119 魔法剣―4
「ほんとにあるのか、その……祠。それに武器! 聖剣……エクスカリバールだっけ」
「あるらしいぞ! 情報を信じてやれ」
セルタス要塞から歩いて、30分。
山の中腹まで登り続けて来たものの、今のところ何もない。
魔物も、ハンターが狩りまくったのか……一匹も現れないのだ。
「早く振り回してやりてぇ! 『魔法剣:雷』!」
「いてッ! 急に発動するな!」
レイランの肉体は雷を纏い、散った火花が俺の皮膚を焦がした。
はぁ、助手……この辺の魔物を探してくれ。
〈『探知』ー! ……何体か、こちらに向かってきましたよー〉
そうか、ありがとう助手。
礼を伝えて、レイランに向き直る。
「近くにいるみたいだぞ」
「そうみたいだな。早速、見つけたぜ!」
大型の魔物が、レイランを目指して駆けているのが確認できた。
まずは、毛色が青い馬型の魔物か。
叫び声を発し『ブリザード』を唱えようとしているみたいだ。
それに対し、レイランは剣を構え、魔物に狙いを定めて。
瞬間移動した。
「ハァッ!」
胴体に電撃の走るブレードを突き立て、一瞬の間に何度も切り裂く。
目で追えないほどの斬撃を繰り返し、魔物は小さく唸って横ざまに倒れ落ちた。
まさに、瞬殺と言うべき速さで仕留めた。
〈『魔法剣:雷』は自身の肉体を魔法の電気に変化させ、高速行動できるのですー〉
魔法剣すげぇな、体も変化させるのかよ。
レイラン本人は嬉しそうに左手を握り締めていたが、大きな音が響いて、すぐに剣を構えなおした。
音の発信源に顔を向けると、根元から抜けた大木がレイラン目がけて飛空していたのだ。
おいおい、大丈夫か。
手を伸ばしてレイランを庇おうと思ったが、本人は平気な顔をしてスキルを詠唱した。
「『魔法剣:氷』!」
彼の体を覆っていた電気は散り、一瞬にして剣が厚い氷に覆われていく。
出来上がった大剣を振り下ろして、間一髪激突を防いだのだ。
大木は中央で断切され、他の大木を倒すかのようにして衝突し、沈黙した。
レイランの剣は、元の二倍ほど長くなり、氷の刃へと進化している。
〈『魔法剣:氷』は魔法の氷によって武器を変化させたりー、活用すれば自身を守る鎧もつくれるスキルですー〉
次々と大木がレイランを襲うが、斬り飛ばしながら走り抜け、魔物を討伐しにいった。
レイランの雄叫びが高らかに響いてくる。
さて、この間にエルドラに探してもらうか。
(任せておけ! 出番出番だ!)
木に寄り添って座り込んでいるのは、レイランだ。
肩を上下させ、呼吸が荒い。
拠点開発研究所にもらったバトルスーツが、血と泥に塗れていた。
「『フェムトヒーリング』……はぁ。レイラン、レベルは上がったか?」
呆れながら訪ねると、悠長に頷いた。
伸ばした手を握り、立ち上がったレイランは大木に背を預ける。
周りは、可哀想な魔物の死体で溢れかえっていた。
今さら、レイランは魔物の素材など不必要だろう。
ということで、こちらで有効活用させてもらおうか。
「ツトム、お前の経験値に使ってもいいぞ」
「ありがとうございます、ミミゴン様。それでは……いただきます!」
黒い影が飛び出すと、魔物は瞬きする間に血が吸われ尽くされ、醜い状態になっていた。
片付け終わると、再び俺の影に潜んだ。
思わず、という表情でレイランは目を見開きながら聞いてきた。
「今のは……なんだ?」
「はは……秘密だ。俺の中に三人いて、その内の一人が飛び出したんだ」
助手、エルドラ、ツトムが俺の内にいるのは事実だ。
馬鹿げた話だが、とてつもなく心強い仲間。
さあ行くぞ、と声を出して、レイランは歩き出す。
「なあ、ミミゴン。聖剣がある祠は、どこなんだ?」
「ん、ちょっと待っててくれ」
