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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
133/256

123 魔法剣―8

 落下しながら、上空から地上を見下ろす。

 そこで、戦場が奇妙な空間だと感じた。

 だが、何かがおかしいと思いながらも、脳は?で埋め尽くされるばかりなので、考えることを諦め、重力に任していた。

 太陽光を吸収している草原の上で、戦闘が行われていた。

 何人か兵士が倒れているが、レイランの活躍があってか、敵の数が減りつつある。

 龍人の奴ら、完全武装して並みの攻撃じゃ歯が立たない。

 しかし、レイランの『魔法剣』が功を奏していた。



「『魔法剣:炎』!」

「すごい……あれが噂の魔法剣か。鎧を貫通しているぞ!」

「我々は、レイランさんのサポートに回りましょう!」

「レ、レイラン! 後ろだ!」



 振り返ったレイランの正面に、龍人が槍を突き刺そうと構えていた。

 まずいな、反応できないだろう。

 竜人目がけて落下し、上から踏みつぶす。

 勢いと重さで、中身をぶちまけた龍人の上に着陸した。

 同時にレイランの燃え盛る刃が、体を焼き切った。



「俺が来……ぎゃあー!」

「……! ミミゴン!? す、すまない!」



 急に現れた俺が悪いのかもしれない。

 胸を貫いて止まった炎が、さらに焼き尽くそうと強くなっていく。

 剣を掴んで、胴体から切り離した。



「お、恐ろしい奴だな……ミミゴン」

「う……前見ろ、前。俺は大丈夫だから」



 喋っている間、助手が元通りに回復させていく。

 ある意味、ラオメイディアと同じような能力を持っているみたいだ。

 さすがに即死には対応できないが。

 兵士は今のやり取りに注目され、気を取られていた。

 背後から龍人が迫っているのを知らない。

 レイランが『魔法剣:雷』で素早く駆け付ける。

 不意を突いて切り裂こうとする刃を、レイランが雷を纏った剣身で受け止めた。



「全員生き残って、勝つぞー!」



 龍人の攻撃を器用に躱した後、全身に斬りつけたレイランが叫ぶ。

 絶命した龍人は沈み、砂塵が舞う。

 レイランの叫び、そして彼の笑顔が兵士の隙を無くした。

 兵士が武器を持ち直し、怒号を発しながら対敵へ突っ込んでいく。

 一人が補助スキルで、身体能力を向上。

 一人が魔法で、牽制。

 注意を引き、視線を逸らしたところを、レイランがもらっていく。

 解決屋と兵士、そしてレイランの息の合った連携が敵軍を減らしていった。

 防戦を強いられていた者達が攻めに転じた。



「『ショックウェーブ』!」



 『龍化ドラゴハーモニー』を発動している龍人が放ったスキルは全体に衝撃波が発生し、敵味方お構いなく吹っ飛ばした。

 俺には効かなかったが、レイランも含めて味方は地に転がっていた。

 負傷した者が多い。

 回復薬を持った兵士が、自分と味方の分を手にして振りまこうとしていたが、投げられた槍に貫かれ、回復薬を落とした。

 誰一人、死なせるわけにはいかない。

 まず、味方全体に回復スキルを唱え、傷を治す。

 槍に貫かれ、苦しそうに悶えている兵士に近づく。

 腹に刺さった槍を取り除き、血が噴き出す穴を塞いで処置した。



「ありがと……う」

「俺はミミゴン。それを生涯、忘れないでくれ。さ、戦うぞ」



 彼の肩を支えて、起こしてやる。

 一足先に、レイランが反撃に動いた。

 『魔法剣:炎』を発揮し、一気に距離を詰める。

 敵も慣れてきたのだろう。

 軽く刃を腕で受け止め、回し蹴りでレイランを狙う。

 機敏に後退し、間を置いた。

 お互い、出方を窺っている。

 隙を突こうと、後ろから攻めた龍人がレイランを剣で突き立てようと飛び掛かっていた。



「させるか!」



 『テレポート』で敵の目の前に出現し、満身の力で押し飛ばす。

 しばらく回転を続けてようやく体勢を整え直し、目を鋭くしていた。

 レイランの背に体をくっつけ、呟く。



「邪魔者は引きつける。思う存分、暴れてくれ」



 『魔法剣』に慣れる絶好の機会だ。

 そういう意味を込めて言い放つと、ただ頷いて剣を構え直した。

 意図を汲み取ってくれたと信じる。



 拳を胸の前で構え、邪魔者に突進した。

 敵は残り二人。

 俺と対立することになった龍人は後退を続け、こちらの様子を見ている。

 弱点、隙を見つけようとしているみたいだ。

 戦い慣れているだけあって、慎重。

 感じ取ったようだ、危険を。

 問答無用で、俺は走って格闘する。

 できる限り、レイランから離すことを目的として。



「お前ら、傭兵だろ。誰に頼まれた。何が目的だ」



 質問するだけ無駄だと思う。

 こいつらは何も答えてくれなさそうだが、一応聞いてみる。

