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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
120/256

110 VSラオメイディア―3

「あっ、そうそう。彼らの名前は、次元を超越した言語で”生命の極限状態”を意味する……『ダイナミック・ステート』と呼んでいるよ。もっとも……この名前をちゃんと聞いている奴がいるのか、だけどね」



 まさに”混沌”と呼ぶべき事態に陥っていた。

 ラオメイディアの説明を聞ける状態にない者で溢れかえっている。

 数では圧倒的に不利なラオメイディア側だが、ダイナミック・ステートの名を持つ異類異形が繰り出す攻撃で、大勢の解決屋ハンターが死んでいく。

 腕と脚を強引に折られ、肉体は丸められた紙のようになって破壊の限りを尽くされる。

 最期は皆等しく生き血を激発させて、雲散霧消した。

 俺の脳内が「逃げろ!」と絶叫しているようで、頭が痛くなってくる。

 力を入れて立っていられないほどに、この眺めに絶望を感じたのだ。

 一人ひとり、丁寧に爆裂されていき、人数は見る見るうちに少なくなっていく。

 死にたくない……死にたくない!



 今さらになって、自らを犠牲にラオメイディアを殺してやろうと思っていたが……そんな気力が保てなくなってきた。

 人は生存するよう、プログラムされている。

 生きることこそ、全ての動機の源。

 足が後退し始める。

 黒煙を噴き出す武器兵器庫の横で、隠れるように這いつくばっていた。

 ラオメイディアを倒しに来たはずが……返り討ちに遭っている連中のように、出せる限りの声で叫びたいほどに追い込まれている。



 戦意喪失の肉体。

 この戦場に、戦意を喪失させる演出は十分にある。

 体にねっとりと絡まれていく無力感。

 肉体に強い圧を感じ、起き上がれないのだ。

 意識は朦朧としていて、視覚が機能しなくなってきた。

 絶叫、出血が大地に落ちる音、発砲音、発射された弾丸が弾かれる音。

 激しい嘔吐、汗は顔中を濡らすほど噴出し、まともに呼吸もできない。

 このままでは、戦う前に死んでしまう。

 復讐すら許されないのか!

 朦朧とする意識の中で、手をバックパックに突っ込み物色する。

 感触を頼りに取り出したのは、感覚調整機能を元通りにする注射器。

 素早く首筋に注射し、効果が現れるのを待つ。



「く、そ……こんな、ところで……終わってたまるか。復讐……のためだけに生きてきたんだ。はぁ、はぁ……」



 呼吸することを思い出し、虚ろだった眼を安定させる。

 両手に力を込めて、筋肉を意識しながら立ち上がった。

 武器兵器庫の壁に背中をつけて、脚に感覚が戻るのを待望する。

 膝を何とか伸ばせるようになり、ずれ落ちたタクティカルグラスを元に戻して、状況を把握しようと努める。



「数は……かなり減ったな。ダイナミック・ステートに、攻撃は……当たっていない、な」



 生き残っているのは、特殊部隊の二人だけ。

 この”臆病者”は他者を犠牲にして生き残っている、哀れな”死人”だな。

 そいつらは、手にしている奇妙な散弾銃を連射しているが、ゆっくりと歩むダイナミック・ステートに効いていない。

 散弾は直撃しているのだが、血液を彷彿とさせる肉体は衝突した部分が真っ黒に硬化し、跳弾している。

 攻撃に関しては、あの宙に浮かせて捻り潰すものしかないようだが、瞬間移動もしている。

 不可視化に瞬間移動、超能力、高い身体能力。

 生命の極限状態と言っていたが、いったいどうなっているんだ。

 ラオメイディアも屠れそうな能力を発揮している。

 先ほどのモークシャに、ダイナミック・ステート……傭兵派遣会社に所属する開発者は何者だ。

 どういう仕組みなんだ。

 聞き慣れない名前まで、脳内を襲う。







 終いには、予想通り「全滅」。

 ドローンを操縦していた若者は、いつのまにか消えていた。

 殺されたわけではなく、わざと生還させられたんだ。

 ドローンが撮影した映像を広めるために。

 やれるのか、俺は。

 生存することを一番に思考しようとする脳内で、何とかして闘争心を目覚めさせるようにしないと。

 バックパックを地面に置いて、中身を全て取り出す。

 数々のアイテムが確認できる。

 ……どうせ、最後は死ぬんだ。

 戦いが終わったなら、使い物にならない肉体となっても構わない。

 意識を覚醒させる。

 ミミゴン……彼がマギア村最後の記憶者となってくれた。

 心残りなんてない。

 ポーション類は例外なく全て飲み干し、注射するタイプのアイテムも全て体内に注入する。

 劇薬と呼ばれるポーション類も。

 全身を”復讐”で満たした。







「さっきのプロモーションビデオは、どうだったかな? あれは傭兵派遣会社のPVになる予定だよ。後で、NEWTUBEにアップロードするから良かったら……”チャンネル登録”と”高評価”してくれると嬉しいなぁ。……テル・レイランくん」



