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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
140/256

130 恩讐を越えて―3

 クブラー砂漠から新都リライズを目指して、ひたすら足を動かした。

 太陽の光を全身で受け続ける。

 時折、水筒を取り出し、一気に呷る。

 クブラー砂漠と言えば、激しい気候変動で有名だ。

 特に、強烈な砂嵐に遭遇すれば、タダではすまない。

 砂が鋭利な刃と化し、たちまち木端微塵にすると言われている。

 といっても、ここは比較的優しい環境だ。

 砂漠の奥へ奥へと進めば、確実に砂嵐が襲ってくる。

 まず、誰も近づこうとしないし、それに特殊な結界で侵入できないになっているそうだ。

 ということで、クブラー砂漠の奥は今だ未知の場所として存在している。



(バルゼアー隊長! 聞こえてますか! 返事してくださいよ!)

「その声は、ロサ・ルーベルか」

(なんだか憔悴しきった声っすね。何かあったんすか)



 『念話』によって、部下のルーベルの声が脳内に響く。



(隊長は今、何してるんすか)

「修行だ」

(”休暇”の意味をご存知ですか?)



 呆れた声が聞こえる。

 本当は”旅”だが、修行といっても間違いではない。

 キセノン山地の魔物を狩りまくったのだ。



(とにかく、伝えたいのはですね。奴ら、最前線に攻めてきましてね。やべぇんですよ。うおっ)



 直後、大きな爆発音が聞こえた。



「大丈夫か!」

(へ、平気っすよ。隊長、休暇は終わりっす。それより、どこにいるんすか)

「クブラー砂漠だ」

(嘘でしょ。一日では無理っすね、それ。おら、死ね! あ、すいません。今の、隊長に向けて言ったんじゃないっすよ。敵が)

「よく落ち着いてられるな。分かった、すぐに戻る」

(待ってますよ、隊長。祖国に献身を!)



 ”風雲の志士”に所属する者が口癖にしている「祖国に献身を!」と叫んで、『念話』は切れた。

 デザイア帝国が、こんな時に動くとは。

 速足で砂の上を歩いていく。







 太陽は見えなくなった時刻。

 夜に出歩くのは危険だと判断し、新都リライズまでもう少しというところで足止めを食らった。

 闇が支配する外は魔物が活発になり、死体も目覚める。

 よって、フェリシダという街で寝泊まりすることにした。

 まずは宿泊施設を探さないとな。



「もう何も言うことはないだろ! 誰かー! 助けてくれー!」



 叫び声が横からしたかと思えば、狭い路地から一人の男が飛び出してきた。

 そのままの勢いで激突し、地面に転がってしまう。

 あまり人がおらず、目撃者は二人だけだ。

 すぐに起き上がって、路地の方に顔を向けると、人影がどこかへ消えていくのが見えた。

 追いかけようかと思ったが、隣で痛そうにしている男性を助け起こすことにした。



「いってえなぁ」

「そなた、大丈夫か」



 『異次元収納』で回復薬を取り出し、手渡した。

 突き出た腹を晒しながら、回復薬を口内に入れていく。

 飲み込むことで薬草の効果が現れ、自然治癒力が高まる。

 すぐに傷が治るというわけではないが、痛みは和らぎ、傷が塞がるまでの時間が短縮されたはずだ。



「手を貸そうか」

「自分で立てるわ」



 声で明らかにイラついているのだと分かる。

 吐瀉物が服や口の周りに付着している。

 そうとう殴られたみたいだ。

 顔に青あざができている。

 立ち上がって、膨らんだ腹を押さえながら「あのガキめ」と漏らしていた。



「何があったんだ?」

「俺がよう、この宝を見せつけたら、ガキがやってきて。良い店しってるんだ、って言ったからよ。付いていったら、この有様だ」

「何か話していたようにも聞こえたが」



 もう何も言うことはない、と。

 この男、身なりからしてハンターのように見えるが。

 男が見せつけるように掲げていたのは。



「それは……!」



 信じられない。



「気になるか? これはな昔、マギア村で盗……”もらった”もんなんだよ! 『魔法剣』って知ってるか? ほら、表紙に……」

「もら……った?」



 間違いない。

 マギア村にあった『魔法剣』の教科書。

 なぜ、この男が。

 首元を掴んで、再び狭い路地に押し戻した。



「な、何しやがる!?」

「そなた! 誰からもらったんだ!」



 顔面を突き合わせて、叫んだ。



「お前もか!? も、もらったって……村長から」



 一発、顔面に拳を打ち込む。

 垂れる顔を持ち上げて、もう一度問い質した。



「誰から、もらった! もしかして、そなた……マギア村を襲ったんじゃないか!」

「そ……そうだ! 俺は傭兵だ! 8年前、ラオメイディア様と共に、マギア村を襲ったんだよ! そん時、手にいれたもんだ! 言っとくけど、これは俺のもん……」



 言い終わる前に、鳩尾に一発、顔にも一発。

 鼻血が噴き出し、男の顔面は醜くなっていた。

 歯は欠けて、口からもだらしなく出血していた。



「傭兵だと? どこの傭兵派遣会社だ!」

「ぶ、VBVだ! ……俺が黙って、やられるだけだと」



 腰から引っ張り出したナイフは、既に宙へ舞っている。

 腕を蹴り上げたからだ。

 怯んだ隙に、渾身の力で顔面に鉄拳を打ち放った。



「い、ってぇ! 貴様ぁ!」

「そなたが、マギア村を! 返せ! 人間の屑!」



 地面に手をついた男の腹を思いっきり蹴り上げる。

 口から色々と吐き出しながら、もがき苦しんでいた。

 何度も何度も踏みつける。

 冷静さを取り戻した時には、男は気絶していた。

 石畳が嘔吐やら血液やらで汚れている。

 周りに人がいないのを確認して、鞘から静かに剣を抜いた。







 翌日、フェリシダで騒ぎがあった。

 路地で男が斬られて殺されていたらしい。

 切り口に燃えた跡があった。

 近くには黒焦げになった本が置かれていたそうだ。

 そんな噂を耳にしたが、宿から出て戦場へと向かうことにした。

 いや、その前に向かう場所がある。

 解決屋で傭兵派遣会社の情報を収集。

 目的地は傭兵派遣会社『VBV』。

 敵は、ラオメイディア。

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