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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
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117 魔法剣―2

 翌日、バルゼアー師範とレイランはセルタス要塞を出て、平原で『魔法剣』を極めるようだった。

 俺は急遽、道場の師範代として子供たちの世話係となってしまった。

 活発な子は俺の正体を探ろうと質問攻めにしてくるし、比較的静かな子は隅っこで木刀を抱えて座り込んでいる。

 修練しようとしていないのだ。

 師範代になったものの、あまり厳しく教えるというのはしたくない。

 助手がいないと、ろくに戦えない俺が偉そうに言うのもな。

 と、いうことで。



「よし、集合しろ! 面白いもの見せてやる」



 せめて、やる気にさせるようなことをしないと。

 子供たちを家屋に上がらせ、庭に注目させる。

 俺の成長にもつながること。

 助手、協力してくれ。



〈しょうがないですねー。ゲームで勝てなくてイライラしていましたからー、鬱憤晴らしに協力しましょー〉



 まず、俺を『分身』で二体出現させる。

 現れた一体を『ものまね』で……トウハにするか。

 鬼人で大斧を肩に乗せたトウハに化ける。

 この時点で、子供たちは良い反応をしてくれている。

 もう一体を……グリフォンに『ものまね』してみるか。



《スキル『増上慢』『鷹の目』『ホークシュート』『捕食』『雄叫び』を獲得しました》

《耐性『急所発見無効』を獲得しました》



 何か色々獲得したな。

 後で助手に整理してもらおう。



〈既にしましたよー。それで何がしたいんですかー?〉



 大迫力の戦闘シーンを見せようと思ってな。

 憧れ……いわゆる同一視によって、子供たちは真面目になってくれたら嬉しいんだ。

 理由を説明して、助手には二体の分身を動かしてもらうことにした。



「皆、よく見ておけ。夢中にさせてやる」



 そう言うと、子供は「おー!」と楽しみで仕方ないという表情になってきた。

 動きと声を頼んだぞ助手。



「よし、今日はグリフォンを討伐してやるぜ」



 助手が放った言葉だが、声はトウハそっくりだ。

 お前まで『ものまね』が使えたのか、それとも声色を変える特技でもあるのか?

 声に合わせて、庭の端からゆっくりとトウハを歩かせている。

 この調子で……。



「お、グリフォン発見だ。『魔法剣:炎』!」

「ガーハッハッハ! 待っていたぞ、ずっと!」



 今のセリフは俺じゃないぞ。

 グリフォンから聞こえる怒気を込めた声は次第に意地悪くなり、抑揚が帯びている。



「お前の成長、誕生……そして、今日の決着を!」



 そもそも魔物が喋るか!

 セリフからして因縁の対決みたいになってるし。

 おい、この声……エルドラだろ!



(いいじゃないか、ミミゴン。我にも出番をくれ)



 迫力があるのは確かだ。

 ただ、グリフォンのイメージとかけ離れ、魔王の域にいる魔物を想像してしまう。

 声があるなら、少し落ち着いた感じで頼む。



「勇者トウハが、てめぇをぶっ潰してやる! ひとかけらも残さぬわ!」



 グリフィンが言った言葉ではない、助手が操るトウハのセリフだ。

 グリフィンの声がエルドラだと知った途端に、トウハの目の色が変わったように見えた。

 助手もノリノリだな。

 それにグリフォンの動きを、エルドラが担当することになった。

 実質、エルドラVS助手?

 一歩踏み出したグリフォンは、口を大きく開けた。



「さあ、我をあがめよ! 身を引き裂くような激しい悲しみを我に捧げるがいい!」

「再び生き返らぬよう、てめぇのはらわたを喰らいつくしてやるわ!」



 無駄に魔王感溢れるセリフを言い放ったエルドラだが……それに対する助手のセリフも魔王化してしまっている。

 腸を喰らいつくしてやる、って勇者のセリフじゃないだろ。

 そもそも勇者という立ち位置なのかは不明なのだが。

 トウハの戦斧は魔力をありったけ注ぎ込まれ、火柱を掴んでいるように見える。

 対してエルドラのグリフォンは、なぜか巨大化し、パワーアップしていた。

 巨大化すんじゃねぇ、エルドラ!

