114 体験入国―2
「まずは、食事だ。で、ここがエンタープライズの食堂だ」
「ひ、広すぎるだろ。解決屋のハンター全員入れても、余りそうだ」
事実、広大な食堂だ。
見た目は、フードコートのように壁際に店舗が並んでおり、テーブルと椅子が支配しているといった感じだ。
エンタープライズもいずれ、千人、一万人、十万人と、より多くの人を受け入れることになるだろう。
といっても今のエンタープライズは、千人にも達していない。
現状は、無駄に広いという設計だ。
他の場所にも、食堂は必要だな。
いざという時の避難所としても、食堂は活用できる。
王として、住みよい国家にしていかないと。
レイランは早速、様々な料理名が掲げられた店舗に向かい、注文している。
俺は端っこのテーブルを選び、椅子に座った。
すると、レイランが料理が盛られた皿をトレイにのせて、運んできた。
「驚いた、まさか金が必要ないなんてな」
「ここを訪れる旅人が多くなってきたら、一人でも多くからむしり取るつもりだがな。もちろん、国民だけ無料サービス」
「そんなので経営できるのか」
「食材のほとんどは、自家栽培……っていうのか、造語だけど自国栽培だな。肉に関しても、ある村から最高級の家畜をもらってな。新たに造らせた牧場とかで育てている」
「費用を気にしなくていいんだな。なんだか、申し訳ない気持ちでたくさんだ」
「じゃあ、美味しく頂いてくれ」
「いただきます」と言って、箸を器用に使いこなす。
ラーメンと……あと、なんか色々。
ハンターだからか、病人だったからか、量が目立つ。
まあ、好きなだけ食ってくれ。
レイランは食べ終わって、満足気な表情を浮かべている。
しばらく間が空いて、質問された。
「なあ、武器とか防具を造るところはないのか? 服が普通過ぎて、慣れないんだが」
シャツと緑のズボン。
リライズ大学の学生に見えてしまう格好だ。
普段から防具を装備している職業だからな、慣れないのは仕方がない。
「付いてきてくれ」と言って、ある場所を案内させる。
エレベーターで66階を目指す。
到着した先は『拠点開発研究所』のあるエリア。
『武具開発班』と掲げられた扉を開けると、中には白を基本とした部屋になっていた。
鍛冶場は別にあって、ここは研究がメインとなっている施設だ。
「おっ、ミミゴン様じゃねぇか。オレに何の用だ?」
「エックスか。こいつの防具を造ってやってほしいんだが」
後ろに親指を向けて、レイランを示す。
ドワーフのアキダクト・エックスは、武具開発班の班長になっていた。
もともと、ドワーフをまとめる名無しの家の長だというのに、ずいぶんと位が落ちたような気がする。
本人の希望だから、反対する事はできなかったが。
「ほう……お前さんが、例の剣の持ち主だったか。レンジのやつが驚いていたぞ。良い”進化”をしている、てな」
「進化……? この剣が」
鞘に納めた剣を両手で握り締める。
エックスは、剣をじっと見つめ。
「確かにな……職人の想い、剣士の想い、それらが積み重なってできた聖剣。こいつが聖剣と呼ばれる所以はな、決して風化しないことだ。こいつは”意識”を深く読み取り、エネルギーとする」
「意識をエネルギーにする……それで風化しないのか」
「特に、ここ最近でかなりのエネルギーを蓄えた。お前さんの”復讐”の念が、剣自身も強くしたのだ。簡単に言えば、”心身一如”の剣だ。こいつを扱うなら、お前さんも本気にならんといかんわけだ」
でないと、やがて使い物にならなくなるわけだ。
レイランの強すぎる復讐心が、剣を強くするとはな。
相性ピッタリすぎる武器だ。
レイランは『異次元収納』に戻し、エックスに礼を言う。
エックスは頷いて、口を開けようとしたが。
「……いや、言わんでおくか。それより、防具だな? それなら、ちょうど試してほしいのがある。試作品だ」
エックスが、奥の小部屋へ連れて行く。
俺たちは自動ドアをくぐると、そこはマネキンにスーツを着させたような物や。
「これって……義手か。それに、義足も」
