118 魔法剣―3
「ぐー! 我の……負けだ。だが、第二第三の我が貴様を」
「――さっさとくたばれー! おりゃ、おりゃー! おい、そこで見てる子供たちー! こいつをフルボッコだー! オラァー!」
「オーバーキルは、やめるのだ! なんだ、我に向ける……その目は! これは、ミミゴンの体……」
「こいつ、まだ喋るぞー! 殺せ殺せー!」
「「「おー!」」」
「子供たちもやめるのだ! 将来、ろくな大人に……!」
性格関係なく子供は木刀を構えて、倒れているエルドラ(グリフォン)に振り下ろされる。
肉が潰れる音を奏でて、滅多打ちにしていた。
助手が煽り、木刀は血を帯びる。
その内、帝龍王の泣き声と演技を捨てた助手への歓喜が渦巻く環境となっていた。
(ミミゴン、お前から話を振っといて聴かないのか)
すまない、オルフォード。
話を続けてくれないか。
えーと、ラオメイディアを調べ尽くしたと言っていたな。
(部下が頼っているのは各地の噂、インターネット検索、諜報員からの情報等じゃ。まだ、傭兵派遣会社に諜報員は送っておらんため、奴らの情報は把握しきれてない。それからインターネットに奴の情報なんて、かけらもないわ。噂の大部分も、ラオメイディアが全ての傭兵派遣会社をまとめているという既知の事実)
だから、職員では手が届かなかったのか。
そうなると、残りのオルフォード頼みだが……爺さんはどうやって調べているんだ、いつも。
(生物の記憶を観察できるスキル『遠隔記憶視察』で、ちょいと脳内を探る。今回は、ラオメイディアが信頼している部下を中心に、脳内へ潜入させてもらった。ハッキリ言おう……誰も、ラオメイディアの過去を知らんかった。それが結果じゃ)
誰も、ラオメイディアの過去を知らない。
それはつまり、奴が周りの人物に過去を一切、語っていないということになる。
……いや、なに回りくどいことをしているんだ。
ラオメイディア本人の脳内を調べたらいいだろ。
(……奴自身の記憶を探ってみたが、何もなかったのじゃ。信じ難いことを言うが……記憶そのものがないのじゃよ)
どういうことだ、ありえないだろ。
出来事を記銘し、情報を記憶にして保持する脳があるはずだ。
記憶そのものがないと言うのは、常に忘却しているということ。
エピソード記憶と意味記憶によって構成された自分自身を統一した記憶モデルの一つ「自伝的記憶」がないのだと言っている。
(エピソード記憶の形成に海馬が必要だが、もちろん奴にもあるはずだ。それに記憶そのものがないと言って困惑させたが、正確には自伝的記憶だけが、すっぽりと無いのだ。言い換えると……ラオメイディアという”歴史”が丸ごと消失しているということじゃ。完全な記憶喪失というわけではなさそうじゃが、もしかすると”心因性記憶障害”かもしれんな。何かしらの解離性障害が奴にある)
オルフォードの言う通り、ラオメイディアが解離性障害であるなら……それは過去のストレスから来ているものだ。
解離性障害は主に、解離性健忘、解離性同一性障害、離人症性障害の三つ。
原因は幼少期頃に強い精神的ストレスを受けることによって、発生するそうだ。
ストレスに満ちた生活を暮らしていれば、防衛機制によって、記憶等を喪失、切り離して自分の心を守ろうとする。
こう説明すると、テル・レイランにも起こっていておかしくない。
あいつも悲惨な歴史を背負っている。
だけど、その歴史を武器に、復讐しようとしているから、障害とならずに済んだのだろう。
(結論は、ワシでも分からんかったということじゃ。こうなったのは初めてじゃ。まさか、過去を探られることまで予見して、自ら記憶喪失したのか? それは、奴の過去に何かがあるということじゃが)
人の脳みそ、弄れる奴なんてオルフォードしかいないだろ。
そこまで考えて、記憶喪失になるなんてアホすぎる。
だいたい簡単に記憶喪失できるのか。
スキルであるなら、可能性としてはありそうだが。
しかし、奴の過去を奴自身も知らないとはな。
ラオメイディアという存在が、より不気味になった報告となった。
あと、他の件だが。
(それも報告するか。これに関しては部下が徹底調査してくれたぞ)
ラオメイディア復讐計画で一番の要。
不死身に近い奴を、どうやって殺すかということだ。
これを忘れて、再チャレンジしたら目も当てられない。
セルタス要塞に向かう道中、レイランから色々と聞きだし、奴に関する情報を集めた。
ツトムが短剣を突き刺し、俺が『ジャッジメント』で奴の胴体を貫いたが、無傷だったのだ。
レイランは、ラオメイディアから『超再生性質』というスキルで不死身を得ていると聞いたらしい。
腕を斬り落としても、頭を吹っ飛ばしても、再構成して元通りになる。
『超再生性質』に対抗できるスキルはないのかと、EIHQで調べてもらった。
(『超再生性質』は、クイーンネクタルという魔神獣だけの特殊スキルじゃ)
ちょっと、待て。
その魔神獣、まだ世界にいるのか?
