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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
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127 行き先を決める者達よ

「エリシヴァ女王から聞いている。エンタープライズに、傭兵派遣会社の壊滅を依頼したとな」

「成功すれば、無益な戦争に終止符を打てる。そうなれば、これまで積み重ねてきたあらゆるものが無に帰す。リーブ王の立場も危うくなるだろう」

「もとより、そのつもりだ。覚悟は既にできている。後継者のいなくなった今、国を捨てることも念頭に置いている。……バルゼアー領地主、すまないな」



 色々な想いが混じった声で、バルゼアーに声を掛ける。

 首を振って跪いたバルゼアーは敬意を表し、語った。

 決心した精神から発した言葉だろう。



「王の決断に、私は従います。グレアリングに育てられた者が、異を唱えることなどできません。私は、これまでと同じ、私であり続けます。我らの王は……正しいと信じているからです! 祖国に献身を!」

「……すまない。私を信じ続けてくれ。必ず、恩に報いる」



 膝をついて身を屈めているバルゼアーの肩を、リーブは掴み、そう言い放った。

 素晴らしいほどの忠誠心だ。

 リーブ王が優れた王であることを証明している。



「リーブ王……エリシヴァ女王に聞いたと言っていたが」

「傭兵派遣会社壊滅に、エンタープライズが関わったことか。先日のことだ。エリシヴァ女王の提案で、グレアリング、リライズ、デザイア三国の君主が人目を盗んで、集まったのだ」



 リーブは、こちらに向き直って話を続けた。



「目的は、傭兵派遣会社壊滅後の世界の制御。その相談をしたわけだ。そこでエリシヴァ女王が、エンタープライズのミミゴンに依頼したと話を伺った」

「で、話し合いで何を決めたんだ?」

「グレアリング王国とデザイア帝国間で発生している戦争、これを完全に終結させる。終戦することを誓ったのだ」

「よく、デザイア帝国の皇帝が受け入れたものだな」



 偏見だろうか、帝国というと悪い奴らと見てしまう。

 実際に、デザイア帝国はグレアリング領内の村や街を攻めている。

 好戦的な皇帝と想像していた。

 リーブは否定の意味を込めて首を振り、詳細を語ってくれた。



「デザイア帝国ドラコーニブス・アルファルド皇帝。彼の意思は私以上に戦争を止めたがっていた。私も初めてお会いしたのだが、驚いた。その口から、戦争を終結させたいという考えが飛び出したのはな」

「まさか、両国が戦を嫌っていたとはな。もっと早くから、話し合うべきだったか」

「まったく、その通りだ」

「だけど、傭兵派遣会社に依頼しているのも事実だ。帝国も戦争を長引かせるのに、メリットが?」

「グレアリングと同じ、民を思い通りに動かしやすいというメリットがある。それに竜人は強い。確実に領土を侵略できる。勝利する確率も高い。負ける可能性も、我らから考えても0%に等しい。時間さえかければ、相手を支配できる。不平等条約も結び付けられることになるだろう」

「グレアリングはリライズの兵器に頼り、粘り強く耐えてきたわけだ。デザイア帝国の竜人から」

「傭兵派遣会社介入前は、な。現在は自動的に調整されている」



 じゃんけんで負けても、せいぜい罰ゲームで恥ずかしい思いをするだけだ。

 戦争における勝敗は、じゃんけんのそれとは異なる。

 一般国民を広く巻き込んだ総力戦。

 当然、恥ずかしいなんてもので終わらず、死が待ち構えている。

 負ければ、これまで戦ってきた者達の努力が全て消え失せる。

 とどのつまり、悲劇でしかないのだ。

 敗北すれば、勝者に何もかもを奪われていく。

 負けるが勝ちなんて言葉は存在しない。

 そもそも勝つ負けるではなく、奪うか奪われるかの戦いだ。

 正しい正しくないではなく、戦争は誰が生き残るかを決めるだけだ。



「ドラコーニブス皇帝は、まずグレアリング王国と休戦協定を行う必要があると。そのための交渉を、エンタープライズが傭兵派遣会社壊滅後、すぐに行う。全戦線にわたって戦闘を停止させる全般的休戦を協定し、世界に発表する。その後、平和条約を締結……戦争を終結させ、国交の回復。以上が、流れだ」



 口ぶりからして、かなりスムーズに決まったみたいだ。

 帝国も乗り気だというのが理解できる。

 だが、眉間にしわを寄せて、重々しく口を開けた。



「しかし帝国内で今、厄介事が発生しているみたいでな」

「厄介事?」

「率直に述べると、現在グレアリングと交戦している相手は……デザイア帝国ではないのだ」

「はぁ?」



 禅問答なら勘弁してくれ、というのが口癖になりそうだ。

 こいつがこの場で冗談を言うような奴ではない。

 だけど、そんなことを聞かされたら、今まで真面目に聞いていたのが途端にアホらしくなった。

 さっきまで「相手はデザイア帝国」だと刷り込まされていただろ。

 ところが、戦争の相手はデザイア帝国ではない?

