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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
134/256

124 魔法剣―9

「うわぁ! い、生き返った!?」

「嘘だろ! どうなってんだぁ!」



 目の前の光景に飲み込まれた者が動揺を露わにしていた。

 死者だと思っていたのが蘇ったこと。

 懸命に挑み、倒したというのに報われないこと。

 そうした現実に打ちひしがれているのだろう。



 姿勢を正し、佇んでいる。

 助手と聴覚をリンクして、少年の言葉に耳を傾けた。



「上手くいった! 実験が上手くいった! これで用はないよな。ということで、帰る! じゃあな!」



 両翼を広げて、上下に動かす。

 少年が言ったように、用事が済んだのだろう。

 サイボーグドラゴンのイマジンが小さく吼えて、変形し始めた。

 胴体のそこかしこから、丸い筒が飛び出し、火を蓄えている。

 やがて青白い火は解放され、推進力となり、イマジンに加速を与えた。

 ロケット発射の瞬間を近くで眺めているような景色だ。

 あっけないほどの一瞬で、遠くの空へと消えていった。

 ただ、奴の”実験”がまだ残っている。

 このまま幕を下ろすことはできない。







 イマジンが去ると俯いていた顔を上げ、瞼を開ける。

 死者の瞳には光が宿っていた。

 そこらの生者よりも立派な光が。

 兵士たちの目が曇ってくる。

 さっきまでの威勢が、信じられないほどに弱っていた。

 ここに住んでいる者達のレベルは高い方だ。

 戦い慣れている者も多い。



 おもむろに数歩、進んで。

 圧倒的なまでの跳躍力を発揮し、遠く離れた兵士に立ちはだかる。

 逃げようとしていた先頭の兵士を中心に。

 逃げ道を防ぐように、巨体が壁となって邪魔をする。

 運が悪いことに、ただ壁として終わるわけではない。

 存命の時代より、より強大な身体能力を得ている。

 その手に宿る攻撃力は凄まじいほどに変化していた。



「や、やめてくれー!」



 転んだ兵士は冷静さを失い、武器を振り回すだけとなった。

 当たっても、鎧に小さく傷を付けるだけ。

 虚しい抵抗だった。

 生き返った龍人に与えられた使命は邪魔者を殺すこと。

 開いた掌の小指側を相手に向け、振り下ろした。



 情けない声を出して、頭を庇う。

 親に殴られる子供のように。

 だが、いつまで経っても手刀打ちは来なかった。

 兵士は見上げる。

 振り下ろす直前で止まっていた。

 原因は、頭部に刺さった槍。

 顔を貫いた槍が行動を抑止した。



 付近に落ちていた槍を拾って、投げ飛ばしたのだ。

 俺が投げ飛ばし、見事に命中した。

 槍投げ初めてで、こんなに上手く狙撃できたとはな。

 お笑い芸人よりも槍投げの選手になれば……。



〈馬鹿なんですかー? 私が補助したからに決まっているでしょー。何もしなかったら、明後日の方向に飛んでましたよー。上手くいったからって、勘違いしないでくださいねー〉