思わず、聞き返してしまった。
(いや、600年以上前……今は無き村を襲おうとしておったクイーンネクタルだったが、通りかかった女冒険者に討伐されたようじゃ。恐ろしいほどの力を持った冒険者だったらしいぞ)
今は、いないのか。
蛇足の時みたいに突然、召喚するような輩がいるものだからな。
魔神獣って他にもいるわけだろ。
複数に襲われたら、終わりだ。
それで、対抗は。
(『超再生性質』の天敵……それは”聖剣エクスカリバール”じゃ!)
聖剣エクスカリバール!
それがあれば……バール?
よくゲームに出てくるエクスカリバーじゃなくて、エクスカリ”バール”だって?
(そうじゃ。ワシが収集した情報で、確かだぞ。何しろ、女冒険者の武器は聖剣エクスカリバールだったそうだ。その時、ワシはまだ目覚めておらんかったからの。確実ではないが、その武器で倒したらしい)
信じにくいことを聞かされる今日。
納得するか、何だかアホらしい武器だが。
で、その聖剣エクスカリバールはどこにあるんだ。
(場所は……偶然を味方にしたか。セルタス山……つまり、お前の近くじゃ。山のどこかに、聖剣が突き刺さっている祠があるみたいだ。あとは、自力で頑張るんじゃ)
ああ、分かった。
部下に感謝しないとな。
(よく働いておるよ、職員は。これで、計画は順調……)
計画? 計画と言ったか?
(うん? 気にしなくていい。お前には関係ないぞ)
何か、隠しているのか!
オルフォード、それは……口に出せないことなのか。
どうしても言えないなら、言わなくてもいい。
だけど、何かを隠しているとバレた時、信頼が崩れ始めるものだ。
(いずれ、知る時が来るはずじゃ。お前たちに絶対、知る時がな。それまで、ワシの口からは……言えん)
『念話』を通じて発された言葉には、確かな重みを感じた。
焦り、恐怖などネガティブな感情が耳の中を這いずり回った気分だ。
……今は、聖剣だ。
ふと、レイランの方に『千里眼』を向けると。
「はぁ、やっと獲得……できた! 『魔法剣:雷』!」
「よくぞまあ、ここまで魔力が持ったものだ。もう魔力が尽きかけているだろう。演習は明日でいいだろう。今日は……」
「ダメだ! まだ、日は沈んでいない。俺は、マジックポーションを持ってる。続けよう!」
「しかしだな……」
それだったら、と『念話』でレイランと師範に声を届ける。
なら、レイラン……付いてきて欲しい場所があるんだ。
魔物が出る場所だ。
そこで試せばいい、どうだ。
「ミミゴン! それは本当か!」
「魔力はあっても、集中力は低下しているだろう。注意力散漫で、魔物に襲われたらどうする!」
レイランに怒りを表した師範だったが、当然聞き入れるはずもなく。
「時間がないんだ。少しでも、俺は強くなる! 危なくなったら、すぐに戻ろう! それでいいだろう!」
しばし考えたのち、ようやく答えが出たようだ。
「分かりました。ただし、気を付けることです。それで、ミミゴン様。彼を連れて、どこへ行こうと?」
近くのセルタス山だ。
山のどこかに、祠があるらしい。
そこには……復讐を成し遂げるための武器が存在している。
「復讐を成し遂げる武器ですと?」
「ミミゴン、それって」
ああ、ラオメイディアの『超再生性質』に対抗できる唯一の武器だ。