「オレの専門は、障害者支援ツールと人工四肢の研究だ。
それらを応用した戦闘用機械義体も開発している。普通は見ることもねぇ代物ばっかだが、これらはとんでもなく……カッコイイものだ。改造人間を超えるぞ」
置いてある義手も装飾義手や実用義手、その他にも見たことのないタイプの義手まで。
エックスは「これだ」と言って、目の前の箱を開けると、中に。
「これは最先端技術高性能パワードスーツだ。こいつを着てみろ」
「え、ええぇ……」
レイランは嫌そうな表情を浮かべながらも、銀の装甲をまとった。
頭から足まで、全身が鋼鉄で覆われ、目元が光る。
しばらく動いて、無言でスーツを取り外した。
「…………」
「失敗ということではなさそうだな。改良を続けよう。必ず、お前さんに合うパワードスーツを開発してやろう」
「いや、必要ない」
「……そうか?」
「はい」
「なら、さっさと出ていくことだ。ここからなッ」
怒ったようには見えないが、言葉は怒っている。
俺たちは追い出され、普通に動きやすいバトルスーツをもらった。
カジュアルな服に見えるけど、防御力は高いスーツだ。
「レイラン、あんまり気にしないでくれよ」
「名無しの家にいた頃は、あんな活発じゃなかったはずなんだが」
「よし、次はエンタープライズ国防軍の訓練でも覗いていくか。強くなりたいなら、ここしかない」
国防軍がいつも教練しているのは、外。
エンタープライズから出て、すぐである。
なんだか初めて来た人にとって入りにくい雰囲気になっているが、いつでもウェルカムだ。
それにしても、今日は兵士が少ないな。
迷彩服のような装備をした複数の兵士がペアをつくって、剣を扱う者同士、遠距離武器を扱う者同士でかたまっている。
おっ、鳥人たちもトレーニングしているな。
ラヴファーストが教官となって、みっちりと教え込んでいた。
空を飛べるという特徴をもっているから、作戦の幅に広がるだったか。
「ラヴファースト! ちょっといいか?」
「ああ、なんだ?」
レイランが前に現れ、勢いよく頭を下げて、お願いした。
「俺を……強くしてください」
「なら、剣を握り……かかってこい。それで、お前の鍛える点を見抜ける」
「ラヴファースト、すげーな。さすが、最強の剣士だな」
レイランは武器を手に持つと同時に、ラヴファーストを襲う。
ラヴファーストは地面から現れた黒い刀を掴むと、一気に薙ぎ払った。
「……うっ!」
日光を反射する刃が回転しながら、落下してきた。
レイランの剣だ。
一瞬で弾き飛ばしたのだ。
ていうか、あんな速さで見抜けるのか。
切先が土に突き刺さり、動かなくなった。
「お前に足りないのは……無意識だ。あと相手を倒すためなら、多少乱暴でもかまわないという攻撃。精神を鍛えるぞ」
「……あ、い」
唖然として、口が開きっぱなしになっている。
ラヴファーストは突き刺さった剣を拾って、レイランに手渡す。
「だが、お前は誰よりも強い”軸”を持っている。折れることはなさそうだ。さ、ついてこい……テル・レイラン」
「あ……ああ!」
ラヴファーストは鳥人に何か指示した後、トルフィドの村へ向かっていく。
その後ろを驚きながらも、強い眼差しをしたレイランが付いていった。
まあ、あのラヴファーストのことだ……レイランの事情も知っている。
だから、帰ってきた時には立派になっているかもな。
誰よりも強い軸。
いつの世も、生きるということは大変だ。
あいつは失敗・挫折・絶望・悲哀・孤独などの感情に支配された人生を歩んできた。
喜びを感じたことは少なかっただろう。
それでも、今日まで生きてきた。
そして、これからも生き続けるだろう。
自暴自棄になってしまうところもあるが、レイランは夢のために必死に走っている。
自分の弱さを受け入れる素直さが、強くしてきたんだ。
俺は……支えてやる。
(ミミゴン様! EIHQのニトルです! 傭兵派遣会社に動きがありました)
「分かった。すぐ、そっちに向かう」
俺は俺で、やることはたくさんだ。
さてと行ってくるか。