 助手に冷たく言い放たれる。

 いちいち言わなくてもいいんだよ。

 たまには、気持ちよく決めさせてくれ。



 止まっていた奴は槍を引き抜き、再び振り下ろす。

 『疾風迅雷』で足元にひっくり返っている兵士を攫って、手刀打ちを逃れた。

 両腕で抱きかかえていた兵士を下ろし、感謝の言葉を口にする。

 ありがとう、と涙しながら。



「さ、早くセルタス要塞に戻れ。ここは俺に任せておけ」



 呟いたことで、彼は走ってセルタス要塞に戻っていく。

 それを見た皆も耐え切れず、向きを変えて走り出した。

 そうだ、それでいい。



「死なせるか、お前らを。安心して逃げろ! 振り返るなよ!」



 こんなことされて黙っていられないのが死者共だ。

 腰を落とし飛び上がって、圧し潰そうとしている。

 高く飛び上がってくれたおかげで、少しだけ余裕がある。

 といっても、数人しか救えないか。

 それでもやるしかない。

 『疾風迅雷』で跳躍して、まず目の前の龍人を蹴り飛ばす。

 出来る限り、遠くへ。

 両手を指鉄砲の形にして『デストロイビーム』で撃ち落としていく。

 人差し指から放たれた光線は、空中の龍人を次々と吹っ飛ばしていった。

 ダメージは、あまり効いていないようだが。

 肉体を貫いて穴を開けても、すぐに黒い血液が埋めていく。



 したたかに背中を打ちつけても、咄嗟に垂直で立っている。

 痛覚がないみたいだ。

 それに背中を見せて走り去る連中に、興味を無くしたみたいだった。

 俺に狙いを変えたのか、詰め寄ってきている。

 その行動に思考があるように思えた。

 脳は機能せず、ただ存在しているだけのはず。

 だけど、煩わしい敵は数があるうちに殺しておこうという明確な殺意を感じる。

 一手先を考えず、敵の強さも考慮しない脳みそらしいが。







 蘇生した龍人は9体。

 鎧で武装されていることもあって、防御力が増している。

 こちらは鎧をも破壊する力を秘めているが。

 さて、誰から襲いかかってくるか。

 目を凝らす前に、先頭の一体が殴りかかってきた。

 恐ろしいほどの速さを備えて。

 軽々と避けてから、空を切らせた腕を掴み、逃げられないようにする。

 固定された顔面に『インパクトブレイク』を打ち込んだ。

 脆い頭部を吹き飛ばした。

 まずは一体。



(後ろから来ているぞ、ミミゴン!)



 エルドラの叫びが脳に吸い込まれる前に、自分の胸から指を伸ばした手が出ていた。

 生憎、こちらも痛覚がないんでね。

 すぐに抜け出して、振り返りざまに『インパクトブレイク』を放った。

 相手は判断していたのか、既に飛び退いている。

 残念ながら、顔面に打撃を与えることはできなかったが、スキルの余勢は下半身を肉片にして、草原を汚した。

 空中で体勢を崩した龍人は、まともに地面へ激突する。

 意識を失うことはなく、ポロポロと内臓を置いていきながら、這いずってきた。

 黒い血に塗れた大腸が、下半身を探しているかのように暴れていたのが軽くホラーだ。

 だが明らかに動きは鈍くなった。

 この間にも、続けて襲いかかってくる。



「『魔法剣:炎』! ミミゴン、俺がいるだろ」



 炎の剣で、這いずる龍人のうなじを突き刺す。

 炎が鎧を溶かし、首をも溶かして切断した。

 剣を構えて、レイランは言った。



「お前たちの相手は、俺だ!」

「無茶するなよ。危なくなったら……」

「余計なお世話だ。甘えて強くなれるなら、誰でもしてる」



 発言の底には、余裕が見え隠れしている。

 それでも、目は真剣だ。

 さてと、俺も頭をぶっ潰しにいくか。



 レイランは剣に雷を付与させ、疾風の如く速さで戦場を駆けていく。

 じっと立ったままの龍人一体に狙いを定め、喉に刃を走らせた。

 龍人は迷いなく迫る刃を掴み、顔をレイランへと向けて、馬鹿力を頼りに空へ投げ飛ばす。

 他の龍人も一斉に、空中のレイランに群がるように飛躍した。

 助手!