 『不可視領域』を発動させて、外からは見えないように結界を張った。

 憶えている様々なスキルを使用して、家屋を強化したり、子供たちに攻撃が当たらないようにしたりと忙しくなる。

 俺の分身体が今や、俺以上に驚異的な存在へ変化していた。

 頼むから、力を抑えて戦ってくれよな。

 俺の願いなど耳に入っているはずもなく、両者は死闘を繰り広げた。







 こんな激しい劇を予定したわけではないが、助手がいる。

 彼女なら、ちゃんと分かってくれているだろう。

 俺は遠くの出来事も近くで見ることができる『千里眼』を発動させる。

 セルタス要塞近くにいるはずの……ああ、いたいた。

 レイランだ。

 今、師範が側に付いて、何やら指示しているみたいだ。



「『魔法剣:氷』は、第二クラスの氷魔法『ブリザード』を発動させ続けることだ」

「『ブリザード』! 『ブリザード』! 『ブリザード』!」

「そうだ、それでいい。マギア村で生まれた子は、最初から『魔法剣:炎』を使うことができる。私は生まれつきではなく……称号で獲得したのだ」



 称号で『魔法剣』を獲得した?

 確かに、この世界で重要な要素であろう「称号」システム。

 俺も最初の頃は、けっこう獲得していたよな。

 称号それぞれにタスクが存在しており、達成することで手に入れることができる。

 また、称号と共に何かしらの効果が付いてきて。

 スキル、経験値……など、あるみたいだ。

 なるほど、人間でも『魔法剣』を得ることができたのか。

 しかも、マギア村以上に『魔法剣』を会得していた。

 今、レイランに『魔法剣:氷』を獲得させようとしているな。

 さて、どれほどかかるかな。

 俺にも同時並行して行うべきことがある。

 あいつらに……。



「やった! 『魔法剣:氷』が使えるようになったぜ!」

「さすがだ。レイランは、魔力の量も多い。この調子なら、今日で『雷』も使えるようになるだろう」



 早いな、おい。

 師範の言う通り、今日でスキルに関しては終わりそうだ。

 だが、師範は『魔法剣』の扱い方についても教えると言っていた。

 明日、明後日とかかるだろうな。

 レイランに遮られてしまったが、俺のやるべきことは。







 オルフォードを脳内でイメージし『念話』で呼びかける。

 暇そうなあくびを一つ聞かされて、聞く体勢に入ったみたいだ。



「オルフォード……ラオメイディアに関する情報は、どこまで進んだ?」



 オルフォードは部下の職員に任せると宣言していたから、今回は出番がないかと思っていたが。

 意外なことを発言した。



(この件は、ワシが担当することにしたぞ)



 おいおい、この前の発言は何だったんだ。

 それとも何か理由があるのか?



(大した理由ではないが。さてと、まず何から話そうか……)



 オルフォードは、悩んでいるのが分かる調子で呟いた。



(そうじゃな……まず、なぜ部下ではなくワシが、という理由だが。部下に、そこまで力がないからのう)



 禅問答は勘弁してくれ。

 もう少し、分かりやすく丁寧に教えてくれ。



(ミミゴンが知りたい奴の過去だが……不明じゃ)



 不明、だと?

 ラオメイディアにも、しっかりとした歴史を歩んできたはず。

 奴には奴の物語があるはずだが。

 それに歳も……見た目はかなり若いが意外と老人かもしれないな。



(話を最後まで聞いてくれ、ミミゴンよ。部下のスキルでは、奴の過去を調べ尽くすのは不可能だったんじゃよ。だから、ワシが代わりに……この世界最強の頭脳で、調べ尽くしたのじゃ)



 自慢げに自信満々の報告が脳内に刻まれようとしたときには、既にエルドラと助手の決着がついていた。

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