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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
123/256

113 体験入国―1

 テル・レイランが目覚めました。

 メイドからの報告を受け取り、2階に『テレポート』する。

 医療施設などは、2階3階が独占している。

 使われること自体、少ないため、いつも寂しいのだが。

 王として振舞う際は基本、人間の姿でいることにした。

 目覚めたテル・レイランが入っている部屋に、メイドが一人立っており、頭を軽く下げて扉を開ける。

 メイドは俺と一緒に入室した。



 室内は、非常に寂しい。

 ベッドが複数台並んでいるのだが、壁際に一人しかいないため、音がない。

 シーツ、枕は真っ白。

 よく知っている病院の光景だが、違和感が激しかった。

 こんなに落ち着いた雰囲気だったか、と。

 窓の外を無表情で眺めている者は病衣を着て、ベッドに座っていた。



「俺は、あれから何日……眠っていたんだ?」

「昏睡状態にはなってない。たったの二日だ。お前の状態は大変酷かったよ。医者に任せたんだけど、いちいち詳しく教えてきてな。大怪我ぐらいは、その日で治せたが……問題は、お前自身の気力だ。気力に関しては、どうしようもできないからな」

「二日前は……特別記念日だった」



 顔を伏して、握りこぶしをつくっていた。

 メイドに「退出してくれ」とジェスチャーをすると、簡単に丁寧なお辞儀をして、自動ドアの先へと消えていった。

 まさか、ここもセンサーが感知して自動で扉を開けるシステムになってるとはな。

 ドワーフの奴は「暇だ暇だ」って口走りながら、エンタープライズのあちこちを改造していやがった。

 便利になったから、いいけど。

 俺は近くから椅子を持ってきて、座りながら話を聞くことにする。



「毎年、特別記念日の朝になると……復讐に憑りつかれた。今まで、力が足りないことを自覚していたから、何とか抑えることができた」

「今年は抑えられなかったか」

「ミミゴンの存在が、俺の背中を押したんだ。村の事を話せたのが一番良かった。これで俺には、後悔することなどなくなった。後は、終わりを迎えるだけだ」

「EIHQが捕捉した情報は『第一武器兵器庫に、ラオメイディア一人で現れる』という内容。こいつは、不自然なほどに拡散されていた。もちろん、情報屋だけをメインにな。つまり、裏社会全体に、ってわけだ。お前は……釣られに行ったんだな、わざと」



 テル・レイランの体内からは、様々なポーションに薬が発見された。

 摂取しすぎだろ、とツッコミたいぐらいに。

 それは、ラオメイディアを殺したい奴を集合させる情報だと知りながら、突っ込んでいったということ。

 ラオメイディアは、迎え撃ったのだ。

 まんまと乗せられたシトロン・ジェネヴァは特殊部隊を失い、解決屋内で人気のハンターも巻き込まれた。

 邪魔者を消したラオメイディアは、ほくそ笑んでいるだろう。



「あれは……俺だけに向けられた情報だ。CJは、俺に見せつけるための哀れな連中。自分は、こんなに強いんだぞ……と」



 このままだと、ぐだぐだと愚痴が並べられるだけだ。

 話を切り上げて、眠っている間の出来事を教える事にした。



「お前が眠っている間に、新都リライズで騒ぎがあった。各放送局が支配ジャックされ、あの戦場を放送したそうだ」

「……傭兵派遣会社のPVと言っていた。俺に対する”見せしめ”の意味もあったとは思うが」

「PVか……事実、NEWTUBEっていう動画サイトに、奴らのチャンネルがあってだな。現在……チャンネル登録と、あり得ないことに”高評価”の嵐だそうだ。おかしいだろ、普通は低評価……というよりも見ないはず。平和ボケしたリライズに求められていた動画だったのかもな」



 エリシヴァ女王が、リライズの若者が傭兵派遣会社に就職していると言っていたが。

 原因を調べてみた。

 ドワーフは、戦闘よりも研究と開発で募集されており、かなり待遇も良い。

 人間は、ゲームなどに影響を受けて、戦ってみたいと思って就職する。

 PVに映っていたものを思い出す。

 後で聞いた話だが、特殊部隊は『モークシャ』と『ダイナミック・ステート』という化け物と戦っていたらしい。

 やたらと死体が少ないな、と思っていたが。

 PVで、奴らを確認した。

 もともと、その”PV”というのは、CJが撮影していたもの。

 VBVは、その映像を入手し、勝手に放送したわけだ。

 内容も衝撃的だったのは、間違いない。

 そもそも……なぜ、奴らは放送したんだ?

