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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
130/256

120 魔法剣―5

 レイランは、バルゼアー師範の許に置いていき、俺は一度エンタープライズに帰ることにした。

 聖剣エクスカリバールの存在だ。

 オルフォードに詳しく調べてもらい、何とかして運用方法を導き出さないといけない。

 玉座の間に『テレポート』したのだが、直後来客を告げる声が聞こえる。



「あれが、ミミゴン王かな」

「彼が、そうよ」



 咄嗟に後ろへ下がった。

 なんだこいつは。

 隣にいるのは……エリシヴァ女王じゃないか。

 目の前の相手は、漆黒の手を出して握手を求めている。



「そんなに驚くことはない。アタクシは普通の”魔人”だよ」



 そう言って俺の手を掴み、強引に握手させられた。

 感触は気持ち悪い、ぶよぶよした手だ。

 黒と白が混じった髪は長く、腕に絡みついてくる。

 魔人と言っていたが……”普通”ではない。



「ミミゴン……彼が私の唯一信頼できる親友……シトロン・ジェネヴァの総管理支配人、イフリートよ」

「よろしく、ミミゴン王。アタクシは、イフリートという名前の魔人なの。シトロン・ジェネヴァで最も偉いのもアタクシ。仲良くしてちょうだい」



 エリシヴァ女王の紹介に続き、発言したイフリートの声は低く、威圧するような声だが、男声よりも女声に近い。

 腕の髪は、波が引いていくように消えていった。

 高身長に恐ろしいほどに細い。

 喪服のような服装に、何より目立つのは……顔の仮面だ。

 顔全体を覆う漆黒の仮面に、穴なんてない。

 口は開いておらず、目も真っ黒に塗りつぶされた仮面だから、呼吸しているのか不明、そもそも目があるのかも分からない。

 存在がファンタジーだ。



「もしかして、仮面が気になるのかしら。見ない方がいいわ。酷く焼け爛れているもの。アタクシの肉体もね」

「魔人がリライズ警察をまとめているとはな。さすがに魔人がいることに驚いた。あんたも追い出されたのか、魔王に」

「あら、テルブル魔城に詳しそうね。アタクシは、スパイよ。いつでも魔城に帰れるわ」

「そんなこと、バラしていいのか」



 全然気にしていないイフリートの様子。

 エリシヴァ女王にも目を向けるが、既に知っているみたいだ。



「エンタープライズ……活気に溢れた素晴らしい国。エリシヴァ女王が依頼した理由も分かるわ」



 ドワーフのエリシヴァ女王は小さな手足を動かしながら、イフリートの前に出てくる。

 タブレット端末を手にして。



「まずは、これを見て欲しいの。傭兵派遣会社に侵入したエージェントからの……”最後”の映像よ」







 映像の始まりはCJの諜報員と思しき息使いが聞こえ、カメラが前を向いた。

 明かりはないが、奥から緑色の光が漏れているのが確認できる。

 それによって、今いる場所の情報が目に入ってきた。

 諜報員が歩く側には、鉄の檻が複数並んでおり、中には人影が。



「ここは傭兵派遣会社に保護されている第一研究所、地下。噂通り、檻が複数。中に、生きた実験体が」



 諜報員はマイクに小さく声を吹き込んでいる。

 カメラが上下し、先へ先へと進んでいるのが理解できる。

 慎重に進んだ足は、不意に止まった。

 誰かの声が耳に入ってきたからだ。

 その場から離れ、物陰に身を潜めることにした。



「成功確率は60%? すごいじゃないか、オベディエンス君。確実に上がっているね」

「ありがとうございます、ラオメイディア様! 私は簡単に改造しましたが、あの二人はまだ調整中でございます」

「アスファルスに、ナルシス……楽しみに待っているよ。エンタープライズが攻めてくる前に終わらせてね」

「はい!」



 白衣を着たドワーフはタブレットを操作しながら、ラオメイディアから離れていく。

 ラオメイディアは近くの……何もない檻に声をかけた。



「今ここで行っているのは、モークシャに適合するかどうかを確かめているんだ。檻にいる彼らは、特殊なナノマシンを注入された者。成功すれば、モークシャとなり……失敗すれば」