 すると、律義にも返答してくれた。



「ラオメイディア社長、その人だ。目的は我々の死による”兵士革命”。聖像イコンの存在と実験」

「お前らの死が革命? イコンとは何だ」

「既に見えている。話は以上だ。殺してみろよ」



 背中の鞘から剣を抜き、華麗な流れで斬りつけてきた。

 見切って、体を下に潜り込み、勢いよくアッパーを顎に食らわせる。

 重量級の龍人に対して、あまり有効ではなかったが怯んだ隙に渾身の拳を叩き込む。

 まず、武器を叩き落す。

 次に、脚を重点的に狙い跪かせて、顔面の位置を低くした。

 ここぞとばかりに膝蹴りを決めていく。

 顔を潰し、相手の肩に乗り込む。

 焦点の定まらない目を覆うようにして、手のひらを開けた。



「『インフェルノ』!」



 目と鼻の先で大爆発を起こし、反動で空中へと舞い上がる。

 蜥蜴のような頭は、無残に消し去られたはずだ。

 煙が晴れるまで見ずとも分かり切っている。

 ただの雑魚なら。



「火耐性で無効化させてもらった。魔法に対する耐性も強化してある。だが、この人間は単純ではないはず。そうだろう?」

「傭兵派遣会社の訓練が見たくなったよ。どういう教育されているんだ、参考にさせてほしい」



 軽く冗談でも飛ばしておく。

 両者には余裕がある。

 人間味を感じさせない顔で、突進攻撃。

 左手で相手の顔を受け止め、右手を懐にもっていく。

 念のため、両眼を圧し潰し、刳り抜いた。

 へこみのある眼球がはみ出ている。

 それでも冷静を保っていたのには驚きだ。

 まだ脚があるじゃないかと、身体を捻って回し蹴りを放ってくる。

 脇腹に直撃した。

 さすがに堪えるほどの重さだった。

 それでも、意味のない反撃だったが。



「ラオメイディアに付き合う傭兵は、どんな気持ちで生きているんだ。お前たちに下される命令を、どんな気持ちで聞いているんだ」

「これは命令ではない。”生き方”そのものだ」



 観念というよりも、話したがっているという雰囲気。

 次の一発で、運命が決着する。

 そんな状況の中、こいつは友人と近況報告するような接し方だ。



「傭兵は皆、孤独だ。どうしようもないほどに追い詰められて、逃げた先が傭兵派遣会社なのだ。生き方など、他人に任せたいような連中の集まり。きっと、社長という存在に縋り付きたいのだろう。なぜなら、一番の優しさを与えてくれるからだ。誰よりも温かい愛。冷え切った存在を受け入れてくれた。ラオメイディアというカリスマに包まれたのだ。命令は、簡単なお使いのように感じてしまう。財布を渡し、子供に買い物を頼むように」

「そうか……後悔なんて感じなかっただろう」

「ああ、無駄のない人生だった……ありがとう、最期に聞いてくれて」



 腹に拳を置き、一旦間を置く。

 覚悟を決めて、俺は『インパクトブレイク』を放った。

 地面を転がる顔は、非常に穏やかだった。







 兵士が敵の邪魔をし、レイランが畳みかけていく。

 最後の傭兵が地に伏す。

 激しい攻防の末、勝者はレイランたちだ。



「よくやった、レイラン」

「で、どうするんだ……ミミゴン。上のドラゴンは」



 地上での出来事と並行して、天空でも戦いがあった。

 エルドラの力を借りた助手によって、イマジンの攻撃が無に帰している。

 障壁を張った助手に、あらゆるダメージが通らない。

 適度に反撃しているからか、装甲が剥げている部分も見られる。

 可能なら、奴らを押さえておきたい。

 あのドラゴンと少年が厄介だ。

 完全に破壊し、無力化を図りたい。



〈様子が変ですよー。何か仕掛けてきますねー〉



 気を引き締める。

 首だけを遺して去った龍人が語った目的。

 それがまだ果たされていない。

 奴らの”死”による兵士革命は恐らく。



 長い首をうねらせ、イマジンが甲高い声で響き渡らせた。

 ただ、甲高いだけじゃない。

 金属同士を擦り合わせたような、不快な高音が鳴り続ける。

 兵士は耳を塞ぎ、歯を食いしばっていた。

 来たかと、後ろの死体に目を配る。



 思った通り、動き始めた……”死体”が。

 レイランも気付き、死体の起き上がる様を眺めている。



「これは……」

「モークシャ、だな」



 頭部を失った龍人を除き、倒れていた死者が目を覚ました。

 彼らにとって、死後の世界だろう。

 戦死の後に、戦が待っているとはな。

 まるで生者がいることに間違いを覚えてくる。

 そう錯覚せずにはいられないほどの、圧倒的な生命力を感じた。

 そして、ようやく戦場全体を取り巻く違和感に気付くことができた。

 奴らの血が赤じゃないことに。



「黒、なのか? 血液が」



 ここは生きる者達の世界だ。

 死した者の天国ではない。

 安らかに眠れるよう、俺らが導いてやらねば。

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