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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第一章 環境順応編
13/256

13 吸血鬼:戦闘

 吸血鬼は夜に出没するらしい。

 それと今日、国が捜索隊を出し吸血鬼を殺害する。

 そこで、前回ティグリス同様やられそうなところで、俺が飛び出る!

 アイソトープは回復スキルを数多く持っているので捜索隊を治療しつつ、俺が吸血鬼を倒す作戦だ。

 今度は上手くいけるはず。

 失敗した経験を活かし、成功に変える男であることを証明する。

 夜まで、まだ時間がある。

 アイソトープを迎えに行くか。



「『テレポート』!」



 瞬時に見たことのある懐かしい景色へと変化する。

 これからも使い続けるであろうスキルだ。

 さて、城はどうなっているかな……。



「長い! 大きい!」



 この前見た時、六角形の城が出来ていてあれで完成かと思っていたら、更に城の中央から縦長のビルみたいな建物が融合していた。

 ビルのような物も長い。

 東京タワーくらい、あるのではないか。

 中に入って、アイソトープを探す。

 こんなに広いから探すのは大変かと思っていたが、意外と近くにいた。



「アイソトープ! この前で完成じゃなかったの?」

「ミミゴン様、お帰りなさいませ。これは、エルドラ様がかつての帝国を再現したいということで、その城を再現したのですが」

「エルドラが?」

(おー、そうだ! ミミゴン、これが我の住んでおった城だ。気に入ったか?)

「その……掃除とか大変じゃないか?」

(大丈夫だ! メイドを雇えばよい!)



 そういう問題ではないが、なんていうか城じゃない。

 俺のイメージが異世界にあってないのか?

 この世界での常識というのは、ときどき俺とずれる。

 が、あわせていかないと、知っておかないと置いて行かれる。

 今はどんなことが起きようと、しがみついていくしかないのだ。

 それは、そうと。



「アイソトープ、一緒に来てくれないか?」

「かしこまりました。留守は、オルフォードに任せましょう」



 そういえば、俺もエルドラと同じように『念話』使えるんだったな。

 頭で相手をイメージして話すんだっけ。



「おーい、オルフォード!」

(なんじゃ、王よ)



 つながった!

 成功したか。

 この感覚に慣れていかないと。



「オルフォード、今何しているんだ?」

(世界を知り続けておる。王のため、国のためのな)

「城、一人になるけど平気か?」

(留守番をしろと? まあ、任せておけ)

「ありがとう、オルフォード」



 城の外へ出ると太陽は、すっかり沈み星の光が目に映る。

 って、もう夜じゃないか。



「アイソトープ、行くぞ! 『テレポート』!」







 瞬間で王国に移動し、急いで門をくぐりながら側にいた男性に化ける。

 光り輝く夜の町に、不穏な空気が流れている。

 町の人が、やけに騒いでいるけどまさか。

 多分、予想していたことが当たっている。

 その証拠に『危機感知』が強く反応している。



「走るぞ」

「はい」



 アイソトープと、俺は駆け出した。

 人にぶつからないように通り抜けていく。

 すぐさま、人ごみの中を走り抜け、人気のない場所へ行き、家の屋根を伝って反応の強い場所へ向かった。

 上から行かないと、現場に入れなさそうだしな。

 ……ここか?