 ラオメイディアの言葉を遮るように、諜報員の背後にいる人間が絶叫した。

 驚いた諜報員は前のめりにつまずき、落としたカメラを拾う。

 拾ったカメラを自分の方に向け、レンズが割れていないか確認している。



 後ろに、ラオメイディアがいるとは知らずに。

 気配がして振り返った諜報員は、カメラを落としてしまい、横になって地面に置かれてしまう。

 レンズは、絶叫する実験体が悶え苦しむ姿を撮影していた。

 檻の中を縦横無尽に駆け回り、底を両手で殴り続けている。

 光が無いため、どんな人間かは不明。

 それに地面の影が、脚をバタバタとさせ、やがて力尽きた諜報員だと知らせる。

 地面に放った諜報員を、足音をさせて来た部下に運ばせる音だけが響いてきた。



「うん、そいつにも……そう、よろしくね」



 檻の実験体は鉄格子を握って、もたれかかり……絶命したようだ。

 死体は底に納まる。

 ラオメイディアがビデオカメラを拾いあげ、ニヤケ顔が画面に現れた。



「人類がバイオレンスを知る時、この世の正義は跡形もなく消し去られ、意識は消滅するだろう。絶対的な敵は、魔物だけとなり……種族同士は憎みあうことなく、単純な生活を送ることになるはずだ。それが僕の目指す理想郷。モークシャは死者蘇生技術の一つだ。死者となっても、完全な死を得ることにはならない。死体は今まで通り、戦い続ける。不死身となって。このモークシャが確立されれば、魔物を絶滅させる時代が到来するはずだ。さあ……世界に我々の鎮魂歌を聴かせよう!」



 言い放った言葉は、空間に光を灯らせ、檻の中で佇んでいた”モークシャ”たちが一斉に鉄格子を破り、解放されていく。

 全ての森羅万象に報告しようとでも言うかのような騒然。

 そこで映像は途切れた。







「映像データが入ったUSBメモリと一緒に、諜報員の死体が届けられたの」



 イフリートは、エリシヴァ女王からタブレット端末を受け取って、死体の画像を選択し、目の前に突きつけられた。

 瞳に光が宿っていない人間が、そこにいた。

 それが意味するのは”失敗”したということ。

 あいつは適合と口にしていたが、諜報員は運悪く適合しなかったのだろう。

 特殊なナノマシンとやらに。



「遺体の解析は、エンタープライズに任せるわ。アタクシは触りたくもないの。USBもあげちゃうわ」



 後ろの扉が開き、中に何者かが入ってくる。

 振り返った先には。



「お前、グレアリングで会った……」

「支配人! 遺体、運び終わりました!」

「ご苦労様……エリシヴァと一緒に外に出ているといいわ」



 蛇足に襲われたグレアリングの会場で遭遇した人間。

 二丁の拳銃で戦い、俺に任せてどっか行ったやつ。

 やたらと食いまくっていたこいつが、まさかシトロン・ジェネヴァで働いたとはな。

 そうか、あの時……エリシヴァ女王の護衛をしていたのか。

 その時、まだ俺は女王の存在を知らなかったが、もしかしたらあの会場を訪れていたのだな。

 ……だから、なんだ。

 思考を安定させ、イフリートを眺める。



「ミミゴン王……何かあったら、手を貸してあげる。できる範囲で」



 エリシヴァは退出し、跡を追うイフリートが突然、思い出したかのようにある情報を話した。



「奴らの研究を詳しく知りたかったら、第一研究所で軟禁されているコペンハーゲン博士を助けてあげな」



 それを言い残して、扉の奥へと消えていった。

 メイド達は、あの三人に付き添っていき、この場にいるのは俺と二人のメイドのみとなった。

 イフリートの存在そのものが音を出していたかのように、いなくなると随分静かになってしまう。

 あいつらが言っていた遺体とUSBはEIHQに届けられているだろうな。

 エクスカリバールも預かってもらって、先ほど知った研究者コペンハーゲンについても調べてもらうか。

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