 推測でしかないが、CJへの抑止力としての意味合いか。

 いや、あれを見た上で、傭兵派遣会社を攻撃しようという者なんているはずがない。

 かなり細かい部分まで撮影されており、ダイナミック・ステートによる謎の攻撃で爆発する人間がバッチリと映っていた。

 グロすぎる映像だ。

 もちろん、傭兵派遣会社に就職したいと思う奴だって生まれるかもしれない。



 更に、もう一つの目的があるのではないかと思う。

 奴は確かに、こう言っていた。

 「”君たち”と再戦したいと思っていたんだけど、”ここ”で叶うなんてね」と。

 思考が読めない奴だから、的外れな推理になりそうだが考えてみた。

 君たちというのは、エンタープライズのことだ。

 「ここで」と言っていたが、本当はあの映像でエンタープライズを動かしたかったのではないか。

 世間は傭兵派遣会社を批判しているので、リライズはどうしても動かなければならない。

 国家は数多くの国民がいるからこそ、成り立っている。

 VBVに支えられているとは知らない者が多いのだ。

 それにあの映像で、”リライズ”では勝てないと思われている。

 そうなれば、他の国に頼るしかない。

 グレアリングとデザイア帝国のどちらかを頼ってしまうと、中立の立場を守れなくなる。

 テルブル魔城は論外だ。

 なら、エリシヴァ女王などのお偉いさんは、誰に頼るかと言うと……エンタープライズしかない。

 エリシヴァ女王に依頼されなくても、どっちみち戦っていたことになる。

 もちろん推測だから変な事、言ってても勘弁してくれ。

 奴らに対抗できる唯一の国。

 ラオメイディアの奴、無駄に頭が良いらしい。







「で……レイランは、この後どうする? 忠告しておくが、ラオメイディアを倒しにいくのは”なし”だぞ」

「その前に聞きたい。奴は、ミミゴンの言いつけを守っているのか?」



 「言いつけ」というのは、ちょっとおかしいかもしれないが。

 ラオメイディアは本社で待ち構えている、だったな。



「あれから奴らを監視しているが、目立った行動はない。社長自身も動いていない。傭兵の動きも比較的、落ち着いている。だが、怪しげな活動も確認されているらしい」

「EIHQというのは、すごいんだな」

「敵に回すと恐ろしいぞ」



 俺は『異次元収納』から、レイランの剣を取り出す。

 派手な鞘も取り出して、ゆっくりと納めていく。



「武器職人のドワーフに見せたら、かなり驚いていた。聖剣『D・ワーフ』だって。ディートリヒという青年が、娘を殺した不死身の巨人に復讐するため、ドワーフにこの剣を造らせたそうだ。まあ、すごい剣だな」



 まるで、お前のためにあるような剣だな。

 手渡すと両手で受け取り、胸に寄せる。

 抱擁するように剣を持ち、話した。



「エイデンという昔の友人がいたんだ。俺は託されたんだ」

「だったら、大切にしないとな。あのままだと、ラオメイディアに取られていたぞ」



 「ああ」と頷いて、片手に持ち替える。



「俺を……しばらくの間、エンタープライズの住民として扱ってくれないか?」



 レイランの瞳が輝き始めた。

 俺は納得を求めるため、問い質す。



「テル・レイランを受け入れた。それで?」

「自分と向き合う」

「三日坊主はやめてくれよ。それじゃあ……服、着ろ」



 聞き取りやすいように、一語一語区切って話す。

 すれ違うように、メイドが入室してくる。

 事前に、レイランの衣服を用意させたのだ。

 人間と魔人の混血、テル・レイラン。

 ここが第二の故郷となってくれるよう、尽くさないとな。

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