し、世間では評価されるものの、ツール自体に問題があったのだ。

 人類なら誰もが持つ”魔力”と反応するツールで、扱い方を誤れば兵器にもなりうる代物だった。

 コペンハーゲンは”力”に飢えていた。

 障害者であっても、弱者ではない。

 そんな思いが彼の内に秘められており、自ずと殺傷能力のある義肢を開発していたのだろう。

 ついに見限ったリライズ大学は、彼の研究テーマに与えられた予算を削減した。

 11歳の頃である。

 失意のどん底にあったコペンハーゲンと接触したのが、リライズ大学で最も優秀だった学生と伝説になっていた人物。

 それが傭兵派遣会社『ニュートリノ』の社長オベディエンスだった。

 意気投合した彼は、オベディエンスと共に人工義肢を開発していく。

 コペンハーゲンは夢中となり、オベディエンスの要求を全て達成してきた。

 中には強力な兵器も依頼されていたが、気付かぬまま開発に着手したのだ。

 オベディエンスは彼を巧妙に操り、優れた才能で人殺しの道具を作らせていた。



 リライズ大学でも変えられなかったコペンハーゲンを変えたのは一通の手紙だった。

 彼が14歳になった時のこと、マルミナ・ウェアラブルと名乗る人物から手紙を受け取る。

 内容は、夫マルミナ・クラシックが亡くなったことだった。

 そこで目が覚めたのだ。

 これまで自分が開発したものは何だったのか。

 ところが、もう遅かった。

 オベディエンスはさらなる要求を突きつけてきた。

 AIを搭載した巨大な兵器を創造しろ。

 AI搭載機械に武装を施せ、強力な武器も追加しろ。

 それが、コペンハーゲンとオベディエンスを決別させた依頼だった。

 それから、14年が経過する。







 現在、医療室でコペンハーゲンが眠っている。

 助け出した後、彼が酷く衰弱していることが分かった。

 こうなったら緊急入院だ。

 一日も経たない内に、コペンハーゲンは目を開け、食事を済ませた。

 その後、互いに自己紹介をし、彼はぽつぽつと過去を話し始めた。

 貧民街で生まれたこと、クラシック教授に拾われたこと、リライズ大学から見捨てられたこと、オベディエンスと兵器を開発していたこと。

 だが、心は入れ替わり、エンタープライズで生体工学を用いた装備を開発したいと申し出た。

 天才研究者を放っておくわけにはいかない。

 彼をエンタープライズの住人として迎えることにした。

 そして、傭兵派遣会社壊滅のための情報を得る。

 今はまだ療養中だが、コペンハーゲン博士は心強い仲間になるはずだ。

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