表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
139/256

129 恩讐を越えて―2

 キセノン山地の一角、隠遁の森と呼ばれる森林地帯。

 13年前の記憶を思い出し、険しい道を進んでいく。

 いつもの自分では考えられないほどのスピードで、マギア村があった場所へと突き進んでいった。

 確かめたい、という気持ちが足を速くさせる。

 あの噂は間違っているんだと自分に突きつけるために。

 彼らは強い。

 何せ、魔人と人間のハーフだ。

 世間は、その存在に嫌悪感を抱いているだろうが、決してそんなことはないのだ。

 我々のイメージを信じてはならない。

 それに、マギア村は認識阻害の結界で外から見えないはずだ。

 仮に村が襲われたとして、一体誰がそんなことを。

 魔物の仕業か。

 いや、考えられない!

 絶対に、マギア村は無事だ。

 何度も何度も頭の中で繰り返した。

 希望を。



 だが、希望は脆く崩れ去ることとなってしまった。

 代わりに、絶望ができあがる。

 村はもう村とは呼べない惨状。

 人の気配もなく、建物は黒く焦げている。

 おーい、と叫べばよかったが、叫ぶ気力すら湧いてこない。

 ただただ目の前の光景を受け入れられずにいた。

 立っていられるのが、やっとだ。

 全身が震えていた。

 涙も出ていた。







 気が付くと、地面に倒れていた。

 気絶してしまっていたようだ。

 起き上がる時に、指先が深い溝に触れた。

 よく見ると、自分を中心に小さく深い溝がいくつもあったのだ。

 近くに自分の剣が放り出されていたのを見て、意気消沈してしまった。



 半日ぐらい、地面に座り込んでいたようだ。

 夜空に月。

 立ち上がって歩き回ることにする。

 ふと、ある可能性に気付いた。

 確かに、村は襲われた。

 だけど、どこかで彼らはまだ生きているのではないかと。

 そうだ、絶対そうだ。

 一目、マギア村の者に会いたい。

 一目だけでいい。

 彼らに、恩人に、会いたい。

 なら、こんなところで立ち止まっているわけにはいかない。

 剣は鞘に戻し『異次元収納』から、高輝度LEDを用いた携帯用照明器具を取り出す。

 早速、地面を照らし、彼らが無事逃げたという証拠がないかと、あちこちに懐中電灯の先を向ける。



 地面には雑に並べられた剣が、いくつもある。

 刃は汚れていない。

 何かに追われたのだろう。

 それも強力な存在に。

 抵抗することなく、武器を放って逃げたはずだ。

 状況からして、そう想像した。

 建物に光を集中させる。

 焼け焦げた跡に、倒壊しているものもある。

 村長の家屋は、見事に焼き崩れていた。

 確か、この台に光の玉が載っていたはずだ。

 今は、ないが。

 魔物研究調査団とやらが持ち去ったのだろう。

 落ちていた写真立てには、親子仲良く映っていた。

 名前は、レイラン君だったと思い出した。

 それにしても、写真に武器、防具。

 ドワーフはいないから、おそらく商人が来ていたのだろう。

 もしかして、メルクリウスだったりしてな。



 四角に囲った木の柵。

 子供たちに「魔物狩り」というのをさせていた場所だな。

 柵の側には土に塗れ、雨風にさらされた本が落ちていた。

 酷くボロボロだが、表紙には『魔法剣』と書かれている。

 『魔法剣』に関する内容のようだ。

 自分も、この教科書を熱心に読み込んでいたのを思い出した。

 懐かしい。

 木刀も何本か落ちていた。

 子供たちが訓練で使っていたはずだ。

 襲われたのは昼間頃だろうか。

 ほとんどの家屋内部で、調理器具が散乱した。







 しばらく歩き続けていると、目を疑うような物を発見してしまった。

 銃だ。

 俗に、アサルトライフルと呼ばれている銃器。

 なんでこんなものが村に。

 考えられる最悪の可能性。

 人に……襲われた。

 あれもこれも人間によって襲われたのか。

 魔物じゃないのか。

 マギア村の人間が銃器など使うはずがない。

 彼らの武器は剣か弓かだ。

 銃器は毛嫌いしていたはずだ。

 村長が言っていた。

 だとしたら、どこから持ち込まれたのか。

 商人が落としていった、なんていう間抜けな答えはありえない。

 じゃあ何なんだ、この銃は。



 それにある奇妙な違和感に気付いた。

 壁に血痕がべっとりと付いていた建物があった。

 それに、落ちている剣の本数だ。

 明らかに多すぎる。

 弓を使う者もいたが、ごく少数だったはず。

 全員、身を守る武器を落として逃げたというのか。

 それから、死体だ。

 いや、この村に死体が一つもないのは、単に逃げ切ったという何よりの証拠かもしれない。

 だけど……信じられない。

 抵抗できないほどの存在がいて、武器を放りだして逃げた。

 そう仮定して、気になるのが。

 村全体に認識阻害の障壁を張るアイテム、光の玉だ。

 魔物研究調査団に持ち去ったということは、ずっと放置されたままだったということだ。

 村に一つしかない大切な宝を放置して逃げられるのか?

 自分たちの身を守るために必要な宝だ。

 それを放置して逃げるだと。

 とても考えられない。

 脳内は混乱していたが、これだけはハッキリと考えていた。

 彼らは生きている。

 このことしか頭に浮かばなかった。

 それ以外の考えは排除した。







 村中央の広場に、彼らの剣を一本ずつ突き刺していく。

 墓標として。

 もちろん、彼らが死んだと決めつけたわけではない。

 使われない剣を野ざらしにしておくのは、戦士として非常識なことである。

 戦死した者の武器は、身内に引き渡される。

 もしくは清めて、別の武器にしてもらう。

 だが、大量の剣をリライズの職人に渡すわけにもいかない。

 少なくとも、剣に役目を終わることを伝えないと。

 古来より、剣は神聖なものであると考えられてきた。

 権威や力の象徴として。

 雑に扱ってはならない。



 広場にいくつも剣を突き刺し、墓標として完成させた。

 剣を所有していた者達は、どこへ消えたのか。

 合掌して、祈りを捧げる。

 剣に感謝と、それから持ち主が生きていることを願って。







 それから、三日間。

 キセノン山地のあらゆるところを歩き回った。

 新たなマギア村があると信じて。

 だけど、見つからなかった。

 『異次元収納』に仕舞っていた食料も底を突いた。

 幸い、水は豊富にあるのだが。

 これ以上、探し回ると自分の命が危ない。

 魔物も何体、倒しただろうか。

 レベルアップしたことを告げる神の声に飽き飽きしてきた。

 着物はボロボロだ。

 諦めて、下山することにした。

 休暇期間も少なくなってきたことだ。

 クブラー砂漠を通って、新都リライズに向かうことにしよう。

 それから、グレアリング王国に向かわず、直接戦場に行こう。

 予定を決めて、戻ることに頭を切り替えた。

 きっと、マギア村はまだ存在するのだと信じて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