〈『トニトゥルース』ー! 『注目』ー!〉



 天空から一筋の雷鳴が塊となった龍人に直撃し、地面へと押し戻される。

 開けた視界から、刃が一閃し両足を斬り落とした。

 レイランは着地してすぐ土を蹴り飛ばし、脚を失くした龍人の首を狩りに風を切った。



「『魔法剣:炎』!」



 防御する両手を切断して、ついでのように首に切先を突き刺して、頭と胴体を切り離した。

 こっちも、うかうかしていられない。

 『注目』のスキルで、俺が囮となった。

 陸を叩き鳴らし、草は踏みつぶし、前進してくる。

 巨体が足並みを揃えて、攻めてくる様子に恐怖を抱くのが普通だろう。

 だが、こっちは出番を待つ若手芸人のように緊張しつつも、客の反応を見たくて渾身のネタを早く披露したいくらい辛抱できない感じだ。

 先頭の一体に飛び掛かる。

 払いのけようと腕を振るうが、『自由飛行』で空中でジャンプして躱した。

 頭にしがみついて、人差し指を押し付けて『キル』を唱える。

 即死スキルの一つである『キル』は、指の先端から黒い炎が燃え上がり、龍人を包んだ。

 横から武器が見境なく放りつけられてくるため、筋骨隆々の肩を土台にして、素早く跳ねた。



 着地したときに、脇腹に槍が刺し通されていた。

 だんご三兄弟のように、一本の串で貫かれている。

 たぶん、内臓が台無しになっているはずだ。

 血に塗れた槍を引き抜いて、手中に収めた。

 冷静に行える自分が恐ろしい。

 痛みを知らないおかげか。

 持ち直して、穂を敵に向けて投擲する。

 放たれた槍は目的の敵だけにとどまらず、後方の龍人をも貫いていった。

 ライフル弾のような貫通力を発揮していた。

 だが、これで終わるはずがない。



 『キル』で包まれて即死に至ったかと思ったが、とうの昔に死人となっていたので効かなかったみたいだ。

 即死スキルは意味ないか。

 唐突に、集団がレイランに向き直った。

 不意を突かれて、咄嗟に剣を盾にするも衝撃を殺しきれず、薙ぎ倒されてしまった。



「レイラン! ち、遠いな!」



 『テレポート』して、倒れたレイランを庇う。

 連続して、打撃が襲ってきた。

 痛みは感じないが、痛みを知ることはできる。

 棒立ちを維持して、殴られ続けたが限界が訪れた。

 視界に広がる多色が、モノクロに変化している。

 身を守るために持ちあげていた腕が、落ちかけてきた。



〈『バリアウォール』ー!〉



 黄色い障壁を前面に張ったが、猛攻はむしろ勢いを増している。

 連撃を障壁が弾く音が轟く。

 助手いい加減、やる気を出してくれ。

 そう頼んでも、脳内に欠伸が響くのみ。

 眠いなんて言わないでくれよな。



〈最近、睡眠時間が増えてきたような気がしますー。今もー、瞼を開けるのも一苦労なんですよー〉



 こんな時に、見捨てるなんてやめてくれ。

 衝撃音がより早くなった気がする。

 せめて、少しでも隙を。

 『バリアウォール』を解除してからの刹那、ここが問題だ。

 『眼力』で、まとめて吹き飛ばせるか。

 たっぷり肉が詰まった塊をいくつも?

 今の状況を切り抜けるのは難しくない。

 ただ、レイランを鍛えるのに使えると考えている。

 背後で起き上がろうとしているレイランに『フェムトヒーリング』を発動して、傷を治したが。

 肉体的な疲労が大きいみたいだ。

 神経も衰弱しているかもしれない。

 助手が頼りない現在、俺にできることは限られている。

 何をすればいいんだ?

 事態を変化させる何か、それに期待する!







「我々が黙って逃げるとでも思ったのか!」

「あいつらは戦っているんだ! 俺たちは戦士だぞ! 戦うのが本分だろうが!」

「今度こそ奴らに、背中……見せんじゃねぇぜ!」



 『注目』の効果は切れており、死者は生者を睨む。

 生きようと足掻く者共に。

 戦おうと躍起になった野郎共に。

 帰ってきたあいつら兵士、ハンターの瞳は輝きを取り戻していた。

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