エルドラに頼んでから、しばらく経っている。
『念話』で状況を確認しようとしたが、既に脳内に声が届けられていた。
(あったぞ、ミミゴン! というわけだ、助手よ。『土地鑑』のスキルを発動させて、我が位置情報をマークするぞ)
〈はいはーい〉
無気力感漂う声が聞こえたかと思ったら、不意に周りの地理が理解できるようになった。
まるで、以前から現在に至るまで何回も来たことがあるかのように、セルタス山に慣れた気分だ。
当然、例の祠も感じ取れた。
手招きして、レイランを付いてこさせ、自分は祠まで一直線で向かうことにした。
大木が生え揃い、草は茂り、誰でも歩けるような綺麗な道などあるはずもなく。
雑草を踏みつけ、ようやく辿り着いた場所には。
「ここに聖剣エクスカリバールが」
レイランは目の前の殿舎を眺めて、呟いた。
確かに、一般的な”祠”を発見した。
神を祀った小規模ながらも、不穏な雰囲気を放つ祠だ。
観音開きの戸に木製の切妻屋根。
戸を開けたいところだが、こういうのにあまり触れたくないものだ。
日本の祠には仏像や神像が収められていたはずだが、ここは異世界。
何が出てくるか。
近づいていくことで、目当ての物も発見できた。
祠の前には石の台座があり、聖剣が刺されて安置されている。
レイランが早速、引き抜こうと柄? の部分を握り、持ち上げた。
「おお! これが聖剣か。何だろう、神秘的な何かが胸の内を占めていく感じだ」
……バールだ。
二メートルほどの大きなバールを構えたレイランが、重々しく振り回していた。
てこを利用する鉄製の大工道具にしか見えない。
扁平な形状をしており、片方の先端は90度近く曲がっている。
釘の頭が引っ掛かるように切り込みもある。
しっかし、これが聖剣エクスカリバールなのか。
それに、この祠はなんだ。
謎が多いな。
〈祠はともかく、レイランが振り回しているバールは間違いなく聖剣エクスカリバールですよー。込められているスキルは『能力無効化』ですー。つまり『超再生性質』を持つラオメイディアにも、ダメージが入るということですねー〉
勢いよく振り回されていたバールの先端が地面に落ち、レイランはかなり疲労していた。
「お、重すぎる……それに、力が抜けているみたいだ」
「なに? ちょっと貸してみろ」
聖剣を受け取り、掲げてみた。
確かに重さを感じる。
かなり重いと言うほどではないが、レイランからしてみれば持ちにくい重さだろう。
それに力が抜けているみたいだ、と言っていたが。
〈これは転生特典の武器ですよー〉
転生特典の武器?
ということは、俺のような転生者が手にしていた武器ということか。
〈これは転生者以外が手にすると、体力が奪われてしまいますー。……レイランには相応しくない武器ですねー〉
なんだよ、そりゃ。
こいつが無いと、まともにラオメイディアと対峙できないぞ。
どうにかして、レイランでも扱えるようにしないとな。
『武器スキル付与』で『無重量』でも。
〈『武器スキル付与』を使用することはできませんよー。これ以上、スキルを付与することができないのですー〉
一先ず、こいつは預かっておくか。
レイランに軽く説明しておき、納得してもらったところで『テレポート』を発動する。
帰ったら、レイランは師範と修行だな。
俺は、聖剣をどうするか考えないと。
最後に祠を見つめた。
神を祀るための祠だが、こいつはいったい何を祀っているのか。
誰が祠をここに建て、誰がバールを突き刺したんだ。
バールの持ち主は、どんな人物だったんだ。
俺の周りは、”謎”に囲まれている。
俺が何かするたびに、問題が発生していく。
いつになったら、スッキリできるんだ。