 下を覗くと三人いて、二人は倒れており、もう一人はどこかへ立ち去っていく。

 二人の内の一人は這いずりながら、外を目指しているみたいだ。

 飛び下りて、アイソトープに命じる。



「アイソトープ、治療してやってくれ」

「かしこまりました、ミミゴン様」



 体を引きずりながら、俺に手を伸ばしてくる男に手を出してやる。

 その顔は、涙や血で汚れていて、目も焦点が定まっていない。

 掴もうとする手を優しく包んでやり。



「いいか、お前。絶対に死ぬなよ」



 死なないよう、励ましの言葉をかける。

 希望を与えられて、一瞬ハッとなった彼の顔は涙で更に溢れていた。



「お前の体、借りるぞ」



 彼は我が家に帰ったような顔を浮かべ、気絶してしまった。

 『ものまね』で彼に化ける。



《スキル『インフェルノ』を取得しました》



 鎧は彼と同じように、血で汚れ、上半身バッサリ斬られている。

 アイソトープは、胸にナイフが突き刺さった男を回復し終え、次は彼を治療するようだ。

 奥には、干からびたような死体が並んでいる。



「アイソトープ。死んだ人間を生き返らせるスキルとかないのか?」

「残念ながら、器である肉体から抜けた魂に干渉できるスキルは、この世に存在しません」

「……そうか。ヒーローの遅刻は、死か」



 まったく、俺はバカなことを想像していた。

 そうだ、ここは異世界であっても、スキルが存在しようと、生があり死がある。

 ゲームみたいにやり直しコンテニューはないし、復活の呪文も存在しない。

 甘く見ていた、この世界。

 ……後悔は終わってからするもんだ。



「アイソトープ、その二人の傍にいてくれ」

「かしこまりました」







 しばらく歩いた先に、死体の山と血だまりを啜る吸血鬼を見つけた。

 上半身裸で髪は長く垂れ下がり、黒く小さな角が三本頭に生えている。

 俺の存在に気付き振り向くと同時に、血でペイントされたその顔に全力のパンチを食らわせる。

 ギャグ漫画のように顔がめり込んだ後、山に激突し死体はバラバラに散った。

 今のパンチで右腕に激痛が走り、使えそうにない。

 これが人間の限界か。

 吸血鬼は立ち上がり、化けた俺をハッキリと認識する。



「……先ほど切り裂いてやったが」

「蘇ったんだ、お前を絶望させるために」

「あ?」

「お前、魔人なんだろ? 良かったら、俺の国へ来ないか? と言っても、これだけのことをしたんだ。皆と同じようにとは言えないが、働かせて住ませてやるよ」

「お断りだ。『吸血』で死者から血を啜り、レベルアップする。そして俺をゴミ扱いした魔王を殺す。そのために殺しているのだ。お前の血で、俺を強くさせてくれ」

「おう、絶対断る。国のために働いてくれるよう、復讐の心を折り、俺に仕えることを第一とするようにしてやろう」

「『ナンバー:110』」



 壁や地面から大量の真っ黒い犬が出現し、吸血鬼の殺せという命令で噛みついてきた。

 助手、頼んだ!



