132 必定に納得を
「バルゼアー……ラオメイディアに挑んでいたのか」
「私を愚かだと笑うか。大いに結構。そういう生き方をしてきたのだから。ラオメイディアを倒すのは私ではなく、道場で育てた子。”教育”を施し、いつの日か……」
「笑いはしない。が、もうその必要はないな。いいか、ちゃんと育てろ。子供たちを」
言葉をぶつけた途端、バルゼアーは頷いて、星空を眺めた。
「ありがとうございます、ミミゴン様。おかげで目が覚めました。道場はお任せください。それと……私の独り言を、レイランに伝えるのは止してください。彼は、まだ理解できないでしょう」
ラオメイディアは復讐しに来た敵にさえ、説教できる。
恐れていないのだ。
たとえ相手が風雲の志士であろうと。
レイランが挑んだところで、返り討ちにあうのがオチか。
だけどな。
「分かった。バルゼアーの独り言は伝えないでおく。だがな、あんたが思っている以上に、あいつは強いぞ」
「そうですか」と漏らして、遠くで狩猟しているレイランを見やる。
その表情は、我が子を見守る笑顔だった。
「人は内から溢れ出る”悪”を抑えつけながら生きる。”欲”とも言ったりする”悪”を抑えつけて、生き方を探す。正義を貫くほど、自由から遠のく。やりたいことたくさんあって、だけども我慢し続けなければならなくて。よく耐えられているなと思いますよ、83年間生きてきて。時折、御伽噺の邪神に憧れたりしましたよ。たまには、いいんじゃないでしょうか……”悪”を解き放っても」
レイランの復讐を肯定しているのだろうか。
もちろん、犯罪行為を推奨しているわけではない。
たとえ、後悔する結果となっても、やりたいと思ったならやれと言っているのだろうか。
バルゼアーの物言いは、まるで自分自身にも聴かせているみたいだった。
バルゼアーは、こちらに向き直って。
「レイランに教えたいことがある。もう一日、預かってもいいだろうか?」
「俺がどうかしたのか?」
後ろに、レイランが立っており、先ほどの会話を聞いていたみたいだ。
住処を失った魔物の襲撃を、どうやら食い止めたらしい。
周りは、安堵の雰囲気で包まれていた。
疲れ切った体を地面に投げ出している者達が多い。
「レイランよ。『魔法剣』を活用した必殺技を授ける」
「必殺技だって!? 早く教えてくれ!」
必殺技ねぇ。
正直、ラオメイディアに通じるものなのかと疑いたくもなるが。
それはそうと。
「レイラン、今日はもう休め。バルゼアーも、明日でいいよな」
「もちろんだ」
「えぇ!? ……分かったよ。怖い目で見つめるなよ、ミミゴン」
レイランも覚悟しているはずだ。
必殺技なんて、気休め程度にしかならないことを。
ラオメイディアは無敵に近い存在だ。
祠で手に入れたエクスカリバールで、一応対抗できるが。
その必殺技、当然リスクもあるよな。
はぁ、助手。
快眠できる方法を教えてくれ。
(カフェインとアルコールの摂取を控えることですねー。あと、就寝一時間前にはスマホの電源を切りましょうかー。それから、入浴もしましょー! あと、入浴時に全身潜れば除霊できるそうですよー! ところで今でも悩んでいるのですけどー、就寝時の部屋の明かりって真っ暗の方が良いんですかー? ブルーライトを唯一含まない色がオレンジの光なんですけ……)
翌朝、セルタス要塞を発つ準備を終え、三人は門前に集まっていた。
朝起きた時には、既にレイランは必殺技を習得していた。
バルゼアーも昨日と比べて、満足気な顔をしている。
レイランが、ラオメイディアへの復讐に付いてきてほしいとお願いしたが、バルゼアーは要塞の修理等で忙しくなるみたいだ。
「そうか、残念だ」
「レイラン……君に託したのだ。私の分も、奴にぶつけてきてくれ。頼むぞ」
「任せてくれ! 俺は、もう負けない! 必ず復讐する!」
バルゼアーと近くにいたハンター達が、手を振っているのを確認して『テレポート』した。
一瞬で目の前の光景が、要塞からエンタープライズ城へと変わった。
「レイラン、これからどうする?」
「そうだな。トウハに見せつけてやるか。特訓の成果を!」
「共に切磋琢磨して強くなれ。じゃあな」
「ありがとう、ミミゴン! 良い旅だった!」