 背後から、うなじを狙って……一撃。

 ラオメイディアは、分かり切っていたみたいに簡単に避けられた。

 たった、右に体を動かしただけ。

 更に、殺意を込めた刃を連続して振るっていく。

 アイテムで強化された身体能力、武器能力で。



「君の戦意消失を目的とした表現方法だったんだけど……君は果敢に挑んできたね。本当、尊敬するよ。君のことは僕の中で有名だよ。誰よりも明確な復讐心を抱いたハンター、だってね」



 機敏な連撃を後退しながら、軽く体を逸らすだけで避けている。

 その間にも、ぺらぺらと喋り続けやがる。

 余裕綽々とした態度が激昂させるのに十分だった。

 加速して、ラオメイディアを追い詰める!



「僕は今まで依頼されたことを淡々とこなしてきた。当然、残忍なことをやってきたんだから、復讐しようとする人が現れるのは当たり前。僕の敵になるわけだから、できるだけ生存者を出さないようにした。ある時、気づいたんだ。いつだって”人”を強くするのは、同じ”人”が生み出した試練。僕らは他人によって成長している。僕は強くなりたい。その気持ちをいつまでも忘れずにいたい。だから、敢えて”敵”をつくる」



 俺はお前を成長させるための”敵”だと捉えているのか。

 だとしたら、俺を馬鹿にしているということだ。

 レイランは弱い、足元にも及ばない存在だと。

 マギア村消滅から15年、ずっと俺はお前を殺すために戦技を身に着けてきた。

 解決屋の依頼を受け続けたのは金が目的じゃない、力だ!

 お前を襲う俺は15年間、磨き続けた力だ。

 あらゆる経験から得たことを、お前にぶつけているんだ!

 それを踏みにじるような発言を、てめぇが吐くたびに、俺は強くなる。

 殺されろ!



「復讐心を抱えた”敵”が、僕に思いださせてくれる。強くなれ、と。理想の死に方だって、考えているんだよ。とにかく、歴史に名を残すような死を遂げたい、って。もちろん、恥で死を迎えるわけではなく、誰からも尊敬され、後世にまで語り継がれる死に方を考えているんだよ」

「……『魔法剣:炎』!」



 エイデンから託された剣に怒りの炎を付加する。

 焼き斬ることができ、切れ味だけではどうしようもない物も切断可能となる。

 威力そのものも上昇し、更に炎による熱攻撃が相手の判断を遅らせる。

 魔力に応じて炎は激しくなり、現在アイテムによって魔力を向上させているので、普段より炎の範囲が広くなっている。

 下手すると、自分まで焼かれる恐れもある。

 それでも構わない。

 復讐するためなら、我慢してやる。



「ラオメイディアァァー!」



 俺が雄叫びをあげると、ダイナミック・ステートが動き始めた。

 ラオメイディアが殺されそうになっているんだ、言うまでもない。



「待て、君たち。君たちは、よく働いてくれた。社長、感動! ここは僕に任せて、君たちは焼肉でも食べに行っておいで! お金あげるからね」



 戦闘補助アイテムによって、視覚を強化し、全方位を確認することができる。

 背後に立っていたダイナミック・ステートは社長の言葉を聞くと、一瞬で消え去った。

 瞬間移動……『テレポート』でも使用したのか。

 だが、願ってもいない最高のチャンスだ。

 俺は幸せだな。

 ラオメイディアだけに集中させてくれるなんてな!

 容赦なく攻撃を叩き込んでいく。



「あー、えっと……理想の死に方についてだけどね。……僕も、こんなところで死ぬ気はないんだ。あの時、何もできなかった非力な子供が、いったいどこまで成長できたんだろうね。……幻滅させるなよ」

「なら最期まで、その目を見開いておくことだな!」

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