〈『シャイニングレイ』ー! 『シャイニングレイ』ー!〉



 無数の光線が犬を直撃し消し去る。

 間髪容れず助手は、吸血鬼へ魔法を放つ。



〈『インフェルノ』ー!〉



 手から炎でつくられた大きな玉が完成し敵、目がけて放った。

 吸血鬼はとっさに、手でガードする。

 当たると大爆発を起こし、両腕とも吹き飛ばされる。



「――クッ! 『ナンバー:119』」



 無くなった腕の断面から、腕が生え傷を治す。

 厄介だな、あいつのスキルは手強いか。



〈回復するみたいですがー、あの様子だと魔力をかなり消費するようですねー〉



 腕を取り戻し、指を動かし感覚を再び得たようだ。

 だが、フルマラソンを走りきったような、乱れた呼吸を繰り返している。



「ハァ……『ナンバー:1986』」



 得た腕にはリボルバー拳銃が握られており、こちらを狙いにつけて連射してきた。

 何発か食らっているが『高速回復』で、弾が撃ち込まれて開いた穴を塞いでいく。

 俺は殺すために闘っているわけではない。

 精神破壊させ、俺の味方にするための戦いだ。

 思いっきり走って、回転しながら吸血鬼に飛び掛かる。

 ハリウッドスターのように華麗なアクションで、無限に発射される弾丸を避けていく。



「なぜ、当たらん!?」

「カッコイイは無敵なんだ」



 元の世界はカッコつけた行動しとけば、攻撃はだいたい避けられることが多い。

 映画でよく見た。

 回転に勢いを付けて、吸血鬼の頭に渾身のかかと落としを与える。

 よだれやら何やら口から吐き出して、地面に打ちつけた。

 煙を上げる拳銃は、どこかに飛んでいき消滅した。

 吸血鬼も、まだあがき続けるようで。



「『ナンバー:4444』……」



 突然赤い霧が囲むようにして立ち込め、楽し気で、それでいて不快に聞こえる笑い声がそこらじゅうから聞こえてくる。

 俺のものまね芸を笑う、あの時のお客さん以上の笑いが起きていることに、ショックを受けつつも攻撃に備える。



『オオオ……キサマニィシヲ……』



 霧の中から現れた死神っぽい骨の顔がカラカラと笑い、大きな鎌にスピードをつけるため持ち上げる。

 かわそうと身を動かそうとするも、霧から綺麗な女性の手が無数に出てきて、掴んでいた。

 誰の手だ、触るな。

 振りほどこうと足掻くも、全身に手が纏わりついてくる。

 死神の笑い声が一層強くなり、やがて……鎌が振り下ろされた。

 俺の心臓にザクッと、聞く人にとっては良い音を奏で、胸を貫き、手に力が入らず、だらしなく垂れる。

 痛いと感じなかったが、死は感じることができた。

 この感じを感想文一枚は余裕で書けるくらい、気持ちいい”快感”を味わった。

 肉体から魂が一気に抜けることで、気持ちよさに変わるのか?

 これが安楽死なら、死ぬときはこいつに頼みたい。

 鎧の音を響き、血の海に入水する。

 バケツの水をひっくり返したように血が飛び散る。

 赤い霧はいつの間にか晴れ、吸血鬼だけ立っている。







「これで、終わりだ」



 吸血鬼が、そう言って立ち去ろうとする。

 彼に化けていた、俺の体はロボットになった。

 即死だから、効果が切れたのだ。

 吸血鬼がこちらを振り向くと同時に、目の前の吸血鬼に化ける。



「『ものまね』」

「ッ!?」



 奴と同じ姿になり、恐怖を与え顔を引きつらせる。

 これぞ、プロの芸能人エンターテイナーだ。

 脳内を恐怖という感情で攻撃することで、俺には勝てないと思わせる演出だ。



「降伏しろ。納得しろ。諦めろ」



 ゆっくり聞き取れるように、頭に残るように丁寧に諭す。



(我も手伝ってやろう!)



 吸血鬼は突然、耳を塞ぎ、体を震わしながら土下座をする。

 エルドラに何されたんだ?



「……あなた様についていきます」

「――よろしい! 賢い選択だ! よし、いいか。まず、お前の名は……」

「あそこに誰かいるぞ!」



 こんなときに!

 ハンターを、いっぱい連れてきやがった!



(アイソトープ! 治療した二人を吸血鬼の傍らに放り込め! その二人が倒したように見せかけるんだ!)



 アイソトープが脇に二人を抱えて、雑に投げる。



「吸血鬼、とりあえず倒れたフリだ!」



 吸血鬼の俺は、アイソトープに触れ『テレポート』を発動し、その場を去る。

 ラヴファーストのいる、解決屋情報管理室をイメージ。

 間一髪、脱出に成功した。

 ハー、危なかったー。



 …………?

 って、また俺の成果になってない。

 不運すぎるだろ、最近。

 それで……吸血鬼は捕らえられ、処刑されるんだっけ。

 奴に連絡するか。



「もしもし、吸血鬼。聞こえるか」

(聞こえる……ます)



 あいつも『念話』持ってんのか、助かる。

 それにしても簡単に降伏してくれて、良かった。

 エルドラが『念話』か何かで脅したみたいになってたが。



「これから牢屋に放り込まれるんだよな」

(そうです、脱出不可能の王城地下牢に)

「おとなしくして待っとけよ。すぐ迎えに行く」



 王城で、脱出不可能の地下牢って聞こえたけど、何とかなるだろ。







「吸血鬼……もしかして、ミミゴンなの? どしたの、その恰好」

「ハウトレットか。吸血鬼は捕まえたぞ。牢屋に放りこまれたはずだ」

「おー、やるじゃん。最高だよ、アンタ!」



 ハウトレットが跳ねながら、喜んでいる。

 周りの様子を見るに、ハウトレットとラヴファーストは本を探しているみたいだった。

 まだ、見つかんないのか。

 それはそうと、ハウトレットに頼みたいことを思い出し、申し訳なさそうに声を出す。



「ところで……吸血鬼を脱獄させたいのだが」

「バカじゃないの、アンタ」

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