 ため息と共に、顔をそっぽ向く。

 まともに面を見れない。

 バルゼアーが俺の代弁をするかのように、質問してくれた。



「帝国の竜人が相手では」

「デザイア帝国出身の竜人。我々は確かに奴らと闘争している。だが奴らを支配しているのは、デザイア帝国ではない」

「つまり、帝国の総意で戦っているわけではない……そういうことか?」



 呆然と立っているわけにはいかない。

 俺は会話から導き出した答えを、リーブにぶつけると首を縦に振ったのが見えた。



「ミミゴン、帝国と戦場は切り離されている。もはや、皇帝の命令など耳に入らぬほど遠くにな」

「じゃあ、誰が戦場を指揮しているんだ?」

「皇帝の娘ドラコーニブス・アルフェッカだ。帝位継承権第一位であり、戦場では最高指揮官を務めているそうだ」

「もしかして反抗期なのか。そんな場所で我がままを発動させるとはな」

「皇帝も娘の実情を理解していないそうだ。これが反抗期で済めばよいが。それと、もう一つ……頭に入れておいてほしいことがある」

「なんだ?」

「アルフェッカ皇女についてだ。どうやら、皇女は謎に包まれた大魔法使いを味方につけたそうだ。時を同じくして、皇帝の命令を聞き入れなくなったのだ」



 大魔法使い。

 皇女の我がままに、大魔法使いは関係ありそうだな。

 しかし、謎に包まれているか。



「正体は?」

「不明だ。グレアリングの精鋭部隊を送り込み、情報収集に当たらせたのだが……帰還ならず、だ」

「大魔法使いというのは伊達じゃないな」



 グレアリングの精鋭部隊は、グレアリング・リーブ国王直属の特殊部隊だ。

 別名「風雲の志士」と呼ばれ、最前線での戦闘と特殊任務を担当している。

 彼らが戦場で最も戦っている者達だろう。

 もちろん、グレアリング国内で最も優秀な人材で組織されている。

 元ハンターだった者もいるが、Aランクのハンターだ。

 兵士は、アルテックと同等か、またはそれ以上の者であることは間違いない。

 そんな部隊が戦うわけではないのに、情報収集で命を落としている。

 皇女の側には、最強の魔法使いか。

 おそらく、俺以上の強さを誇っているだろうな。

 リーブは口を開く。



「すまないが、エンタープライズには……」

「大魔法使いの相手をさせたいってか? 前にも言ったはずだ。俺たちは戦争屋ではない。いいか、言いたいのはな……人同士で争いたくないということだ」

「なら、傭兵派遣会社の相手をするということは」

「……そうだ。現在進行中で、人相手に戦っている。本来なら、俺たちが引き受けてはならないことだ」



 だけど、傭兵派遣会社は倒さなくてはならない。

 依頼されたから。

 それが理由なのか?

 いや、言い訳じゃないか。

 世界にとっての敵、どの国も対抗できない、だから俺たちエンタープライズが壊滅させる。

 そんな大義名分が立ったからか。

 なんだよ、人を殺してはいけないと学んで守って生きてきたのに……既に、手は穢れているのか。

 今やっているのは、立派な人殺しだ。

 今さら気付いたのか、愚か者。

 もう引き返せないところまで来ている。

 少なくとも日本で、ものまね芸人やってた自分とは遥かに異なっているはずだ。



「ミミゴン……」

「エンタープライズは関わらない。俺が、大魔法使いの相手をする。それでいいか、リーブ王?」

「エンタープライズの王よ。それで構わないというなら、異論はない。こちらとしても、大変ありがたいことだ」

「なら、そちらは終結に向けて、駒を動かしてくれ。あんたが玉座に座り続けられるようにな」

「……そうきたか。もちろん、叶えてみせよう。ありがとう。君と会えて、事が運んだ。ミミゴンも、行き先を決める者となっているな。バルゼアー領地主、今日はこれで引き上げる」



 リーブは退出する。

 バルゼアーは王の側に付き添い、道場から離れていく。

 夜空に浮かぶ月を見つめてみる。

 満月となって、月光が降り注いでいた。

 子供たちは庭で走り回っていたり、木刀を振り回す子もいる。

 要塞の外に出ると援軍としてきた兵は乗馬し、王の掛け声で一斉に走り出した。

 地響きが徐々に、遠く小さくなっていく。

 俺の立場が、世界の中心に近づいていっているのが理解できた。

 他の国と関わりすぎたか。

 行き先を決める者、と言われた。

 素直に